営業効率の計算方法を知って、営業効率の改善を図りたい…。本記事をご覧いただいているということは、上記のような「営業効率(生産性)」について課題感をお持ちかと思います。
2021年現在では「働き方改革」や「with(ウィズ)コロナ」という言葉が示すとおり、営業活動においても環境変化の影響が及んでいることが考えられます。このような背景もあり、日々営業効率(生産性向上)を意識すべき営業マネージャーにとっては、営業効率の向上が喫緊の課題となっているかも知れません。
実際に営業部門の営業効率の改善を目指すとなると、その過程で「何から手をつければ良いのかわからない…」または「定量的に業務や実績を見える化して進めていきたい…」という課題感も出てくることが多くあります。
記事では、営業効率の向上を意識している営業マネージャーに向けた、営業効率の基礎や計算方法、定量的に分析することで得られるメリット、具体的な効率改善ステップについて解説しています。
目次
営業効率(生産性)の概要と計算方法
営業効率は、「営業活動に費やした時間や費用(投入リソース)によって、どれだけの売上を獲得できたかの度合い」のことを指します。言い換えると「投入リソースあたりの売上」です。(生産性と効率は厳密に言えば異なるものですが、近しい概念のため本記事では厳密な区分はせずに説明を続けます。)
上の式のうち、投入リソースは多くの場合「活動時間(労働時間)」が用いられますが、時間だけではなく、金銭的な指標としては、労働によって発生する人件費(給与や交通費など)に換算することもあります。つまり、営業効率は、活動時間における「時間効率」と費用おけるの「費用効率」で考えることもできます。
例として1ヶ月の営業効率を試算してみます。前提条件は次のとおりです。
- 1営業チームは5人
- 1人あたりの営業マンの平均人件費は35万円
- 1カ月の総労働時間は800時間
- 1カ月の受注金額は500万円
この場合、計算式としては以下の通りになります。
<時間効率>
営業効率 = 売上 / 投入リソース(時間)
0.625 = 500万円 / 800時間
<費用効率>
営業効率 = 売上 / 投入リソース(費用)
約14.29 = 500万円 / 35万円
上記の計算から、この営業チームは1時間あたり6,250円の売上を獲得。14.29倍の費用効率が得られていることになります。
営業効率を計算することの重要性が増している背景
限られたリソースの中でも、少ない労力で高い成果を出すことはビジネスにおいて理想的です。これは、競争戦略のバイブルといわれるランチェスター戦略の方程式「戦闘力 = 武器性能 ✕ 兵力数(兵力数の2乗)」にも表現されています。
- 第一法則(弱者戦略):戦闘力 = 武器性能 ✕ 兵力数
- 第二法則(強者戦略):戦闘力 = 武器性能 ✕ 兵力数の2乗
戦闘力(経営リソース)に乏しいであろう中小企業においては、武器性能(商品力や営業効率)を高めることが競争力を高めるために重要であることを示します。チームの人数など経営リソースが豊富な大手の競合他社に対し、自社がどのように同じ市場でシェアを獲得するか。営業部門ができることは、営業効率を高めることなのです。
以上は営業効率の重要性の一つですが、その他の要因でも営業効率を計算することの重要性が増しています。以降では、その背景について解説します。
withコロナによる働き方の変化
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は、営業活動にも大きな影響を及ぼしています。対面での商談機会創出が難しいこともそうですが、営業マンの在宅勤務(テレワーク)も増えたのではないでしょうか?
オンライン商談などデジタル対面営業に活用できる「Zoom」が急速に普及したのも営業マンの在宅勤務を推進できる1つの要因でしょう。総務省が取りまとめた「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」によると、テレワークは労働生産性の向上に寄与するという調査結果がまとめられています。さらに、テレワークを積極的に推進している企業の6割以上で、労働時間を減少できているとのことです。
(出典:テレワークの最新動向と総務省の政策展開)
しかし、その一方で、テレワーク導入の主な課題として「人事評価が難しく対象者が限定」が挙げられています。
営業組織においてもそのとおりで、「ビフォーコロナ」の時代は部下のがんばりなど、営業マンの姿勢を社内で把握できていたはずです。しかし在宅勤務となるとそのような姿勢は目に見えず、把握しにくくなっているのです。
(出典:テレワークの最新動向と総務省の政策展開)
そこで、営業マンをどのように「評価」すべきかといった問題が浮き上がります。そもそも営業マネージャーが部下を評価する方法には業績評価やプロセス評価、情意評価があり、これらの内「情意評価」が難しくなるのです。したがって、どうしても「数字で見える業績やプロセス」に重点を置いた評価となる傾向にあります。
そこで営業プロセスごとの効率を計算・管理していなければ、部下の業績やプロセスを定量的に評価できません。それだけでなく、「目標を達成するために部下が努力し成長する」といった機会も失ってしまうかも知れないのです。
営業効率の計算・管理は、withコロナによってこれまで以上に営業マンの人事評価と成長機会に影響するようになったのです。
日本の労働人口は減少が見込まれている
日本の少子高齢化が顕著であり、労働人口が減少傾向にあることはご存知のとおりかと思います。企業としては、人材が確保できずチーム数が少なくなれば1人あたりの負担は大きくなります。
実際、「令和2年版 厚生労働白書」によると平成元(1989)年から令和元(2019)年までの就業者数および令和22(2040)年の予測就業者数は次のとおりです。
2019年の6,724万人に対して、2040年の予測では多くて6,024万人と減少が見込まれています。
- 1989年:6,128万人
- 2019年:6,724万人
- 2040年(予測):5,245~6,024万人
(出典:令和2年版 厚生労働白書)
「予測就業者数が思っていたよりも少なくなっていない」と感じる人もいるでしょう。しかしこの推測は60~64歳が80%の就業率、65~69歳では61.7%の就業率を前提としたものです。厚生労働省の資料では、就業率上昇により就業者数は少なくとも5,245万人は確保できるというシナリオを立てています。
しかし、企業側の視点ではまったく楽観できません。なぜなら、若手人材の確保が難しい状態は避けられないからです。これは企業にとって、若手ではなく中高年層の人材を獲得しなければ人材確保が難しくなっていくとも言えるでしょう。
その結果、営業人材の確保が難しく、1人あたりの営業効率を向上しなければ売上は下がってしまうのです。
海外と日本の業務効率(生産性)の違い
先ほどは労働人口減少について紹介しましたが、さらに、日本の労働生産性は海外に比べて低いというデータがあります。
日本労働生産性本部が取りまとめたデータによると、時間あたり労働生産性はOECD加盟国37ヶ国中21位。1人あたり労働生産性は同26位と低水準です。この結果は主要先進7ヶ国(G7)で最下位であり、とても誇らしい結果とは言えません。
働き方を見れば、日本は次のような特徴があると言います。
- 1人あたりの労働時間が長い
- テレワークの普及率が低い
- 有給休暇取得率が低い
このような状況から脱却するために働き方改革が進められているわけですが、営業活動においても次のような要因で労働時間が長くなる傾向にあります。
- 営業日報やお客様への提案資料などの書類作成
- 突発的に生じるお客様対応
- 賃金体系が「歩合制」であり、成果を出すために長時間労働を余儀なくされている
実際、ベルフェイス株式会社が実施した「営業職の労働時間と働き方改革に関する意識調査」では、「営業職は本来『商談』『商談の事前準備』『商談後の顧客フォロー』に時間を割きたいにもかかわらず、『社内会議』『商談に伴う移動時間』といった営業活動以外の業務に多く時間を取られていることが明らかになりました。」述べられています。
結論として、日本は海外に比べ生産性が低く労働時間が長い。営業職においても例外ではなく、営業活動以外の時間に大きく時間をかけてしまっているという実態があります。
営業効率を計算するメリット
ここまで、営業効率の計算方法や重要性などについて紹介してきました。少なくとも、営業効率をおろそかにはできないことはご理解いただけたと思います。次に、営業効率を計算するメリットについて解説します。
営業効率を定量的に分析することの一番のメリットは「属人化からの脱却」です。「属人化については耳が痛くなるほど聞いている…」という営業マネージャーもいらっしゃるかも知れませんが、営業活動の属人化は、多くの企業で共通の問題です。
営業活動の属人化を防ぐことで、営業部門全体からチーム、個人単位にまで営業効率の向上を落とし込むことができ、必然的に全体で営業効率を底上げする動きを整えられるのです。
例えば、営業チームにはAさんとBさん、Cさんの3人がいるとします。Aさんはトップの売上げをあげて前年の受注額が3,000万円でした。Bさんは年間500万円、CさんもBさんと同様に500万円だったとします。その中で、来年の営業部門の目標が年間5000万円と設定されました。
つまり、前年の年間受注額は4,000万円であるのに対し、今年は5,000万円の受注目標となりました。属人化の状況であるなら、個人がそれぞれ努力し年間受注額を増加させなければなりません。
ここで問題になるのは、Aさんの売上げとB・Cさんの売上げの間に大きな差があることです。Aさんは来年も安定した売上げをあげることができるかも知れませんが、Bさん・Cさんは安定性が保証できるとは限りません。
そのため「営業活動における無駄を見つける」ことや「AさんがBさんにノウハウを共有する」、「AさんがCさんのフォローをする」などチームで売上げをあげていく連携をする必要があります。
当然ながら、この例は営業マネージャーなど上司の管理があってこそ成し得るものです。属人化していた環境では、目標を設定しただけで営業効率が改善することは難しいでしょう。
後ほど紹介する「営業効率を計算し改善するためのステップ」や「営業効率を改善するための具体的なヒント(チェック項目)」を参考に、アクションを実践し続ける必要があります。
営業パイプライン(フェーズ)における営業効率の計算式
営業効率を改善するには、営業プロセスそれぞれにおいて営業効率を計算・管理することが望まれます。そこで、前提となる営業パイプライン(フェーズ)における営業効率の計算式を紹介します。
そもそも営業パイプラインとは、受注に向けて進むべきプロセスのことを言い、具体的には次のようなプロセスから構成されるものです。お問い合わせ(リード獲得)をしてアプローチ、ヒアリング、商談、フォロー、受注の順番で構成されます。
ある程度の規模を持つ企業では「お問い合わせ」はマーケティング部門、「アプローチ」や「ヒアリング」はインサイドセールス部門が担当することがあります。営業部門では、「商談」以降のプロセスを主に担当することになっているでしょう。
それぞれのフェーズ別に効率を計算し管理することで、営業活動のボトルネックを発見し、きめ細やかな改善が可能になります。ぜひ参考にしてください。
見込み客発掘効率の計算式
見込み客発掘とは、「アプローチした見込み客のうち、どれほど商談・成約が見込める件数を獲得したか」を指します。したがって下の式のように見込み客発掘効率を求めます。
見込み客発掘効率=見込み件数 / 総アプローチ数 ✖️ 100
見込み客発掘効率が高い場合、商談に誘導するための的確なアプローチができていると言えるでしょう。逆に低い場合は、アプローチのタイミングや方法を見直す必要があります。または、マーケティング部門およびインサイドセールス部門から渡されるリストの見込み度合が低いことが原因かも知れません。
コンタクト効率の計算式
コンタクト効率とは、アプローチ数に対して連絡がつながった件数の割合を指します。従って、計算式は以下のとおりです。
コンタクト効率=つながった件数 / 総アプローチ数 ✖️ 100
見込み客のコンタクト(連絡先)情報を多く獲得できている企業の場合、この効率指標が重要になります。なぜなら、お客様と繋がるという関門を通過できた数が多いほど受注につながりやすいからです。連絡がつながらなかったら、先に進むことはほとんどありません。
商談化効率の計算式
商談化効率とは、上記コンタクト効率で述べた「つながった件数」に対して商談化した件数の割合です。
商談化効率=商談件数 / つながった件数 ✖️ 100
こちらも商談化効率が良ければアプローチが的確であったと判断できます。一方、悪かった場合はアプローチによって見込み客のホット度合いを向上できなかったと判断できるでしょう。そのため、より見込み客に商談で話を聞く価値を高められるように営業トークの磨き直しもポイントとなります。
成約効率の計算式
成約効率は、商談数に対して成約につながった件数の割合です。
成約効率=成約件数 / 商談件数 ✖️ 100
成約効率が良ければ、商談の進め方が良かったと言えるでしょう。悪かった場合には、商談の進め方が悪かったか、もしくはアプローチに問題があったと考えられます。
生産性の計算式
生産性とは、成果を生む際にどれだけ効率的に動けているかの指標です。
生産性=売上 / 営業総コスト ✖️ 100
生産性が高ければ、営業総コストを抑えて無駄が少ないと言えます。反対に低いと、営業総コストが高く営業効率が悪いと言えるでしょう。無駄な販促活動や、非効率な営業活動の見直しが必要になります。
営業効率を計算し改善するためのステップ
もちろん営業効率を計算するのみでは、効率(生産性)は向上できません。そのためには、ここで紹介するステップを踏む必要があります。
パイプライン管理
パイプライン管理とは、前述の営業パイプラインを定義し管理していくことを示しています。自社のパイプラインはどのようなものかを明確にして、営業プロセスの段階を整理していくことが大切になります。
パイプラインは、厳密に考えると営業マンによって変わってくることがあります。しかし、チームで成果をあげていくためには、チームでの共有認識としてある程度統一されたパイプライン管理を行うことが大切です。そのためには、営業マン全員でパイプラインを振り返り整理したり、もしまとまらない場合は、成果をあげている営業マンの営業プロセスを基準として分析することも有効です。
KPI管理
KPI(Key Performance Indicator)とは、最終目標を達成するための中間目標のことで、重要業績評価指標とも呼ばれます。
先ほど営業プロセスの管理を行いましたが、営業プロセスを分解しただけでは実際にどのように動くのかやどのような中間目標を追っていけばいいかがわかりません。そのためKPIを設定して、目下の目標を個人にまで落とし込むことでチーム全体の営業効率向上が見込めます。
営業活動の実績をトラック
これらのKPIや実績がどのようになったのかを、長期的に追いかけることが大切です。なぜなら、長期的に営業効率を高めていくためには、一定期間が経ったら分析を行い改善を行う必要があるからです。
- 定期的に営業効率の計算を繰り返す
- 常に数値を追いかけて試行錯誤する
このように継続的な実績の追跡を行うためには、エクセルやITツールなどを活用して管理を行っていくことがお薦めです。営業活動におけるボトルネックはどこなのか?優先して解決すべき課題はどこにあるのか?このような視点を常に持ちながら振り返りを行える体制を構築しましょう。
まとめ
働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大など、営業活動を取り巻くマクロの環境変化によって、営業組織も生産性向上のために営業効率を計算する重要性が高まっています。
営業活動の生産性(効率)向上のためには、営業効率の基本を理解し、営業部門全体の目標から営業マン個人の目標設定まで落とし込む必要があります。さらにそれだけで終わらず、継続的に効率を改善する意識や体制も重要なポイントです。
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