営業戦略を立てる際のポイントとフレームワーク例

営業 戦略

経営戦略や人材戦略、マーケティング戦略、営業戦略など……。近年「戦略」という言葉をよく耳にします。「戦略」の定義には、学術的な分野でも研究者によってさまざまな定義がありますが、共通しているのは、会社の方策や目標を達成するためのシナリオと言えます。

「成果を最大化させるためには、どのような戦略を策定すればいいのか」を考えている方も多いかと思います。では、効果のある戦略を立てるためにはどのようなことに注意すればいいのでしょうか?

さまざまな戦略がある中で、本記事では、売上げを上げるための営業組織における戦略である「営業戦略」について解説していきます。

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営業戦略とは?

営業戦略とは、会社および営業組織が売上げ拡大を目標としたシナリオ、つまり売上げ拡大へのストーリーとも言えます。戦略の中でも特に営業の分野に注目しているため、売上げを上げるという目的が中心になります。

例えば、「アポイントを獲得するためにどのような流れで営業活動を行っていくのか」や、「契約を獲得するためにどのような流れで営業活動を行っていくか」など、ゴールに向かっての全体的な計画とも言えます。

特に中小企業では、資金や営業マンの人数など営業リソースが限られることが多くあります。そのため、自社の営業対象をどこに絞ってアプローチしていくのか、どのように営業活動を効率化していくのかを考えて、売上げの最大化を図っていく必要があります。

営業戦略と営業戦術の誤解されがちな違い

「戦略」と「戦術」という言葉を正確に使い分けられていますか?『広辞苑』によると「戦略」と「戦術」の定義は以下のようになります。(一部抜粋)

  • 戦略:戦術より広範囲な作戦計画
  • 戦術:戦闘実行上の方策

このように、戦略は目標に向かった作戦計画全体のことを表し、戦術では戦略からさらに一歩現場に踏み込んだ、戦略を実行する上での実際の打ち手と定義されています。

では、この定義を営業について言い換えるとどのように表せるでしょうか。売上げ拡大に向かっての全体的な計画を「営業戦略」、その営業戦略を実行する上での各営業活動上の打ち手を「営業戦術」と言えます。

例えば、お問い合わせのあったお客様に対して、電話やメールでアプローチを行い、商談を通して契約に結びつける。このような流れが営業の戦略となります。一方、営業戦術とは、お問い合わせがあったお客様に対して、実際にどのような営業トークをするのか、どのような内容のメールを送るのかといった、具体的な打ち手のことを言います。

「素晴らしい営業戦略を考えた」と思っていても、改めて考え直してみたら、それは営業戦術であったということはよくあります。営業戦略を考える際は、ただ単なる打ち手で終わらないように、営業活動を俯瞰した視点で、売上げ拡大へのストーリーが考えられているかを意識する必要があります。

営業戦略を立てる前におさえること

実際に営業戦略を立てていくにあたって、考慮するべき重要な点があります。それは、営業戦略を策定する際に関わるメンバー選びです。

一般的に営業戦略を策定するというと、経営者や営業部長が営業戦略を考え、その出来上がった戦略を現場が忠実に実行するというイメージを持たれるかもしれません。

しかし、そのような流れで営業戦略を策定してしまうと、実行する現場からしたら決められたことをただ実行するだけで、自らの営業活動における意思が反映されなくなってしまいます(選択なき実行者)。

結果として、現場の営業マンはその営業戦略を実行しようとするモチベーションも上がらず、経営者や営業部長が期待していたような結果が出ずに終わってしまう可能性が高くなります。多くの場合、これは「営業戦略が悪かった、失敗だった……」と認識されて終わってしまいます。

このような場合、営業戦略の策定の段階から、実際に実行する上で最も重要となる現場の営業マンも関与させることが大切です。ハーバード大学のマイケル・ノートン氏の研究によると、人は、他人が作成したものより自らの手で作成したものに対して、より多くの価値や愛着を感じると言われています。(イケア効果

現場の営業マンの意思を汲み取ることで、モチベーションやコミットメントが高まり、営業戦略の成功へと近づくのです。

営業戦略立案の3つのポイント

では、実際に営業戦略を立案するにあたって、必ず考えるべき3つのポイントをご紹介します。

① 自社の強みをはっきりさせる

1つ目は、強みの明確化です。デジタル技術の発展やグローバル化により、企業間の競争は激化してきています。そのような競争下で売上げを拡大していくためには、自社ならではの「強み」を明確に打ち出すことが必要になってきます。

商品・サービスを提供する際には、自社の商品が他社の商品・サービスよりも「より良いものを提供している」あるいは「よりお客様のニーズや課題に合っている」という理由が必要になります。なぜなら、これがお客様にとっての最大の「御社で買う理由」となるからです。

そのため、営業戦略を策定する際には、以下の点をしっかりと意識して戦略を立てる必要があります。

  • 自社から見た自社の強みは何か?
  • 競合と比較した自社の強みは何か?
  • 顧客から見た自社の強みは何か?

一般に3C分析とも呼ばれる見方ではありますが、このように自社、競合、顧客の3点から強みを明確化することによって、自社ならではの強みが見えてくるはずです。

② 理想的な購買顧客層を明確化する

2つ目は、理想的な購買顧客層(ペルソナ)の明確化です。商品・サービスをどの顧客層に絞り込んで訴求するのかはとても重要です。ターゲットを絞り込むことにより、自社に合った購買顧客層にアプローチできるため、案件化率が高くなります。それと同時に、その購買顧客層に共通した価値も伝えやすくなります。

特に、経験の浅い営業マンには、電話でつながった瞬間にお客様のニーズや課題感をヒアリングし、そのニーズや課題感に合わせた活用方法や事例などを話すことは難しいと言えます。そのため、理想的な顧客購買層を絞っておくことで、その購買顧客層に共通したんニーズや課題感を仮説として持っておくことで、お客様に合わせた会話を行いやすくなります。

③ 可能な限り購買顧客層を細分化する

さらに、ここで大切なことは、できる限り理想的な購買顧客層を絞り込むということです。一見、アプローチする顧客層を絞り込むことで、アプローチ対象が少なくなってしまうのではないかと不安になられるかもしれません。しかし、絞り込むことによって以下のメリットがあります。

  • 訴求するべき理想的な購買顧客層をイメージしやすくなる
  • 理想的な購買顧客層がわかるため戦略立案がしやすくなる
  • 自社の強みを最大限に伝えられる戦略を策定することができる

確かに全体的な案件数は少なくなる場合は多いですが、その分一件 一件 の案件の見込み度合いが高くなりますので、結果的に契約につながりやすくなり、売上げは上がることが多いのです。

以上のようなポイントを考慮し、売上げ拡大に向けて営業活動を行っていくのかの流れを考えていきましょう。

営業戦略の数値目標を設定する

営業戦略を実行する前に、営業活動のステージごとに目標となる数値「KPI(重要業績評価指標)」を設定しておきましょう。

例えば、

  • コンタクトステージ:1日に何件の見込み客と会話をするのか
  • アポイントステージ:1週間に何件のアポイントをとるのか
  • 商談ステージ:1ヶ月間で何件の商談を行うのか

など、目標となる数値を設定しておきましょう。

この目標も、感覚的に設定するのではなく、現状の営業活動でどのような状況なのかを事実ベースで確認する必要があります。感覚的に設定してしまうと、実現不可能な目標が設定させれてしまったり、逆に簡単に達成できてしまうような目標が設定されかねません。

事実ベースの数値を知ることで、達成するべき理想の数字と現実の数字との差が把握できるようになりますので、どのステージを強化するべきかという課題がはっきりしてきます。

セールスハックスでは、営業マンが日々の営業活動で参考にしていただけるような資料「本当に使える、意味のある営業活動KPI集」をご用意しています。KPIを考える上での参考にしてみてください。

営業戦略のフレームワーク例:ランチェスター戦略

SWOT分析や4P分析など、世の中は営業戦略に役立つフレームワークが多く存在します。その中でも、今回は、中小企業の経営幹部や営業部長が営業戦略策定の際に参考となる理論「ランチェスター戦略」をご紹介します。

ランチェスター戦略とは

第一次世界大戦の際に、F.W.ランチェスターによって提唱された軍事法則に基づいて、企業の経営や営業・マーケティング分野に応用した戦略になります。ランチェスターの法則には、第一法則と第二法則と2種類あります。その中でも、第一法則は中小企業の営業戦略策定の上で、多くのヒントを与えてくれます。

ランチェスター第一法則

ランチェスター第一法則は、

ランチェスター第一法則

で表されます。

この法則では、局地的な(狭い)範囲で単発の武器を使い「1対1の接近戦で戦う」という前提で成り立ちます。つまり、同じような性能の武器を使って戦闘した場合、兵力数が多いほうが勝ちます。あるいは、兵力数が同等の場合は武器性能が高い方が勝ちます。このような前提条件の上で成り立つ法則がランチェスターの第一法則です。

ランチェスター第二法則

続いてランチェスター第二法則では以下のような法則が成り立ちます。

ランチェスター第二法則

第一の法則では、局地的な範囲で単発の武器を使い、1対1で接近戦を行う場合を前提としていました。一方、第二法則では広い範囲で(多数を同時に攻撃する)確率兵器を使い、集団戦で敵と離れた遠隔戦を前提としています。

第二法則では、兵力数が2乗で計算されるため、兵力数が多いほど勝つことになります。そのため武器性能を向上させたところで、兵力数が多い相手に勝つことが難しいことになります。

企業の営業戦略に当てはめると

このランチェスターの法則を企業の営業戦略に当てはめて考えてみましょう。

《第一法則》
戦闘力(競争力)= 武器性能(商品力や営業効率など)× 兵力数(営業人数)

《第二法則》
戦闘力(競争力)= 武器性能(商品力や営業効率など)× 兵力数の2乗(営業人数)

と考えられます。

第一法則では、リソースが限られて営業人数が少ない場合には、商品・サービスの性能や営業活動の効率化や営業力強化により競争力を上げることができます。一方、兵力数がものを言う第二法則では、リソースが多ければ多いほど勝率は高くなります。

つまり、リソースに余裕のある大企業では第二法則に沿って広域戦を行うことが適切であり、リソースに限りがある中小企業では局地戦で(絞り込んで)商品力・サービス力の向上や営業効率の向上などの自社の「強み」を磨きあげることが重要になるのです。

ランチェスター第一法則と第二法則

これはあくまで営業戦略を考えるに当たってのフレームワークになります。フレームワークは、合理的に考えられていますが、実際の実務に落とし込んだ際にどうしても差異が出てくることも少なからずあります。

しかし、真っさらなところから営業戦略を描くよりも、フレームワークという「指針」を活用することで、売上げ拡大へ向けたより正確な方向性を定めることができるのです。

まとめ

営業戦略と営業戦術の違いから、実際に策定する際に考慮するポイント、具体的な営業戦略のフレームワーク例まで見てきました。

営業戦略は、企業存続のための売上げの拡大という重要な役割を担っています。それと同時に、成果が実感できるまで時間がかかるマーケティング戦略とは異なり、しっかりと策定・実行を行うことによってすぐに数字で効果が見込める分野でもあります。

知恵を絞って営業戦略を策定することも大切ですが、同じく大切なことは戦略を実際に組織に落とし込み、実行に移すことです。「デジタル時代の「売上げ拡大戦略と実行」ガイドブック」では、戦略の策定から実行までをワークシートを通して落とし込みまでできるステップを紹介しています。是非ご覧ください。

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