営業マンであれば、一度はヒアリング能力を高めたいと思ったことがあるのではないでしょうか。ヒアリング能力は、営業の成果を大きく左右するほど、重要度の高い能力です。
さまざまな商品や情報が溢れる現代において、商品説明をするだけでは営業成績を伸ばすことが難しくなっています。お客様のニーズを的確に汲み取り引き出すことが必要不可欠となり、ヒアリング能力の必要性は増しています。
このヒアリング能力を高めるテクニックの一つであるSPIN話法。お客様の潜在ニーズを引き出しお客様との信頼関係を生み、商談の成功へと導きます。今回はSPIN話法の概念と、行うべき3つのステップを紹介します。
SPIN話法とは
SPIN話法とは、Situation Questions(状況質問)、Problem Questions(問題質問)、Implication Questions(示唆質問)、Need-Payoff Questions(解決質問)の4つの構成から成り立つ営業における質問手法です。それぞれの頭文字「S・P・I・N」をとり、SPIN話法と呼ばれています。
SPIN話法の特徴は「ニーズをお客様の口から引き出し、その課題解決のための手段として商品・サービスを提案すること」です。営業と考えると営業マンが商品・サービスの説明を行い、価値を感じてもらうような売り込むイメージを持つ人もいるかと思います。
お客様のニーズに合っていない、一方的な営業ではお客様から嫌われてしまいます。SPIN話法は決して「サービス・商品の説明を行うだけの営業」ではありません。お客様の悩み・課題をお客様の口から引き出し、「課題の解決策としてサービス・商品を提案」することがSPIN話法です。
SPIN話法が注目されたきっかけ
なぜSPIN話法が注目を集めているのでしょうか。株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの「日本の営業実態調査2019」によると、営業マンの約85%は営業活動で不安を感じることがあり、その不安に感じる内容は「お客様と関係構築できているか」や「提案内容は適切か」が上位にラインクインしています。
(引用元:http://attax-sales.jp/news/6025/)
また、「優秀な営業マンが持っている必要な営業スキルとは何か」というアンケートでは、優秀な営業マン・営業ウーマンが持っている営業スキルは、コミュニケーション能力やヒアリング能力と答える営業マンが多いようです。
(引用元:https://saleshacks.digima.com/essential-selling-skills-that-great-sales-reps-have/)
営業マンの多くは、現場で「お客様との関係性構築」に最も気をはらい、言い回しや伝え方、ヒアリング項目に悩まされているのかもしれません。逆に「お客様との関係性構築」に必要なコミュニケーション能力、ヒアリング能力を習得さえすれば、優秀な営業マン・営業ウーマンに近づける可能性が高まります。
お客様との関係性を構築する上で気を付けなければならないのは、「お客様が必要だと思っていない商品・サービスを押し売りしないこと」です。皆様も営業電話や訪問販売がきて、ご自身が不要だと思っている商品・サービスの紹介を一方的にされると、不快な気持ちになるのではないでしょうか。
そのような営業をしてしまうと、商品のこともよく思えない上に、営業マンにも不信感を覚えるはずです。そうなってしまっては、どれだけ魅力的な商品を提案しても契約につながらなくなってしまいます。
逆に信頼できる営業マンを思い浮かべてください。自分の悩みを共感してくれる、課題解決に適切な提案をしてくれる、押し売りではなくヒアリング中心で悩みを聞いてくれる営業マンが挙げられるのではないでしょうか。
共通するのは「お客様のニーズや課題を引き出し、その解決策として商品・サービスを提案」することです。その概念をニール・ラッカム氏がSPIN話法として提唱し、営業力向上を目的とした営業マンが注目し始めました。
SPIN話法の4つの質問
SPIN話法には4つの質問があり、順番があります。営業マンがお客様のニーズや課題把握を行い、お客様自身に課題を認識してもらう。その課題の重要性を理解してもらい、その課題解決策として商品・サービスの提案を行います。
① Situation Questions(状況質問)
Situation Questionsとは状況質問のことです。お客様の状況を一切分からない段階では何も提案できません。お客様のことを理解するための質問を行います。
営業支援システム販売の例)
- 営業マンは何人いますか?
- 営業エリアはどちらですか?
- 営業マンを採用する予定はありますか?
課題特定につながるための質問をして、お客様の理解を深めましょう。
ただし、2点注意することがあります。それは「質問の前に前置きを行うこと」と「Situation Questionsはたくさんしないこと」です。関係性がしっかりと築けていない人からたくさんの質問をされると、尋問されているような気持ちになりかねません。
そのため、「しっかりとお客様のことを理解していないと最適な提案ができないため、最初にいくつか質問させていただいてもよろしいでしょうか?」と前置きをしましょう。また質問が長すぎてもいけないため、聞きたいことを事前にまとめておき、意味のある質問だけしましょう。
② Problem Questions(問題質問)
Problem Questionsとは問題質問で、ヒアリングを通して、お客様に課題に気付いてもらうための質問です。先ほどのSituation Questionsで得た情報をもとに、お客様の課題・不満に関してどのように感じられているか、考えられているかを質問します。
営業支援システム販売の例)
- 営業マンが2名だと対応しきれないお客様はいませんか?
- 遠方のエリアまで営業をしていると移動時間が多く、不便に感じることはありませんか?
この質問では問題・課題があることを認識してもらうことが目的ですので、このような問題があるのではないか?と先に想定し、その仮説を確認しましょう。
一つ気を付けるべきことは、「課題はお客様の口から引き出す」ことです。営業マンから「これが課題です」と言われるより、自らの口で「これが課題だ」と言ったほうが、お客様の問題認識度が深まります。そのためお客様の口から課題を引き出すようにしましょう。
また、最終的には自社の商品・サービスでお役に立たないといけないので、提案する商品・サービスで解決可能な課題にすると良いでしょう。
③ Implication Questions(示唆質問)
Implication Questionsとは示唆質問のことで、先ほど挙げた問題・課題の重要度を理解してもらうための質問です。
営業支援システム販売の例)
- 対応しきれなかったお客様から発注してもらえなかった場合、受注予測金額はいくらになりますか?
- 移動時間が多く、ほかの業務を出来ていない可能性はありませんか?
なんとなく問題だと思っているが、そこまで重要だと思っておらず、解決を先伸ばすことは誰でもあります。先延ばしになる原因は、その課題が重要、または危険だと感じていないためです。
例えば、社員の個人情報をExcelで管理し、セキュリティの低いサーバーに保管していたとします。個人情報取扱が厳しくなっていることは知っていながらも、セキュリティの高いサーバーに移管することは大変だし時間がかかるため、なかなか腰が上がらないことがあります。
ただ、もし個人情報流出してしまった場合、賠償金や企業のブランディング低下は避けられず企業に与える損害は甚大です。その損害の大きさをしっかりと理解してもらえれば、課題解決に動いてくれるはずです。このように行動を促すのが示唆質問です。
「問題・課題の重要度 < 作業の時間・大変さ」となっているお客様の思考を、示唆質問により、「問題・課題の重要度 > 作業の時間・大変さ」に変えるのです。
④ Need-Payoff Questions(解決質問)
Need-Payoff Questionsとは解決質問で、課題解決策を提示し感想を伺う質問です。
営業支援システム販売の例)
- 当社のサービスを導入することで、営業マン不足で生じていた機会損失を無くし、受注金額増加が見込めますがどう思いますか?
- インサイドセールスを導入することで移動時間が削減ができると思いますが、その削減した時間でどのようなメリットがあるとお考えですか?
問題質問と同様に、サービスを導入することでどのようなメリットが発生するかを、お客様の口から引き出しましょう。営業マンが考えるメリットではなく、お客様自身がどのようにメリットを感じるのを引き出すことが大切です。
SPIN話法は日常生活でも使っている
イメージはできましたか?ビジネス・営業というだけで難しく考えてしまいがちですが、SPIN話法は日頃みなさんが何気なく行っていることです。理解を深めるために日常生活の1シーンに置き換えてみましょう。
〈想定〉
- 40歳父、40歳母、6歳息子の三人家族
- 父は子供(太郎)に水泳教室に通わせたいと思っている
- 母は6歳から習い事は必要ないと思っている
※父が母に水泳教室に通わせる重要性を理解してもらう会話です。
父:小学校1年生になったけど、太郎は楽しく通えているのかな?(S)
母:いつも楽しそうに登校しているし、帰ってからもお友達のことをたくさん話しているよ。ただ、太郎が体調をよく崩すようになってきたの。
父:それは心配だね。確かに最近、太郎が体調を崩すことが多くなったね。何が原因だと思う?(P)
母:外で遊ばないから免疫が下がっていることが原因だと思うの。ゲームやお絵かきなど家の中で遊ぶことが好きで、外に誘わなければずっと家の中にいて…。無理やり連れて行っても意味がないし。ただ、運動しないと体力も免疫もつかないから心配なのよね。
父:それは心配だね。確かに家の中で遊ぶことが好きだもんな。太郎はなんで外で遊ぶことが嫌いなんだろう?(P)
母:砂や泥で汚れることが嫌いらしいわよ。
父:なるほど。でも運動をしっかりとしないと、免疫が下がり病気にかかりやすいだけではなく、肥満や集中力の低下、物事への意欲・気力の低下に繋がる危険性があるみたいだけど…どう思う?(I)
母:そうなのよ、とても心配。どうしたら運動してくれるのかしら?
父:外で運動することではないけど、水泳教室に通わせみてはどうかな?水泳なら室内だから汚れることはないし、運動もたくさんできる。太郎はお風呂が好きだから、喜んで通ってくれると思うよ。水泳を通して運動することの楽しさを覚えたら、自然と外で遊ぶようになると思うよ。
母:そうね。じゃあ今度の週末に水泳教室の見学に3人で行ってみようか。
このような会話を夫婦や友人、会社の同僚と何気なくしていませんか?相手に寄り添い、会話をすることで、自然とSPIN話法は身につきます。
逆にこの夫婦の場合、父が水泳教室についてただただ熱く語っても、必要性を感じていなかった母の気持ちは揺らぐ可能性は低く、夫婦仲が悪くなる危険性がありました。まずは相手に寄り添い、一緒に課題解決に向けて悩み考え伴走することを考えましょう。
SPIN話法を今から実践する3ステップ
「早速SPIN話法を活用しましょう」といっても何から始めるかが不明確だと実行しづらいかと思います。
まず実践することも大切ですが、むやみにチャレンジしても効率よくSPIN話法を取得できるわけではありません。いきなり実践しても思い通りにならないため、まずはご自身の商品・サービスを用いて、シミュレーションやロールプレイングをしてみましょう。
今回は、SPIN話法を実践するために3つのステップを紹介します。
① 提供できる価値、お客様の課題を想定する
あなたが提供する商品・サービスはどのような価値を提供しますか。この回答が「他社よりも高機能である」だけではダメです。高機能であることは素晴らしいことですが、あくまでも手段の一つであり、それ自体が価値ではありません。提供する価値、解決可能な課題を先に羅列し、その課題がヒアリング中に引き出せた瞬間に提案できるように準備しましょう。
お客様が課題に感じやすい5つキーワードがあります。このキーワードに基づいてお客様の課題を書き出し、その課題に対してどのような価値提供ができるかを考えてみましょう。その5つのキーワードとは、時間、労力、経費、責任、他社視点です。
〈5つのキーワード〉
- 時間:納期に遅れる
- 労力:無駄な業務、作業
- 経費:経費削減、無駄なコストの発生
- 責任:会社または担当者の責任
- 他社視点:他社、お客様からの信頼低下
時間
時間における課題としては、期日に間に合わなくなることや時間に遅れることで他社に迷惑をかけることです。そのような課題には、時間の効率化の提案をすることでお客様にメリットを感じてもらいやすくなります。
例えば、月末までにお客様先に商品を届けなければならないが、採用活動が上手くいっておらず、納期に間に合わないとします。納期を守れない場合、お客様に迷惑がかかってしまうため、このような課題に関して人材派遣の提案をし、人材の確保と納期の順守できる価値を提供することできます。
労力
労力の観点の課題としては、無駄に業務が多いことや何かの業務を追加することにより、業務時間が増えることです。労力課題の悩みに関しては、その無駄な作業・労力を削減する提案をするとお客様は興味を感じるでしょう。
例えば、総務業務を1名の社員と2名のアルバイトが担当していたとします。総務業務の中で出張手配業務の比率が多く、別の業務に支障をきたしていることや、業務過多によりアルバイトの人件費高騰が課題として挙げられます。そのような場合、出張手配業務代行とサービスを提案することで、労力の削減の提供することができます。
経費
経費課題の場合、お客様が課題に感じていることとしては、無駄な出費やコストアップです。例えば社員が退職してしまう場合、人員補強をしなければなりません。その場合人材紹介費用が発生しコストアップにつながってしまいます。例えば社員の退職率低下のサービスを提供することより、経費課題を解決することができます。
責任
会社または担当者が責任を取らないといけない事象が発生することです。例えば個人情報流出してしまう場合、会社の責任が問われます。この責任課題を未然に防ぐためにセキュリティ強化の提案をすることで、その心配を取り除くことができます。
他社視点
他社に迷惑がかかることや、お客様からの信頼を損なう可能性を排除する提案をすることで価値提供できます。例えばインターネット上の書き込みによりお客様からの信頼低下のリスクがある場合、その書き込みを消す、または防ぐサービスを提供することによりお客様に喜んでもらえます。
② 質問項目を準備する
提案する価値、想定するお客様の課題が揃ったら、次はその課題を引き出すための質問を準備しましょう。むやみに質問してはお客様から課題を引き出せないだけではなく、的を得ていない質問はお客様からの信頼を損ないます。しっかりと質問に意味を持たせるためにも、どのような質問をすることでお客様が課題を理解できるかを考えながら質問を考えましょう。
例えば、社員の離職率が高い場合、どのような質問をすることで課題をお客様に認識してもらえるでしょうか。
- 最近転職しやすい市場となってきており、他の企業様では社員さんの退職を心配する声が多くなってきているのですが、御社ではどうですか?
- 退職された場合、人員補強はされますか?その場合、人材紹介料が掛かってしまいそうですが、いつもどれくらいお支払いされているのですか?
上記のように他の企業様の意見を交えながら、退職リスクに関して質問を行うこともできます。課題をお客様に認識してもらえるような質問を考えてみましょう。
③ 苦手な営業スキルを分析する
ご自身の苦手の営業スキルは把握できていますか?提供できる価値、課題の想定、質問事項の準備が出来たとしても、アプローチ準備やコミュニケーション能力が不十分の場合、営業は上手くいきません。優秀な営業マンを分析し、どこが苦手かを把握しましょう。
苦手な項目を理解することで、現場で意識することができますし改善するためのトレーニングも可能です。より良い価値をお客様に提供するためにも、今一度、営業スキルを見直してみましょう。
まとめ
営業マンが必ず身につけたいと考えるヒアリング能力。今回はSPIN話法を紹介しました。SPIN話法を身につけることで、お客様を理解し、寄り添った提案ができるため、成約率の大きな向上が見込めます。
現状の営業活動を見直して、「営業活動のどこで課題があるか」あるいは「さらに改善できることはあるのか」を把握してみてください。
「営業スキルチェックシート」では、自身の営業スキルを10分で確認できます。ぜひ自身の営業スキルの確認にお役立てください。