今回は、購買プロセスについて解説します。企業や人はどのように「購入」というアクションに至るのか、購入までの工程や購入というアクションを取り巻く環境を理解するために、購買プロセスを学びましょう。
このコンテンツの読者は、経営幹部や営業責任者を想定しております。しかし営業部に配属されたばかりの方や、部署替えや配置替えで営業業務に関わるようになった方、自分やチームの成績を上げたいと考えている方にも、ぜひ理解していただきたい内容です。
ここでは、営業業務を始めたばかりの方や法人営業について理解をしたい方でも飲み込めるよう、なるべく丁寧に解説します。

目次
購買プロセスとは
購買プロセスとは、噛み砕いて言うと、モノを認知してから購入までに至る過程のことです。特にBtoCの購買プロセスを説明するモデルとして有名なものには、AIDMA(アイドマ)、AISUS(アイサス)、SIPS(シップス)の 3つがあります。なぜ購買プロセスを解説するモデルがいくつもあるのでしょうか。
(参照:From AIDMA model to AISAS model)
AIDMAの法則が提唱されたのは1920年代、つまり日本の大正2年。東京オリンピック開催の2020年から100年前に提唱されたモデルで、モノが枯渇し選択肢も限られた時代に提唱されたモデルです。
この100年間に消費者の購買行動は大きく変わり、時代の変化に応じてAIDMA以外の購買行動モデルが提唱されてきました。
有名な購買行動モデル:AIDMA(アイドマ)
AIDMAはアメリカのサミュエル・ローランド・ホール氏により提唱されたモデルで、消費者の各段階を示す単語の頭文字から取られています。
消費者が製品の存在を知る “Attention”、製品に興味を持つ “Interest”、製品を欲しいと思う “Desire”、記憶する “Memory”、購入に至る “Action”。以上5つの段階があるとする購買モデルです。
電通が提唱した購買行動モデル1:AISUS(アイサス)
AISUSは日本の広告代理店である株式会社電通が2004年に提唱しました。インターネットが普及した現代の購買行動を知るためのモデルとされています。
消費者が製品の存在を知る “Attention”、製品に興味を持つ “Interest”、興味を持った製品の概要や詳細を調べる “Search”、購入に至る “Action”、製品の購入や購入製品のレビューを行う “Share”。以上5つの段階があるとする購買モデルです。電通は2015年に改めて、Dual AISAS Modelなどを提唱しています。
電通が提唱した購買行動モデル2:SIPS(シップス)
SIPSは2011年に株式会社電通が提唱した購買行動モデルで、インターネットが普及した現代に、AISUSよりも「さらに深く、ソーシャルメディアの影響を考慮している」というモデルです。
SNSなどで共感する “Sympathize”、自分に有益な情報か確認する “Identify”、まずはゆるく参加をする “Participate” (そこから一部がファンになる、ロイヤルカスタマーやエバンジェリストになり購買に至る)、つながりの中で共有と拡散をする “Share & Spread”。以上の段階があるとする購買モデルです。
BtoBの購買プロセスと、BtoCの購買プロセスにはどんな違いがあるのか?
法人対法人であるBtoBと、法人対個人であるBtoCには違いがあります。
個人が何かモノを購入するときの決裁権は、成人していれば本人次第です。もちろん、モノによっては購入できるかどうかは財布を握っているご家族や奥様次第ということもありますが、欲しいものを自分の財布から買うときに、成人した大人がわざわざ周囲から許可を得ることは殆どありません。
一方で、法人が何かモノを購入するときは一筋縄ではいきません。「法人としてA社にこれを売りたい」「チームでB社を成約するぞ」と考えるとき、売る側の立場の視点だけを持っていませんか。「もし自分が自社の製品を営業されたら?」と考えてみてください。
法人の購買プロセスには、担当者本人の意思だけでなく、現在の取引先や仕入先との関係性や、現在購入している製品の量や契約期間、担当者の上司や部署の決裁など、多くの利害関係が絡み合います。法人の購買プロセスは複雑です。ただし、BtoCの購買プロセスと同様、法人にもインターネットでの情報収集や、情報のシェアが関わることを理解しておきましょう。
購買プロセスをなぜ作成するのか
売るためには、消費者・クライアント側が購入に至るまでにどんな変化と工程があるのかを理解して、そのプロセスのそれぞれに、どのような接触や行動を起こすと効果があるのか仮説を持ち計画を立てます。そして、行動を起こし、相手の反応を記録、さらに行動を変えるなど工夫を凝らし、最終的には「購買」や「契約」「契約変更」という成果を出すことがゴールです。
ゴールのために相手の心理を理解して、購買プロセスをチーム全体で共有するために、経営幹部や営業責任者が購買プロセスや立ち位置、するべきことを理解しなければなりません。
購買プロセス作成の7つのステップ
1. 目標を設定する
「目標」の定義は、何を獲得するために購買プロセスを設計するのか、です。「シェア率を現在の△%から◯%にまで伸ばす」など具体的な数字を入れるとわかりやすく、各枝葉の担当者にも落とし込みやすいです。
2. 顧客の分析と、自社の強みを明確にする
自社が想定しているターゲット、つまり顧客像を明確にします。
例えば相手が一般消費者であればこのような分析をします。
- 男性は男性でも、M1、M2、M3のどの世代か
- 女性は女性でも、F1、F2、F3のどの世代か
- 年収いくら程度の個人か
- 世帯年収いくら程度の家庭か
- 子供はC層もしくはT層の、どちらだと想定しているのか
- DINKS世帯なのか
- 都市部に居住しているのか、都心部周辺〜郊外に居住しているのか
- どのような情報に触れ、どう情報を収集していているかどのような姿になることを目標としている人なのか
など、仕分け方は細かくできます。
相手が法人の場合は、
- 企業自体の分析
- 部署の方針や考え方の分析
- 担当者の分析
- 担当者の上司の分析、決裁権のある人の分析
- 顧客の顧客
- 顧客の競合他社
- なぜ顧客は自社との面談や営業を設定することを検討するのか、そこにある背景と目的
- 顧客が魅力的に感じている自社の強み
- 顧客が知らないかもしれない自社の強み
- 自社の既存取引企業
- 自社が今後開拓したい企業や業界
などを分析しましょう。
一般消費者や法人の顧客分析をするにあたり大切なのが、ターゲットとしている層のセグメント情報(人口統計情報など)だけではなく、心理的な要素である目標や課題感を考慮することです。
AIDMAモデルが提唱されていた時代とは異なり、現在の買い手は情報の検索を日常的に行い、その調べる内容は自身や自身の職務上の悩みや課題感を解決するための情報です。
それゆえ、セグメント情報だけでは心理的な要素を含めることで、買い手の問いに対して、より明確な回答を提示することが可能になります。
3. ターゲットの周辺にある競合他社と、他社の強み・弱みも洗い出す
自社とマーケットやターゲットを重ねている競合他社もリストアップして、競合他社は具体的にどの層にリーチしようとしているのか、競合他社の強みと弱みは何であるかも考えます。
競合他社になくて自社にあるもの、自社にはないが競合他社にあるものは、営業部全体が正しく理解しなければなりません。このような分析には、「SWOT分析」や「3C分析」などの有名なフレームワークが存在しますので、参考にしながら分析を進めると有効です。
4. スタートとゴールを決める
スタートは、見込み客層がインターネット上で検索で情報収集をするところから、ゴールは「契約」「契約変更」までのプロセスです。
また、ゴールを「いつまでに」達成させるのかも具体的に決めましょう。3ヶ月以内なのか、半年以内なのか。さらに、その期間中の営業日は何日あるのかを洗い出します。
期間と営業日を逆算して、残業をしない前提で逆算すると、使える時間の短さに驚くはずです。スピード感が全く変わります。
5. 全体工程を設計する
スタートからゴールまでの間にある、全体的な流れと工程を設計しましょう。ターゲットを明確にしておくと相手の行動のイメージがつき、具体的なアクションを導き出せます。
ターゲットはどのような購買行動を起こすのでしょうか。
相手が法人の場合、相手の企業内で、検討や決定に複数人が関わります。担当者・決裁者である部長に話を持ちかける権限のある「課長」・最終決裁権のある「部長」など、役職も異なります。
相手の役職が変わると、役職それぞれの目線と注視している箇所が異なります。部課長は主にコスト削減や効果が上がることを期待し、現場の担当者は使い勝手や効率性、維持に手間がかからないことなどを期待する傾向にあります。
そのため、まず接触できる現場の社員には「現場の業務がこれだけ変わり、楽になる」という点をアピールしながら、同時に「部課長に『これだけのコスト削減ができる、コストを削減できるがこれだけの効果が期待できる』とぜひお伝えください」と、役職が違う相手全員の心に刺さるプレゼンを行ったり、資料を準備します。プレゼンや資料は、役職者それぞれに刺さる魅力的なポイントを明記しつつ、あえて全てを事細かに書かないことで、担当者レベルから〜部課長への面談へ広げる機会に繋げましょう。
関係を構築しながら、現状と課題、現在契約中の製品と自社製品の比較などを進めます。さらにこれらをどのようなスケジュールで進めるのか、時間を意識しながら全体を設計します。
6. 実行手段を決定する
見込み客の行動が明確になり、工程を設計したら、実際の見込み客の行動の段階に応じたアクションを確定させます。
例えば、
- 検索してきた層にWeb広告、SNS広告を出すための検索ワードや予算を決める
- 資料ダウンロードをしてくれた層へのアクション(どのような経緯でダウンロードしたのか、どのような課題を感じているのかを電話でヒアリングするための電話番号の収集や電話のタイミングの設定や、タイミングを決めるためのABテストなど)
- インターネット上に評価やクチコミを書いてもらうための経路を検討する
できることは数多くにあります。行うことの効果を最大限にするため、10の案があったら3〜5つに絞り優先順位をつけ、フローチャートを作るなどの「行動が散らばってしまわないための事前準備」をします。
後述するKPIの項目でも述べますが、実行手段を手広く浅く手を広げて何も成果が出ないことこそが恐ろしい状態です。チームメンバーの行動を行動に集中させるためにこそ、案を並べる、優先順位を作る、どの段階になったらAとBのどちらに進むのか、それともCとDの策に映るのかなどのフローチャート作りは、責任者が入り込むべき仕事です。
7. KPIを設定する
実行を起こして、効果があったのかを測定するためには、目標となる指標が必要です。目標達成できる行動を起こすために、KPIを設定しましょう。
KPI設定の目的は、ゴールに対する行動が手広くなりすぎず、本質から逸れることなく、手段の決定方法にブレが起きないようにするためです。
KPIを設定するタイミングは期初もしくは目標設定の時点で、関わるべきは部署やチームの結果に責任を持つ決裁者です。もちろんメンバー全員が「自分ごと」として行動を行うことが必須ですが、KPI設定には部下やチームの評価やアクションに決裁権のある人がきちんと入り込んでください。
数字で管理できることを設定しましょう。「クライアント企業に紹介できそうな潜在転職希望者を100名リストアップしてアクションを起こす」、「転職希望者100名と会う」、「不動産や物件を購入しそうな500名をリストアップする」、「不動産や物件購入を●回以上行った200名と面談を設定する」など、チームの目標と個人の特性に応じて設定しましょう。
AをBの期間行う、CをDの期間行う、AとCの結果を比較するときにどの判断基準で結果を出すか決める、結果がEだった場合は新しくFとGの案を試すなどと、段階立てます。
期初や目標設定の時点で、決裁者がメンバー各自のKPI設定に承認を下すことはすなわち、「この行動を起こせば期末に部署全体が目標を達成することができる」と確信しているということです。この「決裁者による確信があるKPI」が「数字に基づいて」設定されることで、期中や行動の途中にチームメンバーがアクションに集中でき、方向の見えない指示や目的が明確ではない会議などを減らすこともできます。
よりよい購買プロセスを改善するため考えるべきポイント2つ
1. 顧客の顧客は法人か?個人か?
顧客の顧客が法人か、個人かも考慮しましょう。現代の購買プロセスは、昔のインターネットの時代がなかったものとは全く異なります。
顧客が個人を相手にしているときは、「顧客の顧客は個人である」と転換をして、顧客ニーズを取りこぼさないようにします。
個人が購買行動を起こすとき、M1やM2、F1やF2の世代はまず接触するポイントはインターネットです。消費者は、どの検索エンジンを使ってどう検索をして製品に出会うでしょうか。どのSNSで製品に出会うでしょうか。
顧客の顧客、顧客の周辺環境を理解することで、購買プロセスの理解も進みます。
2. KPI設定には決裁者がきちんと入り込む
作成してもそれは仮説でしかありません。より現実に沿った購買プロセスをチームで磨き上げます。
購買プロセスの改善は、特にKPIに基づいて確認していくことが大切です。しかし営業責任者が考慮するべきは「期末に目標達成しておけば、過程はどうでもいい」という考え方もあることです。週に5日50時間働いて目標達成することも、1日8時間・週に4日働いて目標を達成することも、どちらも期末に目標を達成するならば同じ「目標達成」です。
例えば、
- 1日100回の架電をし残業にも励んで目標を達成したAさん
- 昼過まで外回り、帰社後30回の架電、毎日定時退社し目標達成するBさん
この2人はどちらが素晴らしいでしょうか。必要なことは目標達成です。ゴールは目標の達成です。しかし自立している社員は「一見働いていない」ように言えても結果を出せますが、自立していない社員がワークライフバランスなどの言葉を盾に本当に全く働かないことも困りますし、周囲に悪い影響が出ることもあります。しかし自立していない社員にだけ合わせたチームの方針は、自立している社員には息苦しいです。
チーム全体の士気を保ち、チームと個人のKPI進捗を確認しながら指定した期日で目標が達成するための試行錯誤を続けましょう。
購買プロセスの改善には、責任者が顧客の動向とチームの動向を見守ること、数字の変化に合わせながら行動も変えるのか変えないのか判断していくことが必須です。
まとめ
BtoBでもBtoCでも、購買プロセスを作って「買ってもらう」「契約してもらう」「他社から弊社に鞍替えしてもらう」ことをゴールにして、ゴールまでの道のりを明確にしましょう。
作戦を立てること、購買プロセスを理解することはゴールではありません。相手の購買プロセスを理解して戦略と具体的なアクション案を作り、行動を起こして、ゴールで目標達成をすることがゴールです。
営業責任者は現場が具体的に動ける策を考えて落とし込み、営業チームの社員全員が責任者と同じ目線で目標達成に挑めるよう、サポートしましょう。
「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」では、営業プロセスから営業ワークフローへ落とし込むための方法について解説しています。現場への具体的な打ち手としての落とし込みを行いたい際に、ぜひ参考にしてください。