営業のヒアリングで重要なBANT条件とは

BANT条件

「ちょっとこの値段だとうちは無理だとなってね……」「社長がOKしなくて……」「当社には時期尚早と役員がいうんだよ……」等々、提案が断られるときにはいくつかのパターンがあります。担当者も乗り気だった提案が、最後にこのような結果になると実にがっかりするものです。

そうならないためには、営業活動中に極力断わられる要素をつぶしておかなければなりません。営業マンのヒアリング力が重要であり、「BANT条件」といわれる「予算」「決裁権者」「ニーズ」「時期」の4つの項目をしっかり押さえることが大切です。

しかし、BANT条件の4項目を相手から聞き出すにはスキルも必要。見込み客の個性を踏まえて会話の流れを見ながらタイミングよく適切な質問をすることがポイントです。

本記事では、BANT条件の定義と重要性、BANT条件を聞き出すトーク例をご紹介します。

BANT条件とは

BANT条件とは、1960年代に米国のIBM社が開発した商品・サービスを購入してくれる可能性の高い見込み客を特定するためのフレームワーク(英語)です。「Budget(予算)」「Authority(権限)」「Need(ニーズ)」「Timeframe(導入時期)」の頭文字をとって「BANT(バント)条件」と呼ばれます。

BANTの4項目をきちんとヒアリングできると、営業マンは各見込み客に対して、どのタイミングでどのくらいの予算の提案をするべきか?継続して営業するべきかあるいは引くべきか?を判断できます。BANT条件は、もともとBtoBを想定してできていますがBtoC営業でも十分活用できます。

BANT条件

以下に、BANT条件の4項目の内容を解説します。

B(Budget:予算)

Budget(予算)とは、見込み客が自社の商品・サービスを購入できる予算を持っているか確認することです。

BtoBの場合、大企業、中堅企業、中小企業それぞれ予算の考え方は違います。同じような案件に50万円が妥当と考える企業、500万円と考える企業とさまざまです。おおむね予算の規模は企業規模に比例します。BtoCなら年収、資産、年齢によって出せる予算は違うでしょう。

予算をヒアリングせずに提案すると価格が障壁となり提案が通らなかったり、ダンピングにあう可能性が高くなります。高価格な商品・サービスを扱っている営業マンの場合、最初から予算を出せる見込み客にアプローチしないと受注率は大きく下がります。いかに信頼関係を作ってもお客様はない袖は振れないからです。

A(Authority:決裁権)

Authority(決裁権)の確認は「目の前の見込み客に決裁権はあるか?」「誰が購入の最終決定をするのか?」を把握することです。

決裁権をもっていない人が担当者であれば、どのような良い提案をしても  、長年通いつめてもなかなか成約までいたりません。提案内容がダメなのではなく、その人が社内で権限がないからです。担当者といっても実は単なる情報収集担当なのかもしれません。

そのため、アポイントをとる際は決済権者である可能性の高い経営者や部課長クラスなどにアプローチすることが基本です。一般にBtoBで決裁権を持っている人は以下のとおりです。

  • 担当者の上司(事業部の責任者)
  • 窓口の担当者
  • 経営者、役員

オーナー企業なら経営者の鶴の一声で発注が決まることがあります。しかし、企業によっては若手社員もそれなりの決裁権があるなど必ずしも一律ではなく、かつ一人が100%の決裁権を持っているとは限りません。BtoCの場合もご主人だけでなくご家族の意向が重要なことがあります。表向きの決裁権者と周囲の人の力関係も注視する必要があります。

N(Need:必要性)

ニーズ(必要性)とは、見込み客に自社商品・サービスのニーズがあるかを確認することです。見込み客はいろいろな課題を持っていますが、中には自社で解決できない課題もあります。この場合アドバイスはできても受注にはならないのでニーズとは言えません。ニーズとはあくまで、自社の商品・サービスの購入可能性がある、自社の商品・サービスで解決できる課題があることです。

なお、担当者が「ニーズがない」と言っていてもニーズに気付いていないだけの場合もあります。営業マンから客観的に見てニーズがある場合は「ニーズあり」です。

T(Timeframe:導入時期)

Timeframe(導入時期)とは、見込み客がいつ購入したいと考えているかです。「そろそろ」「将来的に」と表現する見込み客についても、ヒアリング過程で時期をできるだけつめていきます。

導入時期のパターン

  • 今すぐ~3ヶ月以内
  • 6ヶ月以内
  • 来年度に
  • 将来的に
  • 時期を考えていない

時期を確認できると、すぐ購入したい見込み客には至急提案し、来年以降に購入を予定している見込み客には情報提供しながら信頼関係を作るなど、営業計画が立てやすくなります。導入時期を決めていない見込み客には、ヒアリングしながら時期を打診・提案することが大切です。

BANT条件を聞くことがなぜ大切なのか

ここでは、BANT条件を聞く重要性について説明します。

お客様の検討度合いを把握することができる

営業マンが10人にアポイントをとっても、その中には「すぐ検討したい人」「情報収集を始めたばかりの人」「導入は決定しており相見積り用の見積金額だけほしい人」など、さまざまなお客様がいます。BANTをヒアリングをすると、各お客様がどのくらい検討が進んでいるか把握できます。

例えば、何も確認できていない段階ではまだお客様の検討度合いは「わからない」状態。以下のように2個確認できる段階ならやや見込みあり、3~4個確認できているなら、かなり課題感を持ち検討が進んでいるでしょう(英語)

  • 決裁者ではないが課題を把握している(Nのみ)
  • 決裁者だが課題を何も感じていない(Aのみ)
  • 決裁者で課題を把握しているが、予算・予定までは考えていない(A、Nの2個)
  • 決裁者でニーズあり。来年中にと考えているが予算はとれていない(A、N、Tの3個)
  • 決裁者で課題を把握、予算もとっており導入時期も決めている(B、A、N、Tの4個)

お客様の状況に合わせた提案をすることができる

BANT条件を知ることで、お客様の現在の状態に合わせてアプローチできます。

自分で何かを買うときを思い出してみればわかりますが、ちょっと興味をもった段階で営業マンや販売員に熱心に営業をかけられると困るものです。初期の段階では少し距離をおきながら、親切にあれこれ教えてくれる営業マンのほうが好ましいのでしょう。

一方、買うことをほぼ決めた段階では専門的な内容や実際の価格を確認したくなるのではないでしょうか?お客様は、検討ステージによって必要とする情報も営業マンにどのようにアプローチして欲しいかも異なります。

パーチェスファネル(購買行動モデル)に照らし合わせて考えるとわかりやすいでしょう。

  • N(ニーズ)だけしかわかっていない)→ 認知~興味・関心
  • N(ニーズ)とT(時期)、B(予算)など4つ以上わかっている → 比較・検討
パーチェスファネル

営業アプローチのステージ管理にも活用できる

BANTをヒアリングしお客様の検討度合いがわかると、営業プロセスの管理がしやすくなります。見込み客のステージと営業マンのアクションにズレがなくなるため、案件管理の精度を高められるでしょう。

  • BANT1~2個=ニーズ把握

定期的な情報提供。ウェビナーの案内、事例などを提供しながら他2項目をヒアリング。

  • BANT3~4個=意思確認~提案

他社との比較表、導入後の成果がわかる詳細な事例提供、デモやトライアルの案内。提案書用意に着手。

営業アプローチのステージ管理

BANT条件を聞けなかった際の問題とは

BANT条件を聞いても答えてもらえないケースがあります。また、担当者がそこまで具体的に考えていないこともあるでしょう。ただ、ニーズが顕在化していない場合、BANT条件の4つが明確に決まっていることは少ないので、いきなり4つ聞けなくても問題ありません。

A(決裁者)かどうかを確認し、N(ニーズ)を聞けたら、一緒にB(予算)とT(購入時期)を考えていきます(順番は前後してもOKです)。聞けなかった項目については都度ヒアリング内容を振り返り、次回聞けるように対策をたてましょう。

予算が聞けなかった場合

予算が聞けないとどのくらいの金額で提案したらよいかがわからなくなってしまいます。

相手が最終決定者ではない限り多くの場合、予算を確認してからではないと購入の検討は難しいので、どの程度の予算は確保できるのか把握する必要があります。

予算が聞けない場合「予算はどのくらいですか?」とストレートに聞いて聞けなかったケースがありがちです。少し工夫して他社事例を持ち出し「A社では〇〇円を使って一人あたりの単価が〇円になりました」「〇円のプランでB社は年間で〇〇円コストを削減しました」など水向けしてみましょう。

「費用対効果が良い!」と興味を持つか「すごいけどうちでは出せない金額だね……」となるかである程度の予算感はわかります。話がはずめば「うちだと出せてこのくらい」と大体の予算を教えてくれることがあります。そもそも予算をイメージしていない段階なら、営業マンから業界相場などを情報提供していきます。

決裁権が聞けなかった場合

決裁権が聞けない場合契約を結ぶことは難しくなります。その場合、ある程度は推測しながら営業しなければいけません。

前述のとおり、決裁者は一般に部門の部課長クラス(責任者)、目の前にいる担当者、経営者です。 大型案件になると専務などの役員、現場の管理職など複数人が関係することもあるでしょう。そのため、極力決裁者である確率が高い中間管理職以上にアプローチするように試みます。

経営者の影響力が強そうなら、こちらも社長や役員を同行させて経営者に会うよう試みます。現場に何かを導入するサービスの場合は、現場見学を申し出てその際に現場の方とリレーションを深め応援してもらえる間柄になることを目指します。

また、商材によって決裁者の層も違うので、自社商材の決裁者はどの層なのかを確認しましょう。人事系のサービスであれば人事部長クラスが予算管理をしていることが多いでしょう。会社全体に導入するシステムなら経営者の意向が重要になります。予算が小さければ若い担当者が決めるかもしれません。

なお、BANT条件は欧米生まれのものであり、ヒエラルキーと実際の権限が一致する組織を想定しています。ところが日本企業の場合役職と権限は必ずしも比例しません。比率としては少なくても若手社員でも決裁権を持っていたり、現場の影響力が強い社風であったりといろいろです。窓口の人への気配りも忘れずに決裁者の確認は行いましょう。

必要性が聞けなかった場合

N(ニーズ、必要性)は契約を獲得するにあたってもっとも重要な項目です。必要性を大きく感じていれば購買へのモチベーションも高くなり、感じていなければ成約は難しくなります。ニーズがなければ、いかに予算のある見込み客でも何も売ることはできません。

ただ、見込み客がニーズに気づいてなければ「必要ない」「いらない」という回答になります。本当に必要がない場合もありますが、単に気づいていないこともあるので、すぐにあきらめるのではなく、たまに自社の無料ウェビナーへ招待するなど見込み客の興味・関心を惹きつけてみましょう。

あるいは「もし〇〇をしなかったらどれだけ損するのか?」などを説明し視点を変えてもらったり、同じ課題を持つお客様の成功事例などを届けて、ニーズに気付いてもらえるよう試みます。

導入時期が聞けなかった場合

T(導入時期)を聞かなくては、お客様がどのタイミングで購入したいのかがわかりません。そこを無視して営業アプローチすると、迷惑営業にもなりかねなません。できるだけ希望のスケジュールを聞いてお客様に寄り添った営業活動を行うことが大切です。

企業の場合、毎年実施する仕事については年間で予算を組み立てます。予算を決める時期があるのでそこを確認するのが基本です。その時期を逃すと、来年は無理で再来年の見込みになってしまうでしょう。BtoCで住宅購入の場合、お子様の就園や就学までと考えているお客様が多くおられます。そこから逆算して確認してもよいでしょう。

商品・サービスに興味を持ったばかりのお客様は、情報収集だけ先行していることがあります。状況が変化したときにいきなり発注がきたりするので、情報を定期的に届けつつ時期は改めて探ります。タイミングを見て導入時期も含めた提案をしましょう。

BANT条件をヒアリングできるようになるポイント

ここでは、BANT条件をヒアリングできるようになるポイントを解説します。

トークスクリプトに組み込む

経験が浅い営業マンだとどうしてもお客様とのコミュニケーションに集中してしまい、ヒアリング項目を忘れてしまいがちです。そのため、事前にトークスクリプトの中にBANT条件を組み込むことがおすすめです。

商談でだけでなく、テレアポの段階から決裁者にアポをとれるように「ご責任者の方は~」という単語をスクリプトに入れます。商談用のスクリプトにも、さりげなく時期やニーズを確認できるようなトークを組み込んでおきましょう。

予算やお客様の社内での権限はデリケートなテーマでもあるので、ストレートに聞くより間接的な質問がよいケースもあります。もちろん、いかにも権限ありそうな人なら「Aさんがご責任者ですか?」と聞いても問題ありません。相手によって使い分けられるようにトークも何パターンか作ります。

管理ツールに項目を作成する

お客様と話した内容の記録を残す日報やシステムの項目にBANT条件を設定しておくと、記入時にBANT条件を聞けたか確認できます。最初は難しくても日々繰り返していくうちに意識できるようになるでしょう。

BANT条件は、単に営業マンの心理がハードルになって聞けていないこともあります。聞きなれてくると、提案にあたりBANTを聞くのは当然という心理になり、その心理がトークに自然さをもたらし、結果、相手も変に構えず教えてくれることはよくあります。

良好なコミュニケーションの中で聞く

注意しなければいけないのは、BANTを意識するばかりに質問ばかりしないことです。会っていきなり直接的な質問ばかりする営業マンは、お見合いの日に「年収は?」「いつ結婚しますか?来年ですか?そのうちですか?」「自分だけで決めますか?ご両親の許可いりますか?」と聞く人のようなものです。これでは会話のキャッチボールが成り立ちません。

見込み客は、営業マンの人となりがわからない段階で下手に情報を出すとしつこいセールスをされると危惧するものです。かえって口をつぐんでしまうでしょう。 

相手に対して誠実に向き合い対話しながらBANTを聞きましょう。営業の基本「傾聴」に徹し丁寧にヒアリングしていけば初回商談で向こうから教えてくれることもあります。良好なコミュニケーションも忘れないでください。

BANT条件の聞き方の例

BANT条件の聞き方の例を紹介します。状況によって、直接的に聞いたり間接的に聞いたりと使い分けてください。

予算のヒアリング例

  • 「今回、どのくらいの予算をイメージしておられますか?」
  • 「現在、この〇〇に年間どのくらいの予算をかけていますか?」
  • 「〇〇さん、可能かどうかは別としてどのくらいのROI(費用対効果)が理想ですか?」
  • 「当社の商品・サービスを活用しているお客様は大体年間〇〇円を使って成果がこのくらいです。これは御社から見ていかがでしょうか?」
  • 「来年度の予算を決めるのは8~9月くらいでしょうか?」

決裁権の有無のヒアリング例

  • 「このような案件のご責任者は〇〇さんでしょうか?」
  • 「このような内容はやはり社長様の決裁が必要でしょうか?」
  • 「この案件の最終決定は〇〇さんですか?」
  • 「この案件について〇〇さん以外の方(上司の方、社長様、etc)にプレゼンさせていただく必要性はありますでしょうか?」
  • 「現場の方々にも一度デモをしたほうがよろしいでしょうか?」
  • 「稟議を上げられると思いますが、他部門のご責任者の反応はどうだと思われますか?」

必要性の有無のヒアリング例

  • 「今〇〇でもっともお困りの課題は何でしょうか?」
  • 「今、〇〇のような課題はないでしょうか?」
  • 「この課題を解決すると御社にとってどのくらいのメリットがあるでしょうか?」
  • 「この問題を解決すると〇〇様にとってどのようなメリットがございますか?」
  • 「この業務で最も非効率さを感じるのはどんなことでしょうか」
  • 「この課題はすでに具体的な対策を進められている段階でしょうか?」

導入時期のヒアリング例

  • 「いつごろの導入をご予定しておられますか?」
  • 「いつごろまでに成果(結果)を出されるのが理想ですか?」
  • 「現在、各社を比較検討されているのは、来年の導入を予定してでしょうか?」
  • 「この課題はどのくらいお急ぎですか?」
  • 「どのようなステップを踏んでいかれるご予定ですか?」

(参照:HubspotNEW BREEDLucidchartSales Odyssey

まとめ

BANT条件は、各見込み客にニーズ・予算があるか? どの時期に購入を考えているか?そもそも営業マンが商談している担当者はキーマンか?を明確にするフレームワークです。初期の段階でBANT条件を把握できると、営業すべきお客様の優先順位が明確になり、時間とエネルギーを成約可能性の高い案件に集中させることができるでしょう。

ただし、BANT条件には聞きづらい項目もあります。聞き方も重要なので、自分の得意のトークを何回も音読して、自然に質問できるようになりましょう。

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