営業マンが身につけておくべきロジカルシンキングとは

営業 ロジカルシンキング

営業マンにはコミュニケーション能力やヒアリング能力の高い人が多いと思います。一方、ロジカルシンキング(論理的思考)や分析力は自信がないという人が意外に多いのではないでしょうか? 

もともと、日本人はロジカルシンキングが苦手だと言われます。欧米のディベート文化と違い、あうんの呼吸、空気を読む文化であり、正しい意見であっても主張が強すぎると「いや、そこまで言うな……」と、むしろぼかす表現が良しとされる場合もあるでしょう。

しかし、ロジカルシンキングはお客様の課題を解決する立場の営業マンにとっては、かなり役立つ思考方法です。身につけると「物事の本質を考えるようになる」「仕事のスピードが速くなる」「簡潔でわかりやすい説明ができる」などメリットが多々あります。

本記事では、営業現場で役立つロジカルシンキングを身につけるノウハウを紹介します。

ロジカルシンキングとは

ロジカルシンキングとは直訳すると「論理的思考」という意味です。論理とは思考の論証や組み立てのことです。ちなみに論理学とは古代の中国、インド、ギリシアの時代から今に至るまで研究され続けてきた「推論によって結論を導き出す学問」のことであり、哲学や数学の一分野です。

一方、昨今、注目されているロジカルシンキング(論理的思考力)とは、どちらかと言えばビジネスに特化した論理的思考力のことであり、「欧米流のビジネス思考を『ビジネススキル』として確立させたもの」言ってよいでしょう。以下のような合理的な思考様式です。

  • 論点(本質、イシュー)は何かを軸においた思考
  • 根拠にもとづいた主張をする筋道の通った思考
  • 問題を分解して整理・検証し仮説を導き出す思考

よく、「彼は論理的だ」「ロジカルでわかりやすい」と表現するように、ほとんどの人はある程度の論理的思考ならできます。ところが、単純ではなく複雑な事象になると、途端に論理的な思考ができない人が多くなります。

思いつきで一つの結論に飛びついたり「今までこうだった」というだけの理由で同じ対応をとり続けたり、正常性バイアスや偏見に影響され決断を間違うこともあります。実は意識していないと、論理的思考を実践するのはなかなか難しいことなのです。

近年のように指数関数的に変化していく時代は成功体験に頼っても上手くいくとは限りません。物事の本質を見極め、最適解を見出すロジカルシンキングは、今後ますます有用になるでしょう。

なぜロジカルシンキングが大切なのか

ここでは、営業マンの仕事のシーン別にロジカルシンキングが大切な理由を解説します。

お客様に提案を行うシーン 

営業の仕事の本質は「お客様の課題を解決すること」にあります。お客様が抱えている課題は、大抵の場合単純ではありません。曖昧だったりもやもやしていたり、さまざまな要因が絡んでいて複雑です。

営業マンはそれを紐解いて本質的な原因を掴んで、実現可能な解決案を提案する必要があるのですが、この課題を分解したり解決策を組み立てるときに、ロジカルシンキングは大いに役立ちます。根拠と主張が明確なロジカルな提案ができれば、お客様は提案にメリットを感じますし、稟議書が書きやすくなります。結果、成約率が上がります。

社内の営業研修やフィードバックを行うシーン

営業研修などで後輩の営業マンにフィードバックを行う際に、一貫していない指摘をしたり感情論で伝えてしまうと納得してもらえず、信頼を失うことがあります。 個人の感覚や経験にもとづいたノウハウは、営業マンのタイプ、時代背景などが違うときはあまり再現性が高くないからです。

ロジカルシンキングのフレームワークにのっとって説明できれば、説得力が増します。もちろん、論理的=すべての仮説が正しいわけではありません。しかし、話の筋道が通っていると、人は自分と異なる意見であっても「なるほど、そのような考え方もある」「言っている理屈はわかる」と聞く耳を持つようになります。

チームの営業成績を分析するシーン

営業チームの営業成績を分析する際にもロジカルシンキングは役立ちます。売上げ総合金額の大きさだけを見るのではなく、ABC分析などで顧客別の売上げ進捗状況、新規成約件数の状況なども鑑みて営業マンの状況を掴みます。

営業マンの印象と売上げ数字だけ見てもわからないことが、数値をロジカルに分析すると見えてくるでしょう。その結果、個々の営業マンへ適切な指導・アドバイスができるはずです。チーム全体の営業成績を業界別、規模別、時系列に分析することで、営業戦略に活かすこともできます。

 営業戦略を立案するシーン

営業戦略を立案する際には、現状の課題を明確にすることが重要です。ロジカルシンキングのフレームワークでもある4PSWOT分析などを活用すると、営業現場の課題をより構造的に捉えることができます。成果をどのくらいの期間で出せるかも見積れるので、短期的な戦略と中長期的な戦略を同時に立てることもできるでしょう。

ロジカルシンキングに役立つ代表的な論法、フレームワーク

ロジカルシンキングをするときに活用する概念や論法、フレームワークを紹介します。

MECE(ミーシー)

MECEとは米国のマッキンゼー・アンド・カンパニー社の戦略コンサルタントが創った概念であり、mutually(互いに)、 exclusive(重複がなく)、collectively (全体的に)、exhaustive(モレがない)の頭文字をとった言葉です。「モレなく、ダブりなく」という意味で、ロジカルシンキングの基本概念として知られています。

課題に直面したときは、まず課題の全体像を正しくとらえることが重要です。アイデア出し、施策の立案、原因の分析、いずれもモレやヌケがあると正しい結果が導き出せませんし、重複があると時間がムダにかかります。MECEを意識しながら考えていくことは基本であり重要なことです。

MECEを頭の中だけで完遂することは困難なので、一般に「ロジックツリー」や「マトリックス」などのフレームワークを活用します。以下のように大きな課題も細分化すると小さな課題の集合体となります。可視化することでモレ、ダブリにも気付きやすくなります。

例):コロナ以降の営業施策案(ロジックツリーで分解) 

コロナ以降の営業施策案

なお、「7割押さえておけばOK!MECEの罠に落ちるな」という意見もあるように、分析作業は、どこまでも細かくできてしまうマイナス面もあります。営業マンとしては、あくまで売上げを上げる目的のために、必要なレベルの分析を意識することも大切です。

 演繹法

演繹法とはいわゆる「三段論法」のことです。ルール(一般論)→観察事項→結論という三段階のステップで結論を導きます。最初の一般論、観察事項の設定が正しければ正しい結論が導き出せます。

  1. 「日本は年々少子化が進行している」(一般論)
      ↓
  2. 「子供の数が減少するので学校法人は経営が苦しくなる」(観察事項)
      ↓
  3. 「若年層だけを入学対象にしたままでは学校経営は厳しくなる」(結論)

帰納法 

帰納法とは、数多くの事象や事例から論理性や法則を発見して結論を見出す思考です。アンケート結果などサンプル数が豊富なときに有効です。以下のようにデータや情報をもとに仮説を立てることもできます。

課題:withコロナの時代の、中小アパレルメーカーの営業戦略とは?

  • 事象1:国内上場アパレル企業の9割が2020年3月月次売上減少
  • 事象2:米国アパレル業界売上高は2020年3月前年同月比で50%減少
  • 事象3:大手アパレルメーカーのレナウンが破綻
  • 事象4:大手スポーツ衣料メーカーの水着素材のマスクが大ヒット
  • 事象5:ファッションマスク市場が勃興、大手~中小まで続々参入
  • 事象6:ファッションマスクに、批判が出るほど流行
  • 事象7:ECサイトに防疫帽子が登場
      ⤵
  • 新戦略:防疫ファッション市場へ転換必須。マスクをはじめ、コート、靴、帽子、傘などの外出用グッズに「防疫効果+ファッション性」を両立させてニーズを喚起する。

相関関係 と 因果関係

相関関係とは「Aが変わるとBも変化する」関係です。ただし、Aが原因でBという結果になると言い切れない弱い関係性です。 

  • 「コーヒーを1日何杯飲む人は〇〇にかかりにくい、コーヒーは健康に良い」
  • 「コーヒーを1日何杯飲む人は〇〇になりやすい、コーヒーは体に悪い」 

メディアなどでよくこのような言説が出ます。「一体どちらが正しいのか?」と思いますが、大抵の場合記事をよく読めば「相関があることが判明した」「~調査結果が出た」という表現になっているかと思います。人の体質は遺伝やその人の長年の食生活によって異なるため、「どの食品が健康によい」と100%言い切れないからです。まったく関係ない要素が結果に影響している可能性もあります。

一方、因果関係とは「Aが原因でB」という結果となる関係性です。 たまたまの偶然ではなくどのような状況下でも再現性があるものです。

  • 人材を大量採用したため本年度の人件費が増大した
  • 熱湯がかかったため火傷をした

など、明らかに原因から結果が導けるときが当てはまります。営業マンが扱う領域のデータには、相関関係が判明しているだけのものがかなり多いかと思います。科学技術の実験の場とは違って、ビジネスの現場ではさまざまな要素が絡んでおりAとBのみで因果が成り立つシンプルな課題は少ないからです。

因果関係や相関関係があるデータをもとに仮説を提案するときは、それぞれの意味を正しく理解して使いましょう。

仮説思考 

一般に、人が何か企画するときはインターネットなどで必要な情報を大量に集めてから、アイデアを出して、仮説を立てていきます。ところが仮説思考は、まず最初に仮説をたててから仮説にもとづいてデータや情報をを探し、仮説を検証していきます。

仮説思考のメリットは、先に仮説を立てることで本質に辿り着くまでの時間を短縮できるところです。際限なく情報を調べたり、一つの事象を考えすぎて時間を浪費することがなくなり、仕事が速くなります。途中で仮説が成り立たないとわかれば軌道修正できるため、当初の仮説は多少無理やりでも大丈夫です。

営業マンもお客様から何か相談されたとき、業界の動向、日頃のお客様との対話、社内で得られる他クライアントの事例などをもとにスタート時点である程度の仮説は立てられるかと思います。実は最初に少ない情報で立てた仮説と、大量にリサーチしたあとの仮説が同じことも少なくありません。

仮説思考ができると大幅に作業時間が短縮できるので、忙しい営業マンに特にお薦めです。

仮説思考

参考:Amazon

ロジカルシンキングを行うときの考え方のヒント

ここでは、ロジカルシンキングをするときの考え方のヒント、コツを紹介します。

「なぜ」を追求する 

ロジカルに考えるためには、思いつきで結論に飛びついたりせず、「なぜそうなるのか?」「なぜそうならないのか?」を掘り下げて考えていくことが大切です。

トヨタ式の「5回なぜを繰り返す」考え方が有名です。「なぜAという問題が起きたか? Bが原因」→「なぜBが起きたか→Cが原因」→「Cはなぜ生じたか?Dが原因」と5回「なぜ?」と繰り返し真因にたどりつく思考方法です。 思考が同じところで堂々巡りせず、スムーズに深堀りしていくことができます。

物事をカテゴライズする

何かを考えるときに物事をどう分類するかで、課題の見え方や理解の仕方がまったく変わることがあります。この類比、類推する手法の一つにアナロジー思考があります。 

アナロジー思考は対象を具体化、一般化(抽象化)するステップを踏むと比較的容易です。 また、チェックリストを活用して鍛える方法もあります。

具体化

何かを考えるときに具体的に考えていきます。例えば、考えるべきテーマに「5W1H」を使って、What(何を)、When(いつ)、Who(誰が)、Where(どこで)、Why(なぜ)、How to(どのように)とあてはめて、全体像をつかみます。

抽象化

抽象化とは複数の物事の共通点を見つけて一つの概念にまとめることです。一例をあげると、橋下徹氏が大阪府知事のころ、「こんな、ぼったくりバーみたいな請求書」という一言で、国の「直轄事業負担金制度」の問題点を世の中に広く知らしめました。

政治に興味のない一般人にまで「国の請求書は明細がない、高い、不透明」だと瞬時に理解させたのは、天才的な抽象化能力(アナロジーのセンス)だと言えるでしょう。もっとも、これは本人の資質に加えて、弁護士として裁判という「論理と論理の戦いの場」で培ってきた高等スキルではないかと思います。

TRIZ(トゥリーズ)

TRIZは40項目のチェックリストに照らし合わせながら考えていく思考方法です。

1. 分けよ
2. 離せ
3. 一部を変えよ
4. バランスを崩させよ
5. 2つを併せよ
↡↓
40. 組み合わせたものを使え

1から照らし合わせてもよいですし、アイデアに行き詰った時にTRIZのリストを見直すと発想のヒントになるでしょう。

 USIT(ユーシット)

TRIZをよりシンプルに体系化しわかりやすくした問題解決の方法論で「6箱方式」とも呼ばれます。問題を定義する→ 問題を分析する→ 解決策を生成する というプロセスですが、最初に「モノからの発想法」「性質からの発想法」「機能からの発想法」の3種類に分けてチェックリストに照らし合わせてアイデアを出し、そのアイデアを再構築していきます。

例):社内会議に費やす時間を削減したい

  • モノからの発想法/そのモノを無くす → 定例会議はなくす
  • 性質からの発想法/大きさ・形状を変える → オンライン会議にする、参加者数を絞る
  • 機能からの発想法/機能を別のモノに行わせる → 議事録のかわりにボードの画像をとる

参考:創造性工学研究所

事実ベースの情報収集を行う

ロジカルシンキングで正しい結論を導くには、引用するデータが正確であることが必須条件です。またデータを収集する範囲が狭すぎると、正しい答えは導けません。情報の質・正確さが求められます。

情報収集の際は自業界だけではなく業界外、日本だけでなく世界経済と、幅広い視点で収集することが大切です。 以下のような公的機関、研究機関、大手メディアのデータを押さえることが基本です。

  • 官公庁、公的機関
  • 大学、研究機関
  • 大手新聞、大手メディア

ロジカルシンキングを継続的に高めるためには

ロジカルシンキングを継続的に高めるには、日頃から物事を深堀することが必要です。何事にも「なぜ?」「そもそも」と考える習慣をつけましょう。

「そもそも、お客様が一番困っているのは何か?」「今のこの仕事のそもそもの目的は何か?」「この作業、そもそも必要か?」など本質を考えることが論理的思考につながります。

提案書を作成するときに意識的にフレームワークやチェックリストを使うこともおすすめです。
フレームワークとはすでに実証された推論の型なので、ゼロから自分で考えるよりも早く結果を導き出せます。使っていくことで徐々に論理的思考のパターンが身についていくでしょう。

お客様や上司と話すときは、以下の点を意識すると簡潔で論理的な説明ができます。

  • 結論から打ち出す(自分はこう思います)
  • 根拠のある主張をする(なぜなら〇〇〇、〇〇〇というデータがあるからです)
  • 根拠となるデータと自分の意見を区別して話す
  • 例えば~でと比喩表現で話をわかりやすくする

ロジカルシンキングが身についてくると「話のわかりやすい人」「頭の回転が速い人」と言われることが増えるはずです。さまざまな思考方法や論理が理解できるようになるので、物事や人への理解力が増し、創造性やコミュニケーション力もアップするでしょう。

まとめ

近年は変化が激しく先を見通しにくい時代です。だからこそ、お客様は営業マンの知恵や提案に期待してくれます。それなのに「御社の課題は何ですか?」「ご希望は何ですか?」と御用聞きスタイルで聞いてばかりいると、お客様によってはガッカリしてしまうかもしれません。

外部にいるからこそ持ち得る視点、業界内外の事例、マクロなデータなどをもとに、論理的に提案ができる営業マンになるためにもロジカルシンキングを学びましょう。もちろん、人は「論理」だけで動いてはくれませんので、ロジカルに思考しつつも営業マンらしく柔らかく、寄り添ったコミュニケーションを心がけることもポイントです。

こちらから「営業スキルチェックシート」がダウンロードできます。自分の現在の提案力のチェックができますのでご活用ください。

    営業スキルチェックシート

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