元従業員による営業秘密の流出。エディオンが上新電機を提訴、50億円の損害賠償請求に学ぶ、営業マンのリスクとは

営業秘密 流出 営業マンのリスク

先日、「元社員が不正に入手した営業秘密を利用し利益を得ているとして、
家電量販大手エディオンが元社員と転職先の同業他社である上新電機に50億円の損害賠償などを求める訴えを起こした」という報道がありました。
営業秘密の不正利用については「転職先に営業秘密漏洩で日本ペイント元役員逮捕に学ぶ、営業秘密の保護とは?」でも取り上げていますのでご参照ください。
前回同様、高島総合法律事務所の理崎智英弁護士にお話を伺いました。

事件の概要

エディオンの課長だった元社員は、パソコンの遠隔操作ソフトを利用し住宅リフォーム事業の原価表などの営業秘密を不正に取得したとして刑事裁判では既に有罪判決が確定しています。
その際、この営業秘密を利用して同様の事業を立ち上げたとされる上新電機は罪に問われませんでした。
以前の記事で詳しく解説していただきましたが、営業秘密の不正利用は「不正競争防止法」という法律によって規制されています。
今回の事件では懲役2年執行猶予3年、罰金100万円という有罪判決が下されていますが、場合によっては最大で10年以下の懲役及び2000万円以下の罰金という重い刑罰に処される可能性もあります。
そして今回の報道は損害賠償請求の訴え、いわゆる民事訴訟を起こされたという内容です。エディオン側の主張では損害額は50億円に上るとされています。

高額な損害賠償請求

今回の件に限らず、営業秘密の不正取得に関する訴訟では、度々高額な損害賠償や和解金の支払いが報じられています。
昨年秋に報じられた韓国ポスコと新日鉄住金の訴訟では、ポスコ側から新日鉄住金に300億円が支払われることで和解が成立しました。
元従業員による営業秘密の流出という点では今回の件に似ています。
その1年ほど前には、半導体技術の流出について東芝がSNハイニックスから約330億円の支払いを受けることで和解しています。
今回の件では、エディオンの元社員が不正取得した営業秘密にはリフォーム事業の原価や粗利など収益性に直結する内容が含まれていました。
言うまでもなく、これらの情報は同業他社にとっては宝の山ですね。
不正競争防止法では、不正に取得した営業秘密で利益を得ている者に対して損害賠償を請求する場合、その利益自体を損害額と推定できる算定規定が設けられているそうです。
損害額の算定が容易になり、訴訟を起こしやすく、金額も大きくなり易いと言えます。
同業他社の原価を知った上で営業戦略を行えば一時的に業績は伸びるでしょう。
しかし仮に50億円の損害賠償が確定すれば莫大な損失を被ることになります。企業のイメージダウンを引き起こすことにもなってしまいます。

新日鉄住金や東芝の例では、流出した情報は製品の製法や研究データに関するものでしたから、いわば技術者による事件です。
一方で今回の件は、原価や粗利を含めた販促情報を不正に利用したもので、営業サイドに関わりの深い事件と言えます。
特許の侵害や製法の流出といった製品の成り立ちそのものに関わる事件でなくとも、今回のように高額な損害賠償請求に至る可能性もあるわけです。
特に転職を控えている、考えているという営業マンは要注意です。
前述のように不正に取得した営業秘密で利益を得ていると認められた場合、売り上げ全てが損害額とされてしまうかもしれません。
営業秘密を漏らさない誓約は遵守し、退職までに身の回りの書類・データの処分を済ませましょう。
万一このような訴訟になれば、営業マン本人も転職元も転職先も、誰にとってもマイナスしかありません。

今回は、不正競争防止法の民事訴訟について、高島総合法律事務所の理崎智英弁護士にお話を伺いました。
営業秘密の不正利用は割に合わないということをご理解いただけたと思います。
エディオンと上新電機の事件についてはもう1つ、セキュリティ管理の面から見た記事をアップする予定ですので、そちらもご参照ください。

理崎 智英 (弁護士)
当事務所では、30社にのぼる様々な業種(不動産業、建設業、広告代理店、飲食業、製造業、貸金業等)の顧問先を抱えており、日常的な法律相談や契約書チェックから、クレーム対応、労務問題、訴訟まで、迅速かつ的確に対応しています。
所属事務所HP:http://www.takashimalaw.com/

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原誠

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