営業マンが継続的に売上目標を達成して、貢献できる人材になるために習得したい考え方の1つが、マーケティング戦略の考え方です。
「マーケティングは、マーケティング部の仕事ではないの?」
「マーケティングが必要なのは大企業だけで、中小企業がマーケティングを実践してもそれほど効果が出ないのでは?」
と言った意見もありますが、マーケティングの考え方は会社の業態や規模に関わらず、全ての営業マンに必要とされるものです。
では、なぜ営業マンがマーケティング戦略を理解しておいた方がよいのでしょうか?そして、マーケティング戦略を理解するには、どのような知識が必要なのでしょうか?
本記事では、営業マンが理解しておくべきマーケティング戦略について解説します。
マーケティング戦略とは
マーケティング戦略とは、一言に要約すると、継続的に商品やサービスが売れるための仕組みをつくるための戦略のことです。100年以上前にマーケティング概念が誕生してから、さまざまなマーケティング理論が考案されてきました。
マーケティング戦略は、以下の流れを分析したり、戦略立案したりするために用いられます。
- お客様のニーズの把握
- お客様のニーズに合った商品・サービスの開発
- 商品・サービスをどのように売るのかの戦略の決定
- 商品・サービスを購入してもらうための戦略作り
マーケティングは、商品・サービスを売るための仕組みを作ることです。単に市場動向を探るだけではなく、「誰に?」「何を?」「どのように?」売るのかを具体的に決定していくのがマーケティング戦略です。
継続的に利益が得られる体制づくりのためには、マーケティング戦略が不可欠であり、大半の企業がマーケティング活動に取り組んでいます。仮にマーケティング戦略を立てなければ、企業の売上は経営者や個々の営業マンの「感覚」や「思い付き」に委ねられることになります。
利益が上がらなければ、企業の存続・発展はあり得ません。マーケティング戦略は、あらゆる営利企業にとって欠かすことのできないものです。
なぜ営業もマーケティング戦略を知っている必要があるのか
企業の売上アップのためには、営業マン一人ひとりがマーケティング戦略を理解する必要があります。
- マーケティング部に任せてあるから、営業マンが把握する必要はない…
- 自社ではマネージャーが全てマーケティング施策を考えていて、営業マンは営業活動に集中している…
上記のように、営業マンとマーケティング戦略の立案を切り離している企業も少なくないなか、なぜ営業マンがマーケティング戦略を把握しておくべきなのでしょうか?ここでは、大企業と中小企業それぞれの、営業担当者がマーケティング戦略を知っておくべき理由について解説します。
中小企業の場合
中小企業のマーケティング戦略には、さまざまな課題があります。
- マーケティングの重要性への意識が弱い
- マーケティング専属の人員がいない/少ない
(担当者が1~2名しかいない、もしくはマーケティング部がそもそも設置されていない) - マーケティングに多くの予算をかけられない
前述したように、マーケティング戦略に合わせた営業をしなければ、企業の売上は営業マンの感性や運に大きく左右されてしまいます。営業マンがマーケティングの意識を高く持たなければ、営業活動が行き当たりばったりになり、個々の営業マンの営業力に依存する企業体質になってしまいます。
逆に、営業マンがマーケティング戦略を把握すると、科学的・客観的に戦略立案できるようになるでしょう。「どうすれば売れるのか?」「なぜ、売れたのか?(売れなかったのか?)」への意識が強くなることで、再現性の高い営業を実行できるようになり、効率よい働き方ができるチーム作りに役立てられます。
大手企業の場合
専属のマーケティング部が設置されている大手企業の営業マンにも、マーケティング理論が必要です。専属のマーケティング部がマーケティングを実施しているにもかかわらず、営業マンにマーケティング知識が必要とされるのは、なぜでしょうか?
その理由は、マーケティング部と営業部の連携を高め、より強固なチームにするためです。営業マンがマーケティング戦略を理解できると、マーケティング部が獲得したリード(見込み顧客)がどのような経緯のものなのか、どのような意図で獲得されたものなのかを、理解できます。そして、マーケティング部の意図に沿って活動することで、見込み顧客に対して効果的にアプローチできるようになります。
反対に、営業マンがマーケティングについての知識を持っていなければ、獲得したリードの文脈を把握できず、案件化につながらなくなってしまう可能性もあります。結果的に、売上が上がらなかったときに、マーケティング部との関係がぎくしゃくしてしまいがちです。
営業の成果のためにも、社内の関係を良好に保つためにも、営業マンはマーケティング戦略の考え方を身につけるべきであるといえます。
営業戦略とマーケティング戦略の違い
マーケティング戦略は、営業戦略と混同されがちです。特に、営業マンは両者を混同してしまいやすいため、それぞれがどのようなものなのかを、明確に理解する必要があります。
営業戦略は、受注獲得による売上増加を目的としています。いわば、営業戦略とは新規開拓からの案件受注や、既存顧客の継続受注・掘り起しのために営業を効率的・効果的に実施するために立てられる戦略です。具体的な行動には、新規獲得・クロージング・顧客維持などが挙げられます。
マーケティング戦略は、営業戦略よりも上流に位置する戦略です。マーケティング戦略は、売上を見据えていかにリード・見込み顧客を獲得して営業に渡すか、という点が大きな目的となっています。
見込み顧客創出のためには、顧客に新たな価値を提供したり、新たな市場を切り開くなどのアプローチを試みたりすることもあります。マーケティング戦略に基づいた具体的な行動は、ターゲティング・差別化・ニーズ調査・リード獲得・リード育成などです(企業によっては、リード獲得やリード育成を営業部やインサイドセールスが担うこともあります)。
● インサイドセールスの業務範囲例
営業が知るべきマーケティング戦略例
ここまで紹介したように、営業マンはマーケティング戦略についての知識を身につけるべきです。とは言っても、マーケティング戦略をすべて網羅すべきというわけではありません。
そこで、ここでは営業マンが身につけるべきマーケティング理論とその特徴やメリットなどを紹介します。
マスマーケティング
マスマーケティングとは、大量の見込み顧客に対して、画一的なプロモーションをおこなうマーケティング戦略です。典型的な例としては、テレビCMや折り込みチラシなどが挙げられます。ターゲットの母数が大きく、顧客のサービス・商品の認知に大きな影響があるという点が、マスマーケティングの大きな特徴です。
従って、営業マンがマスマーケティングによる反響の予測やブランディングに沿った行動をとることで、売上を最大化できる可能性があります。例えば、チラシが入るタイミングで在庫を潤沢に準備したり、商談時にCMでのブランディングイメージを持ち出したりするなどの活用法があります。
マスマーケティングは、従来よりも効果が薄れているとの見方もありますが、特に大手企業や全国展開している企業ではマスマーケティングの効果は小さくありません。また、近年ではマスの規模を縮小したスモールマスマーケティングという新たな考え方も広まっています。
ダイレクトマーケティング
ダイレクトマーケティングとは、特定のターゲットに対して双方向のコミュニケーションでプロモーションをおこなうアプローチ手法です。マスマーケティングとは異なり、企業が顧客のニーズや行動に合わせて行動します。
具体的なダイレクトマーケティング手法は、以下のとおりです。
- DM(ダイレクトメール)
- テレマーケティング
- オンライン上でのチャット機能やレコメンド機能
ダイレクトマーケティング=ダイレクトメールと誤解されがちですが、ダイレクトメールは一つの手法に過ぎません。顧客と1対1でやり取りをするアプローチ手法がダイレクトマーケティングです。
営業マンは、ダイレクトマーケティングによって認知したり、購買意欲が高まった顧客のクロージングを担当したりするケースが多くなります。ダイレクトマーケティングの経緯を知ることで、営業の精度が高められます。
Webマーケティング
Webマーケティングは、インターネットを用いておこなうアプローチ手法です。インターネットの広告市場は、すでにテレビCMの市場を大きく上回っており、最も大きな宣伝媒体となっています。また、市場が大きくなるに伴い、宣伝手法も多様化しています。
(出典:電通メディアイノベーションラボ)
インバウンドマーケティング
インバウンドマーケティングとは、企業が顧客にとって価値のある情報をインターネット上に公開することで、ユーザーに自社や自社商品を発見してもらう形のマーケティング手法です。従来のマーケティング手法が、企業側から顧客にアプローチするのに対して、インバウンドマーケティングは見込み顧客から企業側にアプローチをします。
企業が情報発信する具体的な手法は、ブログや動画配信、ニュースリリース、eBookなどがあります。SEO対策も、コンテンツを顧客に提供するための手法という意味合いから、インバウンドマーケティングの一つであると言えます。
インバウンドマーケティングを実施した場合の営業手法の大きな特徴は、公開されている情報の内容を把握し、見込み顧客の疑問や悩みを予想しておくことで、よりクロージングに至る可能性を高められます。インバウンドマーケティングに成功すると、ニーズが顕在化している顧客と効率的に接点を持てます。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングは、インバウンドマーケティングの一つの具体策です。ブログやYouTubeの動画などのコンテンツを配信することで、認知度の向上やファンの獲得を目指す手法です。2021年時点では、最もコンテンツマーケティングがインバウンドマーケティングのなかで中心的な位置づけとされています。
コンテンツマーケティングが軌道に乗ると、コンテンツからの問い合わせが増加するため、営業マンはどのようなコンテンツが公開されているのかを意識する姿勢が大切です。また、最も優れたコンテンツの一つは、顧客の悩みや疑問に対して回答するタイプのものです。優れたコンテンツを制作するために、顧客と直接対峙する営業マンが、コンテンツ制作者に顧客の声を提供することで、コンテンツの質が上がりリード数増加に役立つ可能性があります。
SNSマーケティング
かつては「交流の場」であったSNSは、2021年時点では大きなビジネスプラットフォームになりました。Facebook、Twitter、インスタグラム、YouTubeなど、利用者層やユーザー特性の異なる複数のSNSが存在しています。
SNSマーケティングには、以下の特徴があります。
- 拡散力が強い
「バズる」という言葉があるように、SNSでは情報が一気に拡散します。ポジティブな情報もネガティブな情報も、一気に広がります。 - 双方向に情報発信ができる
SNSでは、なんらかのメッセージ機能が搭載されているため、運用の仕方によっては双方向の情報発信が可能です。これによって、顧客ロイヤルティを高めることも可能です。 - インフルエンサーやSNS広告を使って、効率的なプロモーションが可能
インフルエンサーやSNS広告を使用すれば、多くのユーザーに情報が届きやすくなります。活用法によっては、意図的に拡散を仕掛けることも可能です。 - リアルタイム性が強い
SNSでは、常に新しい情報が投稿されるため、古い情報はすぐにユーザーの目に止まらなくなってしまいます。逆にいえば、期間限定のキャンペーンや割引情報などの発信をする際にとても効果的です。また、常に早く反響がわかるという特徴もあります。 - クロージングやオンライン商談との親和性が高い
SNSは営業マンが顧客の情報を確認する際にも活用できます。そして、顧客側も提案企業や担当者の情報をSNSでチェックする企業が増えています。かつては、商品・サービスの認知までがSNSの領域でしたが、最近ではクロージングまでSNSで完結するケースもあるほどです。逆にいえば、SNSを効果的に活用していないと、オンライン商談での成功率が低下すると言われるほど、SNSは商談の現場で存在感を強めています。
上記の特徴を活かすために、営業マンは自社のSNSの運用状況と、ご自身のプライベートアカウントの運用を効果的におこなう必要があります。
アプリ
スマートフォンユーザーのアプリ利用率が高まったことに伴い、アプリマーケティングを活用する企業も増えています。アプリではプッシュ型の情報発信が可能であり、アプリ限定セールの情報や新商品情報を提供したりするなどの活用法があります。
自社に興味を持っているユーザーにピンポイントで情報を提供できるアプリマーケティングは、どちらかといえばBtoC企業に親和性の高いマーケティング手法です。アプリでの情報発信に合わせて、在庫の手配やイベントの企画などを営業マンが実施すると、アプリの効果を最大限に高められます。
ABM(アカウントベースドマーケティング)
ABMとは、自社にとって価値の高い顧客を選別して、顧客に合わせたアプローチをおこなう手法です。ABMは、BtoB企業にて主に実践されています。マーケティングオートメーションやSFAなど、顧客情報をに細かく個別に管理できるツールの登場より、ABMを利用する企業が増加しました。
ABMは、顧客をセグメントして、顧客に応じたアプローチを実践するためのマーケティング手法であるため、営業マンもABMの概念を理解しなくてはなりません。逆にABMを効果的に導入できた場合、マーケティング担当者が顧客の深い情報を集めてくれるため、効果的で効率のよい営業活動が可能になります。
営業も使えるマーケティング戦略策定における分析手法
ここまでは、営業担当者が押さえておきたいマーケティング戦略の概要を解説しましたが、マーケティング戦略を理解するには基本的な分析手法を押さえておきたいところです。フレームワークともいわれる基本の分析手法を解説します。
3C分析
3C分析は、主に商品・サービスの環境分析のために用いられるフレームワークです。
3Cとは
- Company:自社(強み・弱み・価格・理念など)
- Competitor:競合会社(強み・弱み・価格・理念など)
- Customer:市場(市場規模・将来性・ニーズなど)
のことです。
上記の3つのCを分析することで、以下の点を明らかにできます。
- 市場環境や業界内での自社の立ち位置
- 自社の課題(市場のニーズとマッチしていない、競合他社に劣っているなど)
- 売上目標(市場規模における自社の立ち位置から算出)
従って、営業マンが3C分析を活用すれば、営業目標の設定や効率的な目標の調整・修正ができるようになります。
5フォース分析
5フォース分析とは、5つの外的な脅威(競争要因)を明らかにするためのフレームワークです。
5フォースとは、以下のとおりです。
- 業界内での競争
- 新規参入者
- 代替品の存在
- 買い手の交渉力
- 売り手(供給業者)の競争力
(出典:Porter, M. E. 1979. How competitive forces shape strategy. Harvard Business Review, 57(2): 137-45, p. 141.)
これらの競争要因を明確にすることにより「自社が収益を上げやすい状況にあるかどうか?」「収益性の低下を防ぐためにはどうすればよいか?」「脅威に対してどのような策が取れるか?」を判断できます。
SWOT分析
外的脅威を分析する5フォース分析に対して、SWOT分析は内的要因と外的要因の強みと弱みを分析するツールです。
- S:Strenghth(内的プラス要因)
- W:Weakness(内的マイナス要因)
- O:Opportunity(外的プラス要因)
- T:Threat(外的マイナス要因)
こうして、自社を取り巻く内外の状況を客観的に分析することで、スムーズに戦略設定できます。内的要因と外的な要因を知ることで、現在の状況の全体像を把握できるため、3C分析や5S分析と併せて活用することで、分析の精度を高められます。
営業がマーケティング戦略から成果を上げるためには
代表的なマーケティング戦略を紹介しましたが、営業マンがこれらを活用するには、知識の習得だけでは不十分です。自社がどのような戦略をおこなって、どのような経緯でリードを獲得しているのかをイメージしたうえで、営業アプローチを実践しましょう。
自社にマーケティング部が置かれている場合は、情報共有が重要です。マーケティング部の戦略を知ることで、日々の営業活動の行動指針やどのような情報があれば次の戦略に役立てられるのかをイメージできます。また、マーケティング部に対して、営業マンが情報のフィードバックをすることも大切です。
反対にマーケティング部が置かれていない場合は、営業マンが自分自身でより実践的なマーケティングを意識しながら営業活動を実践することが大切です。リード獲得・見込み顧客育成・クロージング・顧客のファン化まで、営業の文脈を意識して活動しましょう。また、他の同僚や直属の上司との情報交換・共有において、顧客情報や自社分析の精度を高めることも重要です。
まとめ
マーケティング戦略とは、企業が商品・サービスを売るための仕組みのことを指します。自社にマーケティング部が設置されているか否かに関わらず、営業マンがマーケティング戦略を知ることで売上のアップに大きなメリットが期待できます。
マーケティング戦略は、古典的なものから最新のITツールを前提としたものまでさまざまな戦略があります。営業マンは、マスマーケティングやインバウンドマーケティング、ABMなどの集客や売上に直結する戦略の基本的な考え方を習得すると良いでしょう。また、3C分析やSWOT分析などのフレームワークを活用して、効果的にPDCAのサイクルを回していきましょう。クロージングの精度を高め、マーケティング戦略との連携をうまく図るには、営業戦略のブラッシュアップも重要です。
そこで、最後に紹介したいのが営業ワークフローです。「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」では、営業マン一人ひとりがチームの指針に沿って行動するための方法を解説しております。ぜひご覧ください。