営業マンも知っておくべきイノベーター理論とは

イノベーター理論

営業マンは、日々いろいろなお客様に接します。新しい提案に対して「それは面白いね!」と身を乗り出す人もいれば、「将来的には必要だけどうちではまだ無理だな」と現実的な人、懐疑的な人、鼻で笑うような人、革新的なサービスそのものに関心がない人などさまざまです。

何の気なしに接していると単にその人の個性としか思えませんが、実はイノベーションに対する反応についての研究があり、おおよそ社会に何パーセントそれぞれが存在するか分析されています。

本記事では、マーケティングではよく活用されている「イノベーター理論」を紹介します。イノベーター理論を知っていると、新規開拓の際のターゲティングに活かせたり、個々のお客様へのアプローチに活かせたりと営業活動に非常に役立ちます。また、営業マネージャーであればシェアを拡大するために、どのような企業の実績を先に作っていけばよいのか営業戦略にも活用できるでしょう。

イノベーター理論とは

イノベーター理論とは、1962年に米国のスタンフォード大学のエベレット・ロジャース教授が、著書『Diffusion of Innovation(イノベーションの普及)』で提唱した、社会においてアイデアが普及する過程の採用者(消費者)を5つのカテゴリーに分けて考える理論です。採用者の数を時間軸でプロットすると以下の図の分布となります。

イノベーター理論
  • イノベーター(革新者)      :2.5%
  • アーリーアダプター(初期採用層) :13.5% 
  • アーリーマジョリティ(前期追随層):34%
  • レイトマジョリティ(後期追随層) :34%
  • ラガード(遅滞層)        :16%

イノベーター理論は「普及学」とも言われます。イノベーターからアーリーアダプター→アーリーマジョリティといった順番で新しいサービスは普及し、イノベーターとアーリーアダプターの足した数値16%まで商品・サービスが普及すれば一気に広がることから、「普及率16%の理論」とも呼ばれます。

一例をあげれば、Zoomなどを使った「オンライン営業」はコロナ禍以前は一部の先進的な企業しか使っておらず、その時点で活用していたのは日本の「アーリーアダプター」だったでしょう。

しかし、コロナ禍をきっかけに一気に普及したので現在は「アーリーマジョリティ」も活用しています。いまだ「わかるけどうちの業界は訪問でなければ……」「うちはITが苦手で……」といっているのが「レイトマジョリティ」、まったく関心を示さないのが「ラガード」とイメージするとわかりやすいと思います。

イノベーター理論がなぜ営業マンにも大切のなのか

イノベーター理論は、営業マンにとってもかなり役立つ理論です。

人の個性を分析する理論はたくさんありますが、営業マンにとってはお客様が自社商品・サービスに興味を示すタイプかどうかを判別できることが何より重要だからです。

イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの分類は、新しい革新的な商品・サービスの普及に対する反応なので、営業現場でお客様に新しいサービスを紹介している時にそのまま参考にできるでしょう。

大手企業や社風の保守的な企業などに多いラガードに、事例の少ない段階で一生懸命営業してもなかなか受注にはいたらないかもしれません。ベンチャー企業、外資系企業には比較的イノベイティブな人材が集まります。

ベンチャー企業の創業者は本人自身がイノベーターであることも多く、革新的な商品・サービスに理解があるため、事例がなくても「これからは絶対必要だから他社に先駆けてトライしよう」と考えGOサインを出したりします。例えば、事例は少ないものの必ず将来主流になるであろうAIサービスを販売するのであればこのような層に営業していくべきです。

自社商品・サービスの革新性、ターゲットとする企業の特性、見込み客の個性に合わせたアプローチをする際にイノベーター理論が参考になります。

イノベーター理論の5つの分類

ここでは、イノベーター理論の5つのタイプについて紹介します。

イノベーター

イノベーターとは、革新者のことを指します。新しい商品・サービスが出た時に、まず最初に使う人たちです。一般に年齢は若く、リスクをとることをいといません。新商品・サービスの完成度が低くてもあまり気にせず、その革新性に惹かれ、あれこれと試していきます。イノベーターは存在自体が希少であり、かつ新しいことにすぐチャレンジするには経済的余裕も必要なため個人なら比較的富裕層に多くなります。

ただし、イノベーターといっても各個人によってそれぞれ革新的なジャンルが異なります。コンピュータ領域でイノベーターであっても普段のファッションなどではラガードな人と言えば、想像しやすいかもしれません。

アーリーアダプター

アーリーアダプターとは、イノベーターの次に新しいイノベーションを採用する人たちです。実際は、先駆者たるイノベーターが発見しある程度社会に普及した段階で飛びつく人たちですが、社会から見るとまるで先駆者に見えるほど影響力があるグループです。

アーリーアダプターは新規性や面白さだけでは商品・サービスを購入しません。きちんとメリットも重視します。しかし、平均的な人より革新性はあり新しいもの好きな特性もあるため、役立つと判断すれば先んじて使おうとします。マスコミ業界、企業なら広告宣伝部門に多いタイプ、個人ならインフルエンサー、オピニオンリーダーと呼ばれるような層です。

アーリーマジョリティ

アーリーマジョリティは、アーリーアダプターが採用してからやや遅れて新しい商品・サービスを採用する人たちです。新しもの好きな人に影響を受けてトレンドを取り入れる普通よりすこし流行に敏感な人たちですが、全体の34%を占めるため社会全体に与える影響は大きく、ブリッジピープル(市場の橋渡しをする人たち)とも呼ばれます。

商品・サービスが爆発的にヒットするかどうかはアーリーマジョリティに好まれるかどうかにかかっています。アーリーアダプターどまりの商品・サービスはマニア受けはするものの大きな売り上げは望めません。

レイトマジョリティ

レイトマジョリティは、平均よりもややあとにアイデアを採用する人です。新しいサービスがかなり普及しても懐疑的もしくは関心がなくなかなか行動には移しません。メリットを享受するよりもリスクや変化を回避する傾向がある層で全体の34%を占めます。

例えば、最近は「脱ハンコ」がブームですが、電子認証などもまず先進的なベンチャー企業が採用し、大手企業が採用し、国も旗を振っているため中堅企業も採用し始めている状況です。この後に中小企業が採用していく流れがあるかと思いますが、ここでは中小企業がレイトマジョリティに相当するでしょう。

積極的に採用していくというよりも、多くの企業が電子認証を使えば当然、中小企業も合わせないとビジネスに差しさわりがでるため最終的には採用する立場をとります。

ラガード

ラガードは、最も後期の採用者です。社会的な影響力は低く、一般には高齢で変化を嫌います。交流範囲も狭く少ない友人や身内と交流すると言われます。全体の16%を占めます。

例えて言えば、いまだガラケ―を愛用するタイプ、SNSにまったく興味を示さないタイプが該当するかもしれません。新しい技術にそれほど関心がなく、大きく困ることがなければ新しいことに手を出しません。しかし、ご存知のように高齢化している日本においてはラガードの比率は年々高まっていくでしょう。大きなマーケットとなったラガードは社会的影響力が増していくはずです。

営業でイノベーター理論を活用するためには

営業マンがイノベーター理論を活用するポイントを解説します。

自社のペルソナはどのタイプかを把握する

企業とお客様には相性があります。企業対企業、企業対個人のどちらでも、合うお客様のタイプがあるので、自社のペルソナ(理想的な見込み客層)が、イノベーター理論でどのタイプかを把握してみましょう。

ペルソナ作成方法はいろいろありますが、一番簡単な方法は自社の優良顧客を何社かピックアップして傾向を分析することです。具体的なペルソナ作成方法は以下の記事をご覧ください。

BtoBであればどのような業界の企業が多いのか? どの役職の人が多いのか? 年齢は? 新規性があるか・保守的か? などをペルソナ作成テンプレートに書き込んでいきます。BtoCであれば、年齢、家族構成、新規性があるか・保守的かだけでなく好きな色なども書き込みましょう。

関西学院大学と株式会社色彩舎の共同研究では、アーリーアダプタが好む色が研究されています。

スマートフォンで「アーリーアダプタ」になりうる人が好きな色はターコイズ、黒、うすいピンク。自動車だとオレンジ・黄色など興味深い結果が出ています。BtoBは企業の社風の影響を受けるためつかみにくいのですが、BtoCであればお客様は好きな色を身につけたり、商談の場で個性を出す可能性が高いのでヒントになるはずです。

5つの分類に合わせたアプローチを行う

営業マンにとって、もっとも重要なのは個々のお客様のタイプに合わせたアプローチをすることです。

イノベーターに対して

イノベーターの特性は「誰よりも先に新しいことを知りたい・使いたい」というものです。他社ではやっていない、これまではできなったけどできるようになったことに惹かれます。例えば、集客の方法、広告や販促物のデザインなどにも斬新さを求めます。直感的な理解力も高いため、新提案を行うときに絵で新規性を訴求すると効果的です。

なお、企業内イノベーター(企業内でイノベーションを生み出していく社員)の場合は、保守的な面もあることに注意しましょう。2014年にリクルート社が経営、新商品・サービス開発、技術などに関わっているビジネスマンに行った「企業内イノベーターの実態」では3割近い人が、現在の職種に「自ら積極的に関与したいと思ったことはない」と回答しています。

今の企業で働き続けている理由についても、総じて「安定志向が強い」ことが分かりました。日本企業では自分で職種を選べないことが多いため、企画部門といえども保守的な人は多いと踏まえた上で、営業する際は個々のタイプを見極めていくことが大切です。

企業内イノベーターの実態

(参照:リクルートマネジメントソリューションズ)

アーリーアダプターに対して

アーリーアダプターはアーリーマジョリティに商品・サービスを普及させる先導役となります。そのため、しっかりとよい評判を伝えてもらうためにも商品・サービスの価値を明確に伝えていくことが重要です。

アーリーアダプターは情報に敏感なので、例えば自分では探しづらい海外事例などにも興味を持ちます。大抵の業界では、米国で普及したトレンドが何年か遅れで日本に普及します。

トレンドの流れを理解しているアーリーアダプターは、海外での事例が豊富であり日本ではイノベーターが活用し始めている段階は可能性ありと判断します。先進的な事例をいち早く届けることで信頼関係を築きやすくなるでしょう。

アーリーマジョリティに対して

アーリーマジョリティとは、いわば平均的な層に入る人たちです。前述の2タイプは新規性に価値を感じる層だったのですが、この層は商品・サービスに関する安心感が大切になります。そのため、信頼できる顧客の事例などを伝え、できるだけ見込み客が安心して検討できるようにすることが大切です。

あまりにかけはなれた事例では自社に役立つか判断できないため、大手企業には大手企業の、中小企業には中小企業の事例、あるいは同業界の事例を用意しましょう。

レイトマジョリティに対して

レイトマジョリティは新規性には抵抗感があるため、率先して新しいことに取り組みたいとは思わない層ですが、自社だけが取り残される危機感を持ちます。そのためどのくらいのお客様が購入・導入しているかや身近な競合企業が導入していることを伝えると検討に入る傾向があります。

レイトマジョリティは全体の34%を占めるため、確率で考えれば営業したら3回に1回は出会います。また、「沈没船ジョーク」で語られるように、海外諸国より保守的な日本人気質も考えればレイトマジョリティへの営業こそが標準的な営業かもしれません。

「他の人はみなもう始めていますよ」が強い説得力を持つ層です。

ラガードに対して

ラガードはそもそも新しい商品・サービスには無関心であるため、なかなか受注に結びつけるのは難しく、そのためこの層にはアプローチしないあるいは、労力を使わない判断をすることも大切です。

ただし、つながりを持ちつつ多くの企業が導入した時点で事例をもとに提案すれば成約する可能性はあります。

5タイプの特徴を解説しましたが、気をつけなければならないのは誰しもある分野でイノベーターであってもある部分ではラガードです。あくまで自社商品・サービスの領域でどのタイプかを注視しましょう。

イノベーター理論を発展させたキャズム理論とは

イノベーター理論に対して、米国のマーケティングコンサルタントのジェフリームーア氏が提唱した「キャズム理論」があります。

アーリーアダプターとアーリーマジョリティとの間、つまり「初期市場」と「メインストリーム市場」には、簡単には越えられない大きな溝(キャズム)があることを提唱している理論です。

市場の16%まで普及すれば社会全体に普及すると考えるイノベーション理論に対し、キャズム理論は、この2つのマーケットでは商品・サービスに求めるニーズが大きく異なるので普及率16%を超えるにはアプローチを変えなければ無理だという考えです。

  • 初期市場:イノベーター、アーリーアダプター
  • メインストリーム市場:アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード
キャズム理論

たしかに歴史を振り返れば一気にメジャーになった商品・サービスもあれば、最初は勢いがあったのに一時的なブームで終わったり、マニアだけにしか広まらなかった商品・サービスを思い出せます。

例えば、2021年はClubhouseに代表される音声SNSが話題になっていますが、当初の勢いほどは広がってはおらずキャズムを超えたとは言いがたい状況です。音声SNSはテキストベースのSNSと異なりリアルタイムです。

それが良さでもありますが、安心感を求めるマジョリティ層にとって発信するハードルがすこし高い面もあるため、今後の訴求方法が注目されます。

まとめ

営業マンは、売上げを上げられるのであれば大手企業であれベンチャー企業であれ地方の中小企業であれ、どこにでも商品・サービスを売っていきたいかと思います。

しかし、どの企業にも得意とする顧客のタイプがあります。まずは、自社のペルソナを作成し、自社がイノベーター理論のどのタイプによく売れているかを調べてみましょう。その上でさらに売上げを上げるためには隣接する層に対象を広げて営業していくことがポイントです。

特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティ、レイトマジョリティのタイプの特性を理解し、お客様に刺さるアプローチ手法をとっていきましょう。

こちらから「営業スキルチェックシート」がダウンロードできます。定期的に基本スキルを見直し、新たなスキルを身につけ営業力をアップさせていきましょう。

    営業スキルチェックシート

kondo

関連記事

  • 目標管理

    営業利益の算出方法とは?営業マネージャーが知るべき営業利益を解説

  • 戦略立案

    営業戦略と営業戦術の違いとは?

  • 戦略立案

    他社比較を行う際に有効な5つの方法