営業マンも理解しておくべき顧客価値とは

顧客価値

自社の提供商品・サービスの「顧客価値」について考えたことはありますか?米国のマーケティング学者であるTheodore Levitt(セオドア・レビット)氏は「ドリルを買う人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」という言葉を残しています。

企業はドリルの持つ機能や価格をアピールしがちです。しかし、それらの部分のみで差別化することを考えてしまうと、競合他社との競争激化につながり、消耗戦になってしまいます。また、機能や価格だけで売り込むことができるのであれば、営業マンのトークやアプローチは売上げに関係ないということになり、営業マンの存在意義まで問われてしまいます。

そこで大切になるのが自社商品・サービスが持つ「顧客価値」です。自社の顧客価値を言語化し、営業チーム内で共有することで、激化する市場の中でも存在感を放つ商品・サービスを訴求することができるでしょう。

本記事では顧客価値の概要と、顧客価値を向上させる方法について解説します。

顧客価値とは

顧客価値とは、商品やサービスに対して顧客が適正と認める価値のことです。「カスタマーバリュー」とも呼ばれます。顧客が支払う金銭的・心理的・時間的コストと比較して、同じくらい、あるいはそれより大きな顧客価値を提供しなければ、顧客は商品・サービスに満足することはできません。そのため、企業は顧客価値の高い商品・サービスを提供する努力が必要になってきます。

また、顧客価値は顧客の置かれている環境や状況によっても変化します。例えば「普段水を買う際に100円以上は払えない」という人も、喉が渇くと「150円までなら払える」といったように価値観が変動することもあります。

顧客価値がなぜ大切なのか

現代の日本経済は、市場を通じて財・サービスの取引が自由に行われる市場主義経済です。特に近年は流通が発達し、インターネットを介した発注が進んでいるため、市場での企業間競争は激化していると言えるでしょう。

この競争で生き残るためには、顧客に価値を感じてもらえる商品・サービスを開発し、提供する必要があります。商品やサービスに価値を感じてもらえなければ、市場に残り続けることは難しいでしょう。

例えば、競合他社が自社と同じ価格帯の商品・サービスを展開していた場合、顧客は「どちらの方が満足度が高いか」の観点で比較し、購入します。顧客価値が、商品・サービス購入の判断基準になるのです。

世界規模で展開されているコーヒーチェーン店「スターバックスコーヒー」はこの顧客価値を重要視し、インテリアから店員の応対に至るまで、他の喫茶店と異なる雰囲気を提供しています。

同店のコンセプトは「サードプレイスであること」。サードプレイスとは、家と職場の中間にある「居心地の良い第三の場所」という意味です。同店は「美味しいコーヒーが飲める」という価値だけでなく「第三の場所」という顧客価値を提供することで顧客に選ばれ続けているのです。

4段階の顧客価値の紹介

ここでは、ドイツの大手ディスカウント・スーパーマーケットの創業者であるKarl Albrecht(カール・アルブレヒト)氏が提唱した「4段階の顧客価値」について解説します。

4段階の顧客価値

基本価値

商品・サービスにとって不可欠な価値のことを指します。例えば、食品であれば安心・安全に食べられることがこの基本価値にあたります。この価値を満たさなければクレームや取引中止につながってしまいます。

期待価値

顧客が『あって然るべきだ』と当然のように期待する価値のことです。提供されなかった場合、顧客はもの足りなさを感じ、クレームにまでは至らなくても、リピートにはつながらないでしょう。

願望価値

顧客が期待していないものの、実現された場合高い評価を得ることができる価値のことをいいます。期待されていないため、実現できなくても顧客にとって不満にはなりません。しかし、実現した場合は、リピートにつながる可能性が大いにあります。将来的な価値提供を考えると大切な側面と言えます。

予想外価値

顧客の期待や願望、予想をはるかに超える価値のことです。提供できれば顧客に喜びや感動を与えられます。これを実現するためには、お客様自身がまだ気づいていないが、重要な課題(インサイト)を的確に解決できる必要があります。そこから良い口コミが広がれば、新規顧客の獲得につながることもあります。

顧客価値の考え方

顧客価値の考え方について見ていきましょう。顧客価値は、2つの方程式で算出できます。1つ目の方程式は次の通りです。

顧客価値 =(顧客が企業から受け取る価値 -顧客が支払うコスト) × 全プロダクト

顧客は企業の商品・サービスだけでなく、企業イメージや営業マンの対応を含めたさまざまな要素を企業から受け取っています。それらを全て含めたものが「顧客が企業から受け取る価値」になります。

この価値に対して、顧客はコストを支払います。このコストは単に金銭的なコストだけでなく、時間的なコストも含まれます。BtoBの場合であれば社内稟議を通すため心理的コストもかかっていることでしょう。

そして、「顧客が企業から受け取る価値」から「顧客が支払うコスト」を差し引き、自社が提供しているプロダクトの数を掛け合わせれば、純粋な「顧客価値」が明確化します。

続いて、2つ目の方程式は以下の通りです。

顧客の支払い意欲(WTP:Willingness to pay) - 価格 = 顧客価値(お得感)

顧客の支払い意欲(WTP)とは、顧客が「これくらいまでなら払ってもいいかな」と考える金額のこと。このWTPから顧客が実際に支払った価格を差し引くことで、「お得感」という顧客価値が生まれます。

例えば、喉が渇いている人がいるとします。その人は「喉の渇きを潤すためなら150円まで支払える」と考えています。通りかかった自動販売機で水が100円で販売されていた場合、その顧客はどうするでしょうか。迷わずその水を買うことでしょう。なぜなら、当初支払えると考えていた150円より安いためです。

その顧客は、100円で水を購入することで心理的に50円得したと感じます。水そのものの商品価値とは別に感じられるお得感。これも顧客価値です。

この「お得感」は、顧客の支払い意欲によって変化します。先程の例では「喉が渇いている顧客」の場合で考えましたが、「あまり喉が渇いていない顧客」の場合はどうでしょう。「水に出せる金額は120円までだ」と考えているかも知れません。この場合100円で水を購入しても、得られるお得感はそれほど大きくないでしょう。

顧客価値を高めるための方法

顧客価値を高めるためにはどうすればよいでしょうか。いくつかご紹介します。

自社が提供できる価値要素を分析する

自社の顧客価値を高めるためには、まず自社の商品・サービスの中で価値を提供できそうな要素を見つける必要があります。その要素を抽出する主な手法として「3C分析」と「SWOT分析」が挙げられます。

3C分析

3C分析とは、「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの観点をもとに分析を行う手法のこと。この手法はKSF(Key Succsess Factor:重要成功要因)を導き出すことを目的として用いられますが、KSFを導く過程から顧客価値を最大化するための要素を抽出できます。

3C分析ではまず、エリアや年齢など「ターゲットとなる市場・顧客(Customer)」を明確化し、顧客のニーズを洗い出します。次に競合(Competitor)他社を分析し、自社の差別化を考えます。最後に、市場のニーズや競合他社の情報をもとに自社(Company)の強み・弱みを分析します。

この一連の分析を行うことで、自社が提供できる価値要素が明確になります。「市場のニーズを満たし、競合他社と差別化され、自社の強みを最大限に活かすことができる価値」。これこそが重要な価値要素だと言えます。

SWOT分析

SWOT分析とは、自社を取り巻く環境を「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Oppotunity)」「脅威(Threat)」の4つの視点で分析を行うこと。競合他社と比較した自社の「強み・弱み」を洗い出し、自社にとって「機会(=追い風)」となる外的要因、「脅威」となりえる外的要因について分析します。

このSWOT分析を行うことによって、自社の強みを明確化できます。その強みは、顧客価値を最大化させる価値要素の一つだと言えるでしょう。

SWOT分析

顧客に合わせた価値を追求する

顧客に価値を感じてもらうためには、顧客が求めるニーズを正しく把握する必要があります。いくら質が良い商品・サービスだとしても、顧客が必要としていなければ価値を感じてもらえません。

そのため、「顧客がどのようなニーズを持っているか」「潜在的なニーズは何か」を考えることは大切です。市場や顧客は一定ではありません。時代によって変化し続けます。「今顧客に必要とされていること」「今後必要されること」を常に考えましょう。

自社の顧客価値を営業組織全体で共有する

自社の顧客価値を明確に定められたら、すぐに営業組織全体で共有する必要があります。営業は直接顧客と接するため、顧客価値を理解した上で正しく顧客にアプローチしなければなりません。

また、「営業活動中に気づいたこと」「顧客からヒアリングしたニーズ」は、常に営業チーム内で共有し、顧客価値を磨くことも大切です。自社に商品開発部門やマーケティング部門がある場合は、営業マンが顧客からヒアリングしたニーズをフィードバックし、商品・サービスの改良に役立てることも重要です。

まとめ

冒頭のレビット氏の言葉を引用するならば、企業は「穴」を欲しがっている顧客の側に立ち、価値を提供する必要があります。つまり、「刻一刻と変化し続ける顧客のニーズを正確に把握し、顧客に喜んでもらえる顧客価値を提供すること」が大切です。

また、顧客のニーズだけでなく、競合他社の提供する商品・サービスの内容も変化していきます。こうした変化に感覚的に気づけるのは、お客様と直接コミュニケーションをとる営業マンです。そのため営業マンは常にアンテナを張り巡らし、市場の情報収集を行う必要があります。

営業マンが収集した情報を共有すれば、商品・サービスの改良に役立つだけでなく、営業チーム全体の営業方針をより良く変えられるでしょう。情報収集を含めた営業マンのスキルは、自社商品・サービスの改良の観点でも重要な要素なのです。

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    営業スキルチェックシート

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