近年は、サブスクリプションという新しいビジネスモデルが普及しつつあります。トヨタ自動車KINTOの「まだ、車買ってるんですか?」というCMに驚かれた方もいるかもしれません。今や、日本のモノづくりを代表する製造業でも、サブスクリプションモデルを導入しています。
今の時代、消費者はサブスクリプションで音楽や動画配信などを月1,000円くらいで楽しみ、洋服や高級時計も低価格で身につけることができます。ビジネスでも、Word・エクセルなどのOffice製品がサブスクリプションなら月1,000円で使用可能です。しかも、必要がなくなったら最短1ヶ月で解約をすることができます。
企業目線で考えると、それで果たして利益は出るのか?と思われる方もいるかもしれません。しかし、実際にサブスクリプションモデルに移行したことで、売上げを拡大した企業の事例も多々出ています。
今回は、サブスクリプションモデルとは何か?サブスクリプションモデルで売上げを高めるためのポイントや成功事例などをご紹介します。
目次
サブスクリプションモデルとは
サブスクリプションモデルとは、商品やサービスを購入するのではなく、月や年単位などの決まった期間だけ料金を支払って利用するサービス形態です。定額制、使用した分だけ課金される従量制などのモデルがあります。
企業側から見れば、無料または低価格にすることで限りなく簡単に新規受注を獲得することでができます。それにより、まずお客様の数を増やし、継続して商品を使ってもらうことで利益を積み重ねていくことができるビジネスモデルです。
サブスクリプションは、BtoCでもBtoBでも成功例が多く出てきています。たとえば、世界の動画配信市場は、サブスクリプションによる売上げが急増しています。(総務省の以下のグラフの「黄色」がサブスクリプションの売上げと予測です)。
音楽配信市場も同じ状況であり、右肩あがりでサブスクリプション経由の売上げが伸びています。日本でも「嵐」「Mr.Children」などの人気グループがサブスクリプションモデルで音楽を配信するようになりました。
BtoBの分野では、マイクロソフト社の世界一奪還はサブスクシフトのため、アドビシステムズ社が売上げ一兆円規模に達したのはサブスクリプションモデルにシフトしたからだと、専門家に分析されています。
アドビシステムズ社が公表している2018年11月末時点での売上げ内訳を見ると、たしかに「Product」が占める比率はわずかであり、「Subscription」が大きな比率を占めています。ビジネスモデルが完全に転換したことがうかがえます。
サブスクリプションモデルは、モノの売れない時代に適したビジネスモデルとして多くの企業から注目を集めており、国内市場でも多彩なサブスクリプションサービスが次々と登場しています。
(例)
- 掃除機メーカー『ダイソン』が月額1,000円からのサブスクリプション
- 月4万円で全国13拠点に住める『ADDress』
- ビジネス講座が2,000種類以上『グロービス学び放題』
- 月額500円で音楽、動画などが楽しめる『Amazon Prime』
- マイクロソフト個人向け・法人向け『オフィス365』
- 営業のSFA・CRMシステム『Salesforce』
サブスクリプションモデルが増加している背景
なぜ、サブスクリプションモデルはこれほど急激に増加しているのでしょうか?
理由の一つとして「モノ消費からコト消費」と呼ばれるような消費者の意識の変化があります。2000年ごろから消費者はサービスに支出する比率が増え、商品を購入する率が減っています。一般に社会・経済が成熟すると生活に必要なモノがほぼ普及します。
一方で、所有するほどではないけど「特定の期間だけ使いたい」「気軽に使いたい」というモノもあると思います。その場合、使った期間だけ代金を払うサブスクリプションが効率的です。
(参照:経済産業省 )
サブスクリプションモデルの普及は、お客様の価値観が商品を所有することよりも体験することにシフトしたため、企業側も売上げ獲得のタイミングを販売時点ではなく、お客様が商品・サービスを使用する段階に変わり始めている動きと見ることもできます。
また、インターネットやスマートフォンの普及による消費者の購買行動の変化も影響しています。日本のスマートフォンの所有率は20~50代までの世代は90%以上です。買い物もスマホから行う人が増えています。
出典:経済産業省
デジタル技術の発展により、お客様はインターネットを通じてさまざまなサービスを受けることができるようになっています。例えば、国内外の美味しい食材や衣類を購入でき、レジャーや学習もオンラインで可能です。また、企業も世界中から物資を調達することができます。
企業側はWeb上で商品を申し込む人が増えると、お客様のデータを蓄積することができるようになります。AmazonやYouTubeのレコメンド機能をイメージするとわかりやすいのですが、購入データや閲覧履歴を解析することで、これまでよりお客様の嗜好に合わせた提案をすることができるようになります。
もちろん、すべての企業が高精度なAIシステムを持てるわけではないかもしれませんが、少なくとも商品売り切りの時代よりも、お客様の嗜好や潜在的ニーズがつかみやすくなるのはたしかです。
今のように産業構造の変化が速く、ヒット商品の寿命が短い時代は、お客様の変化を素早くキャッチして商品・サービスに活かす必要があります。お客様のフィードバックを得ながら商品・サービスをアップデートしていくことができるサブスクリプションモデルは、そのような意味でも今の時代に適していると言えます。
サブスクリプションモデルのメリット
サブスクリプションモデルは、顧客にも企業にもメリットがあります。
顧客にとってのメリット
サブスクリプションモデルなら、お客様はこれまで価格が高くて手が出せなかった商品・サービスや、絶対に欲しいほどではないものの少し興味がある商品・サービスを気軽に試すことができます。新たな体験、感動をする機会が増えるため、生活をより楽しむことができるようになるでしょう。
期待通りでないサービスの場合は、月単位の契約なら1ヶ月だけ使って解約することも可能です。基本的に低価格なサービスが多いので「買って損した……」という気持ちをあまり味わないで済みます。
また、日本のように狭い国ではモノの保管も大変です。捨てるときも意外にコストがかかります。サブスクリプションはいろいろな面で手間がかからないというメリットがあります。
- 興味のある商品・サービスをお試し感覚で使うことができる
- ハイクラスな商品(高級車、高級時計、etc)を低価格で使用することができる
- 商品を処分する必要がない(捨てる手間や費用が不要に)
- 簡単に解約できる
企業にとってのメリット
商品やサービス提供企業にとってのサブスクリプションモデルのメリットは、低価格なプランを提供することで顧客層を拡大できることです。
単価が下がっても、大量に新規のお客様が増えかつリピートすれば大きな売上げになります。
アドビシステムズ社もマイクロソフト社もサブスクリプションモデルにシフトしたことで、以前のパッケージ販売だけを提供していた時代より高い収益を上げています。
また、無料や低価格で利用を開始してもらうので、これまでのように新規開拓までの労力があまりかからなくなります。お客様の本当の満足度は「解約率」という形ですぐ現れます。そのため、データを分析しながら素早く次の施策を打つことが可能です。お客様のフィードバックを新規事業に活かすこともしやすくなります。
- お客様の層を広げることによる売上げ増加
- 継続課金による安定した収入
- 新規開拓営業にかけるコストが減少
- 顧客データを解析して新商品・サービスに反映
サブスクリプションモデルのデメリット
逆に、サブスクリプションモデルは企業にとってデメリットもあります。また、お客様にとっても多少のリスクはあります。
顧客にとってのデメリット
サブスクリプションは毎月の金額は小さくても、興味のむくまま申し込んでいるとそれなりの出費になる場合があります。低価格なため余りメリットがなかったり、デメリットとまでは言い切れないのですが必要以上の機能を持ったサービスを使い続ける可能性もあります。
一般に最新バージョンの商品・サービスはデザインも洗練されていて使い勝手もそれなりに快適です。一度進歩したサービスを使うとなかなか後退したくないという心理も働きます。
体験にコストを払うという価値観ならそれでも問題ありませんが、生産性という観点で考えるとメリットが見出しづらい場合もあるでしょう。
企業にとってのデメリット
企業にとってのサブスクリプションのデメリットは、簡単に解約されるリスクがあることです。また、売り切りモデルなら一般に販売して1~2ヶ月でまとまった金額が回収できますが、サブスクリプションモデルは長期的に売上げを積み上げるモデルなので、資金の回収も遅くなります。
サブスクリプションモデルにシフトしたとき、単価を低くしているため一時的に売上げが下がることも、企業によっては大きなリスクです。そこから大きく売上げを伸ばしていくためには、大量の新規顧客を獲得することが必要ですが、お客様のターゲット設定、単価設定などをしっかりとマーケティングしたうえで決めていないと単純に売上げが減ってしまう可能性もあるでしょう。
ZOZOタウンの「おまかせ定期便」の撤退をはじめ、サブスクリプションを撤退した企業も出始めています。
日本は2018年が「サブスクリプション元年」と言われています。サブスクリプションモデル自体が新しいビジネスモデルであり、まだ消費者の反応も予測しづらい段階です。ビジネスチャンスもあれば、予想外の大きな問題が発生することは十分考えられます。
サブスクリプションモデルビジネスの事例
ここではサブスクリプションモデルの成功事例をご紹介します。サブスクリプションは、SaaSビジネスや動画配信サービス市場で成功例が多く出ています。
SaaSビジネス
SaaS (Software as a Service)とは、クラウドシステム、ASPサービスと同じ意味合いですが、その中で課金形態がサブスクリプションモデルであるサービスを指します。
SaaSは自社で一からシステムを構築するよりも低コストで活用できます。インターネット環境があればどこからでも利用できるため、在宅ワーク、テレワークにも適しています。働き方改革が進む日本では、業務の効率化を目的に人事労務、会計、事務業務、営業向けほかさまざままSaaSが普及しつつあります。人気のSaaSを3種類紹介します。
マイクロソフト Office 365 Business
特徴:
法人向けOffice 365 Business プランは、月契約なら月額1,000円前後でWord、Excel、パワーポイント、1TBのOnedriveストレージ、ワークスペースTeamsなどのアプリが使用可能です。しかも、最大で5台のPC、タブレット、スマートフォンにインストールできます。内容が充実していることと無料お試し期間があり、かつ低価格であることから、文章作成くらいしか用途がない層でも最新Officeを試そうという意欲が喚起されます。
購入画面のチャットサポートもチャットボットではなく、担当者がきめこまやかにスピーディに対応してくれます。購入の入り口段階で、ITリテラシーの低い層が離脱しないような配慮が徹底されています。
無料から使える会計ソフト Freee(フリー)
特徴:
会計業務はある程度の会計知識、正確性が求められる難易度の高い仕事です。Freeeは会計知識があまりない人でも簡単に操作できるシステムです。数字の入力さえすれば、毎月の損益状況もわかりやすいグラフで確認でき、確定申告書などの決算書類の作成、出力も自動でできるため、経理に強い人材が不足しているベンチャー企業、中小・零細企業、フリーランスの取り込みに成功しています。
人事・労務を楽にする SmartHR
特徴:
労務データを一元管理できるSaaSです。住所変更や扶養変更も1回の手続きで更新できハンコも紙も不要です。Web給与明細も1クリックで従業員に配布できます。労務にかける労力と時間とコストを大幅に削減できるところが好評でサービス利用継続率は99.5%にものぼります(ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望2018年度」)。中小企業~従業員数万名規模の大企業までのプランがあります。
動画配信ビジネス
次に動画配信ビジネスの成功例を3種類ご紹介します。成功する動画配信ビジネスには、無料お試し期間あり、低価格、コンテンツが豊富でオリジナルコンテンツも持っているといった特徴があります。
大好きな映画やドラマを楽しもう!Netflix (ネットフリックス)
特徴:
Netflixは190カ国以上で展開する世界最大のサブスクリプション事業者です。膨大なユーザーのビッグデータをAIで解析したレコメンド機能に定評があります。ユーザーは世界のさまざまなコンテンツから自分の嗜好にあう作品を見つけることができます。
オリジナルコンテンツ作成に相当な投資をしており、Netflixでしか視聴できない作品が多いところが強みです。1ヶ月の無料期間があり、月額800円から始めることができます。
人気映画やテレビ番組が、今すぐ見放題 Hulu(フールー)
特徴:
月額933円で海外・国内ドラマ、映画、アニメなどが見放題のサービスです。定額制動画視聴サービスの中ではかなり安い価格ながら、ラインナップが豊富なところが人気の理由です。2週間の無料お試し期間があります。
Amazonプライムビデオ
特徴:
Amazonプライムビデオは、動画だけでなく音楽配信もふくめて月額500円、年間4,900円で楽しめます。格安の価格、サービスメニューの豊富さで多くのユーザーを獲得しています。1ヶ月の無料お試しが可能です。
サブスクリプションモデルの効果をあげる方法
ここでは、サブスクリプションモデルを成功させるためのポイントを解説します。
新規顧客の拡大
サブスクリプションモデルを成功させるには、これまでの顧客層以外から新規のお客様を見つけることが必要になります。どのような層に拡大するかは企業の方針によって異なりますが、できるだけ自社商品・サービスを継続して使ってくれる層を取り込むことが大切です。
(例)
- 高額所得者だけを対象 → 中・低所得者まで広げる
- 専門家、リテラシーが高い層 → 一般的な知識レベルの人や未経験者も対象に
- マニアックなファン → 少し興味があるくらいの人まで含める
- 中年男性中心 → 女性、若者向けプラン
- 大手企業中心 → 中小・スタートアップ企業まで対象に
- 国内だけ → 海外市場も視野に
解約率を抑えるカスタマーサクセス
サブスクリプションのリスクである解約を抑える手段の一つとして、カスタマーサクセスに取り組むことも大切です。
カスタマーサクセスとは文字通り「お客様の成功」ですが、成功の意味合いは商品・サービスはもちろんお客様個々で異なります。娯楽サービスなら新しいコンテンツで感動を味わうことかもしれませんし、教育サービスなら資格取得を目指しているのかもしれません。企業がSaaSを購入するのは、今の時代なら働き方改革の成功を願っている場合が多いでしょう。
いずれにせよ、お客様の願いや目標に自社商品・サービスを役立ててもらえるるよう積極的にサポートしていくことです。
(例)
- 高級な商品を試してみたら日常生活に豊かさを感じるようになった
- レコメンド機能で提案される動画や音楽が素晴らしい
- 知識の幅が広がる、向上心が刺激されるから学習が続けられる
- SaaSを活用することで業務が大幅に効率化された
- SaaSを活用することで社員の専門知識が深まった
また、サービスをこまめにアップデートし、期待感を持ってもらうことも大切です。そのためには、お客様の購買データ、属性、嗜好性などを分析して新たな提案をしたり、カスタマーサポート部門のスタッフがお客様の進歩や満足度を満たすようなコミュニケーションをとるなど、お客様に寄り添っていく姿勢が必要になります。
まとめ
『あなたが売るものは5年以内にサブスクリプション化するだろう』という副題で、「サブスクリプション・マーケティング モノが売れない時代の顧客との関わり方」という本が発売され、読者から高い評価を受けているようです。
人がすべての商品を所有しなくなるわけではありませんが、サブスクリプションモデルが普及することであらゆる業界に大きな影響がありそうです。
サブスクリプションモデルは、自社の商品が継続して使われる商品・サービスかどうか、企業DNAが売り切り型か、既存顧客との関係性を重視してきたかなどで、合う・合わないが出てくる可能性はあると思います。
それでも、人口減少、消費者意識の変化、現在のビジネス環境の変化の速さを考えると期待できるビジネスモデルだと言えるでしょう。
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