顧客課題のヒアリングは国語・算数・理科・社会で【後編】

顧客課題のヒアリング

ビジネスに繋げるためのヒアリングのコツ

前編では、営業で大事なのは「質問力」と「ユーザー視点」だと書きました。しかし、いずれも言うは易し行うは難しです。
私の元々のプロフェッショナルは新規事業開発です。営業と新規事業開発では仕事の種類が大きく違いそうですが、実は共通点が多いことを前編でも書きました。
ここでも、新規事業開発においてビジネスチャンスを探す時の方法になぞらえて、営業場面で深いヒアリングをするためのコツをご紹介したいと思います。
自著「はじめての社内起業」では、ビジネスチャンスを探すための4つのプロセスを「国語・算数・理科・社会」に準えて紹介しています。

国語(どこに「不」があるかを探り出す)

小中学生の頃に習った「国語」の教科の典型的な試験問題というと、どんな問題を思い出しますか?
最も典型的な問題は「その時の主人公の気持ちを○文字以内で書きなさい」とか「作者の意図を○文字以内で書きなさい」といったものではありませんでしたか?
そうです。「国語」とは文章に直接は書かれていないことも含め、行間を読んで主人公や作者の気持ちを想像する力を鍛えるための教科だったんです。
営業ヒアリングの基本は、お客さんの気持ちを聞きだすことです。
ヒアリングで聞き出すべきは、お客さんの「不」です。
お客さんがどんな「不(不満、不足、不便、不平、不合理、不都合、不幸・・・)」を感じているのかを、深く深く聞いていきます。
ですが、これがなかなか簡単ではありません。そのためのコツをお教えします。
何か一つ「不」の言葉を聞き出せたら、「誰が」「いつ」「どこで」「どんな時に」とできるだけ具体的になるようにヒアリングを進めていくことです。
そうすることで、聞き出した「不」が表面的で言葉だけのことなのか、深く実際的なものなのかの見分けがつきます。
まずその深堀りと見極めがヒアリングの第一歩です。

算数(「不」の大きさを把握する)

お客さん思いの営業マンであれば、どんなお客さんの「不」も解消してあげたいと思うでしょうが、商売であることを考えれば、その「不」がビジネスとして応えるべきものかどうか判断するために、その「不」の大きさを把握しておく必要があります。
「不」の大きさは、広さ(抱えている人の多さ)×頻度(不を感じる頻度)×深さ(不の深刻さ)で決まります。
もちろん「不」は大きいほど解消したときに大きなビジネスになります。

理科(「不」が生じている理由は何か)

お客さんの抱える「不」を見つけることが出来、それがビジネスに繋がる大きさのものだと確認できたら、すぐにその解消方法を考え始めるでしょうか。
実はその前にやっておくべきことがあります。それが「理科」です。
なぜそのような「不」が生じているのか、理由を明らかにしておくことです。
生じている理由を明確にできないうちに解消策を考えても、陳腐な案しか提案することが出来ません。
聞きだすことが出来た「不」の周辺までヒアリングの幅を広げていくいくことで、なぜ「不」が生じてしまっているのかをお客さんと一緒に考えていきましょう。

社会(「不」が解消されていない背景は何か)

不が生じている理由を掘り下げて考えていくと、時にあまり合理的な理由が見当たらないこともあります。
そうなると「これは誰も気がついていないようだから、早い者勝ちのチャンスだ」と勘違いしがちですが、そういう場合にもたいていは何か「今もまだ解消できていない背景」があるものです。
既存でも何某か製品やサービスはあるはずなので、それらではなぜ解消し切れていないのかを把握してから出ないと、お客さんに本当に満足いただける提案はできません。

営業マンに新規事業開発視点のススメ

ここまでのプロセスを経て、やっと具体的なお客さんへの提案内容の検討に入ります。
「国語・算数・理科・社会」に準えれば「図画・工作」とでもいいましょうか。ここからは具体的であればあるほど喜ばれるはずです。
営業の場面の中には、日々小さな新規事業のチャンスが転がっています。それを活かすも殺すも営業マン次第です。
小さなチャンスの芽を見つけ、見極め、育むプロセスの経験を積み重ねることは、営業マンとしてだけでなくビジネスマンとしての総合力を身に付けることにも繋がります。そう思うと、日々の営業の取り組みも少し違って見えてきませんか?
今営業を仕事にされている皆さんが、いつか大きな新規事業開発に取り組む機会に恵まれた際には、ぜひその機会を活かしチャレンジをしてみてください。
『顧客課題のヒアリングは国語・算数・理科・社会で(前編)』もご活用いただければ幸いです。

石川 明(新規事業インキュベータ石川明事務所 代表)
1988年、(株)リクルートに入社。7年に渡り新規事業開発室のマネージャとして数多くの社内起業や、起業促進のための社内制度の設計・運用を経験。2000年、(株)オールアバウトを起業し、10年に渡り事業責任者を務める(2005年JASDAQ上場)。2010年に独立。様々な業種の企業と契約し、新規事業の企画・企業内起業活性化のための制度設計・社員教育に従事。これまで100社、1,500案件、3,000人の社内起業に携わる。
著書:『はじめての社内起業 「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ』

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原誠

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