社内で好きな先輩や上司はいるでしょうか?社長のことは好きでしょうか?よく、仕事に好き嫌いを持ち込むべきでないと言われます。プロなら確かにそうあるべきかも知れません。
とは言え、人には感情があり、仕事のやりがいは、会社の大きさや社風よりもむしろ身近な人との関係性が大きく影響するもの。顔には出さねど、多くの人は慕っている上司と働く方がモチベーションが上がるのではないかと思います。人間関係が良好なら生産性にプラスになることは研究でも判明していますし、そんな調査を見るまでもなく大抵の人は実感できるのではないでしょうか?
もっとも、あくまで仕事の場での好き嫌いなので、「仕事はできないけど優しいから好き!」ということはあまりなく、例えば営業部なら「数字に厳しいが部下思い」「営業力がすごい」「いつも指示が的確でぶれない」など、何かビジネスマンとしての能力、魅力があるから好かれているはずです。
部下から好かれるのは、ビジネススキル、ヒューマンスキルのバランスがよいということでもあるでしょう。本記事では、営業部で好かれる上司が持っている特徴を解説します。
目次
好かれる上司と嫌われる上司とは?
最近はパワハラのニュースが増えているため、たくさんのビジネスマンが上司との人間関係に悩んでいる印象があります。実際に、世の中の上司はどのくらいが好かれて、どのくらいが嫌われているのでしょうか?
2019年に、組織コンサルティング会社の株式会社タバネルが行った調査では、「あなたの上司は『良い上司』である」という質問に対して13.8%が「大いにあてはまる」、35%が「ややあてはまる」と回答しています。
合計すると48.8%の人が自分の上司を良い上司か、まあまあ良い上司と思っているので、部下からみた比率は約半々だと言えるでしょう。良い上司に「大いにあてはまる」が13.8%というのもパレートの法則(262の法則)に沿っている感じであり、日本の会社には良い上司も程よいバランスで存在していることがわかる結果です。
好かれる上司
この調査で、自分の上司が良い上司に「大いにあてはまる」と回答した人の96.1%が自分の意見を上司は聞いてくれる、80.8%が上司の指示は明確であるとしています。部下から評価されている上司には「傾聴スキル」と「明確な指示をする能力」があるようです。
確かに、現場の意見を十分汲み取った上で明確な指示を出せる上司は、部下から見たら理想的です。また、上司とはリーダーであり評価する立場でもあるので、一般に公平さ、部下を守る姿勢があることも好かれるポイントです。
嫌われる上司
一方、自分の上司が「良い上司ではない」と回答した人の中では、上司が自分の話を聞いてくれると答えた人は僅か27.5%。指示が明確だと回答した人も15.3%しかいません。「良い上司ではない」と思われている上司は、部下とのコミュニケーションに難があり指示もわかりづらいようです。
後半で詳しく解説しますが、同様な複数の調査においても、評価されない上司の特徴に「指示が曖昧」という点が上位にランクインします。「公平でない」「人によって態度が変わる」「部下を守ってくれない」なども嫌われる上司の特徴として挙げられやすい点です。
なぜ好かれる上司になることが大切なのか
そもそも、なぜ部下に好かれる上司になることが大切なのでしょうか?
上司の立場なら、「自分が若い頃は嫌いな上司でも全く気にせず結果を出した」「会社は友達を作る場ではない……」「甘い……」など、いろいろ思うところはあるかも知れません。
しかし、お客様と自分の関係をイメージするとわかりやすいと思います。やはり好感を持てたり尊敬できたり、自分を認めてくれるお客様との仕事は自然にモチベーションが上がるのではないでしょうか?決して他のお客様をないがしろにするということではなく、好意がベースにあるとプラスアルファの力が出るのだと思います。
下記の図のとおり、前述の調査で上司を「大いに良い上司」と思っている部下が「自分の仕事にやりがいを感じている」は66.7%ですが、「やや良い上司」と感じている場合は47.3%、「良い上司ではない」と感じている場合は31.8%になります。やりがいを持つ人材が2/3 → 約半数 → 1/3と減っているイメージです。成果や職場の雰囲気にも少なからず影響はあるでしょう。
もし、部下に嫌われすぎて信頼関係が築けないと、十分に動いてもらえなくなってしまう可能性も出てくるでしょう。営業部門は個人が成果を上げればチームの数字も上がるので、人間関係が劣悪でも営業部の目標数字は達成できるのですが、やはり、いざと言う時にお互いをカバーできるか、チームの数字を伸ばすために協力し合えるかは変わってきます。
カッツ・モデルというマネジメントに、必要なスキルを3つに分ける考え方があります。プレイヤーのころは仕事だけできれば認められますが、管理職になったらヒューマンスキルは必須です。好かれる=能力と捉えてもよいかもしれません。
(出典:日本の人事部)
世の中の上司と部下の関係の実情
ここでは、一般的な上司と部下の関係の実態について、エン・ジャパンが2019年に調査した「上司と部下」についての意識調査をもとに掘り下げてみます。
前述のタバネル社の調査では良い上司とそうでない上司は半々でしたが、エン・ジャパンの調査結果は以下の通りです。
- これまで尊敬する上司に出会ったことがある人は68%
- 困った上司のもとで働いた経験がある人は85%
- これまで困った部下を持ったことがある上司は58%
つまり、部下からみて尊敬する上司もいれば困った上司もいて、同様に上司の側も困った部下を持った経験があるというリアルな結果が出ています。それでも約7割が尊敬できる上司に出会えています。
尊敬できる理由の1~3位は「いざというときに部下を守る」「指示・指導が的確」「知識や経験が豊富」です。逆に困った上司の1~3位は「人によって態度を変える」「いざというときに部下を守ってくれない」「指示・指導が曖昧」です。
上司を尊敬できる理由
困った部下の特徴
上司の側の意見はどうでしょうか?上司だって人間、相性も好き嫌いもあるはずです。困った部下を持ったことがある上司から見た部下の特徴は、以下の通りです。1~3位は「言い訳が多い」「報告・連絡・相談を怠る」「上司からの指示待ち」となっています。
(参考:エン・ジャパン)
上司と部下のありがちなギャップ
この類の調査でよく見られるのが「上司側の不満=部下が指示待ち」「部下の不満=上司の指示が不明瞭」というギャップです。(参考:上記2調査及びマンパワーグループ「上司と部下が職場で感じるギャップ」の調査、静岡経済研究所「職場の上司と部下の関係実態調査」)
これは、上司が伝えるべきことを明確に打ち出せていないのか?指示待ちの部下が多すぎるのか、アンケートだけでは掴みづらいのですが、管理職としては今一度、自分が明確なわかりやすい指示をしているか振り返る必要はあるかも知れません。
指示待ちマインドの部下が多いなら、コーチングなどを通して自分で考える習慣をつけてもらう必要もあります。ただし、社風自体がトップダウンなら部下は指示待ちにならざるを得ません。自社の風土、評価制度も照らし合わせて、部下の自由度、裁量権の広さがどのくらいかを明示できると部下も動きやすいでしょう。
好かれる上司と嫌われる上司の特徴
ここでは、好かれる上司と嫌われる上司の特徴を解説します。
好かれる上司の特徴
営業部門で好かれる上司には部下を守る、聞く耳がある、仕事を任せるなどの特徴があります。
部下を守る姿勢
営業部門の上司はいわゆる中間管理職なので、時に経営層からマネジメントについて厳しい要求を受ける立場でもあります。例えば会議で「お宅のA君は成績がずっと低迷しているが何故か?」「やる気がないのではないか?」などと追求されることもあるでしょう。
そのようなときに、理路整然と「A君のクライアントは〇業界が中心だっためコロナウイルスの影響でほぼ全滅しましたが、本人はすぐ切り替えてIT業界を新規開拓しています。見込みも増えているので11月頃から獲得件数が増えると考えています」と、部下を守る説明ができるような上司は当然好かれます。
取引先からのクレームが複雑怪奇になってきた時に「自分が前面に立つ姿勢」がある上司も同様です。普段は静観はしていても、いざと言う時に必ず部下を守る上司は信頼されます。
傾聴力がある
好かれる上司は現場からの意見、個々の営業マンの営業に対する価値観などを十分にヒアリングして理解しようとします。営業活動についても部下は部下なりの考えがあるからです。また、日々、現場にいるため上司よりも早く情報を入手していることもあります。
人はそもそも自分を理解してほしい欲求を持っているので、傾聴力がある上司は部下から好感を持たれますし、たくさん情報が入るため現場感もずれず部下からさらに認められます。
部下を褒める
部下を褒めたり、承認することは大事です。営業部で好かれる上司は、営業マンが成長したり成果を上げた時に褒め称えるだけでなく、叱ったときにも全てを否定せず良いところや頑張っているところをしっかり伝えて褒めてあげることができます。
最近は承認欲求が強いことをネガティブに捉える言説もありますが、承認欲求があるからこそ人は会社の仕事に向上心を持てますし、チームのために努力できると言えます。そして、誰に認められたいかと言えば、やはり「上司」が一番なのです。
2010年と少し古いデータですが、HRテック事業を行う株式会社Take Actionの「ビジネスパーソンの承認欲求に対する意識調査PART2」では、7割以上のビジネスパーソンが承認欲求が満たされると仕事のモチベーションがアップすると答え、「最もうれしい承認」は上司となっています。
(参照:PRTIMES(調査:株式会社Take Action))
部下に仕事を任せることができる
好かれる上司は部下に仕事を任せることができます。ある程度仕事をこなせるようになった部下にはまずやらせてみて、足りないところはサポートする。もし、トラブルが起こった場合は責任を持って対処するくらいの気持ちで任せます。
上司によっては「自分でやった方が早い」「もし失敗してしまった場合逆に仕事が増える」と感じて部下に仕事を振らずに抱え込んでしまいますが、好かれる上司は失敗も想定して部下に仕事を任せます。
裁量権が広いと仕事の意欲が出ることは研究でもわかっています。表現はよくありませんが、下手に過剰な管理をするよりも部下に丸投げするような適当な上司のもとで部下が成長することもよくあります。
率先して行動する
中小企業やベンチャー企業は営業マンの数が多くないので、営業部の上司が自ら率先して営業して大きな取引をまとめたりすると、やはり尊敬されますし好かれます。マネジメントをしながらも、営業部のミッションである売上げを上げることに一番に熱心な上司の姿を見れば、部下も頑張ろうという気になるものです。
嫌われる上司の特徴
営業部で嫌われやすい上司には部下の話を聞かない、フォローがない、管理だけして自らは動かないなどの特徴があります。
部下の話を聞かない
部下の話を聞かずに、自分の話や意見だけを押しつけるタイプの上司です。営業のノウハウや方針も自分の価値観や自分のやり方だけを部下に伝えて、他の方法を否定する傾向があります。
例えば、営業アプローチ(電話やメールなど)は個人の得意不得意、向き不向きも多少ありますが、特定の打ち手を強要してしまいます。部下は自分が選択できなかったことでモチベーションを下げ、さらに自分の持ち味を生かしにくいアプローチ方法をとらなければならないことにやりにくさを感じ、元気がなくなっていきます。
上司が良かれと思って「自分の営業スタイルを押しつけても部下に合わない」という悲劇は、営業会社でよく見かける光景です。
部下を叱りっぱなしにする
部下の足りないところを指摘することは上司の責務の一つです。そういう意味では、もともと上司とは「嫌われやすい立場」です。それでも、指導したことで感謝される上司と嫌われてしまう上司がいます。
嫌われる上司はフォローが今一つなのです。不器用なのかも知れませんが、ただ叱りっぱなしにしてしまうので部下のモチベーションを下げてしまいます。また、否定されて厳しく言われたことだけが記憶に残るため、上司と部下との関係悪化にも繋がってしまいかねません。
叱る場合も「ピーク・エンドの法則」のとおり、最後はフォローすることが大切です。あわせて、厚生労働省のパワハラ6類型に相当する行為を知識として知っておきましょう。管理職に限りませんが、意外にうっかりハラスメントをしていることがあるかも知れません。なぜならハラスメントは自分が正しいと思っている時に起こりがちだからです。
(出典:厚生労働省)
部下を管理、監視する
部下が心配で過剰に管理・監視をしてしまう上司も嫌われがちです。ある程度仕事の進め方がわかっている営業マンには自身で考えて行動してもらうことが大切なのに、細かく管理、監視してしまうため部下は「サボっている」「仕事をしていない」と疑われている気がして居心地がよくありません。
だんだん「そこにエネルギーをさくなら営業戦略なり違うことを頑張ってほしい……」という気になっていくのではないかと思います。
指示だけ出す
大手企業ならマネジメントのみに徹しても問題ないかも知れませんが、中小企業では指示だけをする上司は部下からあまり好ましく受けとめられません。人も金もツールも不足しているので、案件が足りなければ自ら獲得するための戦略を立てたり、積極的に営業活動を行うことが大切です。売上を立てるために汗をかかない上司は、部下から距離をおかれてしまうでしょう。
好かれる上司になるために気を付けること
ここでは、好かれる上司になるためのポイントを紹介します。
気持ちを落ち着かせて接する
上司は感情的にならないことが大切です。適切な接し方や判断ができなくなる可能性があるからです。腹が立っても部下と接する際には気持ちを落ち着かせましょう。アンガーマネジメントでは、最初の6秒怒りを抑えられると衝動がコントロールできるとして「6秒ルール」が推奨されています。いきなり忍耐強くなるのは難しくても、カッときたら6つ数えることなら習慣にできるかも知れません。
部下を信頼して任せる
営業マンがある程度成長したら、部下を信頼して少しづつ仕事を任せるべきですが、任せた以上は達成できるようにサポートやアドバイスをしたり、もしものことがあれば即時対応できるようにしておくなど、責任を持つことも上司の役割です。多少のミスを許容できる器の大きさも必要です。
ベンチャー企業などでは「失敗予算がある」企業も存在します。例え失敗に終ってもその失敗が部下を大きく成長させ、中長期的に自社のプラスになるならとGOサインを出すそうです。まさに失敗は成功の元という考え方です。
部下を丁寧に観る
営業マンの仕事ぶりや価値観を丁寧に「観る」ことが大切です。個々の営業マンが営業に対してどのような価値観を持っているのか、信条やこだわりの部分を理解すると、コミュニケーションが良好になっていきます。
部下の評価を固定しないことも重要です。以前はサボってばかりいた営業マンが、何かをきっかけに頑張り始めたり、逆に順調だった営業マンがスランプに陥っていることもあります。一時の強い印象で決めつけるのではなく、常に今の状態をフラットに観る姿勢は公平さを部下に印象付けるでしょう。
自らが学ぶ姿勢を忘れない
管理職になると幅広い知識を身につける必要があります。上司になっても勉強せずマネジメントや営業戦略についての知識がないと、部下から見て「あまり自分と差がない」と映ります。常に学ぶ姿勢があって、自分が知らない知識、高い視座を持っている上司のほうが好かれるでしょう。
書籍やオンライン講座などを活用して常に新しい知識を得ていくことが大切です。もちろん、多くの営業マネージャーはプレイングマネージャーなので、自身の営業スキルをあげて成果を出すことも必要です。
言葉選びに気を付ける
部下にフィードバックしたり、叱ったり、褒める際には言葉選びに気をつけることが大切です。言葉の受け取り方は部下によっても、その時の部下の心情によっても変わります。部下の様子をしっかり観て状況に応じてどのような表現で伝えるのか考えましょう。
もちろん、一人前の大人の人間性を否定する言葉はNGです。事実ベースの対話、ポジティブな表現が好ましいと言えます。
例):
- 平均的な成果の部下に → いつも真面目に仕事に取り組んでいる、安定的に成果を出している
- 怠けているのではないか → 最近、行動量が落ちているが何か・・・
- 小心、神経質な気質 → 勘が鋭い、相手の気持ちにすぐ気づける資質がある
- 落ち着きがない → フットワークが軽い、行動力がある
これは、違う角度から見た事実でもあります。部下の可能性を発見していきましょう。
まとめ
「上司は部下を知るのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」と言われます。実際に3日かどうかはわかりませんが、それだけ部下にとって上司は大きな影響を持つ存在だということでしょう。
身近にいるので理解し合えていると思ったら、実はそうでもなかったというのは職場以外でもよくあることです。好かれる上司の特徴、困った部下の特徴などを見ると、やはりお互いのギャップを埋める決め手は、部下に対する上司の「傾聴力」なのかも知れません。
部下にとって上司が自分を理解していることはとても重要です。表面的にはそれほど差がなく見えてもモチベーション(内発的動機)に大きく影響します。
営業活動で顧客理解のために行っているヒアリングのスキルを部下理解のためにも活用する意識を持つとコミュニケーションが良好になっていくのではないかと思います。
こちらから「営業スキルチェックシート」がダウンロードできます。各営業マンの強みの把握にぜひご活用ください。