購買プロセスを作る前に知っておくべき7つの理論

購買 プロセス

営業活動やマーケティング活動を戦略的に行うために活用できるデータは多くありますが、その中の一つとして「購買プロセス」があります。

企業は、自社の商品・サービスを訴求したいターゲットを明確にしたのち、ターゲットが認知から購買までの間で取りうる行動を知ることが大切です。ターゲットの行動に合わせた営業活動やマーケティング活動を行うことができれば、お客様が必要とするタイミングに必要な情報を発信することができるからです。

本記事では、購買プロセスの概要や購買プロセスを作る上で参考になる7つの理論を紹介します。自社の購買プロセス作成の参考にしてください。

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購買プロセスとは

購買プロセスとは、企業の購買担当者や一般消費者が、商品・サービスを認知してから購入するまでの心理的変化を段階に分けたものをいいます。

購買プロセスを細かく見ていくと、デジタル技術の普及によりお客様の購買活動に変化が生じています。また、提案する商品・サービスの性質、ターゲットが一般消費者なのか企業なのかによっても、お客様の感情や行動の動き方は異なります。

マーケターや営業担当者は最も核となる顧客層を想定し、彼らが購買に至るまでにどのような経緯を経て購買に至っているのかを想定することが、購買プロセスを考える上で大切です。なお、BtoBの購買プロセスは、BtoCの購買プロセスと比較するとやや複雑です。というのも、BtoBの場合、最終的な購買意思決定をするまでの間に複数の人が関わる可能性が高いためです。

従って、BtoBの購買プロセスを理解するには、関係者まで踏まえた心理状況の推測が必要になります。主な関係者は具体的に以下の通りです。

担当者:
営業活動における窓口になるスタッフです。顧客側での情報収集、業者選定、社内での立案、導入時の窓口などほぼすべての購買プロセスに関わる重要な立場です。

意思決定者・決裁者:
購入するかの最終判断をおこなう立場の人です。基本的には、社長や活用する部門長のことが多いですが、商品・サービスが少額であったり、顧客が中小規模の企業であったりする場合には、担当者=意思決定者であることも珍しくありません。

逆に、商品価格が高額な場合や巨大企業においては、担当者と意思決定者の間に何度か中間判断を下す立場のスタッフがいる場合もあります。

使用者:
導入しようとする商品やサービスを実際に現場で使用するスタッフです。商品の導入に関する直接的な権限は持っていない場合でも、導入の判断に使用者の意見が大きく影響する可能性があります。

購買プロセスを知ることは戦略的な営業プロモーションを行う上で、非常に重要なことだと認識されています。

なぜ購買プロセスが大切なのか

このようにお客様の購買プロセスを把握することや関係者を巻き込むことは、営業活動を行う上で重要だと言えます。これらを把握していないと案件が途中で止まってしまったり、キーマンに繋がらず、なかなか契約に結びつかないということが生じてしまいます。

また、購買プロセスを把握しているとお客様の心理やタイミングに合った販売プロモーションを仕掛けることが可能になります。逆に、購買プロセスを知らずに(あるいは知っていても活用できずに)マーケティング活動や営業活動を行うと、アプローチ手法やタイミングのズレによって失注や売上げの伸び悩みを招いてしまうことになります。

購買プロセスに沿った適切なアプローチ手法をしないことによる、販売機会損失の具体例を紹介します。

BtoB商材において、株式会社ITコミュニケーションズの調査によると「検討段階においてはスマホでウェブサイト閲覧をして情報収集をおこなう」といった結果が発表されています。このことから、法人向けにサービスを展開している企業においても、サービス認知のためにはスマホ用のサイトを活用すべきであることがわかります。

それにも関わらず、スマホ用サイトの対策を施さない状況を続けてしまうと、50%の見込み顧客との接触について機会損失をしてしまう可能性が高いということになります。実際に購買プロセスを検討する際には、この後スマホで情報を検索したユーザーがどのような行動をとるのかを推測し、行動にマッチしたプロモーション活動を立案していくことになります。

以上のように、それぞれの事例で必ず購買プロセスの把握と活用が重要です。

また、それぞれの購入プロセスの状態や特徴を表したものを「ファネル」といいます。戦略的に営業プロモーションを行うためには、購買プロセスと並んで重要な考え方なので、合わせてご覧ください。

購買プロセスを作成する上で参考になる理論の紹介

購買プロセスを作成する際には、まず理論に基づいて作成するとスムーズです。ただし、注意したいのは上述の通り購買プロセスにはさまざまな種類があり、市場の環境や商品・サービスによって異なるということです。

あくまで、自社に合った購買プロセスを作成するにあたっての参考として活用しましょう。ここでは、代表的な購買プロセスを7点紹介します。

購買プロセスに関する理論① AIDMA

AIDMAは、1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホール氏によって提唱された古典的なマーケティング理論です。お客様が購買に至るまでの心理状態の変化について示したものです。商品・サービスを購入する際に、顧客が以下のような段階を踏むという考え方です。それぞれの段階に効果的な対策と併せて紹介します。

AIDMA
  • Attention(認知):
    この段階では、お客様は企業や商品・サービスのことを知りません。そのため、まずは存在を知ってもらえるような目をひく施策が必要になります。例えば、テレビCMやDM、広告など認知されるための施策が有効です。
  • Interest(関心):
    お客様は企業や商品・サービスの存在は知っているが、無関心である段階です。そのような顧客層には関心を持ってもらわなくてはいけません。広告やパンフレットの送付、口コミなど顧客の興味を惹きつけるため施策が必要になります。
  • Disire(欲求):
    興味・関心はあるけれども、商品・サービスの必要性までを感じていない顧客層です。よくある課題や商品・サービスの価値を訴求したパンフレットやセールスレターなど顧客の欲求(ニーズ)を高めるための施策を行いましょう。
  • Memory(記憶):
    商品・サービスが解決できるような課題感やニーズはあるものの、その会社、商品・サービスにすると決め切れていない状態です。それでなくてはいけないという思いにさせるための施策が重要です。例えば、店頭のポップや口コミなどで同期を高めるための打ち出しをすることが有効です。
  • Action(行動):
    実際に購買の行動を起こす段階です。リアルの店舗やネット通販での販売など、お客様が購入しやすい販売経路を用意することで、販売機会を最大化させることができます。

AIDMA理論は古くからあることからも、技術や市場環境が変わってきた現代では、説明しきれないできない顧客行動も登場してきています。それでも、AIDMA理論は今でも購買プロセスを考える際の基本になっている考え方です。

購買プロセスに関する理論② AISAS

顧客の購入プロセスは時代の推移とともに変化していますが、そのプロセスを大きく変化させた要因の一つがインターネットの普及です。インターネットが普及を踏まえて株式会社電通が提唱した購買プロセスの理論がAISASです。

AISASとは、「Attenthion(認知)」「Interest(興味)」「Search(検索)」「Action(行動)」「Share(情報共有)」の流れをたどる購買プロセスのことを指します。AIDMAと近い考え方ですが、「Search(検索)」と「Share(情報共有)」という新しい概念が組み込まれています。

AISAS

これは、インターネットの普及により、お客様は興味を持ったらすぐに検索をすることができるようになったことや、商品・サービスを購入した後に「活用してみてどうだったのか」といった感想や口コミなどのSNS上にあげ、知り合いに情報を共有することが容易にできるようになった背景があります。

AIDMAでは消費者は売り手からの情報に対して受動的な立場でしたが、AISASモデルでは自ら情報を探し、情報を発信するという立場を取ります。このような顧客行動に合わせるためには、顧客が情報を求めてきた時に分かりやすく情報を提供すること、良い情報を発信してもらうための施策を整えることが重要です。

購買プロセスに関する理論③ AISCEAS

インターネットを利用した消費者の購買プロセスAISASを発展させてさらに細分化したのがAISCEASです。AISCEASは2005年頃に有限会社アンヴィコミュニケーションズの望野氏が提唱しました。

AISCEASがAISASと大きく異なるところは、Searchの後にComparison(比較)とExamination(検討)が含まれることです。つまり、お客様は検索を通して発見した情報(企業や商品・サービス)を比較し、どれが自身に合っているのかを検討するという過程を組み込んでいます。

AISCEAS

AISCEASは、消費者が個人の場合でも法人の場合でも、同様に納得できる考え方です。特に、高額商材を導入する場合などは、失敗しないように購買に慎重になります。比較や検討に時間をかける傾向にある、法人向けのサービスや商品に合った考え方といえます。

購買プロセスに関する理論④ FMOT

FMOT理論(First Moment of Truth)は、「顧客は商品を知って3~7秒の間に購入意思を決定する」というプロセスです。2004年に生活用品メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が提唱しました。

FMOT理論に基づいたプロモーションでは、顧客の意思決定の瞬間に最大のインパクトを与えることが重要なポイントになります。具体的には以下の対策が効果的な手法になります。

  • パッケージをきれいにしたり、印象強いものにしたりする
  • 動画のデモンストレーションやカタログなど顧客の目を惹きつけやすいツールを活用する
  • 営業マンや販売員のトークを磨く

P&Gでは、テレビCMの予算を削減してまでFMOTに沿って、店頭でのプロモーション活動を重視し売上げの向上に成功しています。

購買プロセスに関する理論⑤ SMOT

SMOT理論(Second Moment of Truth)とは、商品・サービスを購入して実際に使用した顧客が、商品の価値やサービスに満足を感じてリピーターになるか否かの判断をするというプロセスです。

顧客に満足感を与えられなければリピーターになってもらえないため、継続的な売上げの獲得が困難になります。顧客満足のアップのためには以下の点が重要です。

《商品・サービスの満足度に関わるポイント》

  • 商品・サービスの品質や使い勝手
  • 丁寧なアフターフォロー

《企業に対する満足度に関わるポイント》

  • 役に立つ情報の継続的な提供
  • クーポンやキャンペーン、展示会などの案内

また、企業や一般消費者に関わらず、商品やサービスに対する満足度はインターネットを通じて「口コミ」としてインターネット上に公開される可能性も高いので、SMOTの段階における施策の重要性はますます高まっています。

購買プロセスに関する理論⑥ ZMOT

ZMOT理論(Zero Moment of Truth)は、「顧客は商品を実際に手に取る前(Zero Moment)に、インターネットなどで情報収集をして購入意思を決定している」という考え方で、FMOT理論を土台として2011年にGoogleによって提唱されました

ZMOT理論の考え方では、顧客は実際に店頭や商談の場で商品・サービスを見る前にインターネットでさまざまな情報収集をしています。そして、商品が高額になればなるほど顧客は慎重になり情報収集に費やされる時間は増えます。

BtoB企業がZMOTの理論を活用したプロモーション活動の具体例は以下の通りです。

  • SEO対策やインターネット広告など(顧客とのインターネットでの接触機会を増やす)
  • コンテンツマーケティングやウェブサイト上の情報の充実化(インターネット上で提供する情報の質を高める)
  • SNSでのコミュニケーション(SNSユーザーとの接触機会を増やす、インターネット上で見込み顧客とのコミュニケーションを取る)
  • 口コミ投稿者に対する特典付与(AmazonなどのECサイトやポータルサイト内で口コミを積極的に書いてもらう)

ZMOTは、Web担当者だけが意識することではありません。例えば、マーケティング担当者が反響を獲得するために行う施策であったり、インサイドセールスがメールやデジタルツールを活用して非対面型のアプローチをする際など意識することで、お客様にあったアプローチをすることができます。

購買プロセスに関する理論⑦ DECAX

DECAXは、従来のインターネットを踏まえた購買プロセスモデルにコンテンツマーケティングの要素を含めたものです。DECAXにおいて、顧客の購買プロセスとその対策は以下のようになります。

DECAX
  • Discovery(発見):
    消費者がコンテンツをきっかけとして商品・サービスを発見する状態。消費者の悩み解決やニーズを満たすためのコンテンツを提供する施策をおこなう。
  • Engage(関係):
    消費者がコンテンツを繰り返し閲覧することにより、商品・サービスへの信頼が高まる状態。繰り返しコンテンツを見てもらうため定期的・継続的かつ高品質なコンテンツ提供をおこなう。
  • Check(確認):
    商品について、より正確な情報を確認しようとする行動のこと。正確かつ網羅性のある情報を提供する。
  • Action(行動):
    インターネット経由にてお客様が商品・サービスを購入する。購入までの経路や購入に際して必要なポイントを分かりやすく説明することが重要。
  • Experience(経験と共有):
    顧客が口コミをシェアする。情報をシェアしやすい仕組みを構築する。

営業マンとしてここで重要なポイントは、顧客が行動を起こす際に適切なアクションを取ることです。例えば、内勤営業によって顧客からの問い合わせに対して的確な返答をして、確実にクロージングに結びつけるなどの対策が取れます。

購買プロセスを自社に落とし込むためには

購買プロセスを活用するためには、理論を知るだけでは不十分です。どの理論が自社のマーケティングや営業活動において活用できるかを確認して運用することにより、初めて自社にあった購買プロセスを作成することができます。

ここでは、購買プロセスを落とし込むために効果的な手法と注意点について紹介します。

カスタマージャーニーマップを作成する

購買プロセスを自社の営業活動やマーケティング活動に落とし込むためには、カスタマージャーニーまで落とし込みましょう。カスタマージャーニーとは、購買プロセスに近いものですが、お客様の属性や購買意欲の段階別に、お客様がどのような行動をとるのかを図表化したものです。

お客様の細かい行動にまで落とし込むことによって、営業マンが何を行ったら良いのかを考えることができるようになります。

ワークフローを使って営業活動の棚卸をする

カスタマージャーニーを作成した後に、自社の営業活動で行うことの確認をすることも重要です。その際に効果的な手段として営業ワークフローがあります。

営業ワークフローを活用することで、お客様と初めて接する時から受注までの営業活動を効率化できます。また、営業活動の全体が見える化されるため、カスタマージャーニーマップと照らし合わすことで、購買プロセスに対してアプローチが不足している箇所や非効率な箇所が明確になります。

購買プロセスを導入する際の注意点

購買プロセスを導入する際に注意すべきポイントは以下の通りです。

  • 購買プロセスは企業ごとに異なるので、理論を活用するためには必ず自社の営業フローや商品・サービスなどと照らし合わせる必要があります。
  • 顧客の購買プロセスは変化します。特に、時代の流れが速い近年は、今後数年で短い期間で大きく購買行動が変化する可能性があるので、購買プロセスを活用したアプローチが上手くいっている場合でも、定期的な見直しが必要です。

まとめ

企業や一般消費者を問わず、インターネットが商品・サービスを購入する際の大きなカギになっていることは実生活でも体感されていることと思います。マーケティングにおける購買行動モデルにおいても、インターネットを強く意識した理論が登場しています。

従来からみられるAIDMAを土台としたAISASやGoogleが提唱するZMOTなどは、すでに多くの企業においてマーケティングの現場で用いられています。

どのような理論を参考にするにせよ、重要なポイントは、いかに自社の営業活動やマーケティング活動に理論を落とし込めるかということです。

営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」では効果的な営業ワークフローの作成手順を紹介しています。購買プロセスから実際の営業活動の打ち手に落とし込む際の参考にご覧ください。

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戸栗 頌平(とぐり しょうへい)

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在、東京と海外を行き来しながら場所にとらわれない働き方を通じ、日本企業のマーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。

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