営業戦略立案の際に考えるKPI設定の3つのポイント

営業戦略 KPI

営業部門では、売上げ目標とともにKPI(重要業績評価指標)を設定することも多いと思います。 

KPIには新規コール数、新規メール数、飛び込み件数、資料送付数、通話時間、アポイント獲得数(率)、訪問数、キーマン面談率、提案率(商談化率)、売上げ単価、受注までの所要期間、リピート受注率など実にさまざまな種類があります。 

営業活動においてどれも重要な指標なので、つい多くのKPIを設定してしまいたくなりますが、KPIはあくまで売上げ目標を達成するためのプロセス目標です。シンプルでわかりやすく、数も少なくすることがKPIで成果を上げるポイントです。 

最適なKPIは営業部門の戦略やチームの営業マンのスキルによって異なってきます。自社の営業現場の状況をきちんと数値で分析してKPIを設定しましょう。

本記事では、営業戦略立案の際に考えるKPI設定のポイントを紹介します。

KPIとは何か?

KPIとは「Key Performance Indicator」の略であり、重要業績評価指標と訳され、ビジネスのさまざまな分野で目標達成のために使われる「中間指標」のことを指します。

営業マネジメントの現場においては、営業戦略の実行度合いを可視化し早期の課題発見や対応につなげ、営業目標を達成するためのプロセス目標を意味します。

「アプローチ件数」あるいは「商談数」などのKPIがあることで営業マンは日々何をすべきか、自分の行動は正しく成果に結びつくのかがわかりやすくなります。営業管理職はKPIの進捗状況を確認することで数字を予測することや、各営業マンの営業プロセス上の得意不得意がわかり対策を立てることができます。 

 KPIを最大限に活かすためには、以下の3点がポイントです。 

  1. KPIは営業戦略立案時に設定する
  2. 計測可能なKPIを設定する
  3. KPIの数字から判明したボトルネックに対策を実行する 

なぜ営業戦略立案時に考えるのが大切なのか

KPIは営業戦略立案時に考えることが大切です。なぜなら、営業戦略が違えば設定するKPIも違ってくるからです。KPIは営業戦略上の以下の3点を明確にしたうえで設定します。

  • 顧客ターゲット
  • アプローチ方法
  • 顧客に提供する価値

同じ会社の営業部門でも新規開拓営業中心のチーム、既存顧客営業中心のチーム、各業界に特化したチーム、エリア別のチームなどがある場合、チームごとに顧客ターゲットも営業戦略もやや異なります。チームごとに重要KPIも変わるのです。

新規開拓部門なら大型重点顧客のアポイント数をKPIに設定してもよいでしょう。商材によっては一年間の売上げが100万円のお客様も1,000万円のお客様も営業プロセス自体は同じであり、受注までの難易度もそう変わらないことがあります。いかに自社商材のニーズがあって予算を持っている見込み客を獲得するかで、売上げが数倍変わることもあるので、最初のターゲットを絞り込むことが重要になります。

既存顧客営業チームの場合は、訪問やメールでのコミュニケーションなどお客様へのアプローチ数や提案金額、売上げ増加率などが重要になってきます。

エリア営業の場合は、大きな企業が多いエリアもあれば少ないエリアもあります。リテンションやリピート受注中心の営業活動になる場合は、KPIも訪問数、フォロー数、リピート受注率などにした方がよいでしょう。エリアの実情を理解した上でKPIを設定する必要があります。

また、お客様に提供する価値が何かによっても、KPIの設定は変わってきます。

例えば、最近増えているサブスクリプションサービスの場合は、単価が低いサービスが多いため、購入してもらった時点では売上げ金額もそれほど高くなく、お客様自体もまだ成果を得ている段階ではないかも知れません。あくまで「お客様がサービスを活用し続け成果を得ること=会社の成果につながること」なので、KPIも「申込数」より「解約率」が重視されたりします。

売り切り型かリテンション型か、問題解決型サービスか顧客体験提供型サービスかなど、ビジネスモデルの違いによって提供する価値が違うため、重要とするKPIも異なってきます。

KPIの数値の出し方

営業部門では営業目標に対してどのくらいの行動を営業マンがとればよいかを、営業プロセスを数値で分析したうえで目標数字から逆算して設定します。 

1. 営業プロセスを分析

以下の図のように自社のテレアポの新規アポ率は3%→新規アポイントの中から受注する率20%というように営業プロセスの段階ごとの自社の平均数字を出します。

営業プロセスを分析

2. 仮に営業マン10人のチームで「月に10件の新規目標件数」がきた場合、上記データをもとに逆算するとチームで月に10件の新規受注が必要→50件の商談が必要→そのためには約1,600件のコール数が必要なります。

3.  「コール数」をKPIにする場合は、1600件を営業マン数10人で分割して設定します。

  • 営業マン一人あたり新規開拓コール数KPI = 月160件

    もちろん、現実には担当している顧客数に応じ配分を変えることもあります。企業によって受注までのサイクルもアポイント率も異なりますので実際にはもっと細かく配慮して設定します。一般に新規開拓と既存顧客の受注率は差があるため、受注率は別々に計算したほうが現実に即したKPIを出せます。

営業戦略立案時に考えるKPIの種類

KPIには非常に数多くの種類がありますが、突き詰めれば営業活動で売上げを増やすKPI設定は以下がポイントとなります。

  1. 開拓する数を増やす(見込み客数を増やす)
  2. 各営業プロセスの効率をあげる
  3. 提案単価をあげる
  4. リピート率をあげる
    (※既存顧客営業なら2,3,4がポイント)

以下に、営業戦略立案時に考えるKPIの種類について4つの例を紹介します。

 ケース1: 新規顧客への営業を強化する戦略をとる場合

 KPI:

  • コール数
  • メール営業数
  • アポ取得社数(率)
  • 決裁権者(キーマン)面談率

あまり新規開拓を行ってこなかったため見込み客数が少ない企業は、まずメールや電話などのアプローチによるアポイント取得のKPIが必要です。そもそも見込み客の母集団が潤沢にあってこそ、その後の商談率などのKPIも意味を持ちます。

新規開拓から受注までは時間がかるため、新規開拓になれていない段階なら受注金額よりもプロセス目標として新規メール数、テレアポ数、飛び込み件数などの「アプローチ数」をKPIにしたほうが営業マンのモチベーションにプラスです。営業管理職は成果があがっていない段階でも部下がKPIの件数を達成しているのであればきちんと評価する(頑張っていると認識する)ことが大切です。

ケース2: マーケティング部門+インサイドセールス+営業部門を連携させる場合

部門ごとのKPI:

(マーケティング部門)

  • SEO検索順位
  • コンバージョン数(メルマガ登録、問い合わせ等)
  • SNS拡散率

(インサイドーセルス部門)

  • コール数
  • キーマン確認数
  • ニーズ発掘数(案件化数)
  • 営業部門に渡す見込み客数(商談数)

(営業部門)

  • 見積もり・提案書提出数
  • フォローメールorフォローコール率
  • (成約率)

マーケティング部門とインサイドセールス、外勤営業チームが連携している場合も、各部門がプロセスごとのKPIを設定して数値を記録し改善し続けます。アポイント獲得までの一連の行動を行うインサイドセールス部門では、商談自体は営業マンが担当するため、一概に売上げ金額や成約率だけでインサイドセールスを評価できない場合もあり、プロセスごとのKPIが重要な目標となります。

営業のKPIに「成約率」を設定することもできますが、分業体制で成約率を入れるとニーズがすぐにないアポイントを振られることに抵抗感を持つ営業マンが出てくることも想定されます。また、営業マンが自分で獲得したアポイントほど思い入れを持たないことも想定されるため、フォロー率などもKPI設定し、顧客離れを防ぐことがポイントです。  

ケース3: 既存顧客への顧客単価向上(アップセル)を中心とする戦略

KPI:

  • コンタクト数(訪問、メール、チャット)
  • 提案単価
  • 提案回数(1社に異なる案件提案)

既存顧客営業の場合は、取引単価を上げるために売上げに直結しやすい「提案単価」をKPIとして設定する必要があります。複数案件などを獲得するため1社に対して異なる提案をしているかどうかのKPI設定も必要です。 

なお、新規開拓と既存顧客営業の両方を一営業マンが行う組織の場合は、バランスよく新規開拓営業と既存顧客営業のKPIを絞り込みます。商談件数がKPIだと新規開拓件数ばかりに目がいってしまい既存顧客のフォローが疎かになってしまい、金額のみを指標にすると売上げの上げやすい既存顧客営業のみに営業してしまう可能性があります。

ケース4: フリーミアム戦略をとる場合

フリーミアム戦略とは無料サービスを提供し、参画したお客様すべてから受注を目指すのではなく、その中の一部をお客様にすることで収益をあげることを目指す戦略です。IT業界の新規サービスのリリースや新しい求人メディアがスタートするときなどのように、シェアを一気に奪いたいときによく使われます。

 KPI:

  • 獲得件数
  • 重要顧客獲得件数

フリーミアム戦略は、営業マンの売上げにすぐ結びつかないためKPIは金額ではなく「件数」が妥当です。その後の案件化率、提案率、受注率なども重要ですが、フリーミアム戦略自体が案件化しない顧客が多いことを前提としている戦略なので、当初はあくまで営業マンがコントロールできる「件数」にしぼったほうがよいでしょう。

KPI設定で失敗しないために

最強の営業力で知られるキーエンス社は営業プロセスごとにKPIが定められており、徹底的に数値でマネジメントされているそうです。同じく、営業が強くKPIマネジメントの先端をいくと言われるリクルート出身者の著書には「KPIは信号だから一つ」と書かれています。

両社とも優秀な人材を獲得できる企業という点では同じですが、業界の違い、商材の違いもありKPIの運用スタイルは異なります。

KPIはあくまで自社の状況にあっていることが大切です。

昨今の営業現場では、「KPIが多くて混乱する」「KPIが面倒」「KPIが提案数なので見込みが薄くても無理に提案する」というような本末転倒な事態も見聞きします。株式会社富士ゼロックス総合教育研究所の調査によると、営業組織は営業戦略の中身を理解していないのに、なぜか頑張って実行する傾向があるようです。

訳がわからずKPIを追いかけると、手段の目的化を招いてしまうかも知れません。あまり、情報に振り回されずに自社の営業現場と営業マンのスキルをきちんと把握して、できるだけ営業マンが成果につながると腹落ちするKPIを設定しましょう。

KPIに対する意識がなかったような営業チームなら、「顧客訪問数を増やす」ことのみをKPIにするだけでも営業成績が上がる場合があります。

KPIは売上げ目標とは違い単なる指標であり、戦略に応じて替えることができるものです。今は営業マンの成長のためにこのKPI、もう一段階進んだら質を重視するKPIというように現場に即して考えていくことができます。

設定したKPIを達成するためには

設定したKPIの数字を収集するだけではなく、日々のKPIの状況を見ながら適宜対策を立てて営業目標を達成するために役立てることが大切です。

近年は営業日報をExcel、SFAで兼ねているケースもあるかと思います。毎日のKPIの数値が一覧で確認できれば現在どのようなKPIが達成できていないか(必要な行動がとられていないか)は一目瞭然です。

一人二人ではなく多くの営業マンが達成できないKPIは以下のように原因をつきとめ対策を実施します。

  •  アポ率が低い……
    トークスクリプト、メールスクリプト、営業リストの見直し。ただし、飛び込みによる名刺交換数が対策を施しても一向に改善されない場合は、昨今のセキュリティへの意識の高まりなども踏まえ、飛び込み訪問をKPIから外すなど、あまり成果に貢献しないKPIは削っていきます。
  • 提案率が低い……
    課題把握力が弱い可能性あるためヒアリング、傾聴、SPIN話法の研修、Pest分析など営業マンの思考の枠組みを広げるフレームワークの指導を行う。あるいはニーズの少ない企業に頻繁に訪問していないかを確認する。
  • 提案通過率が低い……
    決裁権者(キーマン)に営業できていない可能性があるため、BANT条件などを再認識してもらう。
  • 商談数が少ないが売上げに変化がない(下がっていない)……
    今はメールもビジネスチャットやオンライン商談も、お客様との重要な接点です。訪問件数が少なくても営業マンがデジタル上のコミュニケーションに長けている場合もあります。業界によっては訪問件数ではなくコンタクト件数にした方が妥当な場合もあるでしょう。KPIの定義を見直すことも大切です。

設定したKPIは一定期間継続して活用し続けます。日々の行動量を増やすということは、これまでより負荷が営業マンにかかるということです。すぐ変化できるものではなく慣れるまで時間も必要です。また、KPIの数字が改善されたことがどのように営業数字に反映するかも、半年~一年単位で長期的に分析していく必要があります。

まとめ

一昔前は「もっと売れ」「もっと新規アタック数を増やせ」「お客様をフォローしろ」という大まかな指導をする営業管理職の方は少なくなかったと思いますが、今はKPIという指標を使って「A君の新規獲得率は半年ベースでみるとアポ数の〇%だから、新規売上げ増やすには月〇件くらいのコールが必要」と、論理的に部下に説明することが可能です。

営業マン個人もKPIの意味を理解することで、自分はどのくらいの行動量が必要かがわかり成長につながりますし、管理職にとってはKPIを見れば営業マンが躓いてる段階がわかるため部下の指導がしやすくなるメリットもあります。営業戦略にそって売上げ目標を達成するために、営業マン全員に成長してもらうために、有効なKPIを設定しましょう。

本当に使える、意味のある営業活動KPI集」では営業シーン別で使えるKPIを紹介しています。自社KPIの設定にお役立てください。

    営業KPI

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