「営業スタッフごとにスキルや成果のバラツキがある……」「自社営業チームの強みや課題が把握できていない……」など、従来営業活動は営業マン一人ひとりの進め方にゆだねられる範囲が広く、案件の管理についても営業マン個人の管理方法や感覚に頼ってしまうことが少なくありませんでした。
しかし、SFA(営業支援ツール)を始め営業マン個人の営業力や感性ではなく、チームとして営業の成果が求められることが一般化するとともに、案件の管理手法についても新たな考え方が生まれています。その代表的なものがパイプライン管理です。
今回は、パイプライン管理についての概要や実施手法、継続するために必要なポイントについて解説します。
目次
パイプラインとは
営業におけるパイプラインとは、案件の獲得から受注するまでの一連のプロセスのことを指します。元々、パイプラインは石油や天然ガスなどを目的地まで運ぶための配管のことであり、営業においては「受注」という目的地へ向けて進むべきプロセスを示した用語です。
(出典:http://business.ctc.jp/commufa/service/problem/problem_vis.html)
パイプラインの管理はこれまで日本国内の企業ではあまり行われておらず、案件の管理には受注あるいは失注の管理や、見込み案件の確度管理などが主に行われてきました。なぜなら、日本の商習慣としてビジネスの進捗管理よりも顧客との関係性構築が重視される傾向が強かったためです。
しかし、SFA(営業支援ツール)を始めとした営業活動を可視化して管理する手法を導入する企業が増加したこともあり、パイプライン管理が注目を集めています。
パイプライン管理をおこなう際には、受注までの行動を一つひとつ細かく分解し、各段階でどのように行動すべきかを定義していきます。例えば、以下のようなステップを踏みます。
上記以外にもテレアポ時やDM送付時などそれぞれの営業活動ごとに、営業マンがどのように行動するかを、一つひとつ明確にして管理を行っていくことも大切です。
パイプライン管理はなぜ重要なのか?
近年パイプライン管理が重要視されている理由は、パイプラインが営業マネージャーにとって自身のチームの営業目標の設定や、達成のための指標とすることができるからです。ポイントは、営業活動の可視化です。
パイプライン管理を行うことにより、各営業プロセスにある案件が具体的に把握できます。成約数や確度の高い案件だけではなく、チームが持っている全ての案件を俯瞰して見ることが可能です。
気になる案件を深く確認したい場合は、進捗状況やこれまでの商談履歴についても参照すればよいでしょう。失注に終わってしまった案件についても、どの営業マンが担当したのか、どの段階でどのような理由で失注したのかが記録されていきます。
これらの情報を総合的に把握して、営業マネージャーは売上目標の設定や達成のために活用していくことができるのです。例えば、月の途中で目標到達までかなり厳しい状況であった際に、臨機応変に営業手段を変更して、別のターゲットから受注を得るといった施策を取ることもできます。
パイプライン管理を継続的に実施すれば、受注率はもちろんのこと、次のステップへの歩留まり率も導き出せるので、営業活動を改善するヒントにすることもできます。パイプライン管理をすることで、勘に頼らずにチームの営業力を高めていくことができるのです。
パイプライン管理とファネルマネジメントとの違い
営業活動を段階ごとに管理する点が共通することから、パイプライン管理はファネルマネジメントと混同されたりすることがあります。しかしながら、管理の目的という点で違いが見られます。
パイプライン管理は、アプローチから受注までの営業活動を可視化して、分析することを目的としています。一方、ファネルマネジメントは目標達成のためのKPI(見込み顧客の創出やテレアポのアプローチなど、各段階で必要なプロセスが適切に実施されているかどうか)の計測を主な目的としています。
つまり、パイプライン管理が営業活動を管理するのに対して、ファネルマネジメントはマーケティング活動と営業活動を含めた要素がより強い管理方法であると言えます。
パイプライン管理の4つの効果
パイプライン管理を導入することの重要性や、パイプラインが導入されるようになった背景に関してお伝えしました。では、パイプライン管理を導入することにより具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。
効果① 営業活動の課題点を発見できる
パイプラインによる管理を行うことで、営業チームと営業マン個人の課題を発見しやすくなります。従来の成約ベースでの管理の場合、各案件の失注ポイントが曖昧になりがちです。営業活動の段階ごとに、次のステップに進む割合に関してデータ管理されていないと、何で失注してしまっているのかを把握することができません。
パイプライン管理を実施することで、これらのポイントが明確になり、課題の発見が容易になります。また、社内に複数の営業チームが存在する場合は、チーム同士を比較することにより、それぞれのチームが営業のどの段階で問題を抱えているのかが分かりやすくなります。
効果② 自社の営業活動の強みを発見できる
パイプライン管理は課題だけではなく、強みを発見する際にも効果を発揮します。
商品・サービスを顧客から「魅力的だ」と思ってもらうためには、商品・サービス自体の商品力としての魅力も重要ですが、同時に魅力を効果的なタイミングで最大限に伝える方法も大切です。
- テレアポやDM、メールマーケティングなどのアプローチ手法の中で、どの方法が最も反響率が高いか?
- 営業スタッフの中で、クロージングの成約率が高いのは誰か?
- どの営業ツール、カタログ、デモが顧客からの反響が良いか?
強みを把握することができたら、強みのあるポイントに営業力を集中させたり、成果を上げている営業マンから他の営業マンに対してアドバイスをして、営業力のアップ・均一化を図ったりすることで、チームの営業力を高められます
また、成約ベースで営業案件を管理する場合と異なり、段階ごとでの管理を行うことで、反響の良いアプローチ手法は継続し、よくない手法は改善するといったように営業活動全体の効果を高めることにもつながります。
効果③ 営業目標予測や管理ができる
パイプライン管理は、営業目標の予測や管理にも役立ちます。全ての案件が可視化され、さらに商談の進捗状況まで見えるようになることから、営業マネージャーの立場から案件の管理がしやすくなるためです。
従来の成約ベースの管理の場合には、ある程度確度が高まってくるまでは状況が見えにくい状況があり(=ブラックボックス化)、また案件の確度についても各々の営業マンの感覚に頼らざるを得ないという状況がありました。
パイプライン管理によって案件の透明性が高まること、歩留まりや受注率がデータ化されることから目標の予測がしやすくなるということです。
また、予測により当月の目標達成が困難だと分かった場合に、早期に対応策が取れること、中・長期的な受注見込みについても管理しやすくなること(確度の低い案件や成約まで日数のかかる案件も管理されるため)もパイプライン管理の効果として挙げられます。
効果④ 営業マンの行動管理を実施できる
営業訪問やテレアポ、DMの発送、(直行直帰やテレワークの場合)出退勤の時間など、営業マン一人ひとりの営業活動を管理することは、行動管理にもつながります。
従来の成約件数や金額を管理する手法において行動管理をするためには、営業マネージャーが別途チェックをする必要がありました。例えば、スタッフに電話をかけて活動状況をチェックしたり、日報に活動内容を細かく記載させたりするなどです。
パイプライン管理によって、どの顧客に対してどのようにアプローチしたのかを一件ごとに報告をする仕組みを整えれば、営業マネージャーは都度都度ヒアリングして確認する手間なく部下の行動を管理できます。また、営業マンにとっても、日報の記入など時間のかかってしまう作業を行うことなく、必要な情報を上司に報告したりチームで共有したりすることができます。
管理を細かくしすぎると入力項目が増えすぎてしまうため、パイプライン管理の行動をどこまで細分化するかを考えることが大切です。
パイプライン管理をおこなう手法
実際に、自社の営業部にパイプライン管理を落とし込んでいきたいと考えられる方も多いのではないでしょうか?ここでは、具体的にどのようにパイプライン管理を行っていくべきかについて解説します。
営業プロセスを可視化する
パイプライン管理を実施するために最初に行うべきことは、営業プロセスの可視化です。そのためには、自社の営業活動の流れを標準化する必要があります。営業活動の標準化とは、営業活動の各段階ごとにどの営業手法をどのように実施していくかということをチーム内で統一することです。
しかしながら、どうしても営業マン個人でやり方が異なってしまうことが多く、OJTや座学の研修だけでは共有化するのが難しいという問題があります。共有化されなければ、実績をあげている営業マンが存在しても、個人の頑張りに頼る結果に陥りかねません。
営業プロセスのは業界や企業によって異なりますが、おおむね以下の段階が考えられます。
- テレアポ
- メールやDMなど非対面でのアプローチ
- 訪問前の事前準備
- 初回訪問
- ニーズ喚起/案件の掘り起こし
- 解決策の提案
- クロージング
自身のチームの営業活動はどのような手順を踏んでいるのかについて、一つひとつ可視化できるようにしていきます。行動レベルに落とし込めるように、それぞれの段階において、細かく管理をすることも重要です。
基本的なプロセスのつくり方としては、実績を上げている営業マンの行動に基づき、ご自身の営業チームとして標準化すべき項目を過不足なく抽出することが重要です。
(出典:https://www.netcommerce.co.jp/blog/2008/12/30/3127)
各プロセスの状況を把握する
営業活動の可視化をおこなった後には、営業マン一人ひとりが現在抱えいている案件を、各プロセスのどこにあたるのかを確認していきます。この時、案件数や商談件数などの数値化することができるものは、できるだけ数値化して管理をします。
この営業プロセスの状況把握については、SFAなどのITツールを用いる方法とスプレッドシートなどで管理する方法があります。いずれにしても受注までに必要な営業活動を時系列に並べて、必要な管理項目をピックアップしていく作業が必要です。また、記入方法を統一することで記入漏れを防ぐことができます。
各プロセスの課題を抽出する
営業活動プロセスをITツールや表に落とし込んだら、データを分析して各プロセスの課題を抽出します。
- 歩留まりが明らかに高い工程はないか?
- 見込み案件数や商談数は足りているか?
- 営業マンごとに各数値の大きな偏りは生じていないか?
これらの数値を見比べることで、自社の営業チームの課題を明らかにすることができます。そして、目標達成のために、どのポイントを強化すべきかについて推測することも可能です。
営業組織の課題も抽出する
数値上の課題・ボトルネックの発見と同時に、営業組織の課題についても分析を進めていくと効果的です。組織としての課題を発見するために重要なポイントは、望ましい数値や平均的な数値に達していない項目について、原因を具体的に推測することです。
例えば、あるスタッフの成約率が著しく低い場合は、営業力やプレゼンテーション能力が低い可能性があります。DMの反響率が低い場合にはDMの文面や送付のタイミングなどを改善すべき状況かもしれません。
営業マネージャーはこのように数値をただ見るのではなく、その数値から次のステップとして何を行うべきなのかを考えることが大切です。
課題ごとの改善案を立てる
課題が明らかになったら、課題ごとに改善案を立てていきます。営業マン個人の改善については、営業活動の標準化がにより、チーム内の結果の出ている営業マンの手法を落とし込むことが有効です。
- やるべきことができていない場合には何をやるべきかを明確にし、営業マンの営業プロセスの中に落とし込むようにする
- プレゼンスキルや資料の準備などのやり方に問題がある場合には、研修やOJT、面談などを通じてスキルの向上ややり方の変更を促す
一方、営業組織として課題が生じている場合には、営業マネージャーが先導に立ちチームとして取り組む必要があります。
- 資料やカタログ、DMの反響が良くない場合には刷新を企画する
- チーム内に商談時のトークスクリプトやマニュアルが確立されていない場合には、成果の出ている営業マンの意見を参考にしながら作成を進める
これらの改善を通して、営業マン一人ひとり、ならびにチーム全体の営業力を底上げしていく姿勢が必要です。
継続的にPDCAを回していく
パイプライン管理を有効活用するためには、リアルタイム性と継続性が重要です。課題や強みを発見した場合には、いち早くチーム内で情報を共有して、改善や標準化を行っていくこと、改善対応は単発ではなく日常的に繰り返し行っていくべきです。
これらを追求することにより、自社の営業チームが顧客からの要望や外部環境の変化に対して、臨機応変に対応できるチームにすることができます。また、営業マン個人のスキルやモチベーションの変化など常に状況は変化するので、その都度、新たな課題が発見されるので、課題の発見・改善も継続的に実施してこそ大きな効果が期待できます。
継続的にPDCA(計画→実行→チェック→改善)を実施することでパイプライン管理を効果的に活用できると言えます。
(出典:https://keieinohint.smrj.go.jp/about.html)
パイプライン管理を継続的に実施していくために重要なこと
パイプライン管理が成功するかどうかは、継続的に実施できるかという注意点が挙げられます。営業マン個々に対しては、報告業務が増えることから負担が増える可能性もあるためです。
パイプライン管理を継続的に行うために重要なポイントは、以下の2点です。
- パイプライン管理するための目的やメリットを営業マン一人ひとりが理解すること
常に管理と改善を行い、成果が実感できるようにしておくことが重要です。また、月次の目標達成など目に見える成果を上げることも、営業マン一人ひとりにパイプライン管理の効果を実感してもらう上では重要なポイントです。
- 報告業務などに関して必要最小限の手間で実施できるようにすること
報告業務の軽減のためには、まず営業活動の可視化の際に必要な項目を過不足なく抽出することが大切です。また、SFAなどのITツールを利用することで報告業務や情報の共有が簡素化されること、業務日報などの従来の業務を同時に行えることなどから、スタッフの負担を増やさずに実行できる可能性が高まります。
「パイプライン管理=SFA」と考えられがちな側面もありますが、あくまでITツールは手段の一つです。重要なポイントは営業活動の可視化と継続的に改善を行っていく姿勢なので、その点に気を付けて営業マネージャーが指揮を執っていくことが大切です。
まとめ
パイプライン管理を継続的に実施していくと、案件の数や状況が管理できるだけではなく、スタッフやチームの営業力アップや組織体制の改善にもつなげることができます。
パイプライン管理は、営業活動の可視化をおこなったうえで、課題や強みの把握、改善を実施するという流れで実施していきます。また、継続して実施していくことが非常に重要なので、パイプライン管理のメリットや効果をスタッフ一人ひとりが十分に理解することや報告業務の手間を増やしすぎないことなどが重要です。
パイプライン管理の導入段階における最も重要なポイントの一つである営業活動の可視化の具体的な方法については、「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」をご覧ください。こちらのガイドを活用すれば、営業活動をどのように細分化し、行動フローをどのように設定すべきかという点に悩まずに、可視化すべきポイントを明確にできます。ぜひご覧ください。