これまでにも、日本の多くの企業が隠蔽や不正などによる不祥事で問題になることがありました。「うちは大丈夫」と思いがちですが、不正行為のリスクは常に全ての企業に存在します。
デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社による「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2018-2020」の調査によると、過去3年間で不正事例ありと答えた企業は46.5%となっており特に大企業や上場企業で多くなっています。
また、同調査では、不正リスク対策への社内での理解や協力についても調査しており、結果は部門ごとに理解度の高さや協力度にばらつきがある結果となっています。その中でも営業・サービス部門はともに14〜15%程度となっており、全体の中でも低い水準となっています。
(出典:企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2018-2020)
本記事では営業現場で意識するべき不正リスク対策についてご紹介していきます。

営業現場における不正リスクとは
不正リスクとは、「不正行為が行われる可能性」と「不正行為が行われた際に生じる危険性」のことをいいます。ここでいう不正とは、例えば個人でいえば賄賂の受領や横領、企業でいうと脱税などが挙げられます。
本記事で取り上げる「営業現場における不正リスク」とは、営業マンや営業マネージャーなどの営業現場で起こりうる不正リスクあるいは営業活動に関わる不正リスクのことをいいます。
営業現場でなぜ不正リスクが起きる可能性があるのか
営業活動をおこなう際には、顧客の氏名や住所、連絡先など多くの個人情報を扱います。現代では、このような個人情報は売買されることがあるほど、価値の高いものになりました。そのため、ずさんな管理をしていると情報が漏洩してしまったり、意図的に持ち出されてしまったりするリスクもあります。
また、営業部門はお客様や外部の関係者との関わりが多い部門とも言えます。そのため、悪意のある外部の人に誘導されて情報を漏らしてしまったり、あるいは外部の者と協力関係を結んで自発的に不正を働くことができるリスクも高くなります。
不正リスクが生じる3つの要素
一般的に、人が不正を働く際に抱えている要素として「動機」「機会」「正当化」3つの要素があることが知られています。これは、「不正のトライアングル理論」と呼ばれ、米国の犯罪学者であるドナルド・R・クレッシーが調査した理論です。それぞれについて簡単に紹介していきます。
動機
「動機」は、不正な行動を行いたいと思ってしまう心理的なきっかけのことです。特に、営業マンの場合、毎月企業から決められた厳しい予算(ノルマ)を達成しなくてはいけないため、その強いプレッシャーから不正な行動を行ってしまうこともありえます。
例)
- 私生活で金銭的な大きな問題を抱えている(多額の借金や医療費など出費のなど)
- 営業業務に対する強いプレッシャー
- 案件が上手くいかなかったこと、失注してしまったことを上司に伝えたくない
機会
「機会」は、不正な行動ができる環境あるいは簡単に不正な行動に移せる環境のことをいいます。通常、不正行為は「他人に見られていること」や「細かく管理されていること」で抑制される可能性が高まります。しかし、誰も行動を見る人がいなかったり、管理が不透明であれば、不正を働きたい人も行動に移しやすくなるのです。
例)
- 商品や顧客情報を管理している人がいない
- 多くの権限が一人(あるいは一部署)に集中している
正当化
正当化とは、不正を働く人がこれから行う不正行為、あるいは行った不正行為が正しいことだと理由付けすることです。普段は、不正行為は行うべきではないという倫理的な観点から不正行為を抑制していますが、正当性を持つことによって不正行為を行う理由を作ってしまい行動に移してしまいます。
例)
- 「一時的な使用だから……」
営業現場でできる12の不正リスク対策
不正リスクを防ぐためにどのようなことを心がけたら良いでしょうか? 12つの不正リスク対策を紹介します。
1. ルールを作る
リスクを管理するためには、まず社内でルールや方針を明文化することが大切です。例えば、情報セキュリティポリシーを明確にして全社員に情報共有したり、リスクごとに管理する責任者を設置することで責任の所在や管理体制が明確になります。
2. ルールについてトレーニングをする
ルールを作り、資料として配布するだけでは効果はあまり見込めません。しっかりと解説・説明をする場や全員に対して対策のトレーニングをする場を設けましょう。さらには、理解度を確認する簡単なテストを行うと完璧です。
忙しい営業現場では、営業活動外の業務は後回しにされがちですが、不正リスクは企業の存続、信頼に関わる重要なことです。時間を確保してまでも行う価値はあります。ぜひ「忙しいから……」と言わず、積極的に参画していきましょう。
また、資料配布時に一度だけ目を通すだけだったり、トレーニングを一度行っただけで満足せず、定期的に確認をすることも大切です。
3. 資産の管理を徹底する
物的資産、データなどの情報資産、金融資産の管理を徹底しましょう。すべての資産を管理表に記載し、管理者や使用者、アクセス権限のある人などを明確に定め、資産がどこにあるのか、誰が管理・使用・アクセスしているのかなどの管理を徹底します。
特に、企業の共有のPCなどの場合、さまざまな社員が持ち出し、利用することで管理があいまいになってしまいがちです。利用時に借りる社員の名前などの情報を記録したり、正しく自分のアカウントにログインしているのかもみていくことも大切です。
4. 権限を一人に集中させない
中小企業は人的リソースが少ないという課題があることは事実ですが、特に注意するべきことは「一人に権限を集中させないこと」です。業務においての「執行者」と「承認者」の権限を分離する、セグリゲーションが大切です。
営業部門の場合は、販売業務、発注業務、売上金回収業務、売上計上業務をしっかり分けることで、横領や、架空売上の計上などの不正を防ぐことができます。もし、権限を分散させないと第三者が介入する機会がなくなってしまい、不正行為を行いやすくなってしまいます。(先ほどお伝えした不正のトライアングルの「機会」を助長してしまいます。)
5. 担当者変更・業務ローテーションを行う
定期的に業務や取引先の担当者を変更することも重要です。「長年同じ業務を一人で担当している」というのが不正を行う社員の特徴の一つであることを覚えておきましょう。長期間同じ業務を行っていると良い面でも悪い面でもその業務を知り尽くしてしまいます。
人間は長期的に同じことを繰り返し行っていると、違った刺激が欲しくなってきます。定期的に、業務を変えたり担当者を変えることで、不正行為を防ぐだけでなく業務のモチベーションをあげることもできるかもしれません。
6. 例外を認めない
「承認者がいないけれども、急いでいるので、承認印を借りて承認をしたことにしてしまう……」など、例外を認めないようにしましょう。
現場の気持ちとしては、お客様に待っていただくのは心苦しいですし、無理を言われることもあるでしょう。それでも、きちんとお客様に説明し、納得していただきましょう。正式な手順を踏まないと、後日社内で問題になったり、手続きや情報の漏れによりお客様にも将来的にご迷惑をかけてしまいかねません。
もし、それでは契約をしないと言われたら、仕方がないことですし、契約後もルールを曲げることを強要されるリスクがなくなった、と考えるようにします。今後、お客様と円滑なコミュニケーションができるように、正しい手順を踏みたいということを真摯に伝えましょう。
7. 匿名の報告システムを作る
不正を完全に防ぐ方法は残念ながらありません。できるだけ早く見つけるようにする仕組みを作るのが大切です。そのために、匿名の報告システムを作ることも有効です。小さなことでも気になることがあれば報告できるようにし、報告者のプライバシーと立場を保護するようにします。
また、顧客や取引先などの外部の関係者が異変に気付くこともあります。自社の社員だけではなく外部からの報告も受け付けるようにしましょう。
8. 急激な売上アップなどの異変に注意
「今までは売れていなかったのに、軽々とノルマを超えるようになった」や「売上げが急にアップした」ことは、企業としてはうれしいことです。しかし、もし不自然な急上昇や異変があったら、念のため調査をするようにしましょう。
9. ノルマや負担の見直し
不正の一因として、厳しいノルマや、過剰な仕事量などの負荷もあります。不正な売上を上げたり、必要なプロセスを飛ばすことがないよう、ノルマや仕事量が適正であるかを改めて見直してみましょう。
また、定期的に社員から聞き取りをし、プレッシャーを感じすぎていないかなど、ストレスレベルも確認をします。厚生労働省のメンタルヘルスポータルサイトの「心の耳」では職場のストレスセルフチェックを行うことができます。
10. 有休消化を徹底させる
2019年4月から順次「働き方改革関連法」施行され、全ての企業が従業員の働き方の改革について注力されているかと思います。働き方改革では、企業は従業員に最低年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられるようになりました。
不正をする社員は、「残業が多い」「休みを取らない」という特徴もあります。たくさん働いてくれる社員は企業にとっては一見ありがたい存在ではあります。しかし、あの人に全て任せておけば大丈夫、と過剰に信頼をするのは禁物です。有休消化の徹底は、社員のためだけではなく、企業のためにでもあるのです。
11. 専門家によるリスクチェック
自社のことはたとえ悪気がなくても、当たり前になりすぎて気づかないことも多くあります。自分たちではなかなかリスクに気づけないものです。リスクマネジメント対策を行う企業や、CFA(公認不正検査士)などの専門家によるリスクチェックを定期的に受けるようにしましょう。
12. 不定期の監査
リスクチェックを行い、不正防止の仕組みを作っただけで満足してはいけません。対策が実行されているかの確認を必ず行いましょう。確認の際のポイントは、「不定期で、事前通知なく」行うことが大切です。事前に知られてしまうと準備されてしまったり、対策をされてしまう恐れがあるので情報管理は徹底しましょう。
まとめ
今回は、営業現場での不正リスク対策についてお伝えしました。社内の管理体制を整えて、そのように仕事が進められているのかを把握することで、企業の透明性は高まり不正を防ぐことができる可能性を高めることができます。
本記事では、12つの不正リスクの対策を紹介してきましたが、一度に全てに対応することはせず、1つずつ丁寧に対応していきましょう。一度に対応してしまうと、その変化に現場が追いついていけず最終的に形骸化してしまう可能性があります。
また、対応するべきことが多いと、対応することが目的化してしまい、1つひとつの対応が雑になってしまったり、漏れや抜けが生じてしまうことに繋がりかねません。逆にそれにより、不正リスクに繋がってしまいます。必要以上に恐れる必要ありませんが、適切に対策を取り、まさかの事態に備えましょう。
「デジタル時代の「売上げ拡大戦略と実行」ガイドブック」では、企業の新しい方向性の施策を現場に落とし込む際に意識するべきポイントを紹介しています。不正リスク対策を現場に落とし込む際にも使えるポイントがありますので、ぜひご覧ください。