営業を通して身につくスキルとは

営業 身につくスキル

日本の企業では新卒の多くがまず営業部門に配属されることが珍しくありません。これは「営業現場を知ること」や「自社の顧客を理解すること」が、経営幹部候補である総合職人材に必要という考えからきています。

もちろん、配属された新人全員が営業に向いているわけもなく、適性がある人もあまりない人もいます。なかには「なぜ、自分が営業に……」と思う人もいるかもしれません。

しかし、そのような人も何年かして経営企画、販売促進、マーケティング、統括部門などに異動した際、「営業を経験していてよかった」と思うときがおそらくくるでしょう。それほど企業の仕事において、市場や顧客を理解していることは重要です。

また、営業を通して身につけた企画力、マーケティング力、行動力、コミュニケーション力、洞察力などは、あらゆる職種で役立ちます。営業が仕事の基本と言われるのには理由があるのです。

本記事では、営業を通してどのようなスキルが身につくかを具体的に紹介します。

営業で求められているスキルの紹介

営業に求められるスキルは実に多様です。2012年にリクルート社が20~30代の営業職に行った調査では、現役の営業が必要と感じるスキルの上位は「課題発見力」「ヒアリング力」「対人コミュニケーション力」「情報収集力」「ロジカルシンキング力」、その次に「行動力」がきています。

さらに「数理的能力」「プロジェクトプランニング力」「仮説を立てる力」「部門調整力」なども必要であり、一見、肉体労働的で足で稼ぐイメージの強い営業職が、実は頭脳も相当に駆使する仕事であることがわかります。

逆に言えば、営業を通して行動力も知識力もアップさせられるということでもあります。営業は目標数字があるためモチベーションを維持することも重要。まさしく、ビジネスの心技体(メンタル、幅広い知識、行動力)が鍛えられる仕事だと言えるでしょう。

営業に必要なスキル

出典:自分が今手掛けている営業の仕事に必要なスキル -リクルート-

営業スタイルで身につくスキルも変わる

同じ営業でも企業相手のBtoB営業と個人相手のBtoC営業では、お客様の購買プロセス・判断基準がかなり異なるため、営業マンに求められるスキルも変わってきます。

BtoB営業に求められるスキル

BtoB営業では担当者はあくまで企業組織の窓口。商品・サービスの購入基準は自分の好みではなく、具体的な導入メリット、費用対効果です。また、一般に企業には稟議書を通す仕組みがあり、一社だけでなく何社かの商品・サービスを客観的に比較検討して購入を決定します。

そのため、営業マンは取引先の担当者だけでなくその上司、関連部門の部課長、経営層の承認を得られる提案書を作成しなければなりません。

  • 「なぜ、その商品・サービスを購入する必要があるのか?」
  • 「なぜ、他社ではなくでなく自社でなくてはならないのか?」
  • 「具体的にどのようなメリットがあるのか」
  • 「投資に見合う効果はあるのか?」

このような問いにすべてこたえられる提案をするために、BtoB営業には組織の検討プロセスを理解した上で、どのように課題を解決するのか、どのような効果が見込めるのかをロジカルに考えて仮説を構築するスキルが求められます。

BtoC営業に求められるスキル

BtoC営業は、個人を対象とする営業です。保険、不動産、自動車の営業などが代表的です。BtoC営業は一個人のお客様が自分のお金で何かを購入するため、意思決定にお客様の好み、感情がかなり反映されます。

自動車であれば「あこがれの車だから」、住宅なら「この街に住みたいから」といった強い思いが決め手になることもあります。関係者は一般に家族なので少人数。購入までの決定が早いところも特徴です。

BtoCの営業マンには、合理性よりもまずお客様の願望、不安などを細やかに汲み取れるコミュニケーションスキルが必要になります。人として信頼されることが何より重要です。BtoCはクチコミが広がりやすい面もあるため、人間関係を構築することが得意だと紹介やリピートに繋がることも多く、ほとんど紹介でお客様を得る営業マンもいます。

業界によって違う営業マンのコミュニケーションスタイル

BtoBであれ、BtoCであれ、コミュニケーション力は営業マンにとって重要なスキルです。しかし、より細かく見ていくと、実は業界によって必要とされるコミュニケーション力はやや異なります。

2020年にオルグロー株式会社が行った調査では、業界ごとの営業マンの考え方やコミュニケーションの取り方が分類されています。例えば、IT業界や不動産業界の営業は、現実的で柔軟な「解決型」、人材業界や証券業界は「投資型」、自動車ディーラーや商社は「冒険型」です。

営業の意思決定・対人関係における特徴(業界別):

営業の意思決定・対人関係における特徴

出典:PRTIMES (オルグロー株式会社調査)

「なるほどな」と頷く方もいるのではないでしょうか?街中でみかける営業マンたちも営業らしい共通の雰囲気があるものの「不動産ぽい」「人材業界ぽい」など、どこかその業界の個性を持っています。業界に最適化された思考やコミュニケーションスタイルがいつのまにか身につくのでしょう。

仮に転職や人事異動で扱う商品・サービスが変わったときは、それまでとはコミュニケーションスタイルを多少変える必要もあると意識すると、早期に馴染んで成果を発揮できるかと思います。

なぜ営業を通してスキルが身につくのか

パンフレットや資料を何回読んでもよく理解できなかった内容なのに、1回お客様と商談したらすっと理解できた経験はないでしょうか?実は、営業は知識やスキルを短時間で身につけやすい職種なのです。

教育関連のサイトでよく紹介される「ラーニングピラミッド」という理論モデルでは、学習の平均定着率は「講義」が5%、「読書」が10%、「実演説明を見る」が30%、そしてもっとも効果が高いのは「他者に教える行為」で90%の定着率となっています。

ラーニングピラミッド

画像出典:イラストAC

営業マンは日々、お客様へ情報提供したり、商談や提案でアウトプットをしています。他者に何かを伝えたり、教えたりする行為をする機会が多く、営業という仕事そのものが学習が定着しやすいアクティブ・ラーニング(能動的な学習)のプロセスに近いと言えるでしょう。

しかも、相手はお客様。良い意味で緊張感があるため真剣にならざるを得ません。ビジネスマナーやプレゼンテーション力も磨かれます。営業は仕事でいわばプレゼンの本番を繰り返しているため、成長スピードが速いのです。

営業を通して身につくスキル

営業で必要とされる他者との関係構築や調整力、戦略的な思考などは、考えてみれば営業だけではなく社内の他の仕事や日常生活で必要なスキルでもあります。

仕事で役に立つスキル

ここでは、営業で身につくスキルの中で他の仕事にも役立つスキルを紹介します。

情報収集力・課題発見力

営業マンは、アポの前にお客様情報を調べる、提案書作成のために情報を収集する、お客様のために最新の役立つ情報を調べるなど、限られた時間で必要な情報を集める必要があります。結果、自然に情報収集力が高くなります。

インターネット上には間違った情報もあふれています。フェイクニュースもあれば、2次、3次と情報が伝達されるうちに誤解されてしまった情報など珍しくもありません。

営業マンは、もし正しくない情報を提供するとお客様との商談で恥をかいてしまうため、常に「自分事」として真剣に情報を精査します。そのため、情報の見極め力もまします。ちなみに情報収集のポイントは以下の通りです。

  • 原典を当たる
  • 最新の情報を仕入れる
  • 公共機関など信頼できる情報源を活用する
  • 各メディアの特徴をとらえ「〇〇の情報ならここ」とわかる
  • 情報を持っている人を知っている

正しい情報を多く得ていれば課題を見極めることができます。課題がわかれば対策が立てられます。今のような情報過多の時代、速やかに正しい情報を集めて現状を把握し課題を掴む力は有用です。

例えば、社内のプロジェクト、自分のチームの課題感を把握する際にも、同じように必要な情報を調べ、現状と理想のギャップから優先課題を発見するなど業務改善に役立てることができるでしょう。

コミュニケーション力

営業マンは、経営者、中間管理職、若い社員、アグレッシブな人、慎重な人など、さまざまな属性・個性の発注担当者に対応します。相性の合わない方も一定数いるかもしれませんが、場数を踏んでいるため一般の人よりは相手のタイプに応じたコミュニケーション力がつきます。

コミュニケーション力は、お客様相手だけでなく一緒に仕事をする外部関係者、他部署の社員、チームメンバーとのやりとりでも必要になるスキルです。相手の立場や個性にあわせた柔軟なコミュニケーションをとれる営業マンは、社内外に多くの協力者を得ることができるので、人を巻き込んで大きな仕事を進められるようになります。

ヒアリング(傾聴)力

ヒアリング力(傾聴力)とは、相手の気持ちや意見をそのまま受け止めて、理解するスキルのことです。コミュニケーションの基本であり、営業マンがお客様と信頼関係を結ぶために必須のスキルです。

ヒアリング力は、部下とのコミュニケーションにも生かせます。上司になると指示をすることに意識が向きがちですが、部下の意見もしっかり汲み取り、まず受け止めて認めてあげることが大切です。お客様と接するときの傾聴スキルをマネジメントに生かすことで、部下との信頼関係が強くなっていくでしょう。

交渉・調整力

営業マンはお客様と会社の間に立つポジションであるため、調整が難しい局面も経験します。お客様からの無理な値引やスケジュールの要求には上手にNoと伝えて納得してもらう必要があります。同じく、社内の他部門の要望をすべて受け入れることも難しいので、話し合ってお互いの落としどころを決めたりします。

このような交渉・調整力は仕事の規模が大きくなったり、昇格して権限が大きくなるほどに必要になっていきます。

といっても日本企業の場合は、欧米のように相手に議論で勝つことよりも、日頃のコミュニケ―ションを通して相手の状況を理解し、自分も協力できることは常に協力し関係性を良好にしておくことが大切です。その結果、「〇〇さんの頼みなら協力しよう」となります。あくまでコミュニケーションが土台にあっての交渉・調整力だと理解しましょう。

プレゼンテーション力・提案力

人前で話すことが得意な人はあまり多くありません。2019年のベースメントアップス株式会社の調査では、人前で話すことが「とても苦手」な人は60%、「少し苦手な人」が24%と、なんと84%もの人が苦手意識をもっている結果がでています。

人前で話すことは苦手ですか?

出典:PRTIMES(ベースメントアップス株式会社調査)

もちろん、営業マンでも最初からプレゼンテーションが堂々とできた人は少ないでしょう。それでも取引先での商談を通して、徐々にプレゼンテーション力や提案力が鍛えられます。

会社内でも社内プレゼン、上長への提案、朝礼でのスピーチなどプレゼンテーションをする機会はたくさんあります。そのようなときに営業活動で培ったプレゼンスキルが役立つでしょう。

ファシリテーション力

ファシリテーション力とは、会議などでメンバーのさまざまな発言を整理しながら論点がずれないように軌道修正しつつ、とどこおりなく進行させていくスキルです。

営業は、ある意味お客様をファシリテートしていく仕事でもあります。お客様との話もよく違う話題に発展していくことがありますが、タイミングを見てきちんと元の商談の目的に戻す必要があるからです。

ファシリテーション力を身につけると、自分のチームや社内プロジェクトチームでの会議をうまく運営できるようになります。堂々巡りの会議、結論のでないミーティングではなく、きちんと目的にそって適切な時間内で結論を出すことができるため、参加者のストレスもなくなります。

仕事以外でも役に立つスキル

営業で身につくスキルは、仕事以外のシーンでも役立ちます。

相手の意図を汲み取る力

営業マンは、お客様の言葉だけでなく表情や声のトーン、雰囲気から「〇〇と言っているけど実際は◎△がご希望だろうな……」といったように、相手の意図を汲み取り、先回りして動くようになります。

日常生活でも、家族や友達とコミュニケーションをとりますが、その際に相手が何をしてほしいと思っているのか、何を伝えたいと思っているのかを汲み取れると良い関係性を構築できます。

身近な人には、むしろ「相手に自分の気持ちを汲み取ってほしい」と思う気持ちもあるかもしれません。しかし、お互いがそう思っているといつのまにか溝が深くなることがあります。身近な人に対してもお客様と接するときと同じように相手の気持ちを汲み取ろうと意識すれば、コミュニケーションが円滑になりプライベートもより充実するでしょう。

物事の説明力

営業は自社の商品・サービスの概要、提案をお客様に説明して理解してもらわないと受注できません。そのため、相手の理解力にあわせた説得力のある話ができる説明スキルを身につけます。

説明力は日常生活でも役立ちます。何かを買うときに自分の希望を販売員に的確に伝えられれば、ぴったりの商品に出会えるかもしれません。スマートフォンやパソコンの不調でカスタマーサービスに連絡する際も説明スキルが高ければ、解決策を素早く探してもらえるでしょう。

依頼をする、正当なクレームを入れるなど、言い方を間違えると誤解されやすいシーンでも、説明スキルが高いと無用なトラブルを避けることができます。

企画力

営業は自らお客様に企画して提案をします。情報を収集し、仮説を立てて、データを揃えた上でお客様が喜んでくれるようなシナリオを創り上げていきます。

家族や友達に対しても企画力は発揮できます。旅行にいく、食事にいく、合コン、オンライン飲み会の企画、記念日の気の利いたプレゼントなど、相手に喜んでもらえる企画が立てられると良い関係性を構築できるでしょう。

自分に対しても企画力は使えます。例えば、キャリアプランや人生プラン。20代で何がしたいか?30~40代でどのようになっていたいのか?自分のニーズを確認し、これからの環境変化を予測し選択肢を整理していけば、いろいろな目標、企画案が立てられます。企画力があれば、自分をとりまく状況が激変したとしても、その環境に応じて楽しみや目標を見つけて進んでいくことができます。

まとめ

営業は数ある職種の中でも本当に幅広いスキルが必要な仕事です。特に日本の営業は、海外の営業と比較すると仕事の領域が幅広くマーケティングまでこなしているケースも少なくありません。

一年間、営業を経験すればビジネスマンとしての基礎スキルは身につけられるでしょう。2~3年営業に真剣に取り組めば、人によっては独立できるくらいのスキルを身につけられるかもしれません。営業に向いていない人であっても、自社のお客様と向き合う経験は、その後の社内キャリア形成上大きなプラスになります。

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    営業スキルチェックシート

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