営業マンにとって大きな課題の1つが、お客様が競合に流れてしまうことです。
手応えのあったお客様が、いつの間にか競合に流れてしまい、悔しい思いをした経験を持つ営業マンも多いことでしょう。お客様が競合他社と契約してしまうことを「コンペ負け」や「コンペ流れ」と呼ぶこともあります。
コンペ負けを防ぐための対策の一つとして挙げられるのは、競合他社比較表の作成です。競合他社比較表を作成し上手く活用すれば、ニーズが顕在化していて比較検討段階にあるお客様に対し、「なぜ自社の商品を選ぶべきなのか?」を視覚的かつ論理的に提案することができます。
それだけでなく、自社のマーケティング・営業戦略の課題を見つけるためのツールにもなり得ます。
そこで本記事では、営業提案に役立つ競合他社比較表の基礎や重要性を紹介し、後半では競合他社比較表の具体的な作成ステップなどについて解説します。
競合他社比較表とは
競合他社比較表とは、自社および競合他社の商品・サービスについて、お客様が比較・検討する項目を並べた表のことです。下図は「自社の商品比較表」の実例ですが、競合他社比較表も同じような形式で自社商品・サービスと他社の商品・サービスの比較表を作成します。
(出典:iPhone – Apple(日本))
競合他社比較表を作成することで、お客様にとっても購買判断における資料として役立ちます。お客様自身が比較検討表を作成する手間を省く効果もあり、一目で比較をすることができます。また、自社にとっても競合他社の商品やサービスを理解でき、そのうえで自社商品・サービスの強みを再認識できます。
さて、競合他社比較表の軸の1つはどの競合他社の商品やサービスと比較をするかですが、もう1つの軸は項目をどのようにするか悩むことも多いです。先ほどは「お客様が比較・検討する項目」と述べましたが、具体的には「購買決定要因(KBF)」を比較項目として並べます。
購買決定要因とは、お客様が商品・サービスを購入する際に重視する要素のことです。例えばスマートフォンの場合、価格やディスプレイサイズ、チップ性能などが購買決定要因となります。
お客様としては、この比較表からお客様自身で購買決定要因に重みを付けて、商品・サービスを選びます。「値段の安さ」を重視するのであれば「iPhone SE」ですし、「ディスプレイサイズが大きいほうが良い」のであれば、「iPhone12 Pro」を選ぶはずです。
競合他社比較表がなぜ必要なのか
営業マン視点では、お客様が自社商品を選ぶべき理由を説明するために、競合他社比較表があることで伝えやすくなります。一方、お客様視点では、お客様にとって最も費用対効果の高い商品・サービスを合理的に選ぶために役立ちます。
また競合他社比較表は、そもそもマーケティング戦略の策定段階で作成しておくべきものです。競合他社比較表は、企業のマーケティング戦略を明確化するためにも必要です。
マーケティング戦略とは、どの市場(顧客)に対して、自社がどのような立ち位置(競合との差別化)で売上を向上していくのかというシナリオ(基本戦略)を指します。
具体的にはSTP分析で参入市場セグメントを決定し、競合競争における自社のポジショニング(差別化)を決定するという流れを組みます。その後、マーケティングの基本戦略に沿いながら、お客様に購買行動を起こしてもらうための商品・価格・流通・宣伝といった4要素を組み合わせて具体戦術を構築します。
(マーケティング・ミックス)
マーケティングの具体戦術(マーケティング・ミックス)について、iPhoneを例にして考えてみましょう。
ディスプレイサイズは商品(Product)の要素であり、値段は価格(Price)の要素です。さらに、公式サイトや携帯ショップ、家電量販店などの販売場所は流通(Place)の要素で、テレビCMや動画広告などは宣伝(Promotion)の要素となります。
マーケティング・ミックスにおける4要素のうち、1つでも繋がりが弱くなると商品・サービスは売れません。企業の売上を左右する重要な4要素です。
ディスプレイサイズや価格は、お客様がiPhoneを比較検討する際、購買決定要因(KBF)となるため、マーケティング戦略が策定された段階で競合他社比較表を作成できるのです。
競合競争において優位性のあるポジショニングおよびマーケティング・ミックスを構成していれば、競合他社比較表はお客様が自社商品を選ぶべき理由となり、営業マンはお客様に説明しやすいのです。結果として、お客様も自社商品の購買決定がしやすくなります。
競合他社比較表が活用できるシーン
競合他社比較表が活用できるシーンを、具体的に紹介します。
営業提案の説明
競合他社比較表は、営業提案の時に、自社がどのような強みを持っているのかについて視覚的にわかりやすく説明できる資料となります。
営業提案はお客様の現状と課題を把握し、どのような解決策があるのかを抽出する流れを組みます。例えば、お客様が商品・サービスにかかるコストに悩みを持っており、自社商品・サービスが競合他社と比較してお客様におけるコストが低いのであれば、競合他社比較表でお客様に自社商品・サービスを提案できるのです。
仮にお客様が現在契約している他社商品・サービスが月額10万円であり、自社商品・サービスが月額8万円であれば、お客様が自社商品・サービスの購買を決定する1つの要因となり得ます。
しかし、価格が低いことだけを説明しても「機能が劣るんだよね?」などの質問が来ることもあります。この際、お客様の購買決定要因を競合他社と比較した表があれば、営業マンが個別に資料作成する手間もなく、お客様に情報を提供できるのです。
比較検討(コンペ)の際の価値提示
お客様が自社商品・サービスを認知し、興味関心があれば情報収集および競合他社との比較検討(コンペ)を行います。その際、競合他社比較表があれば、お客様の情報収集の手間を省き、自社からお客様に自社商品の価値を提示できます。
ただ自社商品のメリットを訴求するだけでなく、他社との違いがどこで、自社がどのようにお客様の課題を解決できるのかを明確に伝えることができるでしょう。
競合他社比較表の作成のステップ
それでは、実際に競合他社比較表を作成するステップを、活用すべきフレームワークとあわせて紹介します。
競合他社を明確にする
競合他社比較表を作成するステップとして第一段階は、比較対象となる競合他社をリストアップすることです。
競合他社をリストアップする具体的な方法には、営業活動でお客様から聞いたことのある他社を挙げる方法、ファイブフォース分析を用いる方法、自社商品・サービスと関連するKWをインターネットで検索する方法などがあります。
なおリストアップする際は、自社商品・サービスの直接的な競合だけでなく、間接的に競合となる会社もリストアップすることが重要です。
間接競合を探すには、ファイブフォース分析というフレームワークが役立ちます。
ファイブフォース分析(5F分析)
ファイブフォース分析とは、業界構造を分析するためのフレームワークです。具体的には、「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」という4つの切り口をもとに、最終的には「業界内の競合」をまとめて業界構造を分析します。
競合他社比較表を作成するにあたってカギとなるのは、「代替品の脅威」です。代替品の脅威とは、例えば、かつてCDプレーヤーやデジカメがスマートフォンに代替されたような代替品による脅威を指します。写真を撮りたいというニーズが、スマートフォンで満たされるようになってしまったのです。
(出典:Porter, M. E. 1979. How competitive forces shape strategy. Harvard Business Review, 57(2): 137-45, p. 141.)
自社商品が代替されてしまうような間接競合はいないか、確認してみましょう。
競合他社分析を行う
競合他社をリストアップできたら、競合他社の商品について分析を行います。
「何を分析をすれば良いのか」は、当然、価格や品質など競合他社比較表の比較項目になる部分です。ただし競合他社をリストアップした時点では、まだ「敵やお客様を知らない」状態ですから、実際にお客様が何を他社と比較して購買を決定するか(KBF)も曖昧になっています。
例えば、自社は「安さが売り」で市場シェアを獲得できると考えていたが、実際には「自社より高くても」他社商品のほうが市場シェアを獲得しているようなケースです。安いのに売れない要因は、他社が大手で「安心感がある」のようなブランド力や認知度も考えられますが、アフターサービスが充実しているのが最も大きな要因かもしれません。
このように、市場(顧客)と競合をきちんと分析しなければ、お客様に響かない競合他社比較表を作成してしまう可能性があるのです。以下のようなフレームワークを活用し、「お客様に響く」競合他社比較表の項目を検討していきましょう。
3C分析
3C分析は、「Customer:市場や顧客のニーズ」「Competitor:競合」「Company:自社」という3つの切り口で、市場環境を把握・抽出するためのフレームワークです。あくまでも情報を抽出するためのもので、後述するSWOT分析の材料として活用します。
市場や顧客のニーズとしては、市場規模・成長性・顧客ニーズ・顧客の消費行動などを抽出し、競合や自社は、シェア・特徴・資本力・販売戦略などをまとめます。
SWOT分析
SWOT分析は、「Strength:強み」「Weakness:弱み」「Opportunity:機会」「Threat:脅威」という4要素をまとめ、自社の強みと弱みを把握したうえで、実行戦略の策定に役立てるものです。
具体的には、下図のように4要素を整理していきます。SWOT分析により策定した戦略は、マーケティング戦略の基本戦略となります。
STP分析
STP分析とは、参入市場を細かく細分化(セグメンテーション)し、どの市場セグメントを対象にして(ターゲティング)、同一市場セグメントの競合に対して自社がどのような立ち位置で戦うのか(ポジショニング)を決定するものです。
STP分析のポイントを一言で表すなら「選択と集中」です。例えば小売業の内、総合スーパーの市場に参入しようとしたとき、イオンやセブン&アイHD(業界動向サーチ)と同じ土俵で戦って売上を上げるのは難しいでしょう。
それなら総合スーパーであるとしても土俵を変え、イオン店舗がない地域における密着型スーパーというポジショニングなら、売上を伸ばせるかもしれません。
このように、「選択と集中」が中小企業の基本的な戦略となり、その戦略を策定するフレームワークがSTP分析なのです。もしマーケティング戦略策定の段階でSTP分析がうまくいっていなかったら、自社が選ばれない競合他社比較表となってしまいます。
競合他社と比較する項目を決める
フレームワークを活用しながら分析が完了したら、ようやくお客様の購買決定要因(KBF)が見えてくるはずです。お客様の購買決定要因(KBF)を決めましょう。
比較項目は、SWOT分析で把握した自社の強みと弱みを踏まえて、4P分析で具体的にマーケティング施策として落とし込んだ要素になります。例えば、Price(価格)・Product(商品)の耐久性などの品質指標・Place(流通)の支払方法などです。
なお比較項目を決める際、明らかに自社が不利な項目を除外するのは望ましくありません。お客様に価値のある競合他社比較表を用意することが前提だからです。
さらに自社の弱みを隠すのは、後々、イメージや信用低下につながってしまいます。商品にもよりますが、コンプライアンスに反する場合もあるため注意が必要です。
項目に合わせて内容を記載する
競合他社比較表の比較項目を決めたら、実際に内容を記載していきましょう。具体例として、牛丼チェーン店における競合他社比較表を例示します。
実際にはメニューのバリエーションや、注文してからお客様に届けるまでの早さも影響することが推測できます。この例は、あくまでも雰囲気をつかむための参考程度としてください。
さて、仮にA店が自社だとすると、競合他社と比較して低価格であることが強みで、店舗数が少なめであることが弱みとなります(SWOT分析の結果)。営業活動においては、低価格であることをベースにお客様に提案などを行うことになるでしょう。お客様にとっても、低価格が最優先の購買決定要因であるなら、自社が選ばれるはずです。
弱みである店舗数についても、今後の店舗拡大予定など、弱みを補う資料を添付できると効果的です。なお比較する競合他社の数は、直接競合と間接競合(代替品の脅威)を含めて3社以上でまとめると良いでしょう。
競合他社比較表作成した後に行うこと
競合他社比較表を作成することで、自社の強みや弱みを再認識できます。競合他社比較表は、マーケティング戦略や戦術を表したものとも言えます。
ただし競合他社比較表は、作成してお客様に提示すれば良いだけのものではありません。具体的には、自社の強みを活かした営業の提案や営業トークができているのか、見直す機会にもなるということです。
またマーケティング視点では、競合他社のリサーチを継続し、常に自社商品に魅力がある状態を維持しなければなりません。例えば、自社の強みが低価格であることだったのに、B社が値下げしたために自社の魅力が薄れてしまうようなケースです。
このようになってしまうと、お客様が自社商品を選ぶ理由がなくなってしまいます。営業部門においては、日頃の営業活動で知り得た情報を、積極的にマーケティング部門や経営層にフィードバックする姿勢が望まれます。
まとめ
競合他社比較表は、営業活動におけるコンペ負けを防ぐために役立ちます。具体的には、お客様に対して「なぜ自社の商品を選ぶべきなのか?」を、視覚的かつ論理的に提案・説明するためのツールです。
競合他社比較表を作成する際は、ファイブフォース分析・3C分析・SWOT分析・STP分析・4P分析などのフレームワークを活用しましょう。これらのフレームワークを活用した結果、質の高い競合他社比較表を作成することができます。
なお、商談の成約率を高める際に参考にできるように「営業スキルチェックシート」を用意しております。営業スキルチェックシートには、見込み客の開拓から案件獲得までのプロセスで重要なスキルがチェックシート形式で掲載されていますので、ぜひご覧ください。