日々の営業活動で利益を得るためには、売上げを増やすことと同時に、営業活動費を最適な水準に抑えることも重要です。営業活動費がかかり過ぎると、たくさんの売上げを獲得しても、赤字になるリスクがあるためです。
そのような事態を避けるには、営業活動費を適正水準に保つノウハウを知っておく必要があります。そこで今回は、営業マネージャーが知っておくべき営業活動費について、具体例や計算方法、削減方法などをわかりやすく解説します。
営業活動費とは
営業活動費とは、営業活動を行う上で必要となる費用の総称です。具体的には、営業マンの人件費や広告宣伝費など、営業マンが案件を獲得するまでにかかる費用が営業活動費に該当します。なお「営業活動費」という用語は会計ルール上厳密に定義されたものではないため、会社によっては「営業費」や「営業費用」と呼ぶところもあります。
損益計算書においては、「販売費および一般管理費(販管費)」として記録される費用が営業活動費となります。「本業に直結する費用のうち、商品やサービスの生産にかかる費用(売上原価)を除いた部分」と考えるとわかりやすいでしょう。ただし楽天やNTTドコモなど、売上原価も含めて営業費用として計上する会社も存在するようです。
営業活動費を把握することがなぜ大切なのか
営業活動費の把握が重要である理由は、売上げの獲得にコストをかけ過ぎる事態を防ぐためです。
例えば、営業マンがたくさんの案件を受注しても、営業活動費の使い過ぎにより、コストが受注金額を上回ってしまい、赤字になる恐れがあります。どれほど多くの案件を営業マンが受注しても、受注金額をコストが上回れば意味がありません。
上記のような事態を避けるためにも、受注金額を高める施策と同時に、営業活動費を適切な水準まで減らす施策を実施していくのが理想です。
営業活動費の例
次に、営業活動費に該当する費用の具体的な例をお伝えします。営業活動費は、大きく以下の7種類に大別されます。
営業マンの人件費
見込み客へのアポ取りや商談といった営業活動を行う上で、それを担う営業マンの人件費は必ずかかってくるものです。ところが、いざ案件の獲得までに要した営業活動費を計算する際には、営業の過程で使った費用(交通費やツールの利用料など)に目がいってしまい、どうしても人件費は忘れがちです。
営業マンの人件費(給料)は、会社にとって金額が大きなコストです。人件費を把握するかどうかで営業活動費の金額は大きく変動するため、忘れずに計算時に含めるようにしましょう。
販売促進費用
営業に付随して行う販売促進にかかるコストのことを「販売促進費用」と呼びます。販売促進とは、顧客の購買意欲を刺激して、商品やサービスの購買につなげるための活動を指します。
つまり販売促進費用とは、より売上を増やすため、もしくは営業の成果を高めるために支出する費用のことです。主に、新しい製品・サービスを販売するケースや、新しい市場(顧客)に対して商品やサービスを知ってもらう時に販売促進費用がかかります。
販売促進費用には、主に以下の活動で発生するコストが含まれます。
- DM(ダイレクトメール)の送信
- イベントでの資料配布
- サンプル提供
- 展示会への出展
- ノベルティの制作・提供
販売促進は、顧客に商品・サービスの魅力を知ってもらう上で非常に効果的です。一般社団法人日本ダイレクトメール協会が行った「DMメディア実態調査2018」によると、調査対象者が受け取ったDMのうち、66.0%は開封・閲読されたとのことです。
開封率の高さから、「あらかじめ見込み客に対してDMを送信し、商品・サービスの魅力を知ってもらってから営業活動を行う」という戦略は、効率的に営業で成果を出す上で有効であると考えられます。
広告宣伝費用
広告宣伝費用とは、不特定多数の見込み客に対して、自社の商品やサービス、ブランドなどを宣伝する際にかかるコストです。具体的には、下記の活動でかかった費用が広告宣伝費用に該当します。
- テレビCMやタクシーCMへの広告出稿
- 新聞や情報誌への情報掲載
- インターネット広告の出稿
電通が発表した「2019 日本の広告費」によると、2019年における日本の合計広告費は、前年比で106.2%だったとのことです。2012年から8年連続で前年実績を上回っていることから、営業マンによるプッシュ戦略のみならず、広告を駆使したプル戦略に注力する企業が増えていると言えます。
(出典:2019年 日本の広告費)
また、インターネット広告が2014年以来2桁成長を続けている事実から、多くの企業がデジタル志向のマーケティング・営業活動を重視していることが理解できるでしょう。
通信費
通信費とは、インターネットや電話、郵便による社内外の通信に伴って発生する費用を指します。特に営業活動費としては、営業マンが使用するパソコンのインターネット代や携帯電話の通信料が該当します。
なお携帯電話を仕事とプライベートで兼用している場合には、仕事用の割合に相当する金額のみを計上する処理が必要となります。
交通費
営業マンが案件を獲得するまでには、商談での出張や相手企業への訪問に際して、飛行機や新幹線などの利用料がかかります。こうした商談や訪問でかかる交通費も、営業活動費の一種です。
接待交際費
接待交際費とは、見込み客や得意先である顧客などに対して、接待や贈答、慰安などの活動を行う際にかかる費用を指します。
例えば、飲食店で商談を行った場合は、飲食費が接待交際費となります。他にも、お土産やお中元、お歳暮などの購入費用も、接待交際費に該当します。
設備やITツールに関わる費用
上記以外の営業活動費としては、設備やITツールに関わる費用が含まれます。例えば、営業マンが営業活動で使っているパソコンや、資料の印刷に用いるコピー機などの購入費用が該当します。また、営業の効率化につながるCRMやSFAなどのITツールを導入・運用する費用も営業活動費となります。
費用はかかるものの、営業の効率化を進める上でCRMやSFAの導入は非常にお薦めです。大塚商会が営業職100人に行ったアンケートによると、SFAに対して「大変満足している」や「満足している」と回答した人は55.8%であり、過半数が効果を実感しているとのことです。
また、満足している営業マンに良かった点を聞いたところ、「必要な情報が分かりやすくなった(39.8%)」や「社内コミュニケーションが取りやすくなった(30.7%)」という回答が得られたとのことです。
(出典:SFAの満足度についてアンケート調査)
以上より、ITツールの積極的な営業活動への導入は、効果が高い施策であると言えます。
営業活動費の計算方法
営業活動費(販売費及び一般管理費)は、一般的に以下3つのプロセスで計算します。営業活動費の計算方法を知りたい方は、こちらを参考にしてみてください。
営業にかかっている費用を整理し、合計する
はじめに、営業にかかっている費用を整理しましょう。人件費や通信費など、どの科目にどのくらいの費用がかかったかを計算します。各科目の費用を求めたら、それらを合計すれば営業活動費が求まります。
売上げに占める営業活動費の比率(販管費率)を求める
上記でお伝えしたとおり、営業にかかっている費用を整理して、それを合計すれば簡単に営業活動費を計算できます。ただし、単純に営業活動費の金額を求めるだけでは、コストがかかり過ぎているかどうかを判断するのは困難です。
かけているコストの適正さを判断するには、売上げに占める営業活動費の比率(販管費率)を計算するのがベストです。販管費率は、販売費及び一般管理費を売上高で割ることで計算でき、値が小さいほど少ない費用で効率的に収益を得ていると判断できます。
- 販管費率(%) = (販売費及び一般管理費 ÷ 売上高) × 100
たとえば営業活動費(販管費)が200万円、売上高が800万円の場合、販管費率は25%となります。
販管費率が前年度の数値や同業他社の平均と比べて高いケースや、現時点で売上高の多さに反して赤字となっているケースでは改善が必要です。一方で問題がなければ、引き続き現状維持に努めたり、よりコスト削減に向けて注力すると良いでしょう。
営業活動費を削減するためには
「営業マンの受注数は多いにも関わらず、赤字の状態となっている」という場合には、営業活動費の削減が必要となります。営業活動費を削減する方法は多岐に渡りますが、今回は特に有効な6つをご紹介します。
営業マンの育成を行う
営業活動費の削減を目指す上でお薦めなのが、営業マンの育成に注力する方法です。営業マンの育成が効果的である理由は、一人当たりの生産性が向上することで、人件費あたりの売上高が高くなるためです。
例えば、営業マン1人あたりの人件費が50万円/月、売上高が100万円であると仮定しましょう。育成により営業マンのスキルや能力を高めれば、人件費を50万円のままで、1人あたりが稼げる売上高を100万円よりも多くすることができるでしょう。
また、少ない労力や時間で成果を出せるようになるため、一定期間に支払う人件費の削減にもつながります。コスト削減と効率性の向上を同時に実現するためにも、一人ひとりの営業マンが一人前の戦力となるように育成を徹底しなくてはいけません。
なお、セールスハックスが全国の営業パーソンに行ったアンケートによると、優秀な営業パーソンが持っている営業スキルとして以下の回答が得られました。
- コミュニケーション力(58%)
- ヒアリング力(21%)
- 情報収集力(6%)
- ロジカルに考える力(5%)
- 行動力(4%)
- 調整力(3%)
- 課題を見つける力(3%)
上司によるOJTやセミナー、営業ノウハウをまとめた資料の活用などを駆使して、営業マン一人ひとりに上記に挙げたスキルを習得させましょう。
ターゲットにあった営業アプローチを行う
ターゲットに合った形で営業活動を行うのも、営業活動費を削減する上で効果的な施策です。
ターゲットとは、自社の商品・サービスを販売したい顧客層のことです。少ないコストで効率的に営業の成果を出すには、自社商品・サービスに興味や関心を持つ顧客層をターゲットとしなくてはいけません。正しいターゲットに対して営業活動を行わないと、相手にとって興味関心がない商品・サービスを売り込むことになるため、営業の数をこなしても受注に繋がらない事態になりかねません。
また、ターゲット選定が正しくても、ターゲットに適したアプローチ手法を使わないと、非効率的な営業活動となってしまいます。例えば、専門用語を知らない層がターゲットである場合、専門用語ばかり使って営業しても、相手の購買意欲を高めるのは困難でしょう。
ターゲット市場の選定やターゲットに対するアプローチ手法を誤ると、成果が出ない状態で営業活動費の金額だけが積み上がってしまいます。このような事態を避けるためにも、自社商品・サービスに興味や関心を持つ顧客層をターゲットとして選定すると同時に、ターゲットに適した営業アプローチを実践するようにしましょう。
効率的な営業手法に変える
どれほど優れた営業マンがいても、営業手法が非効率的だと、営業活動費は無駄に多くかかってしまいます。営業活動費の削減を目指す際には、営業手法の変更も検討するのがベストです。
例えば、ダイレクトメールの送付がほとんど案件の獲得に結びついていないならば、他の施策(メルマガの配信など)に変えてみると、コストの削減や成約率の向上につながるかもしれません。また、前述したターゲットの見直しや一部業務のアウトソーシングも、効率化につながる一手となり得ます。
どの手法が効率的かは、事業内容やターゲット顧客の特性などによって異なります。ですが、現状明らかに成果につながっていない施策があるならば、他の施策に変更し、営業活動費の削減を目指すのがベストです。
オンラインでの営業活動を行う
上記3つの施策と比べて、より直接的に営業活動費を削減したいならば、オンラインでの営業活動に切り替えるのがお薦めです。
新型コロナウイルスの流行により、2020年は対面での営業活動が大きく制限されるようになりました。それに伴い、ビジネスの現場ではオンラインでの営業活動に舵をきる企業が増えました。人材関連の事業を行うエン・ジャパンが1,056社に行ったアンケートによると、43%の企業がオンライン商談を導入しており、そのうち73%が2020年3月以降に導入したとのことです。
(出典:1000社が回答!「オンライン商談」実態調査―『エンゲージ』アンケート―)
新型コロナウイルスの影響により、飲食業や小売業を中心に深刻な悪影響を受けました。しかし一方で、オンラインでの営業活動に取り組むことで、移動や出張に要するコストを大幅に削減できるメリットがもたらされています。
事実、前述したアンケートでは、オンライン商談を導入している企業のうち、68%が交通費の削減を魅力として実感していると回答しました。
営業活動費を大幅に削減したい営業マネージャーの方は、ぜひこの機会にメールや電話、オンライン商談ツールなどを活用した営業活動にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
上記3つの手法と比べると、比較的すぐに営業活動費の削減効果を実感できる点も魅力です。また、業務の効率化や顧客対応の迅速化といったメリットも得られるので、多少導入コストをかけてでも実行すべきでしょう。
資料や提案書のデジタル化
営業活動費の削減に際しては、資料や提案書のデジタル化により消耗品費の部分を削減する施策も効果的です。営業活動を円滑に進める上で、資料や提案書の活用は役立ちます。しかし紙に印刷した資料や提案書を使っていると、インク代やコピー代などの消耗品費がかかってしまいます。
そこで有効となるのが、資料や提案書のデジタル化です。PDF形式で作成した資料や提案書をメールやSMSで送付するようにすれば、資料や提案書の印刷にかかる消耗品費を大幅に削減することが可能です。
ただし、ターゲットとなる顧客層によっては、デジタルでの営業に対応していなかったり、紙面での提案を好む場合もあります。そうしたニーズを考慮せずにデジタル化を推し進めると、かえって成約率が下がるなどの事態になるリスクもあります。
したがって、相手の業務体制やニーズを把握した上で、資料や提案書のデジタル化を実行するかどうかを検討するようにしましょう。
自社にあったツールを使う
営業の効率性や成約率を高めるという点では、営業に役立つツール(MAやSFA、CRMなど)を活用するのも効果的です。各ツールの特徴や活用場面は以下のとおりです。
- MA:見込み客の獲得や育成、選別
- セールスエンゲージメントツール:営業活動のアプローチの実行や管理
- SFA:案件管理や受注管理
- CRM:アップセルやクロスセル、既存顧客のフォローアップ
上記のようなツールを活用すれば、マーケティングや営業の質を高め、より効率的に大きな収益を獲得できるでしょう。ただし、単純に営業ツールを導入すれば効果を実感できるというわけではありません。
自社に合うツールを使わないと、例え一般的に評判が良くて最先端のものでも、想定しているような効果を得られにくいです。例えば必要以上に機能が搭載されたツールを導入すると、高いコストがかかる一方で、使いこなせずに損してしまいます。または、ツールを導入しただけで放置しているケースも少なくありません。
営業に役立つツールを導入する際には、自社で必要な機能を洗い出した上で、使いこなせるレベルのツールを選ぶことが重要です。そうすれば、最低限の費用でツール導入による効果を得られるでしょう。
営業活動費を削減しすぎてもダメ
1円でも多くの利益を手元に残すためにも、営業活動費を削減することは非常に大切です。しかし、営業活動費を必要以上に削減することも好ましくありません。例えば、営業活動費を削減しすぎると、見込み客の情報を獲得できなくなるリスクがあります。見込み客の情報が不足すると、営業のアプローチをできる数が減ってしまうため、最終的な案件獲得数も減ってしまいます。
上記のとおり、営業の成果に直結する営業活動費を削減しすぎると、かえって売上げも減少することで効果が軽減します。このような事態を避けるためには、あくまで無駄な営業活動費を削減することが重要です。
まずは営業マネージャー自身の目で、どこの部分に必要以上にコストをかけているかを確認し、削減する部分を判断するようにしましょう。
まとめ
営業活動費は、会計科目で言うところの「販売費および一般管理費」です。具体的には、営業マンの人件費や販売促進費用、広告宣伝費用などが該当します。
営業活動費を多くかけ過ぎていると、営業マンが案件をたくさん獲得しても、コストがかかり過ぎることで赤字になる恐れがあります。そのような事態を避けるためにも、不必要な営業活動費は削減する必要があります。営業活動費の削減に際しては、営業マンの育成やターゲットに適した営業の実施、資料や提案書のデジタル化などが効果的です。
ただし、自力で営業活動費を的確に削減するのは簡単ではないでしょう。そこでお薦めなのが、弊社で公開している「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」の活用です。こちらの実践ガイドでは、効率的な営業を実践するための方法が手順に沿ってわかりやすく解説されています。実際に弊社が商談数を2倍にした事例も紹介していますので、ガイドを使えば的確に営業の効率化を実現できます。営業活動費の削減により営業の成果を高めたい営業マネージャーの方は、ぜひ実践ガイドの活用してみてください。