営業での値引きを避けて利益を上げるためには

営業 値引き

営業を進めるにあたって頻繁に直面するシーンの1つに値引き交渉(価格交渉)があります。営業マンにとって、契約を取ることだけを考えると、値引きは「成約・受注のための便利なモノ」と考えてしまう実情もあります。しかし、値引きは企業の利益を下げてしまうことに繋がります。

本記事では、営業での値引きがどのようなものかを解説した上で、値引きを避けるためには実際にどうすれば良いのかについて解説します。

営業での値引きとは

営業での値引きとは、お客様から商品・サービスの価格を下げて欲しいと言われることや、定価より下げてお客様に見積もりを提示することです。

例えば、せっかく自社商品・サービスとお客様のニーズがマッチしているものの、「予算が厳しいので値引きしていただくことは可能でしょうか」と言われることもあります。さらに、お客様に見積もりを提示したときに「どのくらい引いてくれる?」と言われた経験は少なくともあるかもしれません。

このように値引き交渉がされるシーンでは、「値引きをすれば契約を獲得できる」といった一定の確度が存在します。そのため、営業マンとしては目先の契約を失わないために、値引きをしてしまいがちです。

なぜ営業で値引きを避けることが大切なのか

営業での値引きは、基本的には避けることが理想的です。なぜ避けるべきなのかについて、理由を確認していきましょう。

値引きは企業の利益を圧縮する

値引きをすると企業の売上高が減ることになります。多くの場合、値引きにより原価やコストは下がりませんので、利益を圧迫してしまいます。

商品・サービスによっては、営業マンが10%値引きしたことによって、企業の利益が100%なくなってしまうことがあります。つまり、値引きして契約が獲得できたとしても、企業にまったく「うまみ」がないのです。どういうことかについて、企業会計をもとに解説していきます。

企業の利益にはさまざまな種類があり、その1つに「売上総利益」があります。いわゆる「粗利(あらり)」です。粗利は、売上高から売上原価を引いて求めます。

例えば、売上原価が900円の商品またはサービスを1,000円で売るとき、粗利は100円です。このとき、粗利率(売上総利益率)は10%となります。粗利益(粗利率)は、1つの商品やサービスを売るとどれだけ企業が利益を上げられるかという重要なものです。

この例において営業マンが10%値引きしてしまうと、売上は900円で売上原価も900円ですので、粗利益は0円となってしまいます。そのため、営業マンが10%値引きしたことによって企業の利益がすべてなくなってしまうことがあるのです。

値引きしないと売れない商品やサービス自体に問題がある

値引きをしないと商品やサービスが売れない場合、考えられる原因はさまざまですが、マーケティング戦略上の問題が1つあるのかもしれません。

具体的には、競合他社に勝る要素が値引きでしか見出だせない場合です。この場合、競合他社と比較しながら契約を検討するお客様に対して、どうしても有効な営業アプローチができないのです。商品・サービスの力ではなく、営業マンとお客様の信頼関係でしか契約を勝ち取ることしかできません。

しかしながら、契約を取らないことには企業として赤字が広がるだけですので、値引きをしてでも契約を取るしかないのです。当然ながら、値引きをすると利益が少なくなってしまうので、このような仕組み自体が望ましくありません。もう一度、商品・サービスの力を練り直す必要があるのです。

値引きしないと売れないのは営業マンに問題がある

値引きをしないと売れない理由には、前述のとおり「競合他社と比較して強みがない」というマーケティング戦略上の問題が1つありました。その他にも、営業マンに問題がある場合があります。具体的には、せっかく競合他社に勝る自社の強みがあるのに、その強みを営業マンが活かせていない場合です。

お客様に自社商品・サービスの強みが訴求できていなければ、お客様は高いお金を出してまで購入しようとしません。そのうえでお客様が購入してくれるのは、「このくらいの値段なら購入しても良い」というときです。

そのためには、営業マンはお客様に値段以上の価値を伝えなくてはいけません。

値引きを行うことによるメリット

値引きは多くの場合に避けるべきだと解説してきましたが、値引きにもメリットはあります。値引きのメリットとは何か、それぞれ解説します。

赤字拡大を防げる

企業会計(管理会計)から見れば、値引きをしてでも受注することにより、企業の赤字拡大を防ぐことができます。確かに値引きによって利益を圧迫することは変わりませんが、それでも企業活動に要した費用を回収できるのです。

例えば、原価900円の商品を値引きで800円で売ると、損失は100円です。一方、原価900円の商品がまったく売れない場合、損失は900円になってしまいます。このように損益の観点では、値引かなければ売れなかった商品を値引きしてでも売れたことには価値があります。

つまり、「売れないよりは売れたほうが良いが、値引きをするよりは値引きをしないほうが良い」ということもあるということです。

他社との価格競争に勝てる可能性がある

お客様が商品・サービスを購入するとき、買うか買わないかを決める要因として、価格(お客様にとっての経費やコスト)は重要な要因(KBF:購買決定要因)です。

お客様から値引きを要求されているということは、お客様には商品・サービスの価値や魅力自体は伝わっているはずです。つまり、予算や競合との比較検討で購買を決めかねている可能性があります。

そこで値引きして買ってもらうことで、予算がないことや競合他社のほうが良いといった「買わない理由」を絶ち、契約をいただくことができます。

顧客の信頼を得ることができる

値引きによって、顧客の信頼を得られる場合があります。値引きに応じると、お客様からすれば気持ちや事情を汲んでもらえた良い取引先であると感じてもらうことができるでしょう。

そのため、お客様からの相談を通じてホンネをヒアリングしやすく、今後の提案や継続受注にも活かせることがあります。

ただし、どのような場合でも値引きをすればお客様からの信頼を得られるわけではありません。安易に値引きをするのではなく、お客様の事情をよく汲み、お客様が大切であるからこそ値引きをしたという経緯が必要です。

お客様からの信頼を得ることにより、今後の継続受注やアップセル・クロスセルが可能となります。つまり、一度は値引きしたものの、顧客生涯価値(1人のお客様から得られる売上の合計額)は向上するのです。

値引きを行うことによる問題点

これまでにもいくつか延べてきましたが、ここでもう一度、値引きを行うことによる問題点を具体的にまとめます。

売上げ・利益が下がってしまう

まず、値引きをすると当然に企業の売上げと利益が下がってしまいます。営業マンはどうしても「目先の契約」を優先しがちですが、利益あってこその営業活動です。前述のとおり、営業マンが定価から10%値引くことで、場合によっては利益が0になってしまうことがあります。

例えば、値引きをしないことで有名なキーエンスでは、製品ごとに「社内仕切価格」が定められています。社内仕切価格はいわゆる原価であり、契約金額から社内仕切価格の差が営業部門が獲得した利益です。実際には原価だけでなく、企業活動に伴う事務所費用や人件費も含めた金額が設定されます。

このように社内仕切価格を設定することによって、営業マンは「どこまで値引きすると利益が0になってしまうのか」がわかります。

プライシングの考え方

(出典:https://note.com/takumi_kojo/n/n7070a0f1e8f4

会社全体で価格の水準が不明確になる

値引きが各営業マンごとに値引きしてしまうと、定価の意味合いが薄れてしまいます。

定価は一定の利益を見込んで設定されていることが一般的ですので、安易に値引きをしてしまうと、企業の利益を見込むことが難しくなるのです。値引きが常態化してしまうと、結局、いくらで売るべき商品なのかもわからなくなってしまいます。

顧客ごとに金額が変わり顧客の不信感につながる

値引きが常態化してしまうと、顧客ごとに金額が変わるため、顧客ごとに差をつけているのではないかと不信感につながることもあります。

例えば、定価で契約したお客様、10%値引きしたお客様、20%値引きをしたお客様がいたとしましょう。定価で購入したお客様としては、なぜ自社だけ定価で購入しているのかと不信感を感じてしまうのは当然です。

このような不信感を持たれてしまうと、今後の継続受注やアップセル、クロスセルが難しくなるでしょう。つまり値引きで新規のお客様は取れても、既存のお客様から売上をあげることは難しくなってしまいます。

営業での値引きを避けるための対策とは

ここまで、値引きを避けるべき理由や値引きのメリット・デメリットについて解説してきました。赤字回避のためには売れないよりは売ったほうが良いですが、利益のためには値引きを避けるべきです。そこで以降では、営業での値引きを避けるための対策を紹介します。

価値を伝えられるようにする

値引きを持ちかけられないためには、商品・サービスの価値をお客様に伝えなければなりません。『無敗営業』の著者である高橋浩一氏が代表取締役をつとめるTORiX株式会社の調査によると、発注会社の選定で重視していることは、「価格よりも費用対効果」にあるという結果が見て取れます。

また、「とにかく他よりも金額が安い」を重視している割合はそれほど高くないため、競合他社との比較より費用対効果(価値)に重点が置かれているといえるでしょう。つまり営業マンにとっては、お客様にどれだけ価値(費用対効果)を良く伝えられるかどうかがポイントです。

また、現在はコモディティ化が進んでいます。コモディティ化とは、商品やサービスのリリース時には高付加価値であったものが、時間の経過によって競合他社に追従されてしまい、一般的な商品になることをいいます。

商品・サービスで差別化が難しい現状では「効果」に差がつきにくく、より「費用」がシビアに判断されてしまうのです。その結果、低価格競争に拍車がかかっていると言えます。

以上を踏まえると、営業マンは価格以外の要素である自社商品・サービスの価値(費用対効果)を、うまくお客様に理解してもらう必要があると言えるでしょう。

競合他社よりお客様にとって「価値がある」「費用対効果が高い」と思ってもらえることで、お客様からの値引きを防げます。営業組織としては、営業トークスクリプトを継続的に改善し続けていく必要があるでしょう。

予算を把握しておく

いくら営業マンがお客様に商品・サービスの価値を伝えたとしても、お客様の予算には限りがあるため、必ず購入してもらえるとは限りません。

営業活動の段階からお客様の予算感を確認しておけば、そもそも利益を圧縮するような提案・受注を避けることができます。また、お客様のニーズはあるのに価格が高く値下げを要求された場合、値下げが必ずしも悪ともいえません。利益は減ってしまいますが、今後の継続受注やアップセル、クロスセルもあり得るからです。

予算・決裁権・ニーズ・導入時期などのBANT情報を掴みながら、適切な営業アプローチをすることが重要と言えるでしょう。

決裁権者にアプローチをする

決裁権者にアプローチすることも、値引きを避けるための対策です。なぜなら、担当者や課長クラスだと自己の裁量で決裁できる予算は限られていますが、部長や役員・社長ともなると、裁量で決裁できる予算は広がるのが一般的だからです。

例えば、課長にアプローチしても予算は100万円だったのに、部長にアプローチすると予算は200万円という場合があります。

このように、より上位の決裁権者にアプローチをすることで、予算によって値引きを持ちかけられる場合も減るでしょう。

価格に応じて、サービスについても妥当な内容にする

値引きを持ちかけられてしまうのは、商品やサービスの内容が価格相応ではないのかもしれません。もしそうであれば、値引きに応じて提供する商品・サービスの内容を下げることも有効です。もしお客様にニーズがあるなら、予算が増えたときに本来の値段で契約してくれることも期待できます。

また、月額課金制(サブスクリプション)の商品やサービスにおいては、値引きをするかわりに長期間契約をお願いししても良いでしょう。そうすることにより、値引きによる悪影響を抑えることができます。

まとめ

営業における値引きは、営業活動に根付く大きな問題です。営業マンとしては、目先の契約を失わないために値引きをしてしまいがちですが、「値引きは企業の利益を圧迫している」ということを知っておく必要があります。

その他、値引きはお客様からの信頼を失ってしまう可能性があるなどのデメリットがあります。赤字回避のためには売れないよりは売ったほうが良いですが、利益のためには値引きを避けるべきです。

値引きを避けるには、決裁権者にアプローチしながら、お客様に「費用対効果が高い」と思ってもらう必要があります。このように、値引きを避けるためには営業スキルが必要なのです。

営業スキルチェックシートでは、営業マンが身につけておくべきスキルを1枚のシートにまとめられています。ぜひ営業組織および営業マン個人として、営業力向上の課題解決にお役立てください。

    営業スキルチェックシート

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