営業の質を高めるには、営業に関係するスキルを強化すると同時に、営業のたびに議事録を書くことを徹底するのも重要です。議事録を書かないと、顧客が口頭で話していたニーズを取り逃がしてしまったり、マーケティング部門や管理部門といった他部門との連携が滞ったりするリスクがあります。
上記のような事態を避けるためにも、商談に際しては議事録の作成が不可欠です。しかし議事録の書き方にはコツがあり、それを押さえておかないと役立ちにくい議事録となってしまいます。
そこで今回は、商談における議事録の書き方や活用方法をご説明します。商談やその後の営業で用いる議事録の書き方を知りたい営業マンの方は、ぜひ参考にしてください。
商談の議事録とは
そもそも「議事録」という用語は、「議事の内容や審議の経過、議決された事項などを記録したもの」を意味します。なお議事とは、会合した上で審議することを指します。つまり議事録は、複数人で話し合った内容について、wordなどの文書で記録・保存したものです。商談に限定すると、見込み客や既存顧客と話し合った内容に関して、書面でまとめたものを議事録と呼びます。
議事録は、社内の会議や見込み客との商談、既存客とのオンライン商談など、あらゆる場面で用いられています。ビジネスにおいて議事録の作成は、不可欠となる業務といっても過言ではありません。特に顧客とダイレクトに接する営業マンは、質の高い議事録の書き方を理解しておくべきでしょう。
商談の議事録の重要性
新しく営業を始めたばかりの方だと、「上司の指示で言われるがまま議事録を作成している」というケースも多いでしょう。一見意味がないように思える議事録ですが、実は商談において非常に重要な資料です。
重要性を理解せずに惰性で作成すると、その気持ちが内容に反映されてしまい、質の低い議事録となるおそれがあります。質の高い議事録を作成するために、まずはなぜ議事録が重要であるかを理解しておきましょう。
商談において議事録は、以下4つの観点で重要だと言われています。
商談内容の記録
顧客との商談は、受注と失注を左右する点でもっとも重要な営業活動の1つです。一般的に営業では、商談で得られた顧客のニーズや課題を踏まえた上で、商品・サービスの提案といった次のアクションを行います。
しかし、商談内容の記録を残しておかないと、後から「顧客とどのような会話をしていたか」を思い出せなくなる可能性があります。場合によっては、他に対応している案件と状況が混乱してしまい、誤ったアクションを実行してしまうリスクも考えられます。
どれほど優秀な営業マンでも、すべての商談を頭の中で管理することはできません。案件ごとの情報を常に正しく把握するためにも、議事録で商談内容を文面で記録することはとても大切です。
関係者への共有事項の報告
営業で成果を生み出すには、個々の営業マンが頑張るだけでなく、部下や上司、他の部署(経理や人事、マーケティングなど)との連携も大切です。
しかし一方で、多くの企業では関係者の間で情報共有を満足に行えていないのが現状です。【HR総研】社内コミュニケーションに関する調査によると、調査対象となった312社のうち約4分の1におよぶ企業は「社内における情報共有ができていない」と回答したとのことです。
情報が共有できていないと、営業の成果に直結しそうな場面で上司が的確なサポートや指示を行えなかったり、他部門との連携が滞って営業の成約率を高めるマーケティング施策を行えなかったりするリスクが高まります。
こうした事態を防ぐためにも、関係者の間で情報を共有することは非常に大切です。特に商談は相手と一対一で行うケースが多いため、上司や他部署のスタッフは商談の内容を把握できません。したがって、かならず議事録をとって商談の内容を共有する必要があります。そうすれば、現場に居合わせなかった関係者も、議事録を確認することでどのように商談が展開されたかを把握できるでしょう。
再アプローチの文脈理解
商談が一回で決まるケースであれば、議事録によって記録を残しておく必要性は多少薄くなるでしょう。ですが、商談を複数重ねる場合、前回の商談内容を把握しておくことはとても重要です。なぜなら話の内容を把握していないと、次回以降の商談でどこから話を進めれば良いかが分からなくなるからです。その結果、同じ話をしてしまい、見込み客や新規顧客に不信感を持たれる可能性があります。
新規顧客を対象とした大半の商談は、複数回にわたって行われます。実際に「エムタメ!」が行った営業活動に関するにアンケートによると、1ヶ月あたりの新規顧客への訪問数について、6回以上と答えた回答が過半数だったとのことです。
一回きりで商談が終わるケースが少ない以上、日頃から商談の議事録をとっておくのが得策でしょう。
アクションプランの明確化
商談を踏まえて「今回の商談で何が課題として残ったか」や「次に何をすべきか」を記録しておける点も、議事録を作成するメリットの1つです。
商談したお客様から宿題や再アプローチのタイミングをもらっている場合は、お客様の要望に合わせて適切に対応することが大切です。たとえば「より詳しく商品・サービスの概要を教えて欲しい」という要望が出た場合には、くわしく自社商品・サービスの特徴を調べて、次の商談で伝えることが重要となるでしょう。
議事録を作成しておけば、顧客から出された課題やニーズを聞いた直後に記録できます。そのため、早い段階から顧客の要望を満たすアクションプランを準備し、それを実行に移すことが可能です。
商談の議事録を作成する際の内容のポイント
商談の議事録はただ単に作成すれば良いというものではありません。何も意識せずに議事録を作成すると、以下に挙げた弊害が生じる可能性があります。
- お客様が口頭で述べていたニーズや現状の課題を思い出せない
- どのような提案を行い、それに対してお客様がどのような反応をしたかを思い出せない
- 第三者から見て、商談の概要が理解しにくい
前述したように、商談の議事録は内容を記録するだけでなく、上司や他の部署と情報を共有したり、再び商談する際の参考にする目的で作成します。しかし上記の事態に陥ると、こうした目的を達成しにくくなってしまいます。
メリットを失わないためにも、以下7つのポイントを押さえて商談の議事録を作成しましょう。
出席者の概要とテーマ
議事録の上部に商談の日時や場所などの基本事項を記載したら、その下に商談の出席者とテーマを記載します。出席者に関しては、自社とお客様側の両方を記載します。
なおBtoBの商品・サービスに関する商談の場合には、お客様側の出席者の役職や立場(決裁権を持つかどうかなど)を記載することが重要です。役職や立場を明確にしておけば、「次は決裁権者に出席してもらうようにアプローチをかける」などと的確な行動を起こせるでしょう。
一方でテーマに関しては、どのような内容で商談を行なったのかを記載します。商談の目的や話し合った内容が一目で理解できるように、簡潔かつ分かりやすい表現で記載することが大切です。
お客様の状況についてのヒアリング内容
実際の商談では、はじめにお客様がおかれている現状をヒアリングするのが一般的です。ヒアリングでは、相手が現在抱えている課題やニーズ、企業の業績、収益性などを聞き出します。ヒアリングで顧客の情報を深く知ることができれば、その後に的確な提案を行えるようになります。
ヒアリングによって商談の成功可否が大きく左右されるため、ヒアリングした内容は漏れなく議事録に記録しましょう。
特にBtoBのビジネスでは、商談した見込み客がどのくらいの購買意欲を持っているかを見極めることが重要です。BtoBの営業には労力や時間がかかるため、なるべくホットリード(購買意欲が高い見込み客)への営業を重点的に行い、営業を効率化するのが良いと言われています。ホットリードかどうかを見極めたり、購買意欲を高めるプランを練ったりするためにも、ヒアリングのデータは有効活用しましょう。
営業マンが提案した内容
議事録には、営業マンが実際に商談で提案した内容も記載します。重要なポイントは、商談の流れに沿って提案した内容を記載することです。ただ単に提案した内容を羅列するだけでは、提案の前後に顧客と会話した内容を忘れてしまい、自然な流れで適切な提案を行えたかを分析しにくくなります。
営業の質を高めるには、毎回商談の内容を振り返り、一人ひとりの営業マンが流れを汲み取って最適な提案を行えるようになることが重要です。そのためにも、どのような流れで何を提案したかを議事録に毎回しっかり記録しておきましょう。
なお提案に用いた資料データがある場合には、それをクラウド上にあげてURLを議事録に貼り付けておくと、より提案内容をふり返りやすくなります。
お客様から挙がった内容
提案を行なった上で、お客様から挙がった質問や論点なども議事録に記載します。こちらもヒアリングの結果と同様に、今後行う営業活動の質を左右する重要なデータとなるため、詳細に記録しておくのがお薦めです。
商談で決定した事項
商談の中で決定した事項があればそれも議事録に記載します。商品・サービスの購入といった正式な案件の成立に関する内容はもちろん、顧客からの要望に応じて次の商談までに自社ですべき事柄なども記載しておきましょう。
決定事項を議事録に残しておくことで、実行し忘れて顧客に不信感を持たれたり、案件をキャンセルされたりする事態を回避できます。
商談で生じた懸念点や課題
お客様との商談は、かならずしも順調に進むとは限りません。たとえば自社の商品・サービスに対して不信感を感じているケースも考えられます。商談を成約させるには、顧客が自社の商品・サービスを利用する上で妨げとなる障壁をすべて取り除く必要があります。
ささいな要素でも良いので、顧客の購買を妨げる懸念が商談の中で見つかったら、すべて漏れなく議事録に記載した上で改善策を考えましょう。
次回のアクションプラン
商談を行うと、顧客と自社それぞれが今後行うべき行動が明確となります。明確となった行動プランを忘れずに実行するためにも、双方がどのような行動をすべきかを議事録に記載しておきましょう。再度アプローチの必要がある場合は、そのタイミング(日時)も忘れずに記載することが大切です。
また、より購買意欲を喚起するための営業アプローチを考案し、それを議事録に記載するのもおすすめです。たとえ、ヒアリングから洗い出したニーズやお客様から挙がった質問、懸念点などを議事録に記載しても、それを実際の営業やマーケティングに活用しなければ宝の持ち腐れです。より営業の成果を高めるためにも、商談相手の購買意欲を高めるような営業アプローチを実践することが重要です。
なお、Hubspotが公表している統計データでは、見込み客が好印象を受ける営業のポイントとして「ニーズに耳を傾けること」や「押し付けがましくないこと」、「見込み客に役立つ情報を提供すること」などが上位要素として挙げられています。
こうした統計的なデータも参考にしつつ、顧客の購買意欲を高めるアクションプランを考えてみると良いでしょう。
商談の議事録は営業活動でも活用できる
商談の際に作成する議事録は、その後に行う営業活動でも有効活用できます。具体的な活用方法としては、「商談内容(自社の商品・サービス)に対する顧客の理解を深めること」や「顧客との認識共有を図ること」が挙げられます。
この章では、2つの活用方法を具体的に解説します。
商談の議事録をお客様に共有することも有効
1つ目の活用方法は、実際に商談を行ったお客様に対して議事録を共有することです。商談を行った際、多くの企業ではお客様に対してお礼のメールを送付することでしょう。その際、商談で話し合った内容の中で特に重要な部分を共有するのがお薦めです。
重要な内容を共有すれば、お客様自身が話した内容について確認し、理解を深めることができるからです。また、再び自社製品やサービスを検討してもらうにあたって、商談で伝えた内容を思い出してもらいやすい効果もあります。
つまり商談の内容をお客様に共有すれば、自社や製品・サービスに対する理解度や好感度を高める効果が期待できるわけです。理解度や好感度が高まれば、商談が成立する可能性も高まると考えられます。
ただし商談の議事録をそのまま送ると、長々とした文章で読む気を無くされるリスクがあります。特に重要な部分をGoogleドキュメントなどの文書に抜粋した上で送付しましょう。
商談の議事録があると2回目以降の共通認識になる
2回目以降の商談に備えて、お客様との共通認識の形成を目的に商談を活用するのも有効です。前述したとおり、商談は複数回にわたって実施されるケースが大半です。一回目の商談で作成した議事録があれば、2回目以降の商談で「前回はここまで話しました。この部分が論点でしたので、今回はこの点についてお伝えいたします」といった形で、お客様との間で共通の認識を形成できます。
前もって共通の認識を持っていれば、前回話した内容を再び話さずに済むため、無駄な時間を省くことができます。また、認識の違いが原因で見込み客に不信感を抱かれてしまい、結果的に商品・サービスの購入が見送りとなる事態も回避できるでしょう。
特に、前回の商談から時間が経過していたり、BtoBで商品・サービスが複雑なものである場合だと、顧客との認識にズレが生じやすくなります。認識のズレによって商談が失敗に終わる事態を避けるためにも、前回の商談で作成した議事録を積極的に活用しましょう。
商談の議事録をフォーマット化する
商談の議事録は、あらかじめフォーマット化しておくと便利です。営業マンによって議事録の書き方が異なると、記録が読みにくくなったり、営業マンの違いによる情報の抜け漏れが生じたりして、営業に必要な情報を管理することが困難となります。
そうした事態を避けるためにも、あらかじめ議事録に記載すべき項目が明確となっているフォーマットを作成しておくのがおすすめです。フォーマットを使えば、営業マンの違いに関係なく、常に見やすい議事録となるでしょう。
なお商談の議事録をフォーマット化する場合、およびフォーマット化した議事録を用いる際には、次の2点を意識することが重要です。
「5W1H」を意識して議事録のフォーマットを作成する
議事録のフォーマットを作成する際には、「5W1H」を意識しましょう。5W1Hとは、「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」という6つの英単語の頭文字をとったものです。
商談の議事録は、他の業務で忙しい上司や他部門のスタッフ、お客様などが確認するものです。したがって、一目で商談の要点が理解できるような内容でなくてはいけません。長々と事実を羅列しただけでは、要点を理解するまでに時間と労力がかかってしまいます。
一方で5W1Hを意識して議事録を作成すれば、「いつまでに誰が何をすべきか」や「なぜ見込み客は自社のサービスの利用をためらっているか」など、重要な論点を一目で理解できるものとなります。
5W1Hを抑えたフォーマットを作成すれば、誰が商談に臨んでも分かりやすく質の高い議事録を作成できるでしょう。その結果、営業部門の全体で顧客から良い評価を得ることにもつながります。
フォーマットを使ってなるべく早く議事録を完成させる
あらかじめ用意したフォーマットを使う際には、商談が終わったらなるべく早めに議事録を作成するようにしましょう。
すぐに作成すべき理由は2つあります。まず1つ目は、記憶が鮮明なうちに作成することで、より正確に商談の内容を文面に残せるからです。時間が経ってから作成すると、記憶が薄れていて正確に商談の内容を議事録に反映できないリスクが考えられます。
エビングハウスという心理学者の研究によると、ある事柄を暗記してから1時間後には56%、1日後には74%も忘れてしまうとのことです。短時間で覚えたことを忘れてしまうため、なるべく商談から24時間以内には議事録を作成するのがベストでしょう。
2つ目の理由は、早めに議事録やお礼のメールを送るほど、見込み客からの好感度が上がるからです。先ほど取り上げたHubspotのデータによると、51%の見込み客が「すぐに対応すること」を好印象を受ける営業のポイントとして回答したとのことです。
つまり、商談を行ってからすぐにお礼メールと議事録を共有すれば、見込み客から良い印象を持ってもらいやすくなるわけです。反対に数日〜数週間経過してから共有すると、かえって不信感を持たれてしまう可能性があります。
営業で成果を出すには、営業のスキルはもちろんですが、お客様から良い印象を持ってもらうことも大切です。印象を良くする手段の一環として、なるべく早いタイミングで議事録やお礼メールを送付するのがお薦めです。
まとめ
商談の議事録には、お客様からヒアリングした内容や、営業マンが提案した内容などの他に、商談で発見した懸念点や次回のアクションプランなども記載します。
そんな商談の議事録は、商談内容を単純に記録するだけでなく、関係者への状況報告やアクションプランの明確化、顧客との共通認識の形成など、あらゆる目的で有用なツールです。営業の質を高めたいならば、ぜひ積極的に議事録を活用してみてください。
なお、営業の質を高める上では、「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」も役立ちます。こちらのガイドでは、営業の効率化・売上増加を実現する方法を手順に沿って解説しています。経験の浅い営業マンの商談化率を高めるヒントを得られるので、ぜひこちらもご参考にしていただければ幸いです。