セールス・イネーブルメントとは?営業成果を高めるセールス・イネーブルメントのポイント

セールス・イネーブルメント

近年は日本でも「セールス・イネーブルメント部門立ち上げ人材」「セールス・イネーブルメントマネージャー」「セールス・イネーブルメントツール」など、セールス・イネーブルメントという部署や関連職種、ITツール名が登場してきました。

セールス・イネーブルメントとは、2000年代初頭に米国大手調査会社ガートナー社(Gartner, Inc.)やフォレスター・リサーチ社(Forrester Reserch)などが提唱した企業の営業活動を最適化する取り組みのことですが、営業部門だけでなく人事、マーケティング、IT部門などのエキスパートが営業現場を強力に支援する体制をとるところに特徴があります。 

本記事では、セールス・イネーブルメントの意味、セールス・イネーブルメントが台頭してきた背景、営業成果を高めるためのセールス・イネーブルメントの取り組み方を解説します。

日々の営業活動で活用できる営業スキルのチェックシートはこちら

セールス・イネーブルメントの意味とは

セールス・イネーブルメント(Sales enablement)という言葉は、直訳すると「Sales=営業」「Enablement=可能にする」という意味であり、シンプルに「営業をよりできるようにする=強化する、最適化する」ということです。

セールス・イネーブルメントのビジネス上の定義には現状多少ばらつきはありますが、広義では営業活動を営業部門だけでなくマーケティング部門、人事部門、システム部門などの知見を活かせる組織体制を整えた上で強化していく概念を指します。

狭義では、営業コンテンツの拡充やデータをもとにした科学的マネジメントを行い営業プロセスを最適化し続ける取り組みを指します。いずれにせよ営業現場を他部門も連携して支援する取り組みです。

海外ではセールス・イネーブルメントという部門を独立させる場合もあれば、営業部門内にセールス・イネーブルメントチームを作る場合もあります。

組織図例)

営業部門組織図

セールス・イネーブルメントでは、具体的には以下のような取り組みが行われます。 

  • 営業強化に必要な組織編成(セールス・イネーブルメント部門・担当者任命)
  • 営業戦略の策定(有効な営業チャネルの選択から施策決定まで)
  • 営業プロセスの定義
  • 社内外用コンテンツの制作(提案資料、導入成功事例等)
  • 営業プロセスの数値による可視化から改善まで
  • 人事部と連携した営業マン教育の計画
  •  ITツールの選択と活用(SFA、CRM、各種セールス・イネーブルメントツール)

もちろん、すべてを行わなければならないということではなく、業界や企業規模、商品・サービスによって最適なセールス・イネーブルメントの取り組み方は異なります。営業部門だけを最適化するのではなく、「企業の営業活動そのものを最適化する」のがセールス・イネーブルメントの特徴です。

セールス・イネーブルメントが台頭してきた背景

近年は営業を取り巻く環境がますます激しくなってきています。インターネットの登場により情報の入手が容易になりテクノロジーの進歩も速くなり、斬新な商品をリリースしてもあっという間にコモディティ化します。 

営業マンの方も「もっとマーケティングに力を入れるべき…」「競合他社のような豪華な事例がほしい」「これまでとは違う営業戦略をとる必要がある」など、営業活動のかたわら営業部門以外の領域まで思考をめぐらすことが増えているのではないかと思います。

今は、売上げが伸びない=営業部門だけの責任と単純に決めつけられない時代だと言えるでしょう。

このような背景のなか、営業戦略をこれまでより大きな枠組みでとらえ必要であれば組織を再編成してマーケティング部門やIT部門などの知見も融合して営業を支援していくセールス・イネーブルメントが注目されてきたのです。

もちろん、これまでも各部署は企業の収益拡大に取り組んできています。しかし、各部門それぞれの戦略で動くため企業として効率的でないことは少なくありません。一例を挙げれば、近年はマーケティング部門がMAツールで大量に見込み客を集客することができます。しかし、営業現場の人数が不足していれば失注は増えます。

マーケティングと営業の領域はかなり融合し始めているにも関わらず、動きは連携していません。

営業マンの教育についても同じです。人事部で年間の研修プランを立てますが、一般に、新人研修が終わると管理職昇進の手前の時期までは、IT研修、コンプライアンス研修などの専門的なメニューを除き、OJT教育に頼っているのが現状です。現場の情報や知識が、人事に入りにくい組織の壁があるからです。

とは言え、営業職に必要な知識は今や心理学、マーケティング力、ロジカルシンキング力ほか幅広く、営業管理職のOJT教育だけでカバーできる内容ではありません。本来なら体系的に教育できることが理想です。

このような営業現場を取り巻くさまざまな非効率な面を改善し、会社として営業活動の全体最適を目指していくのがセールス・イネーブルメントです。

言い換えれば、セールス・イネーブルメントという概念を創ることで、「重要でありながら誰が担当するか曖昧で手をつけていなかった領域」に、新たな役割と責任を定義したと言えるでしょう。

セールス・イネーブルメントという立ち位置の部門があると、コンテンツなどを用意して現場を支援するだけでなく、マーケティング部門、人事部門と営業現場をつなぐような役割を果たすことも期待できます。

セールス・イネーブルメントの役割り

なぜセールス・イネーブルメントが大切なのか

セールス・イネーブルメントに取り組むことにより、以下の効果が期待できます。

営業力の標準化

セールス・イネーブルメントの中心的な業務に、充実した営業用コンテンツの作成があります。

営業部門が作成する導入事例は数も限られ、コンテンツとしての見栄えも今一つな場合がありますが、セールス・イネーブルメント部門でマーケティング経験者などが取り組めばクオリティの高いコンテンツが用意できます。

常に最新の事例がアップデートされ続ける体制が整えば、現場の営業マンはお客様へ営業しやすくなります。事例だけでなく、成約率の高い提案書、見積書、メール文章などをフォーマット化し、誰もが扱えるように共有することで、営業マンのスキルアップにつながります。

セクショナリズムの打破

営業力の強化のために他部門と協力しあうと聞いても、「またか…」と感じる営業現場の方も少なくないと思います。

それほど、企業内の部門間協力は「言うは易く行うは難し」のテーマです。一般的にも営業とマーケティング部門、営業部門と製造部門、営業部門とクリエイティブ部門との対立は多くの会社でよく見られます。

  • 「現場を知らないマーケが偉そうに(営業側)」
  • 「営業の下請け仕事が増えるのはごめん(マーケティング)」
  • 「彼らは、大事なことがわかっていない(両部門)」 

という感じで、組織をそのままに改革に取り組んだところで理解不足や組織のカベに阻まれ、心情的に対立することは珍しくありません。セールス・イネーブルメントは人事を巻き込んで組織の編成まで含めて考えるところに特徴があります。「理想」「気持ち」をあてにするのでなく、仕組みを整えます。

施策毎の貢献度の可視化

営業現場にさまざまな営業施策を導入しても、効果検証が不十分なことは少なくありません。

営業マネージャー自体がプレイングマネージャーであり、そもそも分析に時間が割けないという事情もありがちです。セールス・イネーブルメントでは、専任スタッフがあらゆる改善施策をトータルに設計した上で検証するため、以下のようなことがわかります。 

  • どの営業施策(メルマガやオウンドメディア、展示会)が効果的だったか?
  •  成功率が高い営業コンテンツ(営業持参コンテンツ、DLされるコンテンツ)はどれか?
  • チャットボット、インサイドセールス部隊、外勤営業のROIはどのくらいか? 

各施策がどのくらい貢献しているのかを数値で把握し、効果がない施策ははやめ、効果のある施策に力を入れることができます。 

セールス・イネーブルメントの組織体制

セールス・イネーブルメントを実行する組織体制のパターンを解説します。

独立したセールス・イネーブルメント部門を創設

米国ではセールス・イネーブルメント専門の部署を作る企業も少なくありません。セールス・イネーブルメント部門にマーケティング部門や開発部門、人事部門などの「優秀な人材」を集めて協力しあって現場を支援します。いわばドリームチームです。日本でもセールス・イネーブルメント部門を立ち上げるベンチャー企業などが出てきています。 

理想的なパターンですが、注意事項としては米国と日本は雇用文化が異なるところです。外資系企業が日本に進出した時「リーダーはどこにいる?」と叫ぶというような例え話もありますが、日本の場合は必ずしも組織上ので役職と実際の仕事の場での権限・影響力が同じではなく乖離していることが少なくありません(年功型制度のマイナス面として能力と役職がかみ合っていないことがあるからです)。

そのため、企業風土的に組織的に動くというより「あの人が言うなら協力しよう」という判断基準を現場はとりがちです。「役職の高低ではなく現場のことを理解しており現場が認める優秀な人材」が言っているかどうかで協力度合いを決める傾向が強くなります。

相手の力量が見えない場合は「お手並み拝見」という、非協力とまではいかなくても冷めた対応がとられることもあります。

ゆえに、セールス・イネーブルメント部門を立ち上げたら、現場が一目おく優秀な人材を揃えられるかどうかが成否を決めます。現場から尊敬され憧れられるような人材が揃えられればベストです。

しかし、人手不足の中、各現場が戦力を出し渋るため、セールス・イネーブルメントに適した人材が確保できないことも十分想定できます。企業内で理想どおりの人材を一組織が集めるのは現実問題なかなか困難です。人材の質が確保できないとセールス・イネーブルメントの効果も限定的になるでしょう。

そのような場合は、各部門の優秀な人材に兼務してもらうか、外部からセールス・イネーブルメントにたけた人材を登用するなどの選択肢があります。外部から採用した人材の場合、社内で人間関係が構築できるまでは力を発揮できない可能性があることを理解しましょう。兼務にする場合は、該当の社員の負荷はかなり増えるため、報酬、評価にきちんと反映することが非常に重要になってきます。

営業部門内にセールス・イネーブルメント部門をおく  

日本の中小企業の6割はマーケティング部門がありません。一人マーケッター体制ということも珍しくありません。当然、多忙です。

この場合は、営業現場にセールス・イネーブルメントを置いたほうが現実的です。現場に近いほうが営業戦略は練りやすく、営業マンのニーズをくみ取り販促用コンテンツを作成しやすくなります。

日本の営業マンの守備範囲は広く、マーケティング力や分析力の高い人材がそれなりにいるはずです。マーケティングに強い人材がまったくいないのであれば、一時的にマーケティング関連のフリー人材を採用するか、外部企業にアウトソーシングしながら自社に知見を貯めていく選択肢もあります。

営業企画部門・マーケティング部門におく

セールス・イネーブルメントという言葉こそ使っていないものの、最強の営業力と表現されるような企業は、企画部門が優秀であり営業戦略、数値による徹底したマネジメント、営業現場から開発へのフィードバック体制などが構築されています。

そのような企業がさらにセールス・イネーブルメントに力を入れる場合は、そのまま営業企画部門が主導したほうがスムーズでしょう。 

セールス・イネーブルメントのポイント

セールス・イネーブルメントでは、営業用コンテンツの拡充と営業マン教育がポイントです。

コンテンツについては、ある程度のコストをかけて営業資料、事例などを整備したり、コンテンツが共有化できる社内体制を整えることが必要です。作成するコンテンツの例は以下のとおりです。

コンテンツ制作 (営業用)

  • 導入成功事例(Webサイト掲載用/営業持参用)
  • 製品導入ガイドライン(Webサイト掲載用/営業持参用)
  • ホワイトペーパー(WebサイトDL用)
  • ニュースリリース(自社が行う市場調査など)
  • PR動画(Webサイト/Youtube用) 

コンテンツ制作(社内向け)

  • 営業マニュアル(商談パイプライン、BANT条件、キーマンの重要性、KPI等)
  • トークスクリプト(テレアポ、ヒアリング、クロージング等フェーズごと)
  • 事例(成功例、失敗例)

 営業トレーニング

営業マン教育の内容については、セールス・イネーブルメント部門が主導してトレーニングの大枠(役割分担、回数、時期等)を決めることが大切です。また、関連部門へ必要な研修を依頼します。

  • Eラーニングシステム構築(人事部)
  • ITリテラシー研修(情報システム部門)
  • マーケティング研修(マーケティング部門)
  • 営業スキル研修(営業現場)
    テレアポスキル(オウム返し、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョン)
    ヒアリングスキル(傾聴、オウム返し、SPIN話法、BANT条件など)
    行動管理スキル(目標からの逆算した行動件数)

営業コーチング

トレーニングだけでなく、現場で営業マンに気付きを与えるコーチングも大切です。

  • ターゲットコーチング:

    新規開拓であれば伸びる業界の企業にアプローチしているか?エリア営業ならエリア内の有望な見込み客(業界、企業)を選別して営業できているか?既存顧客営業ならABC分析に応じた力配分になっているか?決済者(キーマン)にあえているかなどを自分で気付くように促します。

  • 商談パイプラインコーチング:

    営業パイプライン(初回商談~受注まで)においてそれぞれの段階を確認し、自分自身のボトルネックを改善するように促します。営業マン自身が目標達成のためにどのようなアクションをすべきなのか気付くことが重要です。

  •  行動管理コーチング:

    目標達成に対し、自分の現時点での営業スキルならどのくらいの行動量が必要かに気付き自主的に動いてもらいます。

若い営業マンであれば、スキルアップのためのコーチングがよいでしょうし、成績上位の営業マンであれば、逆にチーム全体を伸ばすにはどうすればよいかという一つ上の視座を得るようなコーチングをするなど、営業スキルに応じたコーチングが望ましいでしょう。

今後セールス・イネーブルメントを実行するためには

セールス・イネーブルメントを実行していくためには、自社の営業組織のあるべき姿を先に描くことが必要です。自社の現状をまず確認する必要があるため、営業マンの意向と数字両方から分析して設計します。以下が実行のステップです。 

1. 営業現場へのアンケート

営業現場にアンケートをとり不足しているツール、必要なコンテンツ、営業活動上の課題を確認し優先順位を整理して対策を練ります。

  • お客様へもっていく資料がない……
    対策:
    事例集を作成し、定期的にアップデートする担当を決める。本当に企業内に事例がない場合は営業マンとお客様の協力を仰ぎ、何社かの顧客にサンプルになってもらう(例:無料の代わりに事例登場の許可をもらう) 
  • 商品力に自信がない……
    対策:
    取引できている顧客を分析し、当社の商品の〇〇が効果があって〇〇な成果を出していることを明確にする→似た規模、似た課題がある企業をターゲッティングできる。同時に商品に対する意見を商品企画部門や開発部門にフィードバックする体制を構築する
    効果のあった営業ノウハウ(成功事例、トークスクリプト等)は誰もがアクセスできる場所に保管
  • 細かい業務が多すぎて商談を増やせない……
    対策:
    重複している社内報告書削減、稟議システムの見直し、クラウド化による印刷、押印、郵送などの業務削減、無駄な会議を減らす、移動時間にサテライトオフィスを活用できる体制を検討するなど、営業マンが売上げを生み出す本質的な業務に集中できるように優先順位の高いところから環境を整備できるように計画。

2. 営業データの蓄積と活用

営業戦略を包括的に設計・管理するためには売上げ高だけでなく、営業プロセス上の数値などを細かく見ていく必要があります。営業にかかわるデータを蓄積・活用することが大切です。

データの活用ツールについてはExcelでも最新のITツールでもよいのですが、「セールステック」や「セールス・イネーブルメントツール」とは、あくまでセールス・イネーブルメントを成功させるための道具です。導入=見込み客がどんどん増えるという訳ではありません。

まず、先に営業戦略の「全体像を描いて」→「担当する人材も決めて」→「自社の営業マンのスキルを考慮して」ITツールを選択することがポイントです。 その上で、目標を達成するために各部門にKPIを設定していきます。また、数値を可視化したことで判明するメンバーのスキルに応じて必要なレーニングを行います。

まとめ

昔から、日本人は部分最適は得意だけれど全体最適が苦手とよく言われています。良くも悪くも現場の意見が強くトップダウンで降りてきた施策が「現場がわかっていない」と反発されてしまうことはよく聞く話です。

セールス・イネーブルメントは「複数の部門から集めた優秀なエキスパートが営業現場を支援する取り組み」です。各部門からの信頼の厚い担当者たちが集まりボトムアップでマーケティング、営業活動、営業マン教育の全体像を描くことができれば、成果に結びつきやすい営業支援ができるでしょう。

セールス・イネーブルメントは大々的に始めることもできれば、コンテンツ拡充に特化するなど小さく始めることもできます。自社の現状に合っている始め方をすることが大切です。まずは「営業スキルチェックシート」で自社の営業マンのスキルを把握し、成果に直結する現実的なセールス・イネーブルメントに取り組んでみてください。

    営業スキルチェックシート

佐原 業平(さはら なりひら)

中央大学商学部を卒業後、2016年に新卒で株式会社コンベックスに入社。 新規開拓営業を経験した後、eBook・セミナー・研修のコンテンツの作成に従事。 そこで培った営業とマーケティングの知見を生かし、「セールスハックス」の運営に取り組む。 経営者から営業マンまで、ビジネス現場を理解したお役に立てる情報を発信。

関連記事

  • 組織運営

    社内情報共有で強い営業組織を作る方法

  • 営業力強化

    中小企業への営業力を上げる8つの方法

  • 営業ツール

    優秀な営業マンが活用するデジタル営業ツールは?