営業の現場に配属されて1~2年。お客様との商談にも緊張しなくなり成約率もそれなりに上がるようになったものの、いざ新人の営業マンに指導するとなった時に「どのように指導したら良いか」と困った経験はありませんでしょうか?意外と営業マンは自分の営業の成功体験を体系立てて頭で整理していないものです。
一度「商談」を成功させるまでのプロセスを理解して後輩の営業マンに教えられるようなると、その知識が自分の血肉になって営業マンとしてより営業力を向上させることができます。後輩にわかりやすく説明したり、質問をされたときに明確に答えたりするためには自分の知識を体系化させておく必要があるからです。
教育分野でもよく取り上げられる「ラーニング・ピラミッド」という図がありますが、「教えることによる学習」の効果は、講義形式の学習や自分が実践することよりも高いと言われています。後輩に商談を教えられるレベルになると、自分の商談の成約率も向上していくでしょう。
今回は、営業における商談の定義や商談を作り出す手法、商談のパイプライン、商談で効果的な営業のトーク例などを紹介します。

商談とは?
商談とは、お客様へ自社商品を購入するとどのようなメリットがあるのか、費用対効果は他社よりどのくらい優れているのか、アフターフォロー体制はどうなっているかなどを説明し、自社商品やサービスを営業し契約をまとめる場です。
営業マンは、お客様からの契約内容への質問や価格交渉などにも対応し、最終的にはお互いの合意に基づいて購入してもらいます。
商談の意味と流れ
簡単な商談の流れとしましては、「挨拶→自己紹介→ヒアリング→商品紹介→ディスカッション→次回につなぐ挨拶」になります。商品によっては初回訪問時に商談が進むこともありますが、お客様の会社規模や金額の大きな商談になると、初回の商談だけではニーズや課題をすべて聞き出して具体的な営業提案の内容を固めるまでは至らず、何回かのやりとりをした上で、再度商談の機会を得て契約締結となることもあります。
商談後のやりとりが重要であるとはいえ、初回の商談での印象が次回につながるため、例えその場で契約に至らなくても初めての商談は非常に重要です。相手が望んでいることや課題を汲みとろうという姿勢を見せて信頼されなければなりません。また、少なくとも次回会う価値がある営業マンだと思ってもらわなければいけません。
商談と打ち合わせの違い
「商談」と「打ち合わせ」は、お客様と話すという点では同じですが、会話の中身が異なります。
商談とは、新たな商いが発生する場であり、最終的にお客様に自社の商品・サービスを購入してもらうことを納得してもらう交渉のことを言います。一方、打ち合わせとは、すでに決まった商談の細かい諸条件の詰めや進捗管理などを行うことを言います。
商談には、打ち合わせとは異なる緊張感が発生します。相手が長年取引のあるお客様であっても価格や条件に対して譲歩を求められることもあります。取引条件を安易に妥協してしまうと、自社の利益を落としてしまうことに繋がってしまいます。そのため、商品・サービスの価値をお客様に説明し、適切な価格設定を伝え、話し合いをまとめる力が必要になります。
商談を作り出すプロセス
営業マンにとっては商談をまとめるスキルも重要ですが、商談を作り出すまでの営業のプロセスはそれ以上に重要かもしれません。商談の機会を得るためには、お客様のニーズを把握して提案の機会をもらう必要があります。そのためにはまずお客様から信頼され能力を認められる必要があります。
- これまでの営業マンとは異なる新しい情報を持っている
- 当社が抱えている問題に対して的確な分析力・洞察力がありそう
- 新しい視点から問題解決策を提案してくれそう
など、お客様の期待値を上げていくことが商談の機会の獲得につながります。とはいえ、そこまでたどり着くにはお客様の話を傾聴し、課題について話し合い、人間関係を構築していくなど複数のプロセスを経る必要があります。営業マンによって得意・不得意なプロセスもあります。
例えば、ヒアリングが苦手であったり、お客様のニーズの把握が不得意だったり、人間関係作りは上手いものの御用聞き営業のようになってしまうなどが挙げられます。
企業によって異なる商談創出プロセス
商談創出プロセスは企業によって異なります。商談創出プロセスとは、営業マンが商談を獲得するまでに行う営業活動のプロセスのことを言います。
マーケティング部門がない場合は、営業活動のすべてを営業マンが担当します。マーケティング部門が積極的に営業を支援している会社では、見込み客の発掘までをマーケティング部門が担当し、初回アプローチから商談まで営業マンが対応する場合もあります。
商談創出プロセスとは
1.お問い合わせ
企業にはWebサイトや広告、販売促進活動を通して商品に興味を持ったお客様からの問い合わせが流入してきます。お客様が自主的に調べて問い合わせている場合と、DMや展示会、広告などの販売促進施策に反応している場合がありますが、いずれも見込み客で存在する可能性が高いと言えます。
2.アプローチ
アプローチとは、さまざまな営業の手法を用いて見込み客に接近していくことです。アプローチの方法には一般的に2種類あります。「インバウンド営業」と「アウトバウンド営業」です。
- インバウンド
インバウンド営業とは、Web記事やメールマガジン、展示会などで商品に関心を持ってお問い合わせいただいたお客様に対して、営業マンがタイミングよく資料を提供したり、電話やメールでコンタクトをとったりしながら心理的距離を縮めていくアプローチの手法です。
- アウトバウンド
アウトバウンドとは、お客様の関心度合いに関係なく、営業マンが率先してお客様にコンタクトをとっていくアプローチ手法です。飛び込み、テレアポ、ポスティングなどが代表的です。
営業マン自身が新規開拓のアプローチを行う場合、自分の個性に合う手法をとると効果的です。
3. 見込み度合いの精査
営業マンが、アプローチしているお客様の商談化への見込み度合いを見極める段階です。展示会やWeb・電話問い合わせなどは、単なる情報収集目的の方も少なくありません。そのため営業アプローチ中で「理想的な購買顧客像と合っているのか」「このお客様にニーズがあるのか」を見極めます。
テレアポや飛び込みはある程度ターゲットを絞って営業を行っているかと思いますが、それでも相手が情報収集目的である場合はあります。会話から判断して見込みがない場合は営業マン自身で見切る必要があります。
ただし、お客様が営業マンの営業提案を表面的に断るために「予定がない」「ニーズがない」と言っているだけの場合もあるため、企業データなども参照しながら注意深く見極めましょう。
4. 商談
営業マンが訪問して(あるいはオンライン上で)、自社の商品やサービスで何ができるかを顧客のニーズを汲みとりながら営業提案をします。お客様の課題、予算や発注決定時期などをわかる範囲で聞き出し、適切な提案内容と提案時期を計画していきます。
大掛かりなプロジェクトなどは、一度の訪問だけではお客様の課題解決に最適な営業提案はできないことも多くあります。ヒアリングをした内容の中で、仮説を提示してお客様の意見と合わせて提案内容を再度練り直し何回か商談を重ねます。
ただし、お客様が営業マンの営業提案を表面的に断るために「予定がない」「ニーズがない」と言っているだけの場合もあるため、企業データなども参照しながら注意深く見極めましょう。
商談を成功させるには?
営業マンが商談を成功させるためには、商談のパイプラインを管理し業務を完遂することが大切です。パイプラインとは、もともとは石油・ガスなどを遠隔地に送る大きな管をさす言葉ですが、商談のパイプラインでは「契約に向けた商談の一連の流れ」を意味します。
商談のフローのパイプライン管理
一つの商談のパイプラインは概ね以下のような流れになります。 もちろん、実際の商談は生ものですからお客様の出方によって順序が前後することがあります。また、商品・サービスによっては初回で契約できる場合もあります。
【商談のパイプライン】
このように商談の流れを1つ1つ切り出していき、どのようなプロセスで構成されているのか(しているのか)を明確にしていくことにより、自分が商談の際に「何をお客さまに共有しているのか」や「伝えるべきだが不足していた点」などが可視化されていきます。
商談のパイプラインごとに行うことを標準化させる
各商談のパイプラインで行っていることを掘り下げることにより、ある程度行うべきことが明確になります。自分の行動管理の指標にもなりますし、実際に後輩の営業マンを指導するときにも役に立ちます。各パイプラインごとの項目例を紹介します。
挨拶時
- お客様が入室したらさっと立つ
- 姿勢正しく、にこやかな表情で挨拶しながら名刺交換をする
- アイスブレイク、訪問の目的を簡潔に話す(アイスブレイクは多忙そうな人にはしなくてもよい)
- 自社の紹介(自社の世界観・理念、事業内容、強みなど)をする
ヒアリング時
- 事前に準備した情報をもとに、現在のお客様の状況を確認する
- どのような目標、願望を抱えているのかについて質問する
- どのような課題、悩みを抱えているかについて質問する
- 予算を決める時期(発注計画時期)を確認する
顧客に課題を提示
- お客様の購買顧客層でよく聞く一般的な課題や悩みを、営業マンから提示してあげる
トーク例:「一般的によく聞くお悩みとしましては、◯◯といったお悩みをお持ちでして、◯◯様もこのようなお悩みは感じていらっしゃいますでしょうか?」
解決の糸口の提示
- 他社の成功事例や失敗事例を紹介し、お客様の課題解決のヒントや手がかりを提示する
商品紹介
- 自社商品・サービスを活用し課題が解決できる可能性があることを伝える
- 競合と比較した自社商品・サービスの強みを伝える
ディスカッション
- お客様からの質問に対して的確に答える
- お客様の課題、悩みを掘り下げる
- わからない質問に対しては後日返答すると伝える
次回のステップ
- お客様の課題解決に役立つ情報を次回提供したい旨を伝える
- 自社が解決できるステップを提示する
トーク例:「Step1では、営業活動の流れ振り返り、Step2では理想的な営業プロセスを可視化させます。それにより今よりもさらに効率的な営業活動を実現します。」 - 時間を割いていただいたお礼を伝え、丁寧にお辞儀をする
商談のパイプライン別ゴールの設定
商談を成功させるために、パイプライン別にゴールを設定すると効果的です。 特に実際の営業現場の会話では話題がそれたり世間話になったりすることがあるため、会話の流れを極力もとにもどしていく必要があります。聞くべきことを聞き、伝えるべきことは必ず伝えるように意識しましょう。
ただし、お客様が気分よく話しているときに無理にもどすのではなく、ふっと一息ついた頃合いにタイミングよく話を切り替えるのがコツです。そのためには、各パイプラインにおける目標を設定しておくことが大切です。商談が現在どのパイプラインにいるのか、そしてお互いがどこまで理解しているのかを判断する基準となります。
商談の失敗率を下げるには?
商談の機会を1件獲得するまでには、テレアポや飛び込み営業なら100件のお客様にアプローチしていることも珍しくありません。Webの記事やメールマガジン経由の問い合わせであっても、集客するまではかなりのコストがかかっています。商談の機会をつかんだら、可能な限り失敗は避け契約に結び付けたいものです。ここでは、営業マンが商談の成功率を下げないためには何を行うべきなのかを解説します。
事前準備とリサーチ
商談を成功させるためには初回訪問前の事前準備、特にお客様のリサーチは非常に大切です。徹底的に調べましょう。近年は、お客様の側も来訪する営業の企業情報を調べていることが一般的です。米国GoogleとCEBの研究では、見込み客は営業マンに会う前に購買プロセスの60%を終了していると報告されています。
多くのお客様は企業サイトやSNSなどから情報を収集して、商談前に予習しているのです。予備知識があるお客様は、Webに出ていない具体的な事例を確認するなど踏み込んだ段階から商談を進めたいと考えている可能性があります。そこに、営業マンが「海外に支店はどのくらいおありですか?」などとHPの会社概要に書かれているような簡単な質問をすると、勉強不足と呆れられてしまう可能性があります。
逆にお客様の最新情報を調べた上で「先日、ニュースでこのような情報を拝見しましたが、〇〇を目的としていらっしゃるのでしょうか?」など、相手に関心を持って勉強してきたとわかる質問をすると好印象を与えます。
商品知識を深める
お客様から見てプロフェッショナルと認識されるくらいに、担当商品や競合商品について熟知している必要があります。
そもそも営業マンの役割とは、商品やサービスの営業提案によってお客様の悩みや課題の解決に役に立つことです。お客様が知りたいのはその商品をどのように活用すると課題が解決できるのかということですが、その前提条件である商品知識があやふやでは解決策を伝えられません。
商談ロープレの重要性
商談の前にロープレをすることも大切です。ロープレ相手から率直な意見を聞くことで、本番ではより上手に説明することができるからです。もし、ロープレの相手がいなければ、1人ロープレでも問題ありません。
話そうと思っている内容を声に出して耳を通して聴いてみると、意外に矛盾点があったり説得力がなかったりすることに気づくことができます。
商談相手の個性を見極める
お客様にもいろいろなタイプの方がいます。ある人には好ましいと思われる態度が、ある人にはそうは映らない場合もあります。相手のタイプと自分のタイプを知り、適切な対応がとれると商談が成功する機会が増します。人物判定はその人の口ぐせなどからも可能です。以下のような心理学に基づく人のタイプと自分のタイプを判定する方法を知って営業に活かしましょう。
- コーチング4つのタイプ分け:コントローラー、プロモーター、サポーター、アナライザー4つのタイプ分類
- エゴグラム(交流分析):父親度、母親度、論理性、活発さ、協調性などの5つの要素の組み合わせによるタイプ分類
商談の場でのトーク
商談前にいかに見込み度を想定していても、100%正しいわけではありません。電話営業での印象と相対したときでは、全然違う対応をとるお客様も少なくないものです。お客様と対面したときは事前情報をもとにお客様のニーズを確認しながらも、新しい情報や要望、お客様自身が気づいていないような課題などを引き出していくことが大切です。
そのためには相手を受容する受け答えや、的確な質問をすることが大切です。以下に効果的な営業トークと言われている話法を記載します。
- オウム返し話法(相手の言葉を繰り返す)
相手の言葉をそのまま繰り返す、あるいは同じ意味合いの言葉を繰り返す話法。相手に共感している印象を与えるため会話がスムーズに進みます。
(例)
見込み客「あの企画成功したんだ」→ 営業マン「成功されたのですね」
見込み客「時間がなくてさ」→ 営業マン「お忙しいのですね」
- 適度な相槌とうなずき
相槌やうなずきは相手の話を聞いていますよというメッセージです。肯定的な相槌やうなずきがあるほど、話す側は安心して話を長く続ける傾向があります。
(例)
はい、ええ、なるほど
そうですね、そうなのですか
わかります、その通りです、おっしゃるとおりです - SPIN話法:
英国の行動心理学者ニール・ラッカム博士が35000件のセールス実地調査を行ったうえで提唱した大型商談を成約に導く質問法です。以下の4種類の質問を駆使します。
「状況質問(相手の状況をつかむ質問)」
「問題質問(何を問題と思っているかを確認する質問)」
「示唆質問(その問題を解決する又は放置するとどうなると思うかなど、相手の思考を促す質問)」
「解決質問(課題を解決するためにお客様自身は何を必要と感じているかを聞く質問)」
誠実であること
商談に有効な会話技術は、さまざまな理論や営業に関する書籍で紹介されています。しかし、お客様と向き合うときは、やはり誠実で謙虚で相手の役に立つことを第一に考えていることが大切です。
お客様は年間に多くの営業マンと接しています。気持ちの伴わない会話技術は見抜かれてしまう可能性があります。お客様の側から見れば、商談とは役に立ってくれるパートナーを探す場でもあることを忘れないようにしましょう。
まとめ
商談パイプラインの一つひとつの段階を意識していないと、何となく商談をこなしてしまいがちです。営業マンは商談パイプラインをしっかり理解すると自分の得意な段階、苦手な段階が理解できます。自分の課題を解決してより成長することもできますし、なぜ商談が成功したかを理解できるため成功の再現性を高めることができます。
継続的に売上げを伸ばすためにも、商談について理解して商談のパイプラインを自分で管理していきましょう。当サイトでは、見込み客発掘から新規案件獲得までの営業マンの営業スキル診断ができる「営業スキルチェックシート」を提供しております。是非ご活用ください 。