営業マネージャーが意識するべき離職率を下げるポイントとは

営業 離職

営業マネージャーとして部下の成長を考えてマネジメントしてきたある日、部下から「辞めます」と言われるとがっかりするものです。チームの戦力ダウンにつながることももちろんですが、一抹のさみしさを覚えたり、自分のマネジメント力、指導能力のなさを痛感したりなど、まじめな管理職の方ほど色々な思いを抱かれるでしょう。

もっとも昨今は、20代の転職が昔に比べて2~3倍に増えているので、離職の原因は上司のせいばかりとは言えません。景気にかかわらず20代は売り手市場であることや、今の20代がキャリア教育を受けてきた世代であり転職もふくめたキャリアアップに積極的なことも影響しているでしょう。

とは言え営業マネージャーとしては、「だからしょうがない」と納得するわけにもいきません。どうしてもさけられない離職は別として、自社で活躍してもらえる営業マンの離職は極力低くする必要があります。

本記事では、営業マネージャーが意識するべき離職率を下げるポイントを紹介します。

営業マンの離職率の現状

営業職(特に新規開拓営業)は、ゼロから売上げを立てなければならない仕事です。日々営業アプローチをしても断られることが多く、心身共にプレッシャーがかかるため、昔から大量採用、大量辞職の営業会社は珍しくありませんでした。

しかも今は転職が当たり前の時代。新入社員になると同時に転職サイトに登録する人も多く、仕事に不満がなくてもよい転職先があれば、キャリアアップのために離職する営業マンが多くなっています。

2019年にエン・ジャパン株式会社が、人事向けサイト『人事のミカタ』利用企業に行った調査では、「人材が不足している部門がある」と回答した企業で、不足している職種のトップは「営業職(営業、MR、人材コーディネーター他)」です。

理由の1位が「退職による欠員」(57%)、2位が「中途採用で人員確保ができなかった」(51%)となっています。半数以上の企業が営業マンに離職されて困っていることがうかがえます。

人材が不足している部門調査

(参照:エン・ジャパン株式会社

また、2021年に日本労働調査組合が行った「営業職の退職動機に関する調査」では、退職を検討したことがある営業職はなんと80.8%、現在転職もしくは独立に向けた活動をしている人は58.9%にも上ります。ほとんどの営業マンが辞めようと思ったことがあるようです。

退職を検討したことがある営業調査

営業マンの離職率はなぜ高い傾向があるのか

なぜこんなに多くの営業が離職を意識しているのでしょうか?

昔から人が会社を辞める理由は「人間関係」「仕事とのミスマッチ」「給与待遇」の3つが原因と言われます。順番的にもこの並びが多かったのですが、昨今は順番に少し変化が見られます。

「きついが稼げる営業」 → 「きつい割にあまり稼げない営業」に変化

前述の日本労働調査組合の調査では、営業が辞めたくなった理由の第1位は「給料が安い」、第2位が「長時間労働」です。「成果が上がらない」や「上司や会社のプレッシャー」よりも給与が上位に浮上しています。

実は、これは近年の若い世代の傾向でもあります(国の調査はじめ各種調査で同様の給与重視の傾向が出ています)。

営業を辞めたい理由調査

(参照:PRTIMES|日本労働調査組合調査

同調査では、営業職をしていて辛かったことの理由は、第1位が「ノルマ」で36.3%。第2位が「お客様の理不尽さ」、「クレーム対応」が8.8%の結果となっています。

営業をしていた辛かったこと調査

(参照:PRTIMES|日本労働調査組合調査

なお、営業職でよかったことの第1位は「相手に喜んでもらえる」、第2位「いろいろな人と仕事が出来る」となっています。

仕事に喜びも辛さも感じているのですが、それが転職理由に直結するよりも、「給与の低さ」「長時間労働」が上位にきていることが最近の特徴です。

特に営業マンがわがままなわけでなく、現実にビジネスマンの給与が昔より低くなったことも影響しているでしょう。ただでさえ、仕事がきつい上に、昔より稼げなくなっているため相対的に営業職の魅力が薄れてきていると推測します。

女性営業の離職理由

今は女性営業職も増えているので、女性に特化した調査も見てみましょう。2020年に株式会社キャリアデザインセンターが「女の転職type」会員に行った調査では、転職を考えている営業職女性の53.4%が「職種にはこだわらない」「違う職種に転職したい」と回答。理由は以下の通りです。

転職を考えている営業職女性の調査

(出典:PRTIMES|株式会社キャリアデザインセンター調査

女性の場合は結婚、出産というライフイベントを考慮してキャリアプランを考えることが多いためか、「給与」よりも「プライベートと無理なく両立できる職場」であるかどうかがポイントのようです。

営業マンの離職によりおこる組織運営上の課題

ここでは、営業マンが離職してしまうことにより出てくるさまざまな課題をまとめます。

営業ノウハウが蓄積されない

営業マンの流動性が高いと、営業のノウハウが組織に蓄積されにくくなります。

入社して、ようやく成果を出せてきたところで退職してしまえば、学んだ知識・ノウハウは社内にはほぼ残らず、次の会社で活かされるだけです。

マネージャーや先輩社員も新しい営業マンをまたゼロから教育しなければならず、本来使わなくてもよかった時間を使うことになります。

営業のように人間性を介して相手にアピールする仕事は、営業マンのタイプごとに独特のノウハウがあります。営業ノウハウは、現場で実践して創意工夫しながら達成経験を得ることで血肉になるからです。

あまりに離職の多い会社では、営業ノウハウが継承もされず発展もしないため、組織全体営業力は強くなりにくいでしょう。

採用のコストがかかる

営業マンを1名採用するのにどのくらいのコストがかかっているかご存知でしょうか?「マイナビ 中途採⽤状況調査2020年版(2020年1月調査)」によると、営業職の採用1人あたりの求人広告費は53.9万円です(参照:マイナビ 中途採⽤状況調査2020年版

営業マンが離職してしまうと多くの場合、新しく営業マンを採用しなくてはいけないのですが、紹介で採用できたり、HPから応募してくれるケースは多くはないので、大抵の場合高い求人広告費、人材紹介フィーが発生します。

それだけでなく、人事部が応募書類を選考をして一次面接をしてふるいにかけて営業マネージャーが面接する時間コストもかかります。人材にやめられる=高額なコストがかかることに留意しましょう。

顧客への引き継ぎ業務で追われてしまう

営業は、お客様とのつながりが重要な職種です。お客様としても営業を気軽な相談相手、頼りになるパートナーと思っていることも多いはずです。

そのため営業マンが辞めてしまった場合、信頼関係を維持するために速やかに新しい担当をつけて業務を進めるのですが、適任の担当者を決めたり、お客様に連絡して挨拶するなど引継ぎを行わなければならず、結構な時間がかかります。

離職は急に決まることも多く、顧客の引継ぎがしっかりできなかったり、見込み客情報を伝えないまま去ってしまい、会社の資産である顧客情報が失われるケースもあります。

今いる営業マンの予算へ負担が増す

一般に、営業マンが退職しても、営業部の売り上げ目標が低くなることはありません。つまり、退職した営業マンの分の予算を、今いる営業マンで達成しなければならなくなります。

営業マンは、初年度に提示された目標・顧客数にもとづき営業計画を練っているので、ここに追加の目標が加わると数字の負担が増えるだけでなく、新規顧客開拓にさく時間が減るなどの影響もあります。年度の目標達成が見えていたところに新たな目標が追加されて、引継ぎした顧客はニーズがないケースだと目標達成が難しくなり、営業マンのモチベーション低下につながることもあります。

このように営業マン一人が辞めるだけでも、さまざまなマイナスの影響があります。離職する人数が多い場合、引継ぎが雑になることによる顧客情報の損失、売上げへのマイナスの影響、新たな人材を採用するコスト、教育にかける時間コストなどは膨大になるでしょう。

営業マンの定着を促進させる7つの方法

それでは、営業マンの定着率を上げるにはどうすればよいでしょうか?営業マネージャーの権限内でできる対策を紹介します。

営業マンのインセンティブの検討

前述のように、給与に不満を持って離職する営業マンが増えています。実際、営業マンの給与のボリュームゾーンは300~400万円。2010年のリクナビNEXTの調査では、28歳の営業マンでも400万円以下が5割以上という状況です。

対策として、営業マネージャーには基本給を変える権限はありませんが、インセンティブの導入を会社に上申できるケースはあると思います。最近は副業ブームですが副業する理由の多くは生活費の不足を補うためです。

目の前の営業に集中して成果を上げて、インセンティブである程度頑張った分が返ってくるのであれば、わざわざ体力を消耗してアルバイト的な副業をする必要はなくなります。また、上司が自分たちの給与を増やそうと動いてくれることは、部下のモチベーションにプラスに働くでしょう。

インセンティブについては賛否両論ありますが、最強の営業会社と呼ばれる企業で給与が低い会社はどこもありません。営業マンがインセンティブによってモチベーションが上がって売上げがアップすれば企業にとってもプラスです。

長時間労働を見直す

前述の日本労働組合の調査のまとめでは、「適正なノルマ設定」「カスタマーサポート・カスタマーサクセスのような分業制度」の提案がされています。近年の営業職は、昔より仕事の幅がかなり広がっているため、あてはまる企業も多いでしょう。

また、長時間労働を減らすためには「無駄な事務タスク」「多すぎる社内会議」の数を減らすことがポイントです。

最近はテレワークが普及してコミュニケーションの希薄化を危惧するあまり、過剰なチャットでのやりとり、オンラインミーティングを実施する例もあります。一定程度は必要ですが、ほどよいバランスを意識しましょう。

週に何回がベストかに正解はなく、新人が多いチーム、ベテランばかりのチームそれぞれで最適な回数は違うはずなので、それこそ1on1などで営業マンに「週に何回のミーティングが適切か?」「減らすべき無駄なタスクは何だと思うか?」と質問をぶつけて、全員の意見を踏まえながら、上長が判断していくことが大切です。

営業マンにキャリアアップの流れを伝える

将来的なキャリアに不安を持つ営業マンは少なくありません。特にインサイドセールスは、ずっとお客様に営業アプローチをして、多くの場合は断られ、人間関係を醸成してアポイントをとれた段階でフィールドセールスに引き継ぐので、成果を上げた実感が持ちにくい仕事です。

「仕事も好きで、人間関係はよいけどこのままこの仕事をしてスキルが身につくのか……」という焦燥感を持つインサイドセールスも少なくないでしょう。インサイドセールスはまだ日本でも新しい職種なため、キャリアのモデルケースがあまりありません。会社側でどのようにキャリア形成ができるかを検討して明確に提示することがポイントです。

フィールドセールス、企画・マーケティングなどに移動するチャンスがあるのならしっかり打ち出しましょう。

インサイドセールスの社内キャリアパス例:

  • インサイドセールス→フィールドセールス
  • インサイドセールス→企画・マーケティング
  • インサイドセールス→カスタマーサクセス
  • インサイドセールス→リーダー→マネージャー

もちろん、この逆もありです。インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、マーケティングは隣接している業務なので、それまでの経験を活かして活躍できる可能性は高いでしょう。

理想的なのは、通常の人事異動とは別に「社内公募制度」を用意することです。社内でチャレンジしたい仕事につけるチャンスが多ければ多いほど、転職希望者を減らせるでしょう。よくある人間関係の問題も人事異動で解決するケースは多いので一石二鳥です。

営業マンの声を聞く

営業現場に限りませんが、マネジメント業務はトップダウンとボトムアップのバランスが大事です。営業マネージャーがリーダーシップを発揮して仕事を進め、指示していくことは大切ですが、現場の営業マンの声をないがしろにすると不満が増えて上手く機能しなくなるのは、本当によくあることです。

「上には何を言ってもムダ」という諦念が現場にただようと営業部門全体の雰囲気にマイナスの影響を与えます。面談や1on1などを行い各営業マンの声を聞くように努めることが大切です。

なお、1on1は無計画に面談しても雑談で終わったり、上司が一方的に話すだけになりがちなので、基本的なシナリオを用意して、営業マンが発言しやすいようにアシストしましょう。

部下の指導方法については「褒めて伸ばすほうがいい」「厳しく指導したほういい」と意見がわかれますが、「褒めること」の効果が劇的なことは、脳科学の研究で実証されつつあります。1on1でも褒めるべき点は褒めることも意識するのがコツです。

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営業マンの習熟度合いに合わせてマネジメントを変える

営業マンは入社してから2~3年でどんどん成長します。新人、中堅、ベテランと立ち位置が変わっていくにつれ、習熟度に合わせた指導をしないと個人の不満が溜まりますし、指示待ちのクセがついて大きく成長できないケースもあります。

新人で何をしたらよいかがわからない段階では、マイクロマネジメントで細かいタスクまで管理するべきですが、ある程度自発的に動けるようになれば、裁量を与えて経過報告を受けながらアドバイスするなど軌道修正を行いつつマネジメントした方がよいでしょう。

裁量権が上がるとモチベーションが上がることはすでに研究で実証されています。若手の成長に応じて裁量権を広げていきましょう。任せる=部下を信頼している、認めていることでもあるので、任された部下はよりやる気になるでしょう。

営業マンの教育に力を入れる

営業マンにとって最もつらいのは、やはり成果が出ないことです。例え上司や先輩から厳しく指導されなくても、営業部門内での自分の立ち位置は本人が一番わかっているからです。

営業は成果が出るまで一定の時間が必要なので、入社してすぐ大きな成果は上がりません。新入社員の場合、当初は何をすればよいかわからず仕事そのものに慣れる必要もあります。意外に中途採用でも同じで、商品・サービスが変わると業界の慣習も動き方も営業トークの勘所もかわるため、しばらくの間は成果が出ないことがあります。

未経験・経験の有無を問わず入社した人材には初期教育を行い、成果を出す楽しみを感じてもらい、営業へのモチベーションを上げてもらうことが大切です。

教育方法については、口頭での指導も大事ですが、ロールプレイング、ITツール等を活用したできる営業マンのモニタリング(録画・音声の視聴)などがおすすめです。教育業界でよく活用されるラーニングピラミッドの図でもわかるように、学習は座学より「視聴覚」「体験」で学ぶと定着率がよくなります。

ラーニングピラミッド

採用の段階でミスマッチがないかを確認する

離職率を減らすには、そもそも採用の段階で自社の文化や営業スタイルを理解してもらい、入ってからのイメージとミスマッチが起こらないようにすることが重要です。

働いてみなければわからないことも多く難しいのですが、最近は採用にRJP理論(リアリスティックジョブプレビュー)を取り入れて離職率を低下させている例があります。要するに、採用の段階でネガティブな情報もかくさず率直につたえることが大事です。

とはいえ、経営者や人事担当者と話しても求職者は現場の状況をなかなか想像できないので、一番手っ取り早いのは現場体験でしょう。2021年の株式会社学情が「Re就活」で行った調査では、転職前に仕事体験ができる機会があれば活用したい人は79.7%にも上ります。

転職前に仕事体験ができる機会があれば活用したいか調査

(参照:PRTIMES|「Re就活」へのサイト来訪者

営業の場合、仕事内容と同じくらいに現場のカルチャーとの相性は重要です。会社によって軍隊系、サークルのノリ系、社長の強烈なトップダウン型、社員が積極的で自由闊達な社風などさまざまですが、中に入ってみないとなかなかわかりません。

1日でも体験できれば、朝礼の様子、ミーティングの様子、上司の数字の進捗確認の仕方、プレッシャーのかかり度合いなどで、カルチャーが肌感覚でわかります。内定段階で職場体験を取り入れることで、お互いの相性がわかれば、ミスマッチを相当に防げるでしょう。

まとめ

職場に不満がなくても若者が転職していく時代に、営業マネージャーが営業マンの離職率を下げるのはなかなか大変です。離職理由は人によってさまざまなので、すべてに対策を行えるわけではありませんが、営業マネージャーが対策できることも少なくありません。まずは、自社の営業部の退職理由の上位を調べて対応できることから始めていきましょう。

入社したばかりの営業マンの中には、仕事をどう進めればわからず、人に相談もできないタイプが少なからずいます。能力を発揮する前に離職してしまわないように、仕事で一人立ちできるまでのマニュアルを整備しておくことがポイントです。

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