営業マネージャーが身につけておくべき部下の褒め方

部下 褒める

営業マネージャーの方は日々の業務で部下を褒めたり叱ったりすることがあるかと思います。世の中では、「ほめる技術」「「ほめる」は最強のビジネススキル!」という系統の本がたくさん売れています。一方で、「叱るほうが効果がある」という類の本や記事も少なくありません。

いずれも一理あるので、営業マネージャーの立場だと「いったいどちらが正しいのだろう?」と迷われることも多いのではないでしょうか?それでも我が身に置きかえてイメージしてみれば、おそらく社長や部長から褒められたほうが、叱責されるよりモチベーションが上がる方が多いかと思います。

実は、褒めると人のやる気がアップすることはさまざまな研究や調査で裏づけられています。

この記事では、なぜ部下を褒めることが大切なのか、どのようなことを褒めるべきか、褒める頻度やタイミングなどについて調査結果をもとに解説していきます。

部下を褒めるとは

まず「褒める」とは具体的にどのようなことかを解説します。「褒める」という言葉は誰もがふだん何気なく使っている言葉なので、かなり広い意味で解釈されていることが多いのですが、辞書によると以下が「褒める」の正しい意味です(出典:goo国語辞書)。

  • 人のしたこと・行いをすぐれていると評価して、そのことを言う。たたえる。

なお、「お世辞」「こびる」は、それぞれ別の意味となります。

  • お世辞=他人に対する愛想のよい言葉。人に気に入られるような上手な口ぶり
  • こびる=他人に気に入られるような態度をとる。機嫌をとる。へつらう

いわゆるお愛想、お世辞であっても人は嬉しい気持ちになることがあるかと思いますが、営業マネージャーには「部下を育成する」という大きな職責があります。褒めることの意味を正しく理解して、常に部下に成長してもらう目的を忘れずに褒めることが大切です。

部下を褒めることはなぜ大切なのか

誰でも、他人から褒められてやる気がでたり、もっと頑張ろうと思った経験があるのではないかと思いますし、社内であれば上司に一番自分を理解してほしいと思う人が大多数でしょう。

カオナビHRテクノロジー社の2019年の調査では「上司からの理解(強みや弱みといった個性・事情)が仕事のパフォーマンスに良い影響があるか」については、約60%(20代は80%)の人が影響があることを認めています。

上司からの理解が仕事のパフォーマンスに良い影響があるか

もちろん、上司の立場なら「部下を十分理解している」と思うかも知れません。

しかし、ここで肝心なのは上司が部下を理解していても、言葉にしないと相手に伝わっていないこととが少なくないことです。だからこそ、気持ちを伝える「褒める」スキルは重要になるのです。

褒めるパワーのすごさ(上手になる、脳が回復する)

人が褒められるとどのように嬉しいかについては、科学的な研究がされています。2008年に生理学研究所が公表したMRIによる脳の実験結果によると、人の脳は褒められるときに何とお金を得るときに反応する脳の線条体と同じところが反応するそうです。褒め言葉は脳にとっては金銭的報酬にも匹敵する報酬だと言われています。

「褒められる」ことは報酬— 脳の”喜ぶ”様子を画像で捕らえた!—生理学研究所

実際に運動や脳のリハビリの場で褒めた場合とそうでない場合を調査した結果でも、褒めた方が技能が向上する結果が出ています。

「褒める」と脳が回復する!言葉が持つ驚きのパワーとは

「”褒められる”と”上手”になる」ことを科学的に証明

上記の7カ国で国際研究した脳卒中のリハビリの実験では、「褒められた」と「褒められなかった」患者さんを比べると褒められた患者さんは歩くスピードが大幅に速くなり、専門家が「リハビリ器具や医薬品でこれほどの効果をあげるのは容易でない」というレベルの回復を見せました。

褒めることは年齢も人種も関係なく人をやる気にさせます。

ほめ言葉は脳の報酬系を活性化

部下はどのような褒めを求めているのか

とは言え、毎日のように部下を褒めていたら、それは挨拶に近い印象になるでしょう。2019年にディップ株式会社が全国22〜65歳の男女に行った「社会人300人に聞いた、上司のための褒める技術調査」では以下の結果が出ています。

月1回くらい褒められたい人が多数

「上司にどのくらい褒められたら満足か」という質問の回答の1位は「月に1回」、2位が「半年に1回」です。「1日に1回」「ほめられなくてもよい」という人はそれぞれ数パーセント以下しかいないので、大抵の人はここぞと言う時にたまに褒められれば満足できることがわかります。

上司のための褒める技術調査

褒められたいことは何か?

褒める内容も大事です。「上司に褒められるとしたら何を1番褒められたいと思うか?」という問に対する回答の1~3位は「自分の努力」「自分の成果」「自分の個性」です。単に自分に目をかけてほしいという自己中心的な気持ちではなく、あくまで仕事でがんばったことを褒められたいというフェアな姿勢であることがうかがえます。

褒められたいことは何か?

「どのようなほめ言葉が嬉しいか?」は以下の通りです。
1位、2位は本当にシンプルな言葉ですが、部下の能力や仕事の状況を上司がよくわかっている前提があればきっと十分褒められたと感じることができるでしょう。

  • 1位「さすがだね」(105票)
  • 2位「がんばったね」(97票)
  • 3位「安心して任せられるね」(96票)
  • 4位「仕事が速いね」(94票)
  • 4位「仕事が正確だね」(94票)

(参照:ディップ株式会社.「社会人300人に聞いた、上司のための褒める技術調査」

部下を褒める4つの観点

ここでは、部下の何を褒めるべきかについてのポイントを解説します。

①営業成績

まず、営業にとって一番の職責は売上げ目標を達成することなので、営業数字を達成できていれば褒めることが大切です。

厳しい上司の方だと「100%達成することは仕事なのだから褒める必要はない」というポリシーを持っている場合もあるでしょう。しかし、ここ何十年も低成長が続いている国内市場で売上げ目標を100%達成するのはなかなか大変です。

ましてや、2020年以降なら達成は「立派」といってよいのではないでしょうか。「さすがだね」「がんばったね」「おめでとう」と一言かけることが望ましいでしょう。

もし、未達で終わった営業マンであっても、数字の内訳を見て褒める面があったならば褒めることが大切です。未達に終わると営業マンは悔しい残念な気持ちをもっていますし、上司に「申し訳ないな」と思っているものです。そこで自分ががんばっていたことを上司がわかっている一言があると「来月こそは」とモチベーションが上がりやすくなります。

例:

  • A社が大きく伸びたね
  • 新規が増えたね
  • ここ、よくとれたね

②人間性

部下の人間性を褒めることも大切です。営業は人と人の関係構築が大切になってくるので人格=能力でもあります。人としての誠実さ、思いやり、気配りができる優しさ、器の大きさなどは大きな長所です。

実際、営業では相手へのメリットや知識・スキルなど能力が成果につながるといわれますが、それは表向きの理由であって実は「人間性がよい」「好感度が高い」から仕事になっていることもよくあります。

また、性格の良い営業はお客様に好かれるだけでなくその人がいることでチーム全体の雰囲気がよくなったり、みなのメンタルが安定するなど貢献度が高いものです。本人も周りもその影響力を見すごしやすいところがあるので上司が折を見て褒めましょう。

ストレートに伝えにくい内容でもあるので伝え方にー工夫するとよいかも知れません。

例:

  • B社は難しいお客様だけどAさんは人間性がいいから信頼されているね
  • お客様のことを本当によく考えている(お客様思いだね)
  • 君は人柄かよいからチームのみなから愛される

③営業手法

営業手法を工夫していることも褒めるポイントです。近年はビジネス環境もどんどん変わっており、昔成功したからといって電話だけ、メールだけの営業手法では成果は一定にとどまりがちです。試行錯誤しながら新しい営業手法を工夫している営業マンはぜひ褒めましょう。

結果が出ていればもちろんですが、結果がでていなくても工夫していることは評価に値します。心理学的にも、努力を褒めることは能力や結果を褒めるよりよい面が多々あることがわかっています。結果いかんに関わらず、ずっと努力し続けることができるようになるからです。

例:

  • 何でも自分で考えて工夫するところがいいね
  • 最新の情報を押さえて営業手法に活かしている、情報感度が高い
  • 新しいことにチャレンジしているところがよい
  • そのアイデアはいいね

④営業への姿勢

営業はモチベーションを維持することが大切ですがモチベーションを維持することは難しいことでもあります。営業に対して高いモチベーションを維持している営業マンは褒めましょう。

  • 慣れてきても決して手を抜かないところがすごい
  • 君はモチベーションが高いから周りにいい影響を与える
  • 根性がある

部下を褒めるタイミングは

部下を褒める際はタイミングも大切です。気づいたときに褒められればよいのですが、営業マネージャーも部下も毎日忙しく働いているので、あまり褒めるためだけに時間をとれないと思います。

上司がほめやすく、部下もほめられて嬉しいタイミングを押さえておきましょう。

受注のタイミング

ベストは部下が受注した際のタイミングです。営業にとって何より嬉しい瞬間。加えて上司から褒められると受注の嬉しさが倍増します。上司の方は口頭、日報、あるいはメールで受注を伝えられたらできるだけ即褒めましょう。

例え小さい案件であっても、受注に至るということは、営業プロセスをきちんとこなしたということ、お客様に信頼されたということです。また、小さい受注をきっかけに大きな取引に発展していくこともよくあります。受注はとにかく褒めることが大切です。

武田信玄の弟であり、早世したものの敵軍の上杉謙信らからもその死は惜しまれ、その教養、業績から江戸時代でも「まことの武将」と人気があった武田信繁はこう言っています。

個別面談のタイミング

最近は1on1などを導入して、上司と部下が定期的に1:1で個別面談をする企業も多いと思います。よく1on1で話すことがない(部下があまり相談しない)などの悩みも増えているようですが、個別面談なら営業マンと1:1にコミュニケーションする時間が十分にとれるので、いつもより具体的な点を褒めることができます。

月1回の面談時に「必ず1つは部下のよかった点を伝える」ことを意識していると、日常的な部下の仕事ぶりをより丁寧に見ることにもつながっていくでしょう。

営業会議のタイミング

営業会議などのみんなで集まる機会に褒めることも大切です。営業マンにとって他の営業マンの前で褒められることは嬉しいことなので、しっかり成果を出した営業マンを褒めましょう。同僚の手前ほめられても喜びを前面には出さない部下もいるかも知れませんが、おそらく心の中で喜んでいるでしょう。

会議で褒められると、その後の周りからの見られ方が変わってきます。「成果を出している人」「すごく動いている人」「〇〇が得意な人」と見られることで本人の自覚が強くなり、ますます成長することが期待できます。ほめ上手で有名な田中角栄氏も以下のように語っています。

叱るときはサシのときにしろ。褒めるときは大勢の前で褒めてやれ

失敗・落ち込んだ時のタイミング

部下が失敗したり、落ち込んだタイミングにさりげなく褒めることでモチベーションを持ち直してもらえることがあります。営業マンが落ち込む理由は、数字を急に落とすあるいはずっと落とし続けている、お客様からクレームをもらう、力を入れていた大型提案をライバル企業にもっていかれるなどさまざまです。

まず、何かにチャレンジして失敗したらチャレンジそのものを褒めましょう。実際、数多くアプローチしたり新しいこと難しいことに取り組むほど失敗の数も増えるものです。この場合の失敗はむしろ「ナイスチャレンジ」です。

一方、成果が出ておらず本人が自分を責めていたり自信喪失していたりする場合は、あまり丁寧だと「上司に気を使わせてしまった……」「褒めているけどそんなはずはない……」とますます落ち込んでしまうこともあります。このようなときはさりげなく「今の調子でまったく問題ないからがんばれ」というくらいでよいかも知れません。

大切なことは、上司たる自分は部下の失敗を前向きにとらえている、一時的な数字の結果に右往左往せずに成長を長い目で見ていることをきちんと部下に伝えることです。

部下を褒める際に気を付けること

ここでは、部下を褒める際に気をつけることについて解説します。

具体的な内容を伝える

前述のディップ社の調査のように、たった一言でも部下は褒められると嬉しいものですが、具体的に努力や成果の何が良かったのか事実を取り上げて伝えることができればより喜びが増します。

また、褒めることが不得手な上司の方でも良かったことを事実として伝えることを意識すると、スムーズに褒めることができるでしょう。

例:

  • 厳しい地合いなのによく毎月高い実績を上げている
  • この提案書はお客様の業界の変化を的確に分析しておりデータだけでも役に立つだろう。提案内容も説得力があると思う
  • 今月のアプローチ数は抜きんでている
  • 営業メールの文章がとても感じよい
  • 後輩たちの面倒をよく見ている
  • お客様だけでなく、取引会社さんや後輩にも丁寧に接している
  • 言うべきことがしっかり主張できる、他

褒めるべき点があったらすぐに褒める

褒めるべきポイントがあれば、すぐに伝えることも大切です。営業マネージャーはたくさんの部下をマネジメントしているので時間がたつと忘れてしまったり、印象も薄れてしまう可能性があるからです。同じことを2度褒めても問題はないのでその場で簡単に褒めて、面談などのときに総括として具体的に褒めるとよいでしょう。

日本の企業はどちらかといえば褒める文化ではなく、何かあると叱る文化の企業が多いかもしれませんが、叱るときはすぐ叱って忘れたころ褒めるよりは、すぐ褒めてモチベーションを上げてもらい、叱るときは感情にまかせないほうが上司ののぞむ結果も得られやすいと思います。

部下の変化に注目する

営業はマインドが変わるだけで急に行動量が増えたり、真剣味が増して成果につながることが多くなります。もちろん、どの職種でもそうなのでしょうが、営業マンは気持ちや行動が成果に比較的早期に表れやすい仕事だと言えるでしょう。

上司はレッテルをはらないことが大切です。例え、今は最下位の成績であっても、ダメな営業、サボる営業マンと決めつけずに、以前よりも前向きさが見えたり行動量が増えていたらその点を認めましょう。真剣に取り組んでいれば必ず成長はあるはずなので、その変化を逃さないために常に部下の変化に気を付けておく必要もあります。

部下にとってがんばっているけれど成果が出ていない時期の暖かい言葉は励みになり、記憶に残るものです。数多くの営業マンが自分の調子の悪かったときに上司や先輩の言葉を励みに乗り越えてきたのではないでしょうか。自分を支持してくれた人に恩を返したいという気持ちも芽生えるので、その後の信頼関係も強くなります。

自分の気持ちを正直に伝えることが大切

褒める内容やタイミングなどのコツを意識することは大切ですが、最も重要なことは自分が褒めるべきだと思ったことを、正直に自分の言葉で伝えることです。

表現力があるにこしたことはありません。しかし、朴訥であっても気持ちがこもった一言があれば心意が伝わり部下は嬉しいものです。

例:

  • おかげでチームが達成できた、ありがとう
  • 今月ずいぶんがんばったね
  • しっかり休みもとるようにね(がんばっていることを認めている前提)

営業マネージャーが部下を褒めるということは、お世辞でもおもねることでもなく、部下への励ましであり、思いやりであり、愛情です。これまであまり褒めなかった上司なら、少し褒める回数が増えるだけでも部下も嬉しいはずです(むしろ、急に変化すると人として不自然です)。一言伝えるところからスタートして、徐々に褒めるスキルを磨いていくとよいのではないかと思います。

まとめ

営業現場は一般に成果主義が徹底しており、スポーツの世界のように成績上位者を褒めたり表彰することは多いと思います。しかし、最近は営業成績のグラフ を掲示することをパワハラと捉える若者も出てきていますし、叱られるとやる気を失う人が多くなっています。

一方で営業マネージャーの上司にあたる世代は体育会系が多く部下を褒めていると「部下に甘すぎる」と注意する人もいるかも知れません。はざまの世代としては悩ましいところです。

しかし、多くのアンケート調査で、褒められるとモチベーションが上がる人が多いこと、若い人ほど上司に理解されたがっていること、科学的な実験で褒められると脳の報酬系が活性化することなどを考慮すると、やはり「褒める」ことの重要性はもっと評価されてよいと思います。科学で裏づけられたということは再現性があるということでもありますので、褒めると人はやる気になる可能性大なのです。

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