今は、「自分自身や部下が営業にストレスを感じていて、改善の必要性を感じている…」「社内で営業部のストレス対策を行うことが決定したため、対応方法を検討している…」といった課題に敏感な時代かも知れません。
働き方改革の重要なポイントとして「健康経営」が注目されており、社員一人ひとりのストレスを管理することの重要性が指摘されています。なかでも、営業マンはストレスを抱えやすい職種であり、またストレスが重くなると日々のパフォーマンスにも大きな影響が生じます。
2015年以降、従業員(パート・アルバイト・派遣社員を含む)が50人以上在籍している企業に対してはストレスチェックが義務付けられていることからも、ストレスの管理はもはや企業にとっての義務であるとも言えます。
本記事では、営業におけるストレスの概要や実情を踏まえて、一人ひとりの営業マンあるいはチームとして取れる対策について解説します。
目次
営業のストレスとは
営業のストレスとは、営業職の社員が業務上あるいはチーム・組織に所属する中で感じる精神的・肉体的な負担のことを指します。
営業マンにとって負担になるストレスは、「不安」や「イライラ」、「無気力」のようなネガティブな状況を引き起こしてしまいます。そして、これらのネガティブな感情は、営業マン一人ひとりのパフォーマンス低下を招き、さらには会社の業績悪化につながることがあります。
一方で、一般的にはストレスは「身体に悪いもの」として考えられていますが、必ずしもそうとはいえません。近年では、適度なストレスは健康や精神状態にとって有益なものであり、ストレスによって人は前向きな感情を持つことができるとされています。
例えば、営業目標と現状の売上とのギャップは多かれ少なかれストレスの要因になりますが、そのストレスを乗り越えたときには達成感を得ることができます。反対に、目標が設定されていない状態であれば、仕事にメリハリがなく、仕事にやりがいや楽しさを見出せなくなります。
従って、営業マン自身が適度なストレスを管理すること、マネージャーが部下のストレス状態を把握し、コントロールすることが重要となります。
世の中の営業で抱える営業のストレスの実情
具体的に営業マンがどのようなことについてストレスを感じているのかについて詳しく見ていきましょう。
まず、株式会社ビズヒッツが2020年10月にビジネスマン532名を対象におこなった「ストレスの少ない仕事に関する意識調査」の結果を紹介します。調査によると、ビジネスマンが仕事に対してストレスを感じる要因の上位5位は以下の通りです。
(出典:ストレスの少ない仕事に関する意識調査)
上記のアンケートは、営業社員を対象に行われたものではありませんが、仕事のストレスで上位にランクインする要因は、営業マンに特に密接に関わるものが多いのが特徴として挙げられます。特に、1位の「ノルマがある・成果を求められる」や2位の「顧客対応/対応」は、営業マンの仕事のメインの役割とも言えるものです。
また、リクルートワークス研究所が公表している「人材マネジメント調査(個人編)職場ストレス実態調査」において、営業マン(191名)がストレス要因として挙げている項目としては以下の点があります。
- 顧客からの要望が高すぎて応えられない・振り回される(58.8%)
- 残業時間・休日出勤が多く、仕事の裁量が低い(47.1%)
- 上司が厳しい目標や課題を押し付ける(51.3%)
- 調整業務や雑務に時間を取られ、本来やるべき仕事が進まない(64.9%)
(※一部抜粋)
営業職は、ノルマや目標を期日までに達成しなくてはならないという意識に加え、職場での人間関係や商談以外の業務の処理などに追われる状況などから、多くのストレスを感じていることが確認できます。
営業ストレスの種類
営業マンが感じているストレスには、さまざまな種類があります。そして、ストレスを管理するためには、まずどのようなストレスが存在するのかを知ることが重要です。ここでは、営業で生じるストレスの種類やそれぞれの特徴について紹介します。
予算やノルマのストレス
予算やノルマなどが、営業マンのストレス要因になることはよく耳にする話です。ストレスの背景としては、「目標に未達だった場合に、上司から強い叱責を受けるのではないか?」あるいは「降格や減給処分が下されるのではないか?」といった感情や危機感を営業マンが抱いてしまうことが挙げられます。
一方で、営業部として成果を上げるために目標設定をすることは重要です。適切に目標設定をするためには、SMART(S:Specific=具体的に、M:Measurable=測定可能な、A:Achievable=達成可能な、R:Related=経営目標に関連した、T:Time-bound=時間的制約力のある)に基づいて目標設定をすることが重要です。また、目標設定を一方的なものとするのではなく、営業マン一人ひとりが自発的に目標を設定できるようにすることも重要です。
業務量のストレス
業務量の多さもストレス要因になります。日本の営業マンの多くは、見込み客の発掘から受注後の顧客フォローまで、営業の一連の流れを担当しなくてはなりません。また、商談の前には資料の作成や商談のロールプレイングなどの準備、同僚のフォローなど付随する業務も多数あります。
業務量の多さがストレスになっているか否かを判断するために重要なことは、業務量を可視化することです。業務量が多い時には、単純に業務量が多いケース、作業の効率化がされていないケース、仕事の処理スピードが遅いケース、他部署や同僚から本来の職務以外の仕事を頼まれているケースなど、さまざまな状況が考えられるためです。
社内関係者のストレス
社内での人間関係も、大きなストレス要因になります。ベースメントアップス株式会社「退職の前に読むサイト」で2019年に実施されたアンケート調査によると、社会人の53%が「人間関係」を仕事で最もストレスを感じる要因に挙げています。
(出典:退職の前に読むサイト)
近年は、職場内での人間関係が希薄化しがちであるという傾向が見られていましたが、さらにコロナ禍によってコミュニケーション不足が発生しやすい状況になっており、業務中の何気ない雑談や終業後の飲み会などの機会を設けにくくなっています。
コミュニケーションの機会が制限されることが、社員にとって負担の軽減となることもあれば、相談しづらい状況になってしまうこともあるため、どちらが良いとは断言することはできません。いずれにしても、社員の一人ひとりに大きな精神的負担を与えないことや、気軽に相談できる環境を整えることは対策すべき問題であると言えます。
商品・サービスのストレス
カーナープロダクトが、営業マン1,000名に対しておこなったアンケート調査によると、営業マン全体の約44%が自社商品・サービスに「自信がない」「どちらとも言えない」と回答しています。
自信の持てない商品を顧客に対して販売することは、営業マン自身にとっては罪悪感や疑問につながり、営業成績に影響することも考えられます。また、自社商品に自信が持てない場合、顧客からの価格交渉やクレームなどに対して強気な態度で接することが困難になり、より一層強いストレスを感じることもあるでしょう。
営業マンが商品やサービスに自信を持てない要因としては、次の理由が考えられます。
- 自社商品・サービスの強みが社内で共有できていない
- 競合他社の分析が不十分である
- 経営者の理念やビジョンが明確に伝わっていない
- 営業におけるマニュアルやスクリプトが整っていない
営業のストレスに限界を感じてしまうと起こりうること
適度なストレスややりがいや達成感につながりますが、ストレスが限界を超えると、営業マン本人にとってさまざまなデメリットが生じます。そして、これらのデメリットは企業にとっても大きな損失やデメリットにつながる可能性もあります。
ここでは、ストレスがかかりすぎてしまったときに生じる問題について解説します。
健康面での不調
ストレスに起因する健康面での不調の典型的な例は、うつ病・パニック障害・適応障害などの疾患などがあります。重度の疾患になると、欠勤や遅刻などにより仕事が出来ない状態が続いてしまいます(=アブセンティーイズム)。
また、出社できない状態に至らなくても、注意力が散漫になったり、モチベーションが上がらなくなってしまったりして、営業マンが本来の力を発揮できなくなることがあります。このように本来の発揮できない状況のことをプレゼンティーイズムといいます。
WHOが発表している健康関連コストのデータによると、相対的プレゼンティーイズムが77.9%を占めています。つまり、うつ病などで休職している社員がいなくても、パフォーマンスが発揮できていない社員が多くなると、営業チームのパフォーマンスが大きく低下してしまいます。
売上をあげられなくなる
ストレスが過度にかかるとモチベーションが低下したり、健康状態が悪化したりして、結果的に売上が上がらなくなるケースがあります。さらに、売上が低下すると営業マン一人ひとりへのプレッシャーが強くなり、余計にストレスが重くなるという悪循環に陥る可能性もあります。
目標の未達や減収は、大きなストレス要因です。また、コロナ禍や少子高齢化によるマーケットの縮小、小環境の激化など売上アップに対する逆風が多く存在する状況であるのも確かです。そのような中で営業社員が過度なストレスを感じないようにするためには、業務改善やモチベーション管理などが必要です。
協調性がなくなる
精神的に余裕がなくなると、他人に対して攻撃的になったり、非協力的になったりする傾向があります。そして、そのような空気が広がるとチーム内がギスギスし、互いのフォローをしないばかりか、時には足を引っ張り合ってしまったりすることもあります。協調性のないチームは仕事の質も低下し、顧客からの信頼も得られない傾向があります。
不正を行う
不満やストレスが強くなると、会社に対する忠誠心や薄れてしまったり、正常な判断が出来なくなってしまったりして、社員が問題行動を起越してしまうことがあります。例えば、厳しいノルマを達成するために不正な方法で案件を受注してしまったり、違反であることを自覚しながら、案件管理の不正を行ったりするなどです。
あるいは、叱責されることに対して強いストレスを感じてミスを隠ぺいしたり、ウソの実績を報告したりする営業マンが現れることもあります。
営業のストレスに限界を感じる前におこなうべきこと
営業マンがストレスに限界を感じてしまうと、対策を取るのはかなり大変です。
厚生労働省の発表によると、社員がうつ病により休職する場合の平均休職日数は、107日です。107日は、あくまで平均であり、中小企業では約6ヶ月間、大手企業では1~2年程度の休職を認めている企業が大半です。
休職以外でも、パフォーマンスを落としてしまったり、退職せざるを得なくなってしまったりする社員もいるなど、企業にとっても社員本人にとっても望ましくない事態に陥ります。
ここでは、社員が営業のストレスに限界を感じる前に行うべきことについて、企業側と社員本人の両方の視点から解説します。
客観的に何がストレスの元なのかを分析する
社員のストレス状況に関係なく定期的に行っておきたいのが、ストレスチェックによる社員一人ひとりの精神状態のチェックとストレスの原因の分析です。平成26年度の労働安全衛生法の改正により、事業者にはストレスチェックの実施が義務付けられていますが、このストレスチェックを形式的なものではなく実効性のあるものにすることが重要です。
ストレスチェックは、原則として医師による対面にて行いますが、環境が整っている場合はICTを活用しても問題ありません。そして、対象者のストレス要因がどの程度業務に起因するものかを判断した上で、労働環境に問題がある時には、企業として対策に取り組みます。
休暇をとって距離をおく
ストレス低減のためには、休暇を取って仕事との距離を置くという方法もあります。法定の休日をきちんと休めるようにすることはもちろんですが、有給休暇の消化やリフレッシュ休暇制度の導入など、社員のワーク・ライフ・バランスの充実や自己啓発、社会貢献活動などに時間を費やせるように制度を整えることが重要です。
休暇を社員に与えることで企業にとってはコストの負担が生じますが、ノルマや業務量のバランスを配慮しなければ、結果的に社員のストレスが増大してしまうことがあります。また、全社的に対策を進めなければ、制度が整っていても心情的に利用しづらい状況になってしまうことがあります。
また、ストレス状態が重く、長期的な休みが必要な社員に対しては、減給や復帰が難しいという不安を解消できるよう、体制を整えることも重要です。
従って、数日以内の短期休暇であれ、リフレッシュのためのまとまった休暇であれ、対象の社員が不安や心配を抱かずに利用できる制度であることが大切です。
自分にとっての営業について考える
営業社員が仕事に対してストレスを感じているときは、営業の仕事にモチベーションを見出せなくなってしまっているケースがあります。このような時には、初心を思い出すことでぶつかっている悩みが解消されたり、気持ちが楽になったりすることがあります。
特に、なんとなくモチベーションが上がらない方や業務がルーチン化してしまっている方は、仕事を始めたばかりの気持ちを思い出すことで、モチベーションを高められます。
上司・同僚に相談する
ストレスの対策には、営業マンが一人で抱え込まないことも大切です。反対に、上司の立場からすればチーム内の社員が一人で問題を抱えないように気を配り、小まめに声掛けをすることも大切です。
気軽に相談ができるようにするための制度としては、比較的年齢の近い先輩社員が相談役として対応するブラザー・シスター制度や、メンター制度などもあります。あるいは、産業医や社内の産業カウンセラーなどを活用して、ストレスが大きくなる前に直属の上司以外のマンに相談できる仕組みを整えることも効果的です。
ここで問題になるのが、感染症対策などによりテレワーク主体の勤務体系になったときに、雑談のついでに気軽に相談がしづらいことです。そこで、企業としてはWeb面談やバーチャルオフィスツールなどを活用し、社員が気軽に相談できる仕組みを整え、社員が孤独感を感じないように工夫しましょう。
転職を考える
ストレスがあまりにも重く、解決策が見つけられない時には、退職を考えることも大切です。企業と社員には相性の問題もあるため、環境が整っていて周囲が相談に乗ってくれる環境であっても、自分自身にとって必ず居心地が良い場所であるとは限りません。
新たな職場や働き方(フリーランスなど)によって力を発揮できる可能性もありますし、求職活動を通じて他社を知ることで自社の魅力を再発見できる可能性もあります。
選択肢を多く持つ意識によって視野を広げ、ストレスで身動きが取れなくなる状況を改善させることができます。また、近年では副業を認める企業も増えています。転職にはリスクが伴う以上副業として他の仕事をスタートしてみるのも方法の一つです。
管理者としては、貴重な人材が転職により自社を去ってしまうのは大きな損失になりますが、適切なタイミングで本人の意向や適性を考えて協力をする姿勢を取れれば理想的です。転職以外には、副業を許可したり配置転換により本人のスキルを引き出したりする方法があります。
まとめ
営業の仕事にストレスはつきものであり、適度なストレスは成果を上げるために必要なものでさえあります。しかし、過度なストレスはさまざまなデメリットを引き起こします。そして、営業社員は、厳しいノルマ(目標)や多い業務量、社内の人間関係、業務量のストレスなどさまざまなストレスを抱えています。
営業マンが過度なストレスを感じてしまうと、社員の心身の健康を損なってしまったり、モチベーション低下により売上の減少を招いてしまったり、不正な行動を引き起こす要因となってしまったりするなどの問題が生じます。主な対策の例は、定期的なストレスチェックによるストレス原因の分析、社内での相談、リフレッシュできる休暇制度などです。
ストレスを強く感じている営業マンは、まずは自分自身の状態を見つめなおし、限界を感じてしまう前に状況の改善を図りましょう。また、マネージャーの方は、営業部の社員一人ひとりがパフォーマンスを低下させることなくスキルを発揮できるように、ストレスチェックや相談できる仕組みを構築しましょう。
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