営業戦略と営業戦術の違いとは?

営業 戦略 戦術 違い

営業管理職の方は営業戦略と営業戦術の違いはしっかり区別できているでしょうか?この2つの概念はセットで考えることが多いため、混同されやすいところがあります。

コロナ禍の営業戦略ということでオンライン商談ツールやSFA、インサイドセールスなどを導入する企業も増えていると思いますが、ツール導入・組織体制の組み替えはあくまで手段であり、営業戦術に相当します。

もちろんデジタル化はこの時代に必須ですが、そもそも大方針としての「当社はどこから売上げをもってくるか」という営業戦略を長期的・短期的な視点で策定して営業活動を組み立てることが前提になければいけません。「戦略は戦術をカバーできるが、戦術は戦略をカバーできない」と言われるとおり、営業戦略は営業戦術の上位概念なのです。

環境があまり変わらない時代が続くと戦術の工夫だけでも乗り切れてしまうのでその重要性が忘れられ、戦略なき戦術を進めてしまうリスクがあります。本記事では営業戦略と営業戦術の違いとそれぞれの重要性、営業戦略を立てるステップを解説します。

営業戦略と営業戦術とは

まず、営業戦略と営業戦術の定義について解説します。

営業戦略とは

営業戦略とは目標を達成するために「どの市場のどの顧客層をターゲットに商品・サービスの価値を伝えて売上げを獲得していくか」の方向性、ストーリーを描くことです。

ビジネスには必ず競合企業がいます。自社商品・サービスには強みもあれば弱みもあります。毎年のように景気は変動します、そのような市場で勝ち抜くために自社が競争優位に立てる層を見つけ出して人、モノ、金を優先して配分する方策をたてていきます。

営業戦術とは

営業戦術とは営業戦略を実現する手段です。目標と営業戦略にそって実際に何人の営業マンを用意するか、営業マンの打ち手をどうするか、見込み客にどのような形式でメッセージを伝えるかなどのオペレーションを指します。営業部門が現場で日常的に創意工夫していることだと考えると、理解が早いでしょう。

営業戦術と営業戦略

営業戦術の具体例

営業戦術は営業戦略にあわせて決めていきます。以下に、営業戦術の具体例を紹介します。

  • 組織体制を整える

・組織変革(例:商品別、業種別、役割別、分業型組織、セールスイネーブルメント新設)
・人材の採用(営業マン、アシスタント)
・代理店やBPO企業とアライアンス

  • 営業の打ち手を決める

    ・テレアポ、電話営業
    ・営業メール
    ・オンライン商談
    ・広告チラシ、ダイレクトメール
    ・SNS営業
    ・展示会
    ・ウェビナー
    ・紹介営業
  • 営業プロセス、営業トーク、営業メールのスクリプトの見直し
  • ITツールの導入

営業戦略と営業戦術の重要性とは

営業戦略と営業戦術はそれぞれ「何をどこに売るか」「どのように売るか」であり連続する業務なので、大きな成果を出すためには両輪が揃っていなければいけません。

特に、現代のような先行きの見えない時代は営業戦略の重要性がより増しています。孫子の兵法もランチェスター戦略も「勝ち易きに勝つ」という趣旨は共通しているように、売上げを得やすい市場に集中して成果を上げることが大切です。

コロナ禍であれば優先順位の1番はすでに実績のある既存のお客様、次がコロナ禍で伸びている業界への新規営業アプローチになるでしょう。営業戦略が明快でないと戦力が分散し成果が限定的になります。また、成果が出たときも出なかったときも理由を分析できないため、「頑張ったかどうか」という結論をくだして終わってしまいナレッジの蓄積ができません。

営業戦術も重要です。現場でどのようにお客様にアプローチしたらよいか落とし込んでいくのですが、組織をどう組んで誰かどのパートを担当するのか、どのような打ち手をとるのか、KPIをどうするのかなど決めることが無数にあります。

マネジメントには人の感情もからんでくるため営業戦術を実行するリーダーは人をまとめる力も必要です。営業戦略は実現できなければ「机上の戦略」「絵に描いた餅」になってしまいます。営業戦術を徹底して実行することで初めて営業戦略は実を結ぶと言えるでしょう。

営業戦略を策定する際に意識すること

ここでは、営業戦略を策定する際に意識するポイントを紹介します。

自社の強みと弱みの明確化

営業戦略を策定するときには企業規模、業界でのポジションを踏まえて他社より優れている点や弱みを明確化することが大切です。自社の強みを軸に戦略を考え、逆に弱みとなっているところには集中しないように戦略を考えていきます。

例えば、ランチェスター戦略の一点突破の法則にあるように、業界2位以下の企業であれば、とにかく自社が優位に立てるニッチな市場を見つけ出して、まずそこで1位になり基盤を固めることが重要です。

しかし、自社の強み・弱みはずっと社内にいると、かえって気づきにくいところがあります。また、頭の中だけで羅列しても思考がなかなかまとまりません。

例えば、以下のようなSWOT分析のフレームワークを活用してすべて書き込んでみることがおすすめです。強み・弱み・他社の脅威などをすべて可視化できるので、思考が整理され営業戦略のストーリーを描きやすくなるでしょう。

SWOT分析テンプレートの例(Microsoft)

SWOT分析テンプレートの例(Microsoft)

(出典:Microsoft

ペルソナを明確化する

どの企業でも相性のあう顧客層があります。「何となく相性があう業界、お客様の傾向がある」とは感じていても明文化までしていない企業も多いかも知れませんが、営業戦略を策定するにあたっては、商品・サービスを愛用してくれそうな見込み客の解像度を高くすることがとても重要です。

そのための一手法がペルソナ(理想的な見込客プロフィール)の作成です。ペルソナを明確にすることで、営業マンはアプローチの段階からお客様に対してどのようにメッセージを伝えればよいかわかるようになります。また、ペルソナを作成することで営業・マーケティングの成果が大きなものになる調査結果はかなり出ています。

ペルソナを作成するためには顧客アンケート、市場調査などの方法もありますが一番良いのは既存顧客インタビューを実施することです。自社商品・サービスの強み・弱み、何が理由で購入に至っているか、実際の使い方などを取材すると、企業の予想とは違うお客様の高評価ポイントを知ることができるでしょう。

ペルソナ作成テンプレートに書き込んで作成してみなで共有しましょう。お客様のタイプに合わせて何種類かのペルソナを作成することもできます。

ペルソナ作成

BtoB(業界、規模、購買担当者)  BtoC(個人・意思決定に参加する家族)

【ペルソナ作成の際の一般的な項目】

  • 年齢
  • 性別
  • 収入
  • 趣味
  • 家族構成
  • 会社での役割
  • 情報源(メディア、SNS)
  • 抱えている課題
  • 人生や仕事上の価値観
  • 意思決定の基準、他

ストーリーを意識する

営業戦略を考える際に重要なのはストーリーです。ストーリーと聞くとちょっと大げさな印象を持つかもしれませんが、実際の営業現場において営業マンも商品・サービスの機能だけでなく、自社の理念や世界観などもあわせて伝えているかと思います。

営業するにあたりストーリーがきちんとあると営業マンも「なぜ、お客様は当社の商品を買う理由があるのか」に自信をもつことができます。もちろん機能の説明だけで売ることができる場合もありますが、機能の比較説明であれば比較サイトで十分な時代です。

他社と差別化できる商品・サービスのコンセプトやストーリーを語れることは自社の独自性を際立たせる強みになります。例えば、以下のような優れたストーリーは昔も今も1行で「どんな人に何を提供したいか」を示唆することができます。

中小企業だから大層なことが言えないと思う方もいるかも知れませんが、どの企業も脈々と培ってきた理念があるはずです。多くのお客様に支持されているからこそビジネスが続いているので自社の強み・思い・得意領域を再認識して明文化することが営業戦略上とても大切です。

ゼロから作成しなくても古い社史、社内報などから社長や商品を開発した人の言葉を読んでいくと共通したメッセージを見つけられるでしょう。あるいは顧客インタビューのお客様の言葉にキャッチ―なメッセージのヒントがあるかも知れません。自社の見込客に伝える等身大のストーリーを作成してみましょう。

どのように営業戦略を営業戦術に落とし込むのか

営業戦略を実現するためには営業戦術に落とし込まないといけません。ここでは営業戦略を策定する段階から営業戦術に落とし込むまでのステップを紹介します。

最終的な目標を明確にする

営業戦略をたてる前にまず戦略をたてて何を成し遂げるのかといった目標・目的を明確化しましょう。もちろん営業部門の場合、売上げ目標が第一であることは言うまでもありませんが、企業のステージ、営業チームの役割ごとにそれぞれ売上げ以外のミッションがあるはずです。

目的例:

  • 中小企業のDX支援領域でNo.1の地位を確立する
  • 日本の根幹を支える90%の中小企業の〇〇を支援する
  • 売上げ、利益率を〇%アップする
  • オンライン市場からの売上げを全体の5割まで伸ばす
  • 地方の市場に営業圏を広げ〇〇の売上げを達成する

目標に向けた営業戦略を策定する

目標が決まったら、前述のとおりその目標達成までの流れ(ストーリー)を考えます。まず、外部環境(景気の動向、競合企業の動向、政治・社会の変化)を分析します。今はオンライン営業が主流なので商圏を国内の遠隔地、世界に広げることを前提にしてもよいでしょう。有望なターゲット市場を特定し、さらにペルソナを作成していきます。

コロナ禍で伸びている・安定している市場はIT、EC、デリバリー、製薬、食品業界などがあります。BtoCの不動産、自動車業界は意見がわかれるもののコロナの影響で「所有すること」が見直されているためむしろ伸びる可能性があるとも言われています。

例えば、以下のように決めていきます。

目標:中小企業のDX支援領域でNo.1の地位を確立する

ターゲット:全国の中小企業をターゲット 

ペルソナ:中小企業の経営者で〇〇な個性の人

   ↓

想定課題:コロナ禍での悩みはおそらくデジタル化、売上げ拡大

営業戦略:「オンライン営業の立ち上げから成果創出までワンストップでサポート」

「日本の土台を支える中小企業にあうデジタル化を2人3脚でサポート」

といったストーリーで展開

営業戦略に合った営業戦術を考える

次に営業戦略を実行するための戦術を考えます。一般には人、モノ、金が無尽蔵にあるわけではないので、ここでは社内にいる人材や協力外部企業のポテンシャルを踏まえて計画を立てます。

営業戦略に合わせて営業体制をどう組むか決定

例:

  • インサイドセールスとセールス部隊を分けるか統一するか
  • セールスイネーブルメントチームの要・不要
  • 電話営業は自社で行うかアウトソーシングするか
  • 現状の組織のまま人員だけ増やすか、他

営業アプローチ手段を決める

営業アプローチ手法を決めていきます。商品・サービスの特性によってデジタル時代とはいえ、リアルな営業も組み入れて考えるとよいでしょう。

例:

  • ウェビナー集客を軸にする
  • テレマーケティング+営業メールを主力にする
  • DM、手紙+電話中心にする、他

手段が決まったら切り口を決めます。どのような企画のウェビナーなら見込み客を集客できるか、ウェビナー開催から商談、受注までの営業プロセスはどうなるかなどしっかりフローを作り、コンテンツを作成していきます。真摯にメッセージを作らなければお客様の心に届ないので、それぞれに必要なトークスクリプト、営業メールの文面、事例などもすべて戦略にあわせて刷新します。

営業戦術に対するKPIを設定する

実際に実行する上ではまず目標と現実の差を認識し、目指すべき基準・目標となる指標を設定します。さらに可能な限り数値判断できるようなKPIを設定します。

KPI例:

  • アポイント数の向上であれば電話でのアプローチ数、営業メール数
  • ウェビナーならターゲット層の参加者数
  • インサイドセールスなら決裁権者接触率、オンラインデモ参加数、商談獲得数

営業戦略と営業戦術の繋がりが大切

営業戦略を営業戦術の効果を高めるためには双方の繋がり・結びつきが正確であることが大切です。

もとより、戦略と戦術という用語は「戦争術」から分岐したものであり一連の業務なので、営業戦略を立てるときには営業戦術を担う部隊のマンパワー、体制、予算も踏まえて立てるべきなのです。

また、営業戦略の方向性にそった最適な営業戦術を選べるかが結果に大きく影響します。せっかく良い営業戦略を立てても、あまり効果の出ない営業戦術ばかりを行っていては、効果は上がらず努力が無駄になってしまいます。

例えば、テレワークが普及しているなか、電話営業だけを主軸にしていると以前より効果は上がりません。コロナ禍になり新たにオンライン商談、ウェビナーを試したが成果がでないと「やはり今までの営業アプローチ手段が良かった」と思いがちですが、単に企画の切り口が理由であったりノウハウがないことが理由なこともあります。

時代が大きく変わっているので新しい手法はどんどん試して検証する姿勢が必要です。もちろん、ある程度安定的に成果が出ている間は電話営業なども併用しますが、長期的な視点にたちより効果の出る戦術を見つけ出す投資としてトライアンドエラーを繰り返していきましょう。

もし市場が再び大きく変化した場合、営業戦略を修正する必要もあります。「決まったことだから」という理由で効果の出ない戦術を続けないことが重要、そのような進言、フィードバックが現場からもできる風通しのよい環境を作ることが重要です。営業戦略と営業戦術をスムーズに連携させることが成果を最大化するポイントです。

まとめ

営業に携わる人にとって2020年以降のビジネス環境の激変は、戦後最大と言えるでしょう。バブル崩壊、リーマンショックでは景気は大きく落ち込んだものの、営業スタイル自体は変える必要がなかったからです。

2020年、2021年はいわば時代の変わり目であり、営業部門の舵取りは非常に重要です。刻一刻と外部環境が変わるので営業戦略を策定して終わりではなく、常に変化をキャッチして例年より短いスパンで戦略を検証して軌道修正していく必要が出てくるでしょう。

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