強い営業力を持つと言われるような企業は、勝つための営業マネジメントを実行しています。近年は営業の世界も科学的なアプローチが進んできたため、先進的な企業は営業のプロセス管理を徹底し、数値をもとにした再現性の高い営業の仕組みを構築しているのです。
今はちょうど「気合、根性、数」などに重きをおく昭和型の営業マネジメントから、近代的な営業マネジメントへの端境期かも知れません。もちろん、営業の世界には人の感情、相性、コミュニケーション力という数値化しづらい要素が多く影響するため、単純な方程式は成り立ちません。
それでも、一昔前に比べれば営業組織の営業力を底上げするノウハウが世に出ている時代であることは確かでしょう。
- 営業プロセスを把握する
- 数値をもとに適切なタイミングで指導・アドバイスを行う
- 営業マンを管理ではなく支援する
営業マネジメントにおいてはこの3点が重要です。
本記事では、これから営業マネジメントを行なっていきたい方や営業部門をどのように管理していけばよいかを学びたい方に、営業部隊を強化するために行うべきマネジメントについて解説します。

営業マネジメントとは?
営業マネジメントとは、営業部門の目標数字を達成するために各営業マンの営業プロセスを適切に管理し、個々の営業マンを指導して成果をあげていくことです。
営業マネジメントの目的は、もちろん営業目標の達成です。そのためには、営業マンが継続的に成果を出せるように中長期的な視点で育成していくことが重要です。
営業チームの抱える課題と現状
一般に、営業部門が抱える課題は以下の通りです。
- 優秀な営業マンとほかの営業マンの能力差が激しい
- 営業ノウハウが共有されない
- 若手営業マンの離職が多い
- 中途入社の営業マンが即戦力になることが少ない
- 営業マンに求められる能力が高度化している
営業マネジメントの課題の多くは、優秀な営業マンのノウハウの共有がされず属人化されやすいことや営業現場の情報が共有化されないこと、営業のプロセスが分析・把握されていないため、上司や先輩が新人を指導できないことにあると言えるでしょう。さらに、昨今はインターネットの普及によるお客様の情報収集力向上により、営業マンにますます高度な能力が求められています。
営業管理者はこの情報共有と育成についての課題を解決して、成果をあげる役割です。とは言え、営業課長や部長になるのが営業成績に優れていた方々であってもマネジメントとなるとまた勝手は違います。
営業マンが成果をあげるには業務知識や行動力だけでなく個人の魅力、コミュニケーション力という数値化しづらい要素も影響します。そのため、優秀な営業マンが何も考えずに自然に行っていることが、感性の低い営業マンにとっては高レベルのスキルに映ることは少なくありません。
プレイヤーとして高い実績をあげていた営業マンが管理職になると、自分では意識していなかった内容を言語化しなくてはならなくなり、頭を抱えてしまうことは決して珍しくありません。
さらに、競争文化のある営業現場では、営業マンやチームごとに成績を競い合わせているため情報の抱え込みがどうしても起こります。これは、実は一企業だけにあることではなく、競争原理が強く働く集団では起きる現象のようです。
世界最強の組織と言われる、米国海兵隊出身の実業家が書いた『アメリカ海兵隊式最強の組織』という本の中には、
- 「何年もかけて仕事で身につけたちょっとした成功の秘訣が、ライバルの従業員たちと共有されることはほとんどない」
- 「出世争いの敵に塩を送る必要などないと考えがち」
- 「知識の共有がなければ組織の進歩は完全に阻まれる」
と書かれており、組織における情報共有化の重要性が指摘されています。
画像:Amazon[『アメリカ海兵隊式最強の組織』ダン キャリソン&ロッド ウォルシュ (著)
営業マネジメントを行う方は、部下の非協力や情報の占有を嘆くのではなく「国を問わず人間とはそのような性質を持っている」と理解した上で、情報共有する仕組みを構築したほうが合理的だと言えるでしょう。
一方で、人は裁量権が大きく、上司や同僚の支援があると意欲が向上すること、ヘルパーズ・ハイといって人を助けて感謝されることで意欲が向上することも研究でわかっています。
近年は、SFAはじめコミュニティツールに褒め合う仕組みがありますが、これは心理学的な研究に裏打ちされたものではないかと思います。 情報共有を促進し成果につなげていくためには、人間心理のポジティブな面に注目することが大切です。
営業マネジメントが大切な理由
営業の仕事の属人化、営業マンの能力のバラツキ、チームワークの問題を解決するためには営業マネジメント力が重要となります。具体的には、営業活動を視える化して、営業のプロセス管理を行い、データにもとづいた適切なKPIにそって進捗をチェックするマネジメントを行うことが必要です。
商品・サービスが単純なものであれば、徹底した行動管理に力を入れたほうが効果的かもしれません。知識労働に近い営業ならば裁量権を広げて、KPIは提案数や大手企業との商談にしたほうが、営業マンのモチベーションは上がるかもしれません。
どのようなマネジメントを志向するかは、企業によって異なります。実績を出している営業マン層の行動を分析して、自社に適切なKPIを設定するとよいでしょう。
大抵の場合、営業成績があがらない営業マンには営業マンとしての基本的なスキルがどこか不足しており、売上げを逃していることがよくあります。理由は以下のようにさまざまなので、プロセス管理を行いボトルネックを特定して個別に指導することが必要です。
例)
- 新規アプローチが苦手 → 効果的なトークスクリプト、メール案内文の共有
- ヒアリング力が弱い → 傾聴スキルのトレーニングと、オウム返しやSPIN話法などの教育
- クロージングが苦手 → クロージング用トークのロールプレイング
- キーパーソン(決裁者)に会えていない → 上司、社長などが同行し決裁者と会う機会を設ける
また、意外に成績が上位層の営業マンが、多忙のためにお客様のフォローが行き届かず失注していることがあります。数字を順調にあげている営業マンは、上司から見れば信頼できる部下なため、プロセス管理を怠っていると上司もうっかり見過ごしがちです。
お客様から見れば単なるフォロー不足の営業マンなので、他社に発注されてしまう可能性があります。この場合、上司は多忙な営業マンにアシスタントをつけたり、フォローしきれない案件を担当替えしたりするなど決断する必要があります。
もし、一人の営業マンに限らない現象(営業マンの数に対して顧客数が多すぎる)である場合は、組織体制を見直しインサイドセールス部隊を作ったり、一部の業務をアウトソーシングするなど何かしら手を打つ必要があるでしょう。このようなセールス・イネーブルメント的な考え方も営業マネジメントには必要です。
営業マネジメントのプロセスと重要項目
ここでは、営業マネジメントのプロセス管理における重要項目について解説します。
目標管理
営業マンは売上げ目標を達成することが仕事です。目標数字があることで営業マン自身も自分に求められている成果がわかり、自分が責任をどれだけ果たしているのか、会社にどのくらい貢献しているかを理解することができます。数字の達成率や社内での順位は、営業マンにとって自分自身の成長を確認する指標でありアイデンティティでもあります。
そのため営業マネジメントにおいては、営業マンのスキルに応じた適切な目標設定を行い、数字の進捗状況をしっかり把握することが重要となります。
目標の設定
目標設定は公平性がポイントです。目標数字は一般には前年実績よりも10~20%ほど高い数字が設定されることが多いと思います。ただ、一律に前年対比で目標を設定すると、成績上位の営業マンの目標が年々高くなり、成績をあげている営業マンの達成率が、平均的な営業マンより低下してしまう逆転現象が起きることもあります。
エース社員に相当する営業マンに不満が募ったり、数字を出し惜しみしたりする営業マンが出る可能性もあるため、営業マンから状況をヒアリングし年度ごとに適切な顧客数に担当替えを行うなど、各営業マンが公平感を感じるような目標設定を行うことが望ましいと言えます。
担当替えの際も注意が必要です。例えば、お客様の業績急降下などやむをえない事情で予算が大幅に減少し、新年度の予算が0なっているのに情報が不透明なまま引継ぎが行われてしまい、新しく担当になった営業マンに目標だけが課せられるというケースが起きることがあります。
担当変更後の3ヶ月くらいまでの実績は、前任者にも責任があることを営業マンに理解してもらい、引継ぎをしっかり行うことや日頃からCRMなどへ重要情報を入力することを徹底してもらうことが大切です。
目標の見込み度会い・進捗確認
目標数字に対する進捗を確認するためには、お客様ごとの見込み数字を予測して進捗を確認していくことが大切です。
新人の営業マンだと、お客様のニーズにあまり敏感でないこともあります。見込み数字を出させることで真剣にお客様への訪問時の内容を振り返り「そういえば〇〇に困っていた」と思い出しニーズを理解できます。既存のお客様だけで数字が達成できなさそうであれば、新規開拓しなければならないと気付くことができます。
(例)
行動管理
営業マンのマネジメントにおいて最も重要なのは行動管理です。目標を達成するために、自分がどれだけの行動をすればよいか営業マン自身に数字でイメージしてもらい、自覚をもって動いてもらうことが大切です。
新規開拓一つとっても訪問、電話、メールなどさまざまなアプローチ手法がありますが、営業アプローチの段階で管理する指標(KPI)には主に以下のものが挙げられます。
- 電話によるアプローチ(テレアポ)のKPI例
・通話数(通話した数)
・ キーマン通話数(通話したい相手(決裁者)に繋がった通話数)
・ アポイント数(アポイントの獲得数) - メールによる新規アプローチのKPI例
・メール到達数(送信したメールが顧客に到達した数)
・メール開封率(送信したメールが開封された数) - 商談のKPI例
・商談件数(商談の実施数)
・見積提出件数(見積もりを提出した件数) - フォロー段階のKPI例
・フォローコール数(見込み客のフォロー電話の数)
・フォローメール数(見込み客のフォローメールの数)
なお、行動管理のKPIを確認するときは必要以上に成果を問い詰めないことも大事です。あくまで、KPIをどの程度まで達成できているかがチェックポイントです。
一般に新規開拓は時間がかなりかかり、今年度に数字が上がらないお客様であっても、翌年に大きな売上げにつながるケースは多々あります。既存のお客様への提案なども、成果があがるかどうかには景気の動向、お客様の事業の成長スピードなどなどさまざまな要素が影響します。
目端の利く営業マンになるほど、ほかの営業マンよりもかなり速く成長企業にアプローチします。今月、今年度の数字を作りながら2~3年スパンで数字を組み立てていることもあります。むしろ有望な企業と他社より早く信頼関係を創りあげていこうとしているので、現時点の成果で判断するのは早計なこともあります。
新人営業マンには新規開拓し続けること、真摯にお客様の課題に対して向き合い提案し続けること、きちんとフォローすることなどの基本を回せるようになってもらうことのほうが大切です。
何よりKPIはマネジメント側が設定した数値です。成果があがらないことを追求するどころか「このKPIをクリアして成果が出ないなら自分もKPI設定を考え直す必要がある」と言い切るくらいの姿勢でちょうどよいかもしれません。
案件管理
お客様にアプローチすると、さまざまな見込み度合いのお客様が出てきます。アプローチしたどのお客様がどのくらいの見込み度合いがあるか、また営業プロセスのどのあたりまで進捗しているのかを整理しておくことが大切です。
初訪で売れる商品・サービスか、それとも売上げまで最低でも1ヶ月かかるのか、1年かかるのかにより、1日ごと、週ごとなど、適切な確認のタイミングは異なります。ポイントはあまり細かく管理しすぎないことです。
営業マンの心理として、見込み度を高く報告して上司からの確認が増え、プレッシャーがかかるとなるとそれを回避したくなります。案件管理を自分の胸の中にしまいこみ、確度の高い見込みになるまで表に出さないという行動が増える場合があります。
そうなると、いかに最先端の営業マネジメントシステムを導入しても、情報入力段階に課題ができてしまいます。
前述のように、人は裁量権が大きくなるほどモチベーションが高くなることが研究で明らかになっています。野球、サッカーなどスポーツチームの監督も豊富な知識とデータをもとに采配を振るいますが、決して手とり足取り指導しているわけではありません。
プロセス管理を徹底すること=指示・アドバイスの数を増やすということではありません。
- 1を聞いて10を知るタイプ
- 1を聞いて1は理解できるタイプ
- 何回か教えてもらわないと理解できないタイプ
など人の個性はさまざまです。マネジメントを行うときは、営業マンの状況、個性に応じて指導やアドバイスを行うことが大切です。
商談管理
商談の機会を得た場合は、お客様に提案した内容、見積額、お客様の反応、競合企業の動きなど、商談時に得た情報を記録して残しておくことが大切です。また、商談の前に営業マンに、以下のBANT条件を確認してもらうことが大切です。
商談をしても1度にクロージングできないこともよくあります。ニーズがあり、再提案できる可能性がある場合は、内容へのフィードバックをもとに、再提案することを促します。
受注/失注管理
商談後、めでたく受注できるケースと失注になるケースがあります。いずれの場合も情報を管理する必要があります。受注の場合は、アプローチ段階での売上見込みと提案した見積金額、最終的な売上数字との比較で、仮説が正しかったかを振り返ります。
失注の場合は、なぜ失注になってしまったのかを明確にします。お客様のニーズを把握できていなかったのか、課題を解決できるような提案でなかったのか、キーマンに会っていなかったのかなどを分析し次回に活かします。
契約管理
契約できたお客様とは長期のお付き合いをすることが理想です。そのためには、お客様の情報や契約資料の管理、請求先情報などをきちんと管理する必要があります。紙の書類は紛失することもあれば、用紙がよれたり字が薄くなったりすることもあります。必要なときにすぐ確認でき、社内のだれもが情報を確認できるように、PDF化するなど書類をペーパーレス化するのもおすすめです。
ペーパーレス化のメリットは何よりもスピードです。出力、押印、郵送、保存場所への移動、探す時間のムダnなどが節約できます。
近年は契約そのものもクラウド上で行えます。各企業一斉に働き方改革に取り組んでいる昨今は、お客様に電子契約などを提案しても受け入れられる可能性は高くなっているでしょう。
営業マネジメントシステムとは?
営業マネジメントシステムとは、SFAなどに代表されるITを活用したマネジメントシステムです。Excelでも営業管理は可能ですが、近年は情報を一元管理できるクラウド型の営業マネジメントシステムが普及しつつあります
営業マネジメントシステムの重要性
営業マンにとっての営業活動やお客様にとっての購買活動には一連のストーリーがあります。情報が時系列に蓄積されることで、各営業マンの案件のストーリーが残り、上司や同僚なども確認できます。知識をみなで共有でき、かつその案件についてアドバイスしあうこともできます。
昨今は若者が転職することもごく一般的で、いつ誰が離職するかわかりません。新しく担当者になった営業マンがスムーズに力を発揮できるようにするためにも、営業マネジメントシステムで基本的な情報を共有することは大切です。
システムを活用するために大切なこと
営業マネジメントシステムを活用するためのポイントは、営業マンの負荷を極力小さくすることです。営業マンは忙しいので、あまり事務的な仕事に時間を割いてもらうことは避けたいものです。
商談や打ち合わせなどのすべての情報を入力して管理させるのではなく、最初は重要情報のみを入力するくらいの姿勢で十分だと言えるでしょう。データは継続して蓄積されてこそ価値を生みます。
また、ビジネスのデジタル化が進むなか、データにもとづいて営業活動を行い成果をあげていくスキルを身につけることは、営業マン自身のキャリアにもプラスになると伝えるとよいかもしれません。以下のような、営業マン自身が営業プロセスを理解して、KPIに沿って動くことのメリットを再認識してもらうとよいでしょう。
- 成績上位の営業マンの行動パターンを参考にして自分を伸ばすことができる
- ほかの営業マンと比較した自分の強み・弱みがわかる
- 成約率の高い提案書やメール文のフォーマットを活用できる
- スランプのときにどの工程でつまづいているかわかり回復が速い
営業センス、勘などで成績をあげていた営業マンが、転職や人事異動で業界や商品・サービスが変わると力が出せなくなることは珍しくありません。各業界、商品・サービスごとの営業KPIは異なるからです。営業マンには再現性の高い営業スキルを身につけるメリットをきちんと伝えましょう。
まとめ
ビジネスのデジタル化は進み、今後は営業部門でもますますデータをマネジメントや営業戦略に活かしていくことが重要になっていきます。一方、時代がいかに進化しても人間の心理、感情的な反応というものはあまり変化しないようです。
強い営業組織を作るためには、「営業の仕組み化+営業マンの裁量権拡大によるモチベーション向上」というやや矛盾した要素のバランスをどうとるかがポイントかもしれません。
基本的なプロセス管理をしっかり行った上で、データを活かしながらも、営業マンの能力に応じてアドバイスや任せる範囲を変化させる営業マネジメントを行うことが必要ではないかと思います。
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