営業マンは、一般に年間に何千万円、何億円単位の売上目標を持ちます。なかには何十億円単位の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、ビジネスの現場では目の前で札束を受け渡すような生々しいやりとりはほぼないため、売上げ拡大には熱心でも「お金を儲ける」というような、ガツガツとした感覚をあまり持っていない営業マン、営業管理職の方は意外に多いのではないでしょうか?
一方、経営者や役員層は儲け(利益)、そしてキャッシュフローを非常に気にします。会社は赤字になるだけでは潰れませんが、現金がなくなり不渡りを2回出してしまえば事実上倒産したも同然だからです。
幸いなことに、近年の日本は好景気が続き、大企業から中小企業まで資金繰りが順調な時代が続いてきました。
しかし、2019年に入ってからはちらほらと2020年の東京オリンピック後の景気後退を指摘するメディア記事が増えたり、粉飾決算による倒産の増加が報じられたりするなど、先行き不透明感が増してきています。もっとキャッシュフローを安定させたいと考えている経営者の方は多いと思います。
キャッシュフローを増やす手堅い方法は、やはり事業の売上げと利益を拡大することにつきます。
本記事では、営業キャッシュフローを増やすための営業活動の取組みについて解説します。

営業活動とは?
営業活動とは、企業が利益を得るために自社の商品やサービスを顧客に販売し、回収するまでの一連の業務のことをさします。特に中小企業の営業マンは見込み客のリサーチやリスト作成、集客、新規開拓のアプローチ、商談、契約、納品、請求業務、入金確認、販売後のフォローまでの活動を継続的に反復して行い、中長期的に利益を獲得します。
営業活動は、大きく「新規開拓営業」と「反響営業」の2種類にわけることができます。新規開拓営業を担当する営業マンは、自らお客様にテレアポや飛び込み営業、DM、メール営業、あるいはSNS経由、紹介などの方法でアプローチし、まず初回のアポイントを獲得します。その後、お客様と信頼関係を構築しながら、ニーズや課題を把握した上で自社商品・サービスの提案を行います。
見込み客の検討期間が長引く場合は、その間、必要な情報や資料を提供するなどのフォローを続けます。また、売り切り型の商品を除けば、販売後のフォローがさらなる売上げ拡大につながるため、一度取引ができると継続してお客様をフォローしてアップセルにつなげることもできます。受注後の営業活動は既存顧客営業(ルートセールス)と呼ばれます。
反響営業は、広告やDMなどの問い合わせがあったお客様を対象に営業しますが、初回面談以降のプロセスは基本的に同じです。
営業活動が重要な理由
営業活動は企業が売上げ、利益を得るために大切な活動です。いかに革新的で素晴らしい商品であっても、お客様に知ってもらえなければ買ってもらえません。広告宣伝活動とともに商品を売るための重要な活動だと言えるでしょう。
近年はインターネット経由で商品を購入するお客様が増加したため、以前よりも営業職の数が減っています。また、これからAIの登場で営業マンも不要になる、激減するという見方をされる場合もあります。
しかし、日本の営業マンの業務内容は幅広く、BtoBの営業マンなどはマーケティング、コンサルティング、企画、ディレクション、フォローまでが守備範囲と言えます。さらに、各営業マンがそれぞれの業界に特化したかなりの専門知識を持っています。
何かを売る役割というよりは課題解決のパートナーという位置づけが近く、優秀な営業マンはお客様にとって、ときに自社の同僚よりも心強い「助っ人」と言ってもよいでしょう。営業マンが取引企業の課題解決に貢献していくかぎり、営業という仕事は存続する可能性が高いと考えます。
新規開拓の手法という観点でも、近未来すら予測しづらいと言われる変化の速い時代に、アウトバウンド営業の機動力はむしろ強みであるかもしれません
営業活動で起こりうる課題
とは言え、働き方改革関連の調査などでもしばしば指摘されるように、日本の企業の営業活動にムダが多いことは事実です。多くの企業の営業部門が以下のような課題を抱えています。
- 営業マンの訪問件数、商談件数が少ない
- 営業マンの定着率が悪い(採用コスト・教育コストばかりがかさむ)
- 営業ノウハウが共有化されず人材が育たない
- 営業マンの移動時間が多すぎる
- 売上げ単価が小さい、値引き要請にすぐ応じる
- リピート受注、追加受注が少ない
- 新規アプローチから受注までに時間がかかりすぎる
このような非効率なところを解決していかなければ、営業の生産性がなかなか上がらず、キャッシュフローも増えないという構図になっていると言えます。営業部門だけで解決できない課題も多いので、経営陣やマーケティング部門などの他部門と協働して解決していく必要があります。
営業活動によるキャッシュフローとは?
営業活動によるキャッシュフローとは、営業活動に伴う現金の流れです。上場企業は、財務諸表として貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3種類の公開が義務づけられています。キャッシュフロー計算書に記載されているのは、期中の現金の増減の流れと期末時点で企業が保有している現金の残高です。
キャッシュフローには営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローがあり、本業の事業における現金の増減に相当するのが「営業キャッシュフロー」です。
営業活動によるキャッシュフローの構成
営業活動によるキャッシュフローは、売上げた金額のうち現金で回収した額から事務所などの固定費、従業員の人件費、外注企業への支払い、税金など支払うべき費用を相殺して残った金額です。売掛金、買掛金は反映されず、 あくまで「手元に今現在とどまっている現金」のことです。営業活動によるキャッシュフローは、おもに以下の項目で構成されています。
営業キャッシュフローを増やす要因
- 売上げた金額の回収
- 減価償却費
- 受取利息
- 棚卸資産の減少 など
営業キャッシュフローを減らす要因
- 商品の仕入代金の支払い
- 従業員に対する給料の支払い
- 事務所家賃、水道光熱費の支払い
- 法人税等の支払い など
なお、中小企業庁では以下のキャッシュフローの計算ツールを無料で公開しています。自社のキャッシュフローを算出していない場合は試算してみましょう。
画像参照元:中小企業庁
営業活動によるキャッシュフローがマイナスとなる意味
営業活動によるキャッシュフローがマイナスということは、本業である営業活動の収支がマイナス、つまり赤字ということです。
もちろん、成長中の企業が製品開発や人材採用などを優先し、一時的に営業キャッシュフローがマイナスになる場合は問題ありませんが、長期でマイナスの状態が続き投資キャッシュフローでも補えなくなると、企業は借入金に頼らざるえなくなります。
借入金に依存していると何らかの事情で融資が打ち切られたり、大口の取引企業が倒産したりするとあっというまに苦しくなります。リストラを断行せざるをえなくなったり、なかには粉飾決算に走ってしまう場合もあります。
逆に営業キャッシュフローが潤沢であれば、企業は新規事業や人材の教育などに投資することができます。営業活動によるキャッシュフローとは、企業の収益力を示すわかりやすい指標なのです。
営業活動を効率化してキャッシュフローを安定化させるには?
営業キャッシュフローを増やすためには、何よりも営業部門が収益を拡大する必要があります。そのためにはコスト削減や売掛金回収も大事ですが、理想は営業マン全員の営業力を高めることだと言えます。
近年、注目されている手法としては、営業マンの個人技に頼らず営業活動のプロセス管理をしっかり行い、データをもとに指導することで成果をあげる営業プロセスマネジメントがあります。
例えば、時価総額9兆円、営業利益率が50%前後と極めて高く、年収2,000万円の営業マンも多いことで有名なキーエンス社は、徹底した営業プロセス管理、データにもとづく指導、トレーニングを行っています。
営業マンの行動は分刻みに決められているほど、高度にマニュアル化されています。
業務が分業されいるため、営業マンは提案資料を作成する必要すらなくお客様のニーズのヒアリングなど重要な業務に集中できます。営業からの情報がスピーディに商品開発に活かされるため、高価格ながらお客様から支持される製品をタイミングよく市場に出しています。
さらに、キャッシュが潤沢にあるため、よくある「お客様からは早く回収し、支払はできるだけ遅くする」という手法の真逆をとり、顧客、取引企業から信頼されています。
画像参照元:キーエンス株式会社
もちろん、高い技術力、優秀な人材、高い年収という条件が揃ってこその成果だと言えますが、営業のプロセス管理、データにもとづいた指導、業務の効率化がいかに高収益に結びつくかを体現するモデルとして参考になると言えるでしょう。
営業活動を分析しプロセス化する
営業活動を効率化するためには、まず営業活動のプロセスをきちんと把握する必要があります。営業活動の一連の流れを製造現場の工程管理のように分解して考えます。アプローチから商談、クロージングまでの流れをプロセスごとにわけると、以下ような流れになります。
新規開拓営業:
反響営業:
課題を抱えているプロセスを可視化
次に営業マンが抱えている案件ごとのプロセスを可視化します。
営業マンが苦手とする行動や、つまずいてしまうところは似通っています。成績が上がらない営業マンがどこで停滞しているかボトルネックを特定し、必要に応じ個別で指導したり、情報を提供したりします。事前に解決プランを作成しておくとよいでしょう。 ありがちな課題に対する解決方法のノウハウをマニュアル化し、社内で共有することで、すべての営業マンの能力を効率よく底上げすることができます。
(対策例)
- 各プロセスごとの効果的なトークスクリプトの用意
- 成約率の高い提案書フォーマットの共有
- 課題があるプロセスのロールプレイング実施
- 課題があるプロセスについてのマインドセット
各プロセスへ適切なKPIを設定
プロセス管理をしっかり行うために、営業活動の各プロセスにKPIを設定します。KPIがあると、営業マンは「どのような行動をどれだけの量こなせば目標を達成できるか」が明確になり、迷いなく行動ができるようになります。
月あたりの新規開拓KPIの例:
※KPIの適正な数値は業界、企業、営業マンのスキル、担当顧客数などにより異なります。
従来の営業マネジメントでは売上げ高という結果をもとに、「新規売上げが伸びていない」「既存顧客A社の売上げが伸びていない」「訪問件数を増やすように」というようなやや大まかな指摘になりやすく、営業マンも成績上位の営業マンが売れる理由を「営業センスが違うから」「担当顧客(エリア)がよいから」と単純に解釈することがあったかと思います。
実際は、成績上位にいつも並ぶような営業マンは行動量も多いものです。
全員のKPIを設定し公開することで、ほかの営業マンと比較して自分はどのくらい行動しているか、努力しているかがわかるため、営業マンが自覚を持って行動できるようになります。受注まで長期間かかる商品の営業活動でもKPIがあると途中でモチベーションが低下することを防げるでしょう。
営業活動の各プロセスを効率化するための取組
ここでは、営業活動の各プロセスを効率化するための取組みをいくつか説明します。
引き合い数と獲得見込み数増加への取組
売上げを拡大するには、引き合い数や見込み客を増やす必要があります。以下の方法があります。
- 営業エリアを拡大する
- マーケティングを行い新たなお客様の層を見つける
- インサイドセールス部門をつくり、見込み客発掘件数を増やす
今の時代、比較的手軽に取り組めるのはエリアの拡大だと言えるでしょう。昨今はオンライン会議ツールの活用が一般的になりつつあるため、営業拠点がなかったエリアに対して遠隔で営業してもお客様の抵抗は薄れています。また、Webマーケティングも比較的安価でありながら全国のお客様にアプローチできる有効な手法です。
ネット環境が進化したこともあり、インサイドセールスを導入する企業も増えつつあります。Web経由のお客様の初期対応をまかせたり、小口のお客様、遠隔地のお客様を継続してフォローすることで、新たな層の見込み客の育成やリピート受注の増加が期待できます。
受注確度を見極めるには?
新人営業マンのうちは、お客様の言葉から見込み度を正確に測ることができず、可能性が低い案件に熱心に営業し続けることがあります。営業マンの数は限られているため、長期間かけて売上げがあまり伸びない企業よりも予算が一定レベルあり、短中期で売上げが見込める企業に効率的に営業してもらう必要があります。
営業マンにはBANT条件をヒアリングすることを徹底してもらい、できるだけ受注可能性の高い企業に営業するよう指導しましょう。
BANT条件
BANT条件を意識することで、営業マンは今月に力を注ぐべき案件、しばらく情報提供メインで信頼関係を維持すべき案件、手を引くべき案件などがわかります。営業マン全員が効率よく動くことができるようになれば、短期で受注できる案件も増えていきます。
あわせて「お客様は営業マンを信頼しなければ、予算やニーズをそう正直に教えてはくれないことも多い」ことを説明し、傾聴スキルを身につけさせましょう。
商談での受注率を高めるには?
商談での受注率を高めるには、商談のパイプラインを営業マンに理解してもらうことが重要です。例えば、初回の商談のパイプラインは、以下のような流れをとることが一般的です。
商談パイプライン
商談のパイプラインを理解することで、経験が浅い営業マンも初回訪問で何を聞くべきか、何を意識すればよいかイメージしやすくなります。課題の共有ができていない段階でクロージングするような勇み足を防ぐことにもつながります。
営業マンの時間配分の見直し
営業活動を効率化するためには、営業プロセスの管理だけではなく、営業マンの業務の時間配分を見直すことが非常に重要です。
前述のキーエンス社のように提案資料作成まで分業することは難しいかもしれませんが、できるだけ営業マンの本来の仕事である、「売上げ拡大」に直結する業務時間を増やす必要があります。
- 書類作成業務、入力業務の削減(アウトソーシング、アルバイトへの割り振り等)
- 直行直帰の許可
- Web会議の活用(社内外の打ち合わせ)
- 社内向け報告書の簡素化、削減
- インサイドセールス活用による不要な訪問の削減
場合によっては、組織体制も変革して営業活動を効率化することが理想です。企業内では一度決めた業務を廃止することはあまり歓迎されないものですが、幸い今は国をあげて推進している「働き方改革」という大義名分があります。今こそが業務削減や組織改革が受け入れられやすいタイミングだと思います。
営業マンのエネルギーを営業活動に集中してもらい、一人あたりの商談件数を増やすことが売上げ拡大、ひいては営業キャッシュフローの増大につながっていくでしょう。
まとめ
営業活動によるキャッシュフローを安定させるためには、営業活動全体を最適化する必要があります。
営業のプロセス管理をしっかり行いデータにもとづいた指導を行えば、どのような営業マンでも一定レベルまで売れるようになります。もちろん個人差は必ず出ますが、「大量に営業マンを採用したのに成果を出せる人材が2~3割しかいない」という状態から脱却し、売上げをあげることができるようになるでしょう。
あわせて慣習的なあまり意味のない業務、売上げに直結しない業務を削減することができれば、全営業マンの行動件数、商談件数が増え、コストは変わらないまま営業部門の生産性を上げることが期待できます。
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