営業組織運営での課題を解決するためには

組織 運営 課題

営業チームを率いる立場になると、さまざまな組織運営上の課題に直面するでしょう。「他社に比べて営業力が弱い……」「新人がなかなか育たない……」「ベテラン社員のモチベーションが下がっている……」など、ちょっとやそっとでは解決しない課題が山積みです。

企業内の課題はいろいろな要因が絡み合っているため、簡単に解決できる魔法の杖はありませんが、営業活動でお客様に提案するように、課題を正しく把握し、解決策としての仮説を構築 → 実行とPDCAを回すことで一つずつクリアしていくことはできるでしょう。

しかし、お客様には素晴らしい提案をしながら、自組織の課題は解決しないでそのままにしている「紺屋の白袴」状態の営業組織は少なくありません。能力的にできないのではなく、どうしても自分たちの課題は後回しにしてしまいがちです。

お客様に向けるエネルギーの何分の1かを自組織の課題解決に向けるだけでも、営業効率がよくなり売上げ拡大につながることが期待できます。本記事では、営業組織運営での課題を解決するノウハウを紹介しますのでご参考ください。

営業組織運営の課題とは

課題とはビジネスの領域では「解決しなければならない問題」「果たすべき仕事」という意味を指します。「問題」と同義で使われることもありますが、より一歩踏みこんだ意味合いで「解決すべきこと、解決できること」といった文脈で使われることが多いと言えます。

  • これは問題だね・・・解決できることもあるが放置もありうる
  • これは課題だね・・・解決できる前提

営業組織運営の課題とは、営業組織としてあるべき理想と現実の間にあるギャップ、乗り越えるべきハードルのことです。一般には戦略、組織体制、営業マンの能力アップなどの課題が多くなります。

課題があるということは理想的な状態、目指す目標と現実のギャップをすでに認識できている段階なので、何も自覚がないよりよい状態です。逆に言えば理想や向上心を持っている限り、課題は出てくるとも言えるでしょう。

営業組織としてあるべき理想と現実の間にあるギャップ

なぜ営業組織運営の課題の解決が大切なのか

営業組織運営の課題とは、ありていに言えば売上げ拡大のボトルネックになっていることです。大きな目標数字を達成しなければならない営業組織としては、当然取り除く必要があります。

組織の課題は「放置していたらいつのまにか解決した!」とはそうそうなりません。よくて現状維持。さらに悪化していくこともあります。

  • ナレッジを共有しない風土に手をつけなければ、永遠に知識は共有されません
  • セクショナリズムを放置すれば、より分断・派閥が固定化されていきます
  • 営業成績にばらつきがある場合、自力で下位からトップ層になれる営業マンは僅かです
  • 営業マンは今後も就労時間の約3割しか営業活動に時間を割けないでしょう

また、「営業力が弱い」「営業マンが消極的だ」「営業マンの商談件数が少ない」という状況は、一見個人の課題に見えますが、その背景に脈々と培われてきた組織文化、社内慣行が影響していることも少なくありません。

営業組織の課題を解決するためには、根本的な要因を捉えて改善していく必要があるため、営業部門のトップが中心になって対策を進めることが理想的です。

営業組織が抱える運営での課題例

ここでは、営業組織が抱える運営上のよくある課題について解説します。

なかなか営業マンが育たない

多くの企業が頭を悩ませるのは営業マンがなかなか成長しない=高い売上げをあげるレベルまで育たない課題です。リクルートマネージメントソリュ―ションズ社が2014年に営業部長に対して行ったアンケート調査でも、課題の1位は「営業担当の能力のばらつき」です。「新規入社者の早期戦力化」も課題になっています。

営業部長に対して行ったアンケート調査

(出典:リクルートマネージメントソリューションズ

営業マンの成長スピードはそれぞれ違います。また、新規開拓営業の場合結果が出るまでに半年~2年かかる場合もあるため、初期に劣等生と思われていた営業マンがあとで「化ける」こともあります。できるだけレッテルを貼らず個々の営業マンの特性を活かす指導をすることが望ましいのですが、チームとしては成果も出していかなければいけません。ある程度のレベルまでは短期間に成長できる指導体制を整える必要が出てきます。

営業マン全体の方向性が整わない

ハーバード・ビジネス・レビューが2015年に出した調査結果では「標準化された営業プロセスを持つ企業はそうでない企業と比較して収益が28%増加する」というデータがでています。

社内で、何人かの営業マンが理想的な営業プロセスで成果を出しているのに、他の営業マンがそれを学ばず独自の営業手法を極めようとしてムダに労力を使っていないでしょうか?みながバラバラに属人的な営業を行うならば、組織のパワーは活かせません。

もちろん、より良い手法を研究することは大事ですが、平均レベルに達するまでに必要以上のエネルギーを使うのはもったいないことです。土台になる基本的な営業プロセスがあって創意工夫することがのぞましいので、少なくとも基本営業プロセスは構築しましょう。

米国RAINグループの調査ではパフォーマンスの最も高い組織は、他の組織よりも成熟した営業プロセス(以下の図のWorld-Class)を持つ傾向があると分析しています。余力があれば、戦略と戦術のベストプラクティスが含まれた成熟した営業プロセス構築にトライしてもよいでしょう。

米国RAINグループの調査

(出典:rainsalestraining.com/

ノウハウの共有ができていない

営業マン同士のノウハウや情報交換ができていないことも、よくある課題です。せっかく優秀な営業マンが何名かいるのにノウハウや提案資料の共有ができていないので営業マンの中で営業スキルに差がでてしまいます。

ノウハウの共有は、「共有しろ」と指示すればするようになるものでもありません。そもそもどの営業マンも忙しく、情報共有のためだけに時間が割けないことがまずあります。

また、最近の若い世代は多少変わってきましたが、古い営業マン世代は基本的にノウハウを共有しあわない組織文化で育っていることが多く「教えるのも聞くのも失礼」という不文律をもっていたりします。センスで売れてしまう営業マンにいたっては、本人がノウハウをノウハウと自覚していないこともあります。

以下のように情報公開の場を「仕組」として設けることが大切です。

  • 朝礼やミーティングで新規受注・大型受注を賞賛、同時に成果発表してもらう
  • 営業支援ITツールを導入してクラウド上で提案書、見積書、メール文のテンプレ等を共有
  • 成果事例の数と種類を増やす
  • 営業ワークフローを作成する
情報公開の場を「仕組」として設ける

次期リーダーの育成

リーダーの育成ができていないこともよくある課題です。企業が大きくなっていくにつれリーダーシップのある人材の数もより必要になります。現在は営業マネージャー1人だとしても、先を見越して次のリーダーを育てて、組織を大きく伸ばせるようにしなくてはいけません。

リーダーシップは実際にリーダーの立場にたって経験しないとなかなか身につけにくいスキルなので、できるだけ早く後輩を指導する経験、プロジェクトチームなどで複数人をまとめる経験を積んでもらうことが大切です。

営業組織運営の課題を解決するためには

営業組織運営の課題を解決するにあたり、優先順位の高い項目を以下に紹介します。

営業組織のビジョンや目標を伝える

まず、営業組織のビジョンや目標をメンバー全員に理解してもらうことが大切です。そもそもただの集団と組織の違いは共通の目的、ビジョンがあるかどうかです。古今東西問わず優れた組織はわかりやすく多くの人の共感を呼ぶビジョンをもっています。ビジョンが明確だからこそ、みなが目的に向かってぶれなく協力しあえます。

また、日本でも若い世代ほど物質的、金銭的な欲望よりも、社会に対する貢献を意識する傾向があることを知っておきましょう。リクルートマネジメントソリューションズ社の「2020年新入社員意識調査」では、仕事で何を重視するかという問いに対しての1位が「成長」、2位が「貢献」となっています。

「自分の仕事がこのような人たちの役に立つ」「このように社会に貢献しているのか」と実感できると、営業マンもやりがいを持てます。逆に企業にビジョンも何もないと何に向かって業務を進めていけば良いかがわからずモチベーションがあまり高まらないでしょう。

今なら、ブログやSNSでビジョンや目指している世界観を発信してもよいでしょう。また、事例作成も効果的です。会社が宣言しているだけではなく、実際にいろいろなお客様が喜んでいる事実に触れることで、営業マンは理念が実現できていると感じ自信を持つことができます。

リクルートマネジメントソリューションズ「2020年新入社員意識調査」

(出典:リクルートマネジメントソリューションズ「2020年新入社員意識調査」

自社の立ち位置を把握する

目標やビジョンが定まっても、自社の立ち位置(レベル、ステージ)とあまりにかけ離れたビジョンだと絵空事に思われてしまう可能性があります。まず、しっかり今の立ち位置を認識しましょう。メディアに登場する他社の成功例もビジネスモデル、カルチャー、社員の個性、企業ステージなどが異なると真似してもうまくいきません。

例えば、2018年に発行されてベストセラーとなった書籍『ティール組織』では、組織を以下の5つの発達段階にわけています。軍隊のような組織からいきなり自主性あふれる社員の集団に移行することは難しいので「理想」と「今の状態」の差を踏まえて段階的に進むことが大切です。

■組織の5つの発達段階 

  1. Red(レッド)組織
    原始的な組織。個人の圧倒的な力でマネジメントする。恐怖支配に近い。例:マフィア
  2. Amber(琥珀)組織
    ピラミッド型組織で階級と個々の役割が決まっている。トップダウン。例:軍隊
  3. Orange(オレンジ)組織
    ヒエラルキーはあるがトップダウンだけでなくボトムアップも可能。例:一般企業の多く
  4. Green(グリーン)組織
    ゆるやかな階級はあるがメンバーの自主性がかなり尊重される民主的組織。例:NPO
  5. ティール(青緑)組織
    組織に属するメンバーが組織のビジョンを理解し、一生命体の細胞のように自律・調和的に動く進化型組織。例:Zappos.comなどの先端IT企業がよく取りあげられる。

    ※なお、上記はあくまで発達段階であり優劣ではありません。

(参考:『ティール組織』

営業活動が標準化されている

営業活動は標準化されているでしょうか?パレートの法則どおり売上げのかなりの割合を優秀な2割の営業マン層に頼っていないでしょうか。営業組織として安定した売上げを出し続けるためには、残り8割の営業マンの能力を底上げする必要があります。

前述のとおり営業プロセスを構築している企業は収益も高くなる傾向がありますが、営業プロセスだけでなく各フェーズで必要な「トークスクリプト」「メール文」「提案書」「事例」などをテンプレート化し「営業ワークフロー」を構成するとより収益アップが期待できます。

できれば自社のトップ層の営業マンに協力してもらい、ノウハウを部門全体で活用できる営業ワークフローを作成しましょう。もちろん、メール、電話などできるところからのスタートで問題ありません。

組織の勝ちパターンのワークフローを手本にできるので新人の成長スピードも速くなります。基礎をしっかり身につければ、次第に個別のお客様に最適な営業活動を行うなど創造的な仕事もできるようになっていくでしょう。

営業ワークフロー

営業メンバーの役割を明確にする

営業マンの成長には「役割の明確化」も大切です。自分にどのような役割が求められているのかを上司の立場から明確に伝えられると努力するべき方向性がわかるからです。

これは新人でなく中途採用の営業経験者も同じです。能力的にできることであっても「会社の方針にあっているか?」「自分が手をあげてよいものか?」など、空気を読んで遠慮する人が多いからです。誰もが喧々諤々意見を出すような社風であれば問題ないのですが、トップダウン型の組織の場合は経営者か上長が役割を明確に伝えたほうがよいでしょう。

ある程度成長している営業マンには裁量を持たせて任せていくことも大切です。自分でコントロールできる範囲が大きくなるとモチベーションがさらに上がります

実行力を高める

何事も大切なのは実行力です。営業組織の課題は社内の人間なら気づくのは容易でしょう。しかし、実行にそれなりのパワーが必要なのでなかなか進みません。

例えば、事例を作成すると決めた場合、そもそもどのような事例がどのくらい必要か決めて、予算を想定して、これだけ売上げ拡大につながることが期待できると上申し、予算がおりたらメンバーとともに作成を進めなければなりません。しかも今の仕事にプラスしてです。手間も労力もかかるプロセスなのでプロジェクトチームを組んで、短期間で集中して取り組むことがベストです。

営業マンの育成にしても「行動量を増やしなさい」というあいまいな指示でなく、個々の営業マンに適したKPIを設定し、しっかり取り組んでもらう必要があります。目的地点までのルートを指し示すことで営業マンの実行力も高まります。

  • KPI例:電話件数、営業メール件数、新規リード獲得数、決裁権者接触数、商談数、etc

混乱期があると想定しておく

営業組織の課題を解決しようとプロジェクトを進めるなかおそらく摩擦や軋轢が起きます。「時間がないのに……」「このKPIは不適切だ……」などいろいろな意見、不満が出てくる可能性がありますが、事前に想定しておくことで対処がスムーズになります。

チームビルディングのフレームワークで有名な「タックマンモデル」では、チームが課題に立ち向かい結果を出していくためには「形成期」「混乱期(意見がぶつかる時期)」「統一期」「機能期(結果を出す時期)」のすべての段階が必要としています。

また、2020年以降のようにビジネス環境が変わりやすい時期は、管理職が最初に決めた方針が環境に合わなくなり、現場にいる部下の意見が役に立つことも多くなる可能性があります。混乱期のメンバーからの意見は聞く耳を持つつもりでいるとストレスも減り、混乱期を乗り越えやすくなるでしょう。

■タックマンモデル

タックマンモデル

コミュニケーションを欠かさない

組織は人の集まりなのでコミュニケーションが一定量必要です。営業マン一人ひとりの心構えやモチベーション、考えることは異なるため可能な限り各営業マンを理解しようとする姿勢が大切です。

2021年から巨人の投手チーフコーチ補佐をつとめる桑田真澄氏は「まずは選手をよく知るところから。何を考えているのか、どういう目標があるのか、僕が理解していく作業が最初」「彼らの中に答えがある」とコメントしています。一流の選手であり野球界きっての勉強家である氏の指導スタイルはそのままマネジメントに応用できます。

個々の営業マンの個性やポテンシャルを理解したアドバイスは人を成長させますし、「上司が自分の強みを理解してくれている」と思った営業マンはやる気になるでしょう。長時間コミュニケーションをとるのは大変ですが、業務の開始や業務後など数分でも時間を確保し、各営業マンとのコミュニケーションをとっていきましょう。

営業組織の営業活動を効率的に管理するためには

現在は昔に比べて中間管理職の数がかなり少なくなっています。しかも、多くはプレイングマネージャーです。そのような環境で部署全体や営業マン個人の数字、商談パイプラインの進捗、既存のお客様の動向を見ながら指導を行うには、ITツールの活用が欠かせなくなってきています。

把握しなければならないデータ量は膨大であり、1人の脳だけに納めるのが難しいからです。

ITツールを活用することで情報が一元管理でき、リアルタイムな分析やタイミングのよいアドバイス、指導ができるようになるでしょう。昨今は、安価(月数百円~10,000円程度)で高機能なさまざまなITツール(業界特化、中小企業向け、AI搭載型等)が登場しています。中小企業でも課題に応じた身の丈ITツールを使って、組織運営をアップグレードすることが可能です。

ツール例:

  • プロジェクトの進行をスムーズにする → タスク管理ツール
  • 営業活動の管理 → 営業支援ツール、営業自動化ツールetc
  • 顧客情報の可視化 →顧客管理システム 

コロナ禍で急速にビジネスのデジタル化が進んでいます。これからの管理職にも営業マンにもますますIT活用力が必須になりつつあるので、ITツールを自分の武器と捉えて積極的に活用していきましょう。

まとめ

営業組織の運営上の課題は営業部門のリーダーの意欲次第で改善できることがかなりあります。

例えば、営業プロセス、営業ワークフローの構築は面倒で遠回りに見える作業ですが、構築すると部下の成長は早くなり収益拡大にもプラスになるなどメリットが多く、むしろ成果を出す近道だと言えるでしょう。

しかし、作成難易度は高くないものの地味な作業も多く部下の協力も必要なので、作成する意義を説いて実行していく力が必要になります。

こちらから「営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》」をダウンロードできます。プロジェクトの開始~運用までのステップをわかりやすく解説してありますのでぜひご参考ください。

    営業ワークフローと営業ツール標準化《実践ガイド》

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