営業生産性の計算方法と高め方とは

営業 生産性 計算

営業活動の収益性を測るための指標に、「営業生産性」があります。営業生産性は、営業活動のコストと売上との割合を表す用語です。営業生産性を高めることは、企業の収益性の高さに直結します。

しかし、そもそも営業生産性をどのように計算すればよいのかわからない、という方もいらっしゃると思います。本記事では、営業生産性の概念や計算方法、改善のための具体的なアプローチを解説します。多くの利益を生み出す営業組織づくりのために、参考にしていただけますと幸いです。

営業生産性とは

営業生産性の計算方法を知る前に、そもそも営業生産性の定義や考え方について確認しておきましょう。

営業生産性とは、投下するコスト(労力・時間・費用など)に対して、どれほどの成果(売上・受注・アポ獲得など)が得られるかを表現した用語です。つまり、営業生産性が高ければ高いほど、企業は効率よく販売活動ができているといえます。逆に、営業生産性が低い状態の場合、商品やサービスを数多く販売しても利益が上がらなかったり、多大な労力がかかってしまったりするなどの状態に陥ります。

営業生産性の指標は、一つではありません。主な例をいくつか紹介します。

・1時間あたりのテレアポ獲得件数

・期間中に投入した営業コストあたりの売上金額

・営業マン一人あたりの月間売上金額

いずれの指標で計算するにせよ、国内企業の多くが営業生産性において課題を抱えています。

営業生産性と間接的に関わるデータですが、日本を含むOECD加盟37か国では労働生産性のデータを毎年計測しています。このデータの中で、日本企業の時間あたりの生産性は37か国中21位(47.9ドル)、1人あたりの生産性は26位(81,183ドル=約824万円)です。

主要先進7ヶ国の時間当たり労働生産性の順位の変遷

※労働生産性は、営業のみではなく製造や間接部門などの生産性を含みます。

営業生産性を計算することがなぜ大切なのか?

今なぜ労働生産性の重要性があらためて指摘されているのかを考えてみましょう。

営業利益の確保

多くの企業は、利益を確保するために売上のみに意識を向けてしまいがちです。その場合、売上前の営業活動のやり方や手数が属人的になり、担当者のやり方によっては収益に差が生じてしまいます。

営業生産性を計算することにより、売上に至るまでのコスト管理への意識を強めて、そもそもどのようなプロセスにどのくらいの費用がかかっているのかを理解することで、収益の最大化を目指すことができます。

経済のグローバル化

グローバル経済の拡大や国内マーケットの縮小などを背景に、日本の企業は海外の企業との競争を避けられない場面が増えています。前章で紹介した通り、日本の企業は海外の企業と比較をすると生産性が低いという現状があるため、企業がそれぞれ自社の生産性を正しく把握して最適化しないと、競争に勝つのが困難になります。

ワーク・ライフ・バランス

2019年以降の働き方改革関連法案の施行や個人の価値観の変化などから、ワーク・ライフ・バランスを重視する向きが強まっています。旧来であれば認められた残業や休日出勤が「良し」とされない状況もあり、決められた時間の中で社員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮するよう求められています。会社は、社員がパフォーマンスを発揮できるように、働き方や営業プロセスを管理しなくてはなりません。

営業生産性を高める際に壁になる課題

営業生産性の向上に取り組む際に理解しておかなくてはならないのは、壁となる課題の存在です。

過去に営業生産性の改善に取り組もうと試みたものの、効果的な対策が打てなかったり、従来の営業手法を継続してしまったりすることは珍しくありません。このように意識や意欲が高いにもかかわらずなかなか改善ができないのには、壁の存在に気が付けていなかったからかもしれません。

結果的に営業活動が属人化してしまわないためには不可欠な、壁に関するポイントを3点ご案内します。

営業プロセスが可視化されていない

営業プロセスとは、見込み顧客の創出から顧客の購買・ファン化までの一連の営業工程を指します。営業プロセスを管理するということは、営業組織として取るべきプロセスを標準化するということです。

例えば、見込み顧客リスト作成→テレアポ→資料送付→商談→提案・見積もり→受注→フォローというように、フェーズごとに担当者が取るべき行動を定義し、工程ごとの目標値を設定します。

このように、営業プロセスを定義することにより、営業マン一人ひとりがバラバラな行動をとるのではなく、同じ流れで営業活動を進められるようになります。逆にいえば、営業プロセスが可視化されていない場合、営業マンは各々独自のやり方で営業活動を行うしかありません。

営業活動が計測されていない

営業活動の計測は、属人的になってしまって、計測が難しい要素もあるため十分にできていないことが多くあります。

例えば、個々の営業マンの売上金額や受注件数については管理しているものの、日々の営業活動におけるテレアポ・DM送付・商談などの件数が管理されていないという状況です。これらが定量的に管理されていないと、受注1件あたり平均でどれほどの工数がかかっているのかが計測できません。

ノウハウがメンバーに共有されていない

営業プロセス管理は、具体的な活動内容の標準化までおこなわれていなければ、個々の営業力やスキルの差を埋められません。

例えば、テレアポを例に挙げると、トークスクリプトの内容や話し方、切り返し方などによって成功率に差が生じます。テレアポの成功率の低い営業マンが、目標を達成するためにより多くの電話をかけなくてはなりません。また、最終的な成果も「売れる」営業マンと経験の浅い営業マンとには大きな差が生じるでしょう。

こうした差をできる限り小さくするためには、成果をあげている営業マンの営業手法をマニュアル化し、ノウハウとして全メンバーに共通化させます。アポの取得率や月間の受注件数・金額などが平均化されるようになると、営業マン1人あたりの売上や案件あたりのコストなどの管理がしやすくなります。

営業生産性の計算方法の紹介

ここまでに紹介した内容をふまえて、営業方法の計算方法について解説します。

計算式は、以下のとおりです。

アウトプット(売上)/インプット(投下努力:時間・労力・費用)

非常にシンプルな計算式であるため、特に日ごろ営業の数字を管理されている方にとっては、とてもわかりやすいのではないでしょうか?上記の計算式に具体的な数値を当てはめることで、営業生産性を求めることが可能です。

(例)

・営業マン1人あたりの時間あたりの営業生産性を求める計算式:売上/担当者の労働時間(労力)

・営業マン1人あたりの営業生産性:売上/営業マンの人数

この計算式から導き出される労働生産性を高めるための方法は、2つしかありません。アウトプットを高めるか、インプットを低くするかのいずれかです。

アウトプットを高くするための方法の具体例は、組織の成熟度や業種を考慮しなければかなりシンプルです。

・営業マンの増員

・マーケティング施策や広告の展開

・営業研修の実施

上記の対応をとることで、売上を拡大できる見込みは高まります。ただし、これらの対策の多くは、インプットを高くするリスクがあることも理解しておかなくてはなりません。

一方で、インプットを下げるための施策としては、残業時間の削減や広告費の削減などがあります。しかし、これらの対策をおこなった結果売り上げが下がってしまうと、営業生産性は高められません。

いわば、営業生産性を高めることの難しさは、アウトプットとインプットを同時に考慮しなくてはならない点が挙げられます。従来の多くの企業が営業生産性を高めることに失敗してきたのも、アウトプットとインプットをそれぞれ別々に考え、対策してきたからではないでしょうか。

計算方法からわかる営業生産性の高め方

営業生産性を高めるのは簡単なことではありませんが、ポイントを押さえながら取り組むことにより実現可能です。アウトプットを高める方法とインプットを抑える方法の2つのアプローチにおいて、具体的な対策をご紹介します。

今の投下努力量を変えずに売上を高める

今までの作業工数や負荷を変えずに売上を高める、もしくは負荷の増加分以上の利益を得られれば、営業生産性は向上します。例えば、コストを削減するためにできる限りの対策をすでに実施している企業や、売上の改善の余地が十分に残されている組織は、まず売上のアップを試みるべきでしょう。具体案は、以下のとおりです。

アップセル・クロスセル

既存顧客の購買単価を増やすことに成功すれば、少ない労力で売上アップを実現できます。

アップセルとはより高価な商品・サービスを選んでもらうための施策であり、クロスセルとは関連商材などの購買を促す施策です。コピー機の販売を例に挙げると、より高価な上位機種を選択してもらうことがアップセル、コピー用紙やトナーなどの消耗品を購入してもらうことがクロスセルです。

アップセルとクロスセルは、一方的に強要すると顧客離れを招くリスクにつながるため、ニーズを把握したうえで実施しなくてはなりません。

値上げをする

商品・サービスの価格を上げることで、営業生産性を高められます。この場合、最大の懸念点は顧客の離反です。顧客の離反を招かないようにするためには、以下の2点を意識する必要があります。

・適正価格で販売すること

・値上げの正当性を営業マンが理解し、顧客に説明できること

価格がユーザーのニーズに見合っていない場合には、顧客離れ防止のために付加価値をつけるなどの別のアプローチを考えなくてはなりません。

担当者の販売スキルを高める

営業マンの販売スキルを高め、受注率を高めることにより、受注までの工数を増やさずに売上を高められます。営業スキルを高めるための主な対策としては、以下の方法があります。

・営業研修の実施やセミナーの受講により、基本的なビジネススキルを高める

・社内で成果を上げている営業マンの営業手法を標準化・マニュアル化して情報共有する

・営業フローを細分化して管理し、担当者に対して上司や同僚が適切なフォローアップしやすい環境を整える

販売スキルが高まれば、アップセル・クロスセルなどの営業施策の結果にもよい影響が表れるでしょう。

モチベーション管理をおこなう

見落とされがちなポイントが、モチベーション管理です。一人ひとりの営業マンが高いモチベーションをもって業務に臨むことにより、高い集中力が発揮されその結果仕事の質が高まります。

・適正な評価制度を整える

・チームの目標やインセンティブを設定する

・良好な人間関係を構築し、働きやすい職場環境を維持する

・自社のビジョンや将来性をメンバー間で共有する

・将来のキャリアパスを明確にする

・マネージャーや上司が部下の相談に対して誠実に対応する

上記のように、モチベーション管理にはさまざまな具体策をとることが可能です。

売上あたりの投下努力を削減する

営業生産性向上へのもう一つのアプローチは、売上あたりの投下努力の削減です。投下努力の削減に関しても、具体的な対策を知り、自社の状況に当てはめることが重要です。

一件あたりの受注にかける時間を短縮する

一件の案件を受注するために、営業マンが何十時間・何百時間と費やしていると、他の顧客にアプローチするための時間が取れなくなってしまいます。高単価商材であれば時間を費やす価値はありますが、そうでない場合は時間のかけ方を見直す必要があります。時間の見直し方の具体案は、以下のとおりです。

・営業プロセスを設定し、一人ひとりの営業マンが状況に応じて適切なアプローチをとれるようにする

・MAやSFAなどの営業支援ツールを活用して、可能な部分は業務を自動化する

・オンライン商談やテレマーケティングを活用して、移動時間や商談時間を短縮する

こうした対策により、担当者が効率的に活動できる仕組みを整えることが大切です。

一件あたりの受注にかける労力を削減する

営業マンの労力に関しても最小限までカットすることが大切です。例えば、見込み顧客創出のためのリスト作成や資料の作りこみなどに作業時間を取られていると、案件獲得に費やす労力が膨大なものになります。労力を削減するための具体的な対策は、以下のとおりです。

・インサイドセールスやテレアポスタッフを配置するなど、営業を分業化して効率よく見込み客リストを集める

・資料や営業プロセスを組織で共有して、最適な手順で営業アプローチできるようにする

・リアルタイムで情報共有ができる仕組みを作り、特定の担当者に負荷が集中しないようにする

一定のレベルを保つことは絶対条件ですが、対応方法によっては劇的に労力を削減できます。このとき、労力削減の効果の最大化に役立つ営業支援ツールを活用するのもオススメです。

営業支援ツールとは、営業活動の自動化や効率化に役立つさまざまな機能がパッケージされたツールのことです。例えば「セールスエンゲージメントツール」を導入すると、以下の機能が利用できます。

◆セールスエンゲージメントツールの主な機能

・セールスオートメーション:設定した条件に応じて、自動的にメール送信できます

・顧客管理/動的グルーピング:簡単な顧客管理や、設定した条件に応じた自動的グルーピングが可能です。

・マルチチャネルアプローチ:ツールを使って、効率よく電話・メール・SMSでアプローチすることができ、コンタクト率の向上につながります。

一件あたりの受注にかけるコストを下げる

営業案件獲得にかかるコストの削減は、営業生産性の向上に直結します。受注にかかる主なコストは、以下のとおりです。

・広告、販促費(キャンペーンによるノベリティや値下げなど)

・製造、仕入れコスト

・人件費

これらのなかで見落とされがちなのが、人件費です。一つの案件に対して多くの営業マンが介在すると、かかわる人数が増えれば増えるほど人件費が高くかかってしまいます。案件を受け渡す際に手間がかかったり、情報の伝達ミスが生じたりするなどのデメリットも起こりえるため、一人ひとりの役割を明確化して実行できる力をつけることが大切です。

また、非効率な業務が常態化して長時間の残業が当たり前の組織になると、アウトプットが低くなり、インプットが高くなる状況を招いてしまいます。

既存顧客からの売上を意識する

既存顧客からの売上は、新規顧客の受注と比較すると時間もコストも抑えられます。既存顧客からのリピート購入が増えれば、おのずと営業生産性は高まるでしょう。既存顧客から継続的な売上を呼び込むためには、以下の具体策があります。

・サービスや製品の品質を高め、顧客満足度を高める

・サブスクリプション制や会員制度など、自然な継続購入につながるビジネスモデルを構築する

・休眠顧客に対して、自動配信メールが送付されるように設定する

極力手間をかけずに既存顧客との関係性を維持し、新規顧客に注力できる体制を整えることで、担当者が新規案件に注力できる好循環が生まれます。

コア業務に集中できる体制を整える

営業マンがコア業務である案件の獲得以外に時間や労力を取られないようにすることも効果的です。具体策としては、以下の対策があります。

・コア業務(売上に直結する仕事)、ノンコア業務(直接売上につながらない仕事)、そもそも必要性のない業務を切り分けする

・アウトソーシングの活用(テレアポ代行業者の活用など)

・必要性や緊急性の低い業務を削減・廃止する(ムダな会議の削減など)

アウトソーシング業者の利用はコスト要因になるため、費用対効果を踏まえて利用を検討しましょう。

まずは営業活動を定量的に見られるようにする

営業生産性を高めるための手順として最初に考えるべきポイントは、営業活動を定量的に見られるようにすることです。案件獲得のために、どの程度の時間・労力・費用がかかっているのかを数値で管理することにより、現在の営業活動のプロセスが可視化されるためです。

ここで、営業プロセスを効率的に管理する手段の一つとして、ITツールの活用をオススメします。営業プロセスの管理を手動でおこなうとプロセス管理自体に手間がかかるためです。それこそ、営業生産性低下の大きな要因になります。

反対にITツールを活用すれば、多くの管理業務が自動化されます。また、前章にて紹介したようにITツールそのものが、顧客管理自動化や既存顧客へのメール配信などの営業マンの負担軽減に効果的です。

定量的に営業活動を管理できれば、目標値を設定し数値の改善に取り組みましょう。そして、継続的に営業手法改善に取り組むことによって、常に時代に合った営業プロセスにて経営できるようになり、組織の存続・発展を実現できるでしょう。

まとめ

企業が収益性を高めるには、売上のアップだけではなく、1件の営業にかかる時間・労力・費用を削減するという考え方も重要です。これらのアウトプット・インプットの改善を同時に考えることにより、営業生産性を高められます。

営業生産性を計算するための最初のアプローチは、現状の営業プロセスを数値化し可視化することです。営業プロセスを定量的に把握出来たら、さまざまな改善策を一つずつ実施して、営業効率を高めていきましょう。

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