セールスオートメーションという言葉をご存じでしょうか?営業の自動化という概念であり、日本でも2019年に「クラウドサインが『セールスオートメーション領域』でサービス開始」というニュースが話題になるなど、少しずつ認知され始めています。
昨今は、日本企業の営業活動の自動化が進みつつあります。Web問い合わせはAIチャットボットが対応 → オンライン商談 → 契約書チェックはAI契約書レビュー、契約締結~支払いもオンライン → カスタマーサービスもAIチャットボット対応という感じで、営業活動をすべて自動化できそうなほどツールが揃いつつあります。
本記事ではセールスオートメーションとは何か?セールスオートメーションツールを導入するメリット、MA、CRM、SFAとの違いなどを解説します
目次
セールスオートメーションとは
セールスオートメーションとは、営業を自動化するという概念であり、具体的には、RPAやAI搭載のITツールなどを活用し、営業プロセス上の面倒で重複する業務を自動化することを指します。米国ではいわゆるセールスオートメーションツールを提供する企業が数多く出ています。
2020年時点の米国のベンダーのラインナップを見ると、セールスオートメーションツールはSFA、CRMのように営業活動の科学的マネジメントを行うという世界観も持ち合わせてはいるものの、より、現実に営業活動にすぐ役立つ実践的機能を装備しているところが特徴です。領域としてはMA+SFAの役割も部分的に含まれています。
機能的には「ムダな作業の自動化」と「見込み度の高い顧客への営業タイミングの見極め」に特化している傾向があり、営業リスト作成、メール作成、契約書作成などの業務を自動化し、営業マンを本来の営業活動に専念してもらうことを目的としています。
機能例:
- 見込み度の高い「営業リストの自動生成」
- メール開封、URLクリック等の分析による「営業タイミングの把握」
- メールテンプレートの活用による「営業メール送信の自動化」
- スケジュール調整の自動化
- 見積書、契約書の自動作成と編集、他
営業マンの方は、忙しすぎてお客様のフォローができなかったり、簡単なミスを見落としていたことで取引を失った経験はないでしょうか?SFA、CRMで売上げが上がると期待したら予想以上に使いこなすのに高度な能力が必要であり、「正直、アポや商談さえ増やせれば手っ取り早いのに……」とぼやきながら営業データを入力していたりしないでしょうか?セールスオートメーションツールは、このような営業マンの現実的な課題に寄り添った世界観と機能を持つツールだと言えるでしょう。
セールスオートメーションがなぜ重要なのか
セールスオートメーションが重要な理由の一つに、お客様の購買行動の変化があります。今はデジタル上で購買行動をできるだけ完結させたいお客様が増えており、コロナウィルス感染症の影響でますますこの傾向は強くなってきています。
例えば、トヨタ自動車の2020年4月の米国での販売は、見積りから決済までをオンラインで完結する電子商取引(EC)が大半をしめたそうです。BtoB市場でもDMG森精機株式会社が工作機械の出荷前の「デジタル立ち会い」を開始しました。
お客様の変化、社会環境の変化にあわせて、対面よりもお客様が自分自身で商品・サービスを選んだり体験できるように、営業活動を自動化することが求められつつあるのです。
もう一つの理由は、現在の営業マンにあまりにも煩雑な業務が多いことです。営業マンが売上げを上げるためには、お客様とコミュニケーションをとる時間の確保が大切です。営業は人相手の仕事なため、同じような営業プロセスをへながらも細部をみると一件一件異なり、そこが営業の面白さではあるのものの、繰り返し行うタスクが非常に多いことも事実です。
セールスオートメーションツールを活用し、現在手動で行っている業務を自動的に行えるようにすれば、売上げに直結する営業活動に時間を増やすことができます。お客様とのコミュニケーションの「質」と「量」が改善するため、売上げも上がっていくことが期待できます。
セールスオートメーションと他のツールとの違い
ここでは、簡単にCRM、MA、SFAとセールスオートメ―ションの違いを解説します。
まず、前提としてMA、CRM、SFAなどの営業プロセス領域の捉え方や世界観は、営業支援ソフトを提供する事業者側が提唱したものだと理解しておきましょう。テクノロジーが進み、お客様の購買行動が変化していくにつれ、また新たな概念が生まれ新しいタイプのITツールも次々と出てくるはずです。
活用する側は領域の理解はおおよそに留め、あくまで自社の営業活動にどう役立つツールかという視点で考えることがポイントです。
セールスオートメーションとCRMの違い
CRMとは顧客管理システムです。商談の内容、受注管理、アップセル・クロスセルの管理など主に契約後のお客様の管理に効果を発揮します。
一方セールスオートメーションは、営業アプローチの段階から営業マンを支援します。例えば、見込み客Aさんがメールを開封したら営業マンに即通知がいきます。営業マンはタイミングよくお客様にアプローチすることができます。
優秀な営業マンはお客様のニーズと距離感をつかむセンスが抜群なので、2回目、3回目のアプローチのタイミングを自然に測ることができますが、そうではない普通の営業マンでもセールスオートメーションツールを活用すれば、お客様にコンタクトするタイミングがよくなります。
セールスオートメーションとMAの違い
MAとは一斉メールやWebからのリード発掘・獲得、見込み客との信頼関係醸成などマーケターの仕事を自動化するためのツールです。一方、セールスオートメーションはMAと同じ機能が多いのですが、基本的に営業マンがその機能を活用する仕様になっています。
日本は、米国のようにマーケティング部門が力を持っていない企業が少なくないですし、そもそもマーケティング部門を持たない企業も多いため、日本の土壌にはセールスオートメーションがマッチしているかも知れません。
例えば、一度セミナーに来場したもののまったくメルマガに反応示さなかった見込み客が自社のWebサイトに訪問した場合、自動的に担当営業マンに直接メールが送信されます。営業部門内ですべての見込み客の動きにリアルタイム対応できるため、タイミングを逃さずお客様をフォローアップをすることができるのです。
また、もう一つ大きな違いは、MAは原則ワークフローが終わるまで営業マンがアプローチすることができないのですが(MA活用の前提として、マーケティング部門が見込み度合いが高いと判断した場合に営業マンに引き渡すという仕組みがあるため、営業マンが関与する範囲がないから)、セールスオートメーションでは、営業マンが直接アプローチすることができ、且つ営業マンがアプローチして案件が進捗した際には、自動的に設定されていたワークフローがとまることです。
それにより、アポイントに繋がったのに、お役立ち情報の内容のメールが送信され続けることを防ぐことができるなど、お客様の状況とニーズに寄り添った営業活動を押し進めることができます。
セールスオートメーションとSFAの違い
SFAは、現在は営業支援ソフトと呼ばれますが、もともとは営業自動化システムと訳されていたように、セールスオートメーションと似た機能は多々あります。ただ、現状のSFAはかなり高度化しておりCRM機能を搭載したり、営業データを資産と捉え中長期的にデータを蓄積していくことを目指すなど、大がかりなシステムが増えています。
セールスオートメーションツールはアポ獲得自動ツール、電子契約システムなど部分的な効率化ツールもあれば統合的なツールもありますが、どちらかと言えば短中期的に実現可能な成果(アポ・商談数の増加、コスト・工数削減、時間短縮等)にフォーカスしているところが特徴です。
また、SFAはどちらかと言えば経営陣、マネージャーが組織的営業をマネジメントするためという色合いの濃いツールが多く、セールスオートメーションは営業マンの無駄な仕事を減らすことに特化した現場よりのツールが多い傾向もあります。
このようにマーケティング用語を使い、機能や活用ステージでITツールを分類すると理解しやすくなりますが、営業活動自体は一連のプロセスです。シンプルに、「自社の営業課題を解決できるか?」と「費用対効果はよいか」でツールを選ぶとよいでしょう。
セールスオートメーション活用の具体的メリット
ここでは、セールスオートメーションの活用例とメリットを紹介します。
見込み客の行動に合わせて自動的にメールを送信
セールスオートメーションツールを活用すると、自社のWebサイトに訪れた見込み客に対して、Webサイトの内容に関する情報提供を行うメールを自動的に送信できます。
Web解析ツールでWebサイトに訪れたことがわかったり、あるいはメールの開封やクリックがわかるツールを導入していても、営業マンがメールを送らなければならない仕組みだと対応が遅くなることがあります。メールの開封通知がきても商談中、会議中であれば、営業マンもなかなか即座にメールをすることは難しいからです。
自動でメール送信されれば、営業マンが「あとでメールを送らなければ」とソワソワしなくても済みます。また、お客様も自動メールだとわかるためプレッシャーをあまり感じません。もちろん、必要に応じてカスタマイズしたメールを追加で送ることも、直接電話することもできます。セーフティネットとしてのメール送信が機能しているため、営業マンはとても助かります。
デジタル上でのアクティブな顧客とタイミングよくつながる
営業はタイミングが勝負です。まだニーズがさほどない段階でお客様に熱心に営業しても疎ましがられますし、肝心なときに音沙汰がないと「何だか間がわるい営業マン」という残念な評価を持たれてしまいます。
とは言え、お客様の見込み度の見極めはそう簡単ではありません。初回訪問の際に興味を持ってくれたお客様がなかなかそこから進展せず、まったく関心のなさそうだったお客様が急に関心を持ったりと変化するため、べテラン営業マンでも予想がつかないことがあります。
セールスオートメーションツールを活用し、自社のWebサイトを見てくれている、メールを見てくれている、事例を見ているなどの行動が分析されて「営業リスト」として自動生成されれば、営業マンは悩まずにそのリストだけ見てアプローチすることができるため、営業効率がよくなるでしょう。
営業効率化により営業本来の仕事に集中することができる
例えば、営業メールは営業手段として非常に重要ですが、新規メールであれフォローメールであれ少しでも考え込んでしまうと、あっという間に時間を使ってしまうツールでもあります。メール作成に時間をかけすぎて、他の見込み客のお客様に電話ができなかったとなったら、売上げという目標に直結するアプローチができているとは言えません。
状況伺い、リマインダー、フォローアップなどの定型メール送信が自動化されるだけでも、営業マンはかなり時間に余裕ができ営業マン本来の仕事に集中できるようになるでしょう。同様に契約書を作成する手間や法務部門にチェックしてもらう時間、郵送のやりとりなど営業に伴う事務系の業務を削減すればする程、営業マンの生産性が上がることが期待できます。
取りこぼしを防ぐことができる
営業マンは新規の受注を増やすほど忙しくなり、だんだんと新規開拓営業などできない状況になっていきます。頑張った結果キャパオーバーとなり、担当しているすべてのお客様に丁寧に万全な対応をできていると言い切れない状態になってしまうこともあります。
パレートの法則、ABC分析に基づいて有力な2割のお客様に注力しながらも、ほか8割のお客様に対しフォローできないと営業マンは後ろめたさを感じるものです。「あとで電話をしなければ」「メールをしなければ」と思いながら対応を忘れてしまうことも出てくるでしょう。営業マンに失望したお客様の何割かは他社に流れてしまいます。
営業活動で自動化できるところを自動化させることにより、営業マンのフォロー不足、タイミングを逸することによる取りこぼしを防ぐことができます。
セールスオートメーションをインサイドセールスで活用するためには
インサイドセールスとは、広告やメディアなどからインバウンドで獲得した見込み客に対して、訪問することなく電話やメールなどで営業活動を行うことです。インサイドセールスは、テレアポとは異なり、見込み客の興味・関心を高めていくことが目的となります。
そのため、対応する見込み客には、まだ情報収集段階の見込み客から購入を検討している見込み客まで、購買プロセスの幅広い段階のお客様と関係性を構築することが求められます。すぐに購買に至る見込み客であれば営業活動がすぐに完結しますが、情報収集段階の見込み客であれば半年から数年など長期にわたってお客様と繋がり、関係構築をしていかなくてはいけません。
インバウンドにて、月に数件しかリードの流入がないのであれば、長期的な手厚いフォローはできるかもしれませんが、月に数十件・数百件とリードが流入してくる場合では、全ての見込み客に対して一件一件手厚いフォローを行っていくことは、現実的に難しいといえます。とはいえ、全くフォローをしないとなると、興味・関心度合いは薄れていったり、アプローチのタイミングがよかった競合他社で購買をしてしまう可能性があります。
そのような時に、セールスオートメーションは有効です。インサイドセールスの営業マンが「見込みはあるけど今はまだ情報収集の段階で、長期的なフォローが必要」と判断したら、セールスオートメーションの定期的なフォローのワークフローに設定します。それにより、そのお客様に対して自動的に事前に設定してあったメールが送信されます。
さらには、その見込み客が再検討のタイミングで、メールの開封や再開封、リンクのクリック、HPの閲覧をした際には、インサイドセールスの担当者に自動で通知が届きます。もし、そのタイミングで営業マンが連絡して、アポイント獲得をすることができたら、自動的にワークフローから除外されます。以降、情報提供のメールが送られることはありません。インサイドセールスの営業担当者と見込み客の1対1のコミュニケーションへと移行することができます。
このように、インサイドセールスのような見込み客と長期にわたって関係性を構築していく必要がある営業活動では、手動では全ての見込み客に定期的にフォローを行うことはできません。情報提供のフォローを自動化してしまうことによって、営業活動の工数を削減して、今アプローチするべき優先順位の高い見込み客に集中して営業活動を進めることができるのです。
営業マンが売上げにつなげるためには
ここでは、営業活動を自動化して売上げにつなげていくためのポイントを紹介します。
オートメーション化するシナリオを丁寧に設計する
まず、営業のオートメーション化のシナリオを丁寧に設計する必要があります。以下のように、お客様がWebを見ている段階から、その後の営業アプローチの手順までのシナリオを設計します。
Step1. 適切なアプローチ先の選定
オートメーションを設計する際には、見込み客のニーズに答えられるような設計を行います。WebサイトAを見ていたらAに関連したり、深掘りしたコンテンツ(eBook等)を提供できるような設計にします。
Webの問い合わせフォームに選択肢をいくつか用意し、それぞれの見込み度に合わせて適切なコンテンツ、メールを提供していきます。掘り起こしの場合なら見込み客がBページに再度来訪したら、どのようなメールを提供すればよいかなどシナリオを組み立てていきます。
コンテンツの内容は、お客様の立場になりきって何があったら嬉しいかを想像して決めていきましょう。
Step2. オンライン上での信頼関係構築
この段階では、お客様がコンテンツに関心を持っていることがわかっているだけなので、1~2回目のメールではより深い情報(事例等)の紹介や、似たようなトピックの記事、ウェビナーの紹介など情報提供に努めます。オンライン上での15分程度の情報提供アポを案内して、お客様に申し込んでもらってもよいでしょう。
Step3. テストクロージング段階
オンライン商品デモ、無料トライアル、特別割引キャンペーンなど、お客様の見込み度をはかる情報をたまに含めていきます。デモやトライアルの案内は「テストクロージング」のようなものなので、ここで興味を示さなかったお客様には再度情報提供を続けていきます。間隔をあけて改めて3~6ヶ月後などに案内するように設計するとよいでしょう。
このような営業の流れを「営業ワークフロー」としてまとめておくと、新人でも営業がしやすくなります。営業活動の全体像がわかりますし、多少フロー通りにいかなくても基本パターンがわかれば自分なりにアレンジできるからです。
効率化した時間で見込み客との接点を増やす
セールスオートメーションにより営業活動が効率化すると、営業マンはリストを作ったり、メールを考えたり、送ったり、見積り作成、契約の手続きなどに費やす時間が減るため、お客様との接点を増やすことに集中できます。
とは言え、大量にアプローチすればよいというものではありません。適切な量とタイミングであることが重要です。また、今はメール、電話、SMS、SNS、ウェビナー、オンライン商談、オンラインデモなどさまざまな手法がありますが、相手との距離感によって適したツールは異なります。いきなりオンライン商談、いきなりLINEだと抵抗のあるお客様も多いはずです。
最初はフォーマルなメール → 次に電話 → またメール → 信頼関係ができたらZoom打ち合わせやLINEというような流れで、お客様との距離感に合わせてアプローチ手法を変えていくと自然にコミュニケーションが取れるでしょう。もちろん、お客様との相性によって電話を先にするなどショートカットも可能です。
ひと手間&気配りを大切にする
オンライン営業でアプローチしていたら、クロージング手前に他社営業マンが訪問して成約されてしまったという話は割とあります。「せっかく来てくれたから……」「タイミングが良すぎたんで……」「遠くからわざわざ……」という論理的でも何でもない理由で、あっさりお客様の気持ちは変化する時があります。
BtoCの買い物でも、たまたまアクシデントがあり親切に対応してくれた店をずっと使い続けることがあります。ちょっとした差異なのですが、定型ではないメールや直接の電話のやり取りがあると、デジタルの向こう側に「人」がいると感じられるからではないかと思います。なぜか気持ちが動くのです。
おそらく営業が自動化されても、「自分のために何かしてくれたことが嬉しい」と思う人の心理は変わりません。セールスオートメーションといっても現状では要所で営業マンが介在する必要があります。「営業のラストワンマイル」をつなぐのは営業マンの役割です。
相手の気持ちに配慮しメールにひと手間を加えたり、相手との距離感をはかりつつ、過剰にならず不足せず好感を与えるハートフルなコミュニケーションを心掛けましょう。リアルな営業活動で培ってきた感覚、スキルがきっと役立ちます。
まとめ
営業マンが1日の中で、営業メールのやり取り、見積書や契約書作成、有望見込み客探しなどにかけている時間は、一体どのくらいでしょうか?例えば、営業マン一人あたり1日1~2時間かけている手動業務を自動化できれば、会社全体で1ヶ月に何十時間、何百時間を商談にあてられるか試算すると、営業を自動化する意義が見えてくると思います。
セールスオートメーション(営業の自動化)とは、営業マンの個性をなくして完全マニュアル化することではありません。むしろ、営業マンが苦手とする煩雑な業務をツールに肩代わりしてもらい、営業マン本来の仕事を増やすことなので、営業マンの能力・個性がより発揮されやすくなります。成果に直結する時間を増やし、そうでない時間を減らすことを徹底していきましょう。
「営業マンの営業活動をより楽にする 営業シーン別 営業自動化のヒント」では、営業活動で感じるお悩みに合わせて営業の自動化の方法について解説しています。自動化の仕組み作りのヒントになりましたら幸いです。