営業マンの活動といえば「外回り」をイメージする人が多いのではないでしょうか。パリっとした営業マン、汗をかいて飛び込みしている営業マンなどそれぞれ思い浮かべる姿は違っても、オフィス外で積極的にお客様と会っている=営業マンという認識が強いと思います。
イメージどおり、営業マンにとって1日に数多く商談できることは重要です。さらに「商談の質」も同じかそれ以上に重要。毎日ニーズのある見込み客と3件会えているのか、2件会えているのかでは、年間有効商談数、売上げともに大きな差が出るからです。
訪問には移動時間や費用などもつきもの。訪問しても成約につながらなければ、かかったコストが全て無駄になってしまいます。やみくもに訪問営業を行うのではなく、訪問を行うべきか訪問前に検討する必要もあります。
今はwithコロナの時代となり「オンライン商談」も普及しているため、ますます訪問するかどうかを見極めるスキルは重要になっていくでしょう。本記事では、営業マンが無駄な訪問をしないために確認すべきことを紹介します。
無駄な訪問とは
無駄な訪問とは、見込み度合いが低かったり、ニーズが不明確な見込み客に対して営業訪問を行うことです。今回の記事は「新規開拓営業における無駄な訪問」を想定して書いています。
例):
- 飛び込み営業でどんなエリアでも1件ずつ訪問する
- 自社商品・サービスにマッチしない見込み客にアプローチしている
- アポイントを取得できたものの、見込み度合いが曖昧なままとりあえず訪問する
- 自社商品・サービスと「予算感」がかけ離れている見込み客に訪問する
- 明らかに景気が冷えこんでいる業界にアプローチしている
キャリアを重ねた営業マンなら、経験からアプローチ中にある程度の見込み度合いはわかるでしょう。成果を出している営業マンは訪問すべき見込み客かそうでないかの見極め力が実に確かです。
新人営業マンだと最初は数をこなすことも大切ですが、慣れてきたら徐々に1日8時間の中で仕事の優先順位をつける、つまり「可能性の低い見込み客に時間とエネルギーを注ぎ過ぎない」ことも意識する必要があります。
例えば、最強の営業会社で知られるキーエンス社は徹底したムダのない営業で知られます。外勤には「外出許可証」が必要。ニーズの曖昧な見込み客に訪問できない体制になっており移動時間も徹底して減らしています。もちろん、業種、規模、お客様の層も違えばすべてを真似はできませんが「ニーズのある見込み客に訪問する」基本を徹底することで、高い成果を出す成功例として参考になるでしょう。
なぜ無駄な訪問を行ってしまうのか
成約につながらない無駄な訪問をしてしまう理由には、いくつかパターンがあり、必ずしも営業マンの問題でない場合もあります。ここからは、無駄な訪問を営業マンが行ってしまう3つの代表的な原因について解説します。
見込み度合いの見極めができていない
一番多いパターンは、自社の商品・サービスを購入する理由がないお客様に訪問しているケースです。営業リストが今一つの場合など、電話をしてもあまり良い感触がえられず「とりあえず自社の商品・サービスの説明に訪問させてください」「ご挨拶に訪問させてください」となる営業マンもいますが、ニーズがわからない状態だと空振りに終わるケースも多くなります。
もっとも見込み度合いをどの程度で可とするかはビジネスモデルによります。
例えば、総合人材サービスの営業マンなら、多少規模の小さい会社に訪問しても、人についての悩みを聞きつつ採用だけでなく教育研修、エンゲージメント向上のための組織改革、Webやパンフレットの作成などに話題を膨らませていけます。契約となっても外部と連携すれば実行までお手伝いできるでしょう。
一方、メーカーやシステム会社などでサービスをあまり拡張できない商品・サービスを扱っている営業マンの場合、訪問した際にそうそう風呂敷を広げられないため、最初のアプローチ段階から商品・サービスにあう見込み客をかなり絞り込んでいく必要があるでしょう。その会社ごと、商品ごとのラインがあるのです。
ペルソナが決まっていない
見込み度合いの見極めがあまい要因として、商品・サービスに価値を感じて購入してくれる理想的な購買顧客像(=ペルソナ)が明確になっておらず、むやみに営業アプローチをしてしまい、買ってもらえないお客様にもアプローチしてしまっている可能性があります。
自社のお客様に多いのは大手企業でしょうか?中堅、中小企業でしょうか?どのような業界、社風の企業が多いでしょうか?担当者にも傾向があるかも知れません。どの会社にも俗にいう「相性の合うお客様層」があるはずです。ターゲットを決めてペルソナを作成して、自社が得意とする顧客層を理解しましょう(その上でやや難易度の高い見込み客にチャレンジするのはもちろんありです)。
ペルソナを作るには?
ペルソナの参考になるのは既存のお客様です。自社の上位2割のお客様、ボリュームゾーンを占めるお客様の傾向をもとに、ペルソナを作成するとよいでしょう。何件かのお客様をインタビューしてペルソナ作成シート(無料テンプレートがたくさん公開)に書き込んでいくと、同業他社とは異なる、自社独自のペルソナが描けるはずです。
また、できれば自社の「アンチペルソナ」も作成することをお薦めします。感じが悪かったりクレームをつける見込み客という意味ではなく、情報収集先のみとして見ている、相見積もりの数合わせに声をかけるだけ、もし購入いただいたとしてもお客様が使いこなせず良い結果につながらないといった「顧客にあてはまらないような見込み客像」です。新人営業マンは助かります。
BtoCのペルソナイメージ
- 年齢:30代後半~40代
- 職業:営業職
- 役職:係長~課長層
- 居住エリア:神奈川県
- 家族構成:子供2人、妻と4人
- 年収:800万円
- 関心事・悩み事:××××××××
BtoBのペルソナイメージ
- 企業規模:従業員50~300人
- 社風、特徴:外資系、ベンチャー企業
- 担当者:経営者、役職者(総務部長、人事部長、課長)
- キャリアの目標:人事領域の役員
- 個性・価値観:公正さ、革新性
- 関心事・悩み事:新卒採用で優秀な人材の採用が難しい。
経団連がジョブ型雇用を推進しているため、優秀な学生の青田買い加速を懸念している、etc
訪問する文化になってしまっている
「営業は訪問するもの」という文化があると「とにかく訪問回数を増やすべきだ」という発想が生まれます。結果、訪問先を精査せずに訪問数ばかり増えてしまっているのかも知れません。社風、慣習になってしまっている場合もあるでしょう。
「今週は訪問頻度が少ない」「週に○件以上回らないと営業マンとは呼べない」「会社にいるならその分外回りに時間をあてなさい」と言われたことがある営業マンもいるのではないかと思います。平成の終わりのころですら、チームが未達だと21時まで訪問し続けなくてはならず、その後も未達者は終電の時間まで営業しなければならなかったという営業マンの話も聞きます。
やみくもに訪問して数多く断られつづけて疲弊してしまうと、営業マンのモチベーションも低下するため、離職も多くなります。営業マンの仕事の目的は「売上・利益を上げること」にあり「訪問頻度を上げること」は重要であってもテクニックの一つでしかないのですが、目的になってしまった本末転倒な事態です。
訪問のメリットとデメリット
ここでは訪問営業のメリットとデメリットをまとめます。両方の要素について知った上で営業しましょう。
メリット
2019年のHubspot Japan株式会社の調査では「営業担当者に自社を訪問してほしい」と回答した購買担当者は全体の約70%を占めていることがわかりました。その理由は「顔を見ない商談には誠意を感じない」「営業担当者の顔を見ると安心感がある」といった内容です。
お客様も自分もしくは会社のお金を使うので、当然、営業マンの人間性は気になります。高額な商品・サービスを扱う場合は尚更です。人相学というものがあるように、顔にはいろいろなことがあらわれます。何より対面することで直感で自分との相性もわかります。
逆に言えば、電話やメールだと視覚や聴覚など限られた情報の伝達しかできませんが、対面して話すと営業マンも持つ雰囲気や個性を活用してアプローチできます。無口で口ベタな営業マンでも、相手を落ち着かせる雰囲気を持っていれば、むしろ信頼されます。誠実さや親切さを身体全体で表現できるのが、訪問による営業の最大のメリットだと言えるでしょう。
デメリット
訪問営業では事前にアポを取ったとしても、お客様からすれば一定時間拘束されるため、商品・サービスの案内くらいの用件なら対面を好まない方もいます。
営業する側にとっても、無駄な訪問を行なってしまうと時間やお金などのコストを使います。商談が約1時間、移動を入れて3時間くらい使ってしまうケースも多いのではないでしょうか。それだけの時間と労力をかけてもまったく見込みなし、その後もなかなか受注に結びつかずコストだけが増え続けると、営業マンも報われません。
何より、コロナの影響でなかなか訪問もできない傾向になってきています。お客様が強く要望する場合、あるいは商品の特性上どうしても訪問せざるをえないならまだしも、営業マンから積極的に「お伺いさせてください」とは言えません。後々の信用問題に関わってしまうでしょう。
無駄な訪問を決める前に確認すること
「無駄な訪問」は、事前にお客様の見込み度合いを調べればある程度回避できます。調べる段取りを習慣化しましょう。無駄な訪問を防ぐために、チェックすべきポイントを説明します。
見込み客の情報を確認する
まず、営業アプローチの段階できちんとお客様の情報収集を行います。営業リスト作成の時にはマクロな環境も考慮します。例えば、2020年はコロナの影響で急激に落ち込んでいる業界、伸びている業界がわかれていますので、伸びしろのある業界を優先します。
社風や担当者についてもHPやSNSなどを通して情報を収集し、できるだけ自社のペルソナと比較して、自社の商品・サービスを活用する余地があるか否かを確認しましょう。この確認をすることで、見込み客が好むアプローチのスタイル(電話やメール、SMS、SNSなど)、何に価値をおく人なのかなどを知ることもあるので、少し面倒でも見ておくことがポイントです。
できるだけ自社のペルソナと近いか共通点がどこかにある見込み客が望ましいのですが、担当者については100%わかるものでもないので、ある程度調べてわからない場合そのままリストに入れても問題ありません。もし「アンチペルソナ」に近いならリストから外すことをお薦めします。
オンラインでできないのかを確認する
電話やメールで営業アプローチし「見込み度合いが高い」と思う反応が返ってきた場合は、訪問するかオンライン商談へと進めます。
今はコロナの影響もありオンラインでの打ち合わせ・商談は普及してきています(MM総研の調査では、2020年に入ってからオンラインミーティングツールの利用が急増しています)。何よりBtoBだと相手先の企業が在宅勤務を推奨しており、そもそも訪問自体ができない場合もありますので「オンライン商談」をまず打ち出すと良いでしょう。
昨今のテレワーク、オンライン商談に関する調査結果では、「生産性は変わらない」か「落ちた」、「商談の質が下がった」という結果も見られます。それでも前述の通り不要不急な訪問を避けることが奨励されている今の時代に、営業マンが訪問して大変な事態になると、マイナスの影響が大きいことは容易に想像できます。むしろ、オンライン営業の質を高めることに注力すべきかと思います。
ポジティブな見方をすれば、今の時期だからこそオンライン商談でもたついてしまったり、上手く説明できなくてもお客様が「しょうがない……」「慣れていないだろうから……」という目で見てくれるわけで、そのうち営業はスムーズにオンライン商談できて当たり前になる可能性大です。今のうちに実地でトライしましょう。
社内でできる営業アプローチで見込み度合いを見極める
電話やメールといったアプローチの段階で見込み度合いがあまり高くない場合、急いで訪問したところですぐの契約の可能性は低いので、無理にアポを取らず、電話やメールを活用してオンライン上の細かい接点を積み重ねていくことがポイントです。
例えば、「興味あるけど今の景気だと新しい予算を得るのは難しい」「今のところは必要ないです」という返しなら「これからも情報提供を続けたい」と申し出て、メールなどで程よい距離感を保ち続けお客様の興味関心が高まるタイミングを待つことが大切です。
マーケティングで使われるファネルという購買プロセスモデルがあります。人が何かを買うときの心理は(認知 → 興味・関心 → 比較・検討 → 購入)というプロセスを経ます。
例えば、こちらの営業アプローチで初めて商品・サービスを知ったばかりのお客様に対しては、たまにウェビナーの案内をお送りするなど、何か勉強になるような情報を提供していくとよいでしょう。「いずれ検討したいが今ではない」といった興味・関心はあるけど時期が見えない見込み客には、事例が参考になるはずです。
なお、少し興味があるだけの段階で連続して事例ばかり届くと、お腹いっぱい感でメールを読む気がおきないものです。最初は相手に役立つ情報提供、giveに徹して、間にたまにセールス色を出すくらいが内容を読んでもらいやすいでしょう。デジタルなだけで人と人の関係であることは同じなので、手順をふんだアプローチを行っていくことがコツです。
信頼関係を作りながら、「電話相談会」「少人数制のウェビナー」「オンライン商談」など、オンライン上で出会う場を設けていくことで、訪問せずとも真剣に検討してもらえるようになります。「まず訪問」「訪問しないと営業にならない」という先入観を取り払い、デジタル上で新しい出会いの場を作っていきましょう。
まとめ
「営業は数」「営業は訪問頻度が多いほど良い」という風潮が昔からありました。確かに、訪問数を増やせば、成約件数もある程度は増えていくことは事実です。しかし、その裏で莫大な時間と体力、費用がかかっていることも確かです。できるだけ、適切なターゲットやペルソナを設定して見込み客を見極めて営業活動を行っていきましょう。
このような営業スタイルは営業マン個人のスキルも試されます。こちらでは営業マンのスキルをチェックできる営業スキルチェックシートをダウンロードできます。ぜひダウンロードして営業スキルをチェックしてみてください。