リーダーシップのある人と聞くとどのようなタイプをイメージしますか?企業内でもよく「若いのにリーダー格がある」「営業マンとしては優秀だけどリーダーにはちょっと……」「係長までならいいけど課長には役不足」など、部門のリーダーとなる人の条件については実にさまざまなことが言われます。
リーダーシップという言葉は、なんとなく皆が意味を理解しているものの「人間性」という要素も絡んでくるため、具体的に定義しづらいところがあります。企業でも、中間管理職のスキルや行動指針を明文化していないことが多いためか、昇進したのに前ポジションの感覚で仕事を進めて評価を下げてしまう管理職の方も少なくありません。
リーダーを担う人には、リーダーとしてのマインドセットや振る舞いがあります。どのような小さな集団でも人をまとめるのは大変なので、人に動いてもらうために心理学の基本や組織論などを学ぶ必要も出てきます。
本記事では、グループリーダーの役割とリーダーシップに必要な要素について解説していきます。

リーダーとマネージャーの違いとは
リーダーとマネージャーの役割は、日本では同じ意味合いで語られがちですが、もともとの定義は異なります。リーダーとは、組織の向かうべき目標(ビジョン)を示して集団を率いる役割で、マネージャーはリーダーの示した目標を達成するために、部下をまとめながら業務を遂行していく役割です。
- リーダー:企業や組織が何を目指しているのか、ビジョンや目標を明確に指し示す
- マネージャー:目標を達成するための進捗管理、部下育成、指導などを行う
わかりやすい例をあげると、企業のリーダーたる経営者は「世界一の〇〇会社になる」などビジョンを打ち出します。一方、マネージャーである各部門の部課長は部下を育てながら目標を達成するためにマーケティングを行ったり、営業戦略を立てて実行していきます。
ただし、あくまで定義上の話です。日本の場合は、欧米と比較するとトップダウンよりボトムアップの社風の企業が多く、現実にはきっぱり切り分けられるものでもありません。
中小企業では経営者が、両方の役割を果たすこともあるでしょう。大きい企業の中間管理職は「限定された範囲」ではリーダーになりますが、強力なトップダウン型企業ではマネジメントの比重が高くなり、逆に経営者が民主的な場合はリーダーシップの比重が高くなります。
どちらが良い悪いではなく「その企業に最適化されたリーダシップとマネジメントのバランス」があり、企業規模が大きくなるほど、各部門長のリーダーシップが企業ビジョンに沿っていることが重要になります。
グループリーダーの役割
ここでは営業組織の「グループリーダー」の役割について解説します。グループリーダーは、企業によって課長や室長という名称で呼ばれることもあります。
グループの目標を設定する
グループリーダーには、グループのメンバーの目標を決める役割があります。経営層から降りてくるチームの数値目標を、チームメンバーに公平に振り分けます。担当する顧客や市場の状況を加味することも大切です。
目標設定は「いつまでに何をどれだけ達成すればよいか」明確に伝わるように「SMART」という概念を意識することがポイントです。目標設定は、人事評価の指標になるため上司と部下だけでなく人事部門など現場にいない第三者が見てもわかりやすい指標にします。
SMARTの法則
- 具体的(Specific):
例:年間目標3000万円、競合企業の大手顧客A社のシェア20%拡大、新規獲得件数20件 - 測定可能(Measurable)
金額、件数、利益率など計測できる目標設定 - 達成可能(Achievable)
前年比100~120%相当の頑張れば達成できる目標値を設定 ※前年比200~300%の目標は強力な新製品を発売するなどの要素がないと難しい - 現実的(Realistic)、Rewarding(報われる、やりがい)、Relevant(関連性がある)
当初は現実的という意味(例:昨年の実績が3,500万円→✖1億、〇3,500~4,200万)でしたが、近年は本人が意欲的になれるか、経営目標にそっているかという指標にも解釈されます。 - 期限付き(Time Constrained)
例:年間目標6,000万円、四半期目標1,500万円、月次目標500万円
チャレンジングな定性目標
企業によっては、数値目標以外に「定性的な目標」を設定することもあります。チャレンジ目標と呼ばれる場合もあります。
例えば、Googleやメルカリなどが成功した「OKR」という目標設定手法がよく知られています。 ムーンショット(月面着陸のような困難だが偉大な目標)にチャレンジすることで、社員が意欲的に仕事に取り組むようになり、目標達成の有無にかかわらず大きく成長することができると言われています。
ムーンショット(偉大な目標)を考える難しさや人事評価にどう反映させるかという課題があり失敗例も散見していますが、革新的な商品・サービスを開発した一体感のあるベンチャー企業などには効果的かも知れません。
目標達成への業務管理をする
グループリーダーは、メンバーが目標達成に向けてどのようなことを行ったらいいのかの計画や、その進捗管理も行います。そのためにはリーダー自身が商談のパイプラインや目標達成のためのKPIについて知識を持っている必要があります。
部下が商談のパイプラインのどこでつまずいているのかを把握し、必要に応じて指導・アドバイスをしていきます。チームメンバーのすべての顧客の特性、取引の状況を日報や口頭の報告だけで把握するのは難しいので、エクセルやCRM、SFAなどのデータベースを構築することが望ましいと言えます。
もし、営業マンが会議や提案資料作成、メール作成などに追われているようであれば、内勤業務を削減するなど「数字をあげるための環境を整備」することも業務管理の範疇に入ります。
- 適切なKPIの設定
- チームの会議の時間の見直し
- 提案資料のフォーマット化、共有化
- 営業メール文のパターン化と共有
チームのモチベーションを高める
グループリーダーにとって、チームが目標達成に向けて全力で取り組めるように、メンバーのモチベーションを高めることは重要な仕事です。
チーム作りのポイントとして最近はGoogleが提唱している「心理的安全性」が注目されています。心理的安全性の高いチームとは「知らないことを知らないと言える」「とっぴなアイデアを出してもバカにするような雰囲気がない」「ミスを認めたときに批判されない」ようなチームのことであり、そのようなチームはパフォーマンスが高いそうです。
米国の有名な心理学者A・マズロー氏の「欲求5段階説」のピラミッド図を見ても、安全に対する欲求は人の土台の部分です。リーダーになったら成績の悪い部下を必要以上に叱責したり侮辱したりするような態度は控えましょう。営業チームでも過度なストレスはパフォーマンスには逆効果のようです。
近年は「JD-Rモデル」という実証研究において、モチベーションを高める要素と低める要素が以下のように明らかにされています。職場にはモチベーションを高めることも低めることも混在しているものですが、できるだけ部下に裁量権を持たせるなどモチベーションを高めてよいバランスにすることが大切です。
- モチベーションを高める:
仕事の裁量権が大きい、職場でサポートがある、学ぶ機会がある - モチベーションを下げる:
仕事の負担が大きい、大量の仕事、難しすぎる仕事、クレーム対応など感情的負担が大きい仕事
(参照:厚生労働省)
チームを育成する
グループリーダーは、個々のメンバーを育成する役割があります。部下に成長してもらうためには、できるだけ営業マンの個性を理解し指導することがポイントです。営業マンと一口に言っても営業スタイルはさまざまで「新規開拓が得意」「既存顧客営業が得意」「両方とも得意」など何パターンかあります。
人はどうしても自分と似た人を評価しがちですが、リーダーとなったらその心理は脇に置いて各メンバーの長所を引き出す必要があります。
人の個性を把握するには適性テストなどを活用することもおすすめです。一例をあげれば米軍の研究をベースに開発された「FFS」という個性診断テストがあり、営業マンが新規開拓向きか既存顧客営業向きかおおよそ把握できます。
- 拡散型:攻めるタイプ
活動的、創造的。新規開拓で強みを生かすことができる。ルート営業だと細やかにフォローしきれないなどの傾向がある。 - 保全型:守りタイプ
協調性が高く根気強く、冒険するよりも安全性、安心性を重視する。日本人は拡散因子より保全因子が高い人が多い。新規開拓が苦手でも既存顧客営業には適性があります。
両方のバランスがよいタイプもいます。驚くことにこの因子は遺伝子ベースで決まるということなので短所に必要以上にエネルギーを注がず、得意な営業スタイルで存分に活躍してもらうほうが望ましいかも知れません。
他にもさまざまな適性診断テストがあります。「エゴグラム」などの無料お試しテストもあるので活用しましょう。
情報の連携を行う
グループリーダーになると、上層部との折衝や会議が多くなります。会議で決まった方針や共有化された情報を、現場の営業マンにも理解してもらう必要があります。同じ情報でも経営層と一般社員の重要なことは異なりますので、現場目線にカスタマイズして落とし込みます。縦の連携だけでなく営業マン同士の横の連携も大切です。
営業では、ちょっとしたコツや一言のフレーズを知るだけでアポイント率やクロージング率が上がることがあります。しかし、競争原理が働いている営業部門内では自分が発見したコツを公開すると、他の営業マンに成績が抜かれてしまうこともあります。同僚に感謝はされてチーム全体の成績が向上しても、誰がそのコツを展開したかが管理職層まで届かず、肝心な共有者の評価が上がらないこともあるでしょう。
せっかくの貢献が報われないと、情報を提供していた営業マンも次第にチームワーク意識が薄れます。グループリーダーは、ミーティングの発言やSFAのコメント欄などをしっかりと確認して、価値ある情報を公開した営業マンを評価したり賞賛したりする必要があります。
グループリーダー格のある人の特徴とは
学校や職場、サークルなど人が集まるところでは自然にリーダーになるような人がいます。いわゆる「リーダー格」があると言われる人ですが、ここでは営業組織においてリーダー格のある人の特徴について解説します。
仕事の実行力がある
営業部門は、他のどの部門よりも目標と達成度がわかりやすい組織です。そのため営業部門では、自らの数字を達成し、チームの数字が厳しい時に他のメンバーの分までカバーする売上げを出せるような人は一目おかれます。
また、メンバーよりも率先して業務に取り組む姿勢を見せる人はリーダー格があるとみなされます。仕事のやる気は伝染するという研究結果があります。営業マンにとって自分のモチベーションが上がることは非常に重要なので「その人を見ているとやる気が出る」と言われるようなタイプはリーダー格があると言えます。
コミュニケーション能力がある
リーダー格のある人はコミュニケーション能力もあります。面倒見がよいのですが人に何かを頼むことも上手です。何でも抱えこもうとせず頼ったり教えてもらうことに抵抗がありません。
不思議なことですが人に助けてもらう人は好かれるという研究結果が出ています。たしかに誰かに役に立つと認められたという気持ちになりますし、寄付したりボランティアをしたりすると満足感を感じます。「頼る能力」とは実は高度なスキルかも知れません。
あるいはコミュニケーション能力の高いと言われる人は、張り合う気持ちがあまりないのかも知れません。これもリーダーには必要な要素です。なぜなら昇進すると現場から離れる時間も長くなるため、第一線の営業マンのほうが市場の変化に詳しかったり、個別スキルが高くなることはよくあるからです。部下の優秀さを喜べることもリーダーに必要な資質です。
責任感がある
目標達成に対する責任感が並外れて強いような性格の人です。何が何でも達成するという意気込み、常に最大限の努力をするという姿勢を持つ人は、リーダー格になっていきます。実際、営業部門でリーダーになる人は備えていることが多いでしょう。
もう一つは人の育成に対する責任です。後輩がルールを逸脱したときは指摘し、本人の成長に必要であると判断すれば指導します。感謝どころか煙たがられることもあるかも知れません。しかし、心から「相手のキャリアにプラスになる」と思うことであれば指導したほうが相手のためであり、理解してもらえることもあります。
リーダー格のある人は人への注意の仕方も上手です。厳しいことを言っても、最後に相手のフォローをすることを忘れません。「ピーク・エンドの法則」にあるように最後の言葉や態度は、相手の心に強く残ります。リーダー格のある人は相手への配慮や思いやりをもっているのです。
グループリーダーに必要な能力を身につけるためには
子供のころからクラスの委員長などによく選ばれる人や、クラブ活動ならリーダーだったという人は、自然にリーダーシップを発揮することができるでしょう。しかし、そのような人は少数派であり、「副」がつくポジションが多かった、いつもフォロワーだったという方のほうが比率的には多いかと思います。
それでも、社歴が長くなるとさまざまな場面でリーダーシップを求められることは出てきます。適性云々の前に大人の責任として求められますので、誰でもある程度のリーダーシップスキルは身につける必要があります。
幸い、リーダーシップについてはかなり研究が発展されており、以下のようにさまざまな種類のリーダーシップがあることがわかっています。必ずしも絵にかいたようなリーダー気質である必要はないので、自分の個性を活かせそうなリーダーシップスタイルを参考にするとよいでしょう。
例)
EQの提唱者ダニエル・ゴールマン氏による6つのEQリーダーシップ
- ビジョンリーダーシップ
- コーチングリーダーシップ
- 調整リーダーシップ
- 仲良しリーダーシップ
- 実力リーダーシップ
- 指示命令リーダーシップ
人事領域で注目されつつある新しいリーダーシップ
- 変革型リーダーシップ
大きな環境変化などが起きている際に組織の変革を導いていけるリーダーシップ - サーバント・リーダーシップ
部下が動きやすいように奉仕するスタイルのリーダーシップ - ホリゾンタル・リーダーシップ
トップダウンではなく社内・社外の多くの人たちと協力関係のもと成果をあげるリーダーシップ
自分に適したリーダーシップ像を掴んだあとは実践で磨いていきます。チームのメンバーとコミュニケーションを取りながら、自分自身の足りないところを補っていきます。「立場が人を作る」という言葉があるように、リーダーとしての責任を背負うと人は急速に成長します。
まとめ
リーダーシップは、少なくとも100年以上の長きにわたり国内外の研究者が取り組んでいるテーマです。それだけ人を率いるということは難しく、さまざまな要素が組み合わさっているスキルということだと思います。
時代とともにリーダーシップのスタイルは多様化しています。今はトップダウン型のリーダーよりも、相手の能力を引き出すような民主型のリーダーシップスタイルが主流になりつつあるので、これまでリーダー向きとは思われなかった人がリーダーになる場面も増えていくかもしれません。
ただし、どのようなリーダーシップスタイルであってもリーダーシップの本質に「目標を示す」「部下を成長させる」「決断する」という要素があることは同じです。リーダーとしての役割を再認識し、部下の長所を伸ばしながらチームを成長させてよくしていきましょう。
「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」では、営業の組織として営業アプローチや営業スキルの標準化をさせる方法について解説しています。ぜひご覧ください。