営業マンも身につけるべきクリティカルシンキングとは?

クリティカルシンキング

近年は、クリティカルシンキングがビジネスマンに必要な思考方法として注目されています。

その理由の一つとして、現在の市場環境が「Volatility(不安定さ)」「Uncertainty(不確定さ)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性・不明確さ)」の要素を持つVUCA(ブーカ)時代とも表現されるように、変化が激しい時代になっていることが挙げられます。

  • 政府機関が予測しているデータだから確実
  • 米国で成功している事例がある事案だから大丈夫
  • 権威ある人の言説だから確かだ

というように、安易に情報を鵜呑みにすることは危険であり、ビジネスマンは常に自分自身で情報を見極め自分で思考していくことが求められます。今回は、営業マンが身につけるべきクリティカルシンキングを紹介します。

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クリティカルシンキングとは?

クリティカルシンキングとは、直訳すると「批評的思考」という意味になりますが、ビジネス上の文脈では

  • 言説をそのまま受け止めるのではなく、自分なりに情報収集・精査し、さまざまな角度から考え、最適な解答を導き出す思考法

という意味合いで使われることが一般的です。 クリティカルシンキングは、営業マンにとって重要な課題発見力、課題解決力を高めることができる思考方法です。

クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い

クリティカルシンキングとロジカルシンキングは、よく比較される思考方法であり、かなり共通点があります。

まず、ロジカルシンキングとは論理的思考のことで、物事の流れを論理的に整理して解決策を導き出す思考法です。 一方、クリティカルシンキングとは、ロジカルシンキングに加えて客観的に物事の良し悪しを見極める思考を持つことです。

たとえば、あるテーマがあった場合、「そのテーマ設定自体が正しいのか」というところからから問いかけを行い、さまざまな角度から考察します。枠組みが異なるだけで、思考方法自体はロジカルシンキングと同じように論理的に考えます。 

クリティカルシンキングの重要性

クリティカルシンキングは、特に言説の「前提」から疑うところに特徴があります。世の中には、前提とすべきことが間違っている言説は少なくありません。そのような場合でも解説自体は論理的であるため、ロジカルシンキングだけだと一見真偽が見抜きにくいのです。しかし、前提が間違っていれば結論はズレていきます。

また、クリティカルシンキングは一つひとつの要素を細かく検証します。ビジネス社会では客観的でないのに、なぜか説得力が漂うデータ、決して嘘ではないものの内容の何倍も素晴らしい印象を与える表現など、判断を迷わせる情報が多く見受けられます。しっかりと情報を見極め、物事の本質が何であるのかを把握する必要があるのです。

惑わせる表現例

以下の例は、一見説得力のある正しいデータと見えるものの、実際はどうなのか、本質は何であるのかを見極める必要がある例とそのポイントです。

  • 「AとBは相関関係が高い」
    相関関係とは何らかの関係はあるものの、Aが原因でBが導き出されるという因果関係まではわかっていない弱い関係性です。ビジネスではやはり因果関係があるかどうかが重要になるので、相関関係と因果関係を混同しないように注意が必要です。
  • 「Aという仕組みを導入するとモチベーション(又は成果等)が上がる」
    成果であれモチベーションであれ、上がる理由にはさまざまな要因が絡みます。理由の中にAがあるとしても何%くらい貢献したかは不明ですが、このような表現は100%Aが理由のような印象を与えます。
  • 「〇〇〇は体にいい」「仕事のできる人は〇〇〇をする」
    無作為で幅広い層の十分な対象数に対して調査した結果であれば問題ありませんが、自社の顧客あるいはWebサイト来訪者などを対象にするなど、そもそも調査対象に偏りがある場合があります。
  • 「法律に触れないから問題ない」
    法律は時代とともに変わります。現在は法に抵触しなくとも、問題が多発すれば法整備されるため「違法でない=正しい」ではなく、後々問題視される可能性があります。例として、最近のハンセン病訴訟やヘイトスピーチ法などがあります。くれぐれも思考停止しないようにしましょう。

営業マンがクリティカルシンキングを意識する意味とは?

クリティカルシンキングとは、客観的に物事の良し悪しを見極める視点を持つことで、相手の言説を前提から覆し、持論を展開することができる思考方法でもあります。

例えば、営業活動をしているとお客様に何か提案しても「まだ大丈夫」「今はいらない」と言われることがよくあります。単なる常套の断わり文句(表面的な断り)の場合もありますが、お客様自身が課題を感じておらず本気で不要と思っている場合もあります。

しかし、お客様が課題を感じていないから課題がないという訳ではありません。明らかにお客様にとってメリットがある新しいサービスに興味を示さない場合、その理由がお客様の「現状維持バイアス=変化を好まず現状維持を志向する」であることは少なくありません。

人間は基本的に変化を恐れる生き物です。これまで成功していた方法であれば、あえて変えようという発想にならない人はたくさんいます。また、過去に成功した手法だからこそ1~2回失敗しても「たまたま失敗した」と希望的観測で捉えてしまい、環境が変化したのに延々同じ手法を取り続けることがあります。

そのような場合、営業マンはしっかりと現状分析をした上で予測を提示し、お客様に課題を気付かせなくてはいけません。「その現状維持バイアスに従うことは正しいのか」という視点を持ってもらうために、クリティカルシンキングが有効なのです。

逆にお客様が課題を自分で把握しており、すでに情報収集をして、ある程度解決策の目星までついている場合があります。

そのような場合も「もう次年度のプランは決定しているから」と断られるかもしれませんが、今一度お客様の課題の前提について問題提起し、「その解決策は本当に正しいのか」「本質的な課題を解決するものなのか?」と再考してもらえるような提案を行うために、クリティカルシンキングが役立つのです。

営業マンが身につけるべきクリティカルシンキングの基本

営業マンがクリティカルシンキングを行えるようになるためのステップを紹介します。

ステップ1:目的(課題)の明確化

クリティカルシンキングを行うためには、まず「何について解決したいのか」の目的(テーマ)を明確化します。目的を最初に正しく捉えないと、手段もぶれてしまいます。時間が無駄になったり、あまり効果のない解決方法を発案したりすることがあります。

例えば、

  • 売上げを拡大したい

という、営業管理職や営業マンなら誰もが持っている目標を例に説明します。まず、この前提を疑ってみましょう。例えば、多くの企業では「売上げを上げること」と「お客様の役に立つこと」をセットで考えていると思います。では、営業マンの真の目的はどちらでしょうか?

当然、「お客様の役に立つこと」です。

お客様が満足するような自社商品やサービスを活用した提案をするからこそ、さらなる売上げにつながるという好循環が起こります。売上げを上げるという目標が先にくると「このお客様には不要な商品だが売りつけよう」「何もわからない人を狙って売り込む」という思考もありという話になってしまいます。

目的を「お客様にどのように役立つことで売上げを上げていくか」と大きく捉えることが望ましいでしょう。

現状のブレイクダウン

目的を決めた後は、現状を正確に分析していきます。ブレイクダウンする際は既存のフレームワークを使うと効率的です。

MECE

MECE(ミーシー)とは、「もれなくダブリなく」という意味であり現状分析を行うときなどに意識すべき概念です。ブレイクダウンするとき分析すべき要素は多岐にわたりますが、その中に一つ、二つでも抜けている要素や重複があれば、現状を正しく分析できなくなってしまいます。

MECEに使えるフレームワークには「ロジックツリー」「マトリックス」「PEST分析」「3C」などがあります。ここではロジックツリーを紹介します。

ロジックツリー

ロジックツリーは、左側に目的(または課題)のボックスを設け、それに対し右側にツリー状に要素を展開していきます。

例えば、採用支援会社の営業マンなら、自分の営業戦略を新規開拓手法や既存のお客様の課題などを大分類にして、以下のように展開できます。思考の流れを可視化しながら書けると、抜けている項目や重複に気付きやすくなります。

営業戦略のロジックツリー

※実際には、さらに右側にもっと細かくツリーを展開していきます。ツリーを伸ばしていくほど現状を正確に把握でき、最低でも5階層までは広げることが必要だと言われています。

課題の抽出と仮説の策定

現状のブレイクダウンが終わったら、次は「本質的な課題」を見つけ仮説を設定します。仮説とは、いろいろな分析をした上で出てきた事実や傾向などを結び付けて、自分なりの「こうだろう」というストーリーを立てることです。仮説は一つである必要はなく、仮説A、仮設B、仮設Cというように、成り立つ仮説をいくつか立てることもよいでしょう。

次は、その仮説の正しさと検証できるデータを補足します。仮説を100%検証できるデータを集めるのは難しいので、7~8割の根拠があればよしとします。 

対策方法の決定と実行

本質的な課題を解決することができると思った仮説を選択し、実際の対策方法を実務レベルに落とし込みます。新規開拓の新手法であれば、新たなKPIを設定します。お客様への提案内容であれば、自社のサービスを活用してどのような対応ができるかを具体的に企画します。

もちろん、ここまでのプロセスを直感をもとに仮説を組み立て提案して大成功する営業マンもいるかもしれません。しかし、一般的なビジネスマンであれば、この変化の激しい時代はクリティカルシンキングを活用し、できるだけ成功の可能性、再現性がある手法を選択することが手堅いと言えるでしょう。

営業マンがクリティカルシンキングを使うメリット

クリティカルシンキングを営業マンが使うメリットを解説します。

課題を深く掘り下げることが可能に

クリティカルシンキングでは、常に目の前の課題を「なぜ?」「本当に正しいのか?」と問い続ける思考方法です。そのことによって、表面的には見えていなかった物事の関係性や因果関係が見えてくる可能性があります。トヨタ自動車ではトラブルが起きたとき「5回のなぜ」を繰り返して原因を分析することを、新入社員時代から教育するそうです。

一般の企業ではなかなかそこまでできないかもしれませんが、個人レベルででも「なぜ?」と常に自分に問い続けることで、課題を深掘りできるようになるかもしれません。クリティカルシンキングは、自分の思考の浅さ・深さ、偏りのある・なしを検証していく思考方法でもあります。 

検討の矛盾や抜け漏れの予防

クリティカルシンキングによって「なぜ?」を掘り下げていくと、物事の因果関係が見えてきます。因果関係がわかると言うことは、もし物事のつながりに矛盾があれば、すぐに気付くことができます。また、他にも原因となるものはないかと考えるきっかけになります。

その結果、因果関係の矛盾や検討段階における抜けや漏れを防ぐことができます。

商談時の方向の明確化

商談を行っていると、話が盛り上がりテーマが広がってしまい、方向性が見えなくなってしまうなど、営業マンのペースが崩れてしまうことがあります。クリティカルシンキングでお客様の課題を掘り下げていくと、本質的な話の筋がはっきりしているため話がそれても軌道修正が容易になり、一貫性のあるトーク展開ができます。もちろん、軌道修正するには十分相手が話したいことを話した後のタイミングが望ましいと言えます。

クリティカルシンキングが身につくと、お客様に対しても「本当は何を解決したいか」ということを常に示唆することができます。

まとめ

クリティカルシンキングとは、解決すべき本質的な課題は何かを考え抜くことです。そのため、お客様が課題だと捉えている前提からいい意味で疑います。

一般にBtoBビジネスにおいて、お客様は何か決めるとき前例ベースで考えがちです。しかし、これだけ変化が激しい時代になると、1~2年前に効果が出せた企画が今はマッチしないということもありえます。変化が激しい上にさまざまな事象が複雑に絡み合っている今の時代は、いい意味で物事を批評的に捉え、再度思考するクリティカルシンキングは大事です。

営業マンがクリティカルシンキングを身につけると、お客様の課題を発見し解決していく過程で、検証すべきことの漏れや抜けがなくなるため、プレゼンテーションなどでも成功する確率が高くなるでしょう。

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