長年営業をしていると、お客様を引継いだり引き継がれたりすることが多々あります。引継ぎは時間がない中で簡易的に行われ、引継ぐ側と引き継がれる側の各営業マンに任されることが多いのではないでしょうか。前任は次の部署や会社といった新天地のことを考えているため、いい加減な引継ぎしかされずに不満だったというエピソードも多く見られます。
しかし、しっかり引継ぎをしないと後任が上手く立ち回れなかったり、成約できたはずの案件に失敗してしまったり、会社として機会損失を引き起こす恐れがあります。実際に、サイボウズ株式会社の調査では、「引き継ぎを受けた人の7割は“不満”」という調査結果もあるほど、引継ぎを上手く行えていない場合が多いようです。
しっかりと引継ぎを行い、引継ぎ後もスムーズに営業活動を行うためにはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。本記事では営業内での引継ぎを失敗なく行うために必要なことをまとめます。
目次
営業内での引継ぎとは
営業内での引継ぎとは、一般的には異動や退職による担当変更、案件進捗による上司への引継ぎが挙げられますが、長期休暇などでお客様から急な連絡が入っても困らないよう一時的に別の担当者へ業務を引継いだり、外回り中やテレワークなどで社外にいる時に社内でしかできないことを、別の営業や事務へ依頼したりする場合なども広義の引継ぎと言えるでしょう。
本記事では、異動や案件進捗により他の営業や上司に引継ぐ場合などを想定しておりますが、上記で挙げた広義の引継ぎでもスムーズに対応できるようになるヒントがありますのでご参考にしてください。
引継ぎについて考えることは、営業部署全体としても営業活動をスムーズにして機会損失を無くすことに繋がります。また、営業マン自身にとっても長期休暇を取りやすくなったり他の営業マンへ依頼しやすくなったりするというメリットがあります。
営業内での引継ぎを行う2つのシーン
この記事で想定している引継ぎは、以下2つのパターンです。
- 異動や退職などで担当者を変える引継ぎ
- 案件が進捗して上司に引き渡す引継ぎ
これら2つのシーンについて、それぞれどのような注意すべきことがあるのか具体的に見ていきましょう。
担当者を変える引継ぎ
まず「営業内の引継ぎ」といって多く考えられるのが、異動や退職などの事情により担当者を変更する場合の引継ぎです。
この場合、異動や退職が発表されるタイミングがギリギリだったり突然決まったりすることもあるため、期間が短かったり文書を渡されるだけなど不十分な形で引継ぎがされることも多いようです。
サイボウズ株式会社の調査でも営業職では「時間がなかった」「文書の説明がなかった」という引継ぎの不満を回答した人が多かったと紹介されています。
(出典:部署異動に関する仕事の引き継ぎの実態調査)
退職の場合には体調不良などで前任者が出社不可能となり、そもそも引継ぎがないというケースもあるかも知れません。不慮の事故などがいつあるかもわかりませんし、営業マンは「いつかは必ずお客様を引継ぐ」という心づもりで日頃から引継ぎの準備をしておくと万全かも知れません。
上司に引き渡す引継ぎ
会社によって、新人は新規開拓のアプローチに専念し、案件が進捗したら上司に引継ぐという連携をとっていることもあるでしょう。その場合、新人は上司に引継ぐまでの単なる繋ぎと捉えず、上司に引継いだときに「どのような情報があれば、成約や連携が円滑に進むか」後工程まで見据えてお客様の情報を引き出しまとめておくことが重要です。
また、お客様は初めに対応した営業マンを信頼して話を進めてくれている場合が多いです。その信頼を損なわないように上司に引継ぐことも重要です。お客様に不信感を与えず、安心して付き合いを継続してもらえるような引継ぎを心掛けましょう。
なぜ営業内での引継ぎが大切なのか?
営業内での引継ぎを上手く行うことができないと、お客様との信頼関係が維持できなくなり売上を落としてしまったり、成約できるはずのものができなかったり、会社として大きな損失になりかねません。そういったデメリットを防ぐためにも、引継ぎをスムーズに行えるようにすることは大切です。また、スムーズな引継ぎ体制をつくることが強い営業組織づくりにも繋がります。
営業内での引継ぎのメリット
では、営業内での引継ぎのメリットとはどのようなものでしょうか。
営業は担当者の裁量が大きく属人的になりがちですが、引継ぎを行うことによって別の視点が加わるため、新たな提案が生まれ、売上アップに繋がる場合もあります。また、引継ぎを行うことで言語化されていなかった属人的な手法を整理・共有することができるため、営業ナレッジや営業フローの見直しや強化をする機会にもなり得ます。
上記のような効果を狙って定期的に引継ぎを行う企業もあるほか、中には担当営業とお客様の好ましくない癒着を防止するために定期的に引継ぎを行う企業もあります。引継ぎは、顧客情報や営業手法を営業マン個人に留めず社内で共有し、担当営業の個別の繋がりではなく会社として顧客と関係を継続し、強固にしていくという大切な側面も持ち合わせています。
見込み客や顧客との信頼関係を維持して機会損失を防ぎながら、より強い営業組織にしていくために適切な引継ぎを行うよう心掛けましょう。
営業内での引継ぎの際に共有する内容
では、営業部内で引継ぎを行う際に共有すべき内容とはどういったものかをまとめます。メールや対面で後任と顧客を引き合わせるだけで済まさず、以下のような内容を意識して引継ぎ資料としてまとめておくようにしましょう。
お客様の情報
まず、取引に関するお客様の基本情報は必須です。BtoBであれば企業情報や担当者の情報などを適切に共有する必要があります。
例)
- 企業情報
- 担当者、連絡先、主な打ち合わせ方法
- 決裁フロー
- 取引履歴
- ヒアリングした課題や提案の履歴
その他にも、お客様の性格や趣味など個人的な情報を引き継いでおくと、後任とお客様とのコミュニケーションがスムーズになります。また、電話かメールのどちらを好むのか、電話であればいつ頃が話しやすいかなどもあれば共有できるとよいでしょう。
過去のコミュニケーション履歴
お客様の基本情報の他に、これまでどのようなやりとりをしていたのかは共有すべき重要なポイントです。例えば、直近でいつ頃連絡していたのか、電話とメールでどのような会話をしていたのか、商談でどのような会話をしたのかなどまで詳細に共有することが理想です。
次回どのようにアプローチすれば良いかのヒントになりますし、「以前はこのような状況だったと伺いましたが現在はどうですか?」などのヒアリングもしやすくなります。今までのことを踏まえた上でのコミュニケーションは「自分のことをわかってくれている」というお客様の安心にも繋がります。
お客様の立場で営業の引継ぎを経験したことがある方も多いかと思いますが、自分の情報がまったく引継がれておらず、同じことを二度説明しなければならない状況に、不信感を感じたこともあるのではないでしょうか。詳細な情報共有をして、信頼を醸成できる引継ぎを意識しましょう。
見込み度合い
もし引き継ぐ対象が顧客でない場合は、見込み度合いも重要な共有事項となります。後任の営業マンはその見込み度合いによって対応の優先順位を決めることができるので、営業活動の効率化に繋がり、見込み度合いが高いお客様の取りこぼしも防げます。
見込み度合いが高いお客様の場合は、顧客と同じレベルでの丁寧な引継ぎを行うことも必要です。
例えば、「前任が長期間やり取りを続けていてあと少しで新規契約に結び付く」というお客様は顧客と同じように引継ぎを行わなければ、それまでの苦労が水の泡になりかねません。また、単純に「新規契約できれば金額が大きい」というお客様もいますし、「取引が始まれば業界・社会的に大きな話題になる」というお客様もいます。
そういったお客様を丁寧に引継ぎしないと、前任がせっかくやり取りできるところまで進展させたのに、また一から信頼関係を築き上げなければならないという事態にもなりかねません。それどころか不信感を抱かせ、やり取りすらできなくなってしまうかも知れません。
単純に顧客かそうでないかで分けるより、今後の新規契約の重要性やインパクトの大きさも含めて見込み客の引継ぎをしっかり行うようにしましょう。
営業内での引継ぎがうまく出来てないときに生じるトラブル
上記のようなお客様の情報共有がうまく出来ていないと、引継ぎをした後に様々なトラブルが生じます。例えば、お客様からクレームが発生したり契約の更新を断られたり、関係継続が難しくなる最悪の事態が起こりかねません。
これらのトラブルは以下2つの状態が元となり引き起こされることが多く、その状態を防ぐための対策をしておく必要があります。まずはトラブルの元となる状態について詳しく考えてみましょう。
1.お客様との信頼関係が崩れる
引継ぎを行った際よくあるのが、お客様の情報がしっかり共有されておらず、お客様から「前任の営業マンにもこの話をしたのに、また同じ話をしなければならないのか……」「後任の営業マンは全然うちのことをわかってくれていない……」と思われてしまうケースです。
後任の営業マンにとっては引き継がれたタイミングで、改めて関係を築いていきたいという想いがあるかも知れませんが、お客様にとっては同じ企業なのだから情報共有くらいしておいて欲しいという心境です。
前任と後任の間で情報共有がされていないと、お客様にとってはコミュニケーションの中で不快に感じてしまい、それがきっかけで信頼関係が崩れてしまう可能性もあり得ます。
2.お客様との認識違いが起きる
また、情報共有が不十分だと、後任営業とお客様との間で認識の違いが起こることもあります。前任とは長い付き合いでわかり合っていたことが、担当者が変わることによって伝わらなくなってしまうなどのすれ違いも起こり得ます。
前任が「何をどこまでどのように」話していたのかがわからないと、お客様と同じ目線で話すことも難しく、わかりやすい説明もできません。
「なんだか今までのように上手く伝わらないな……」「説明がよくわからないな……」などと思われてしまっては円滑なコミュニケーションができません。結果、お客様が不安を感じるようになり、その後の関係が崩れてしまう事態に陥りやすくなってしまいます。
営業内での引継ぎを効率化する方法
上記のようなトラブルは、しっかりと情報共有されていれば防ぐことが可能です。適切な情報を管理・共有していつでも円滑な引継ぎができるよう備えておきたいところです。では、どのようにすれば円滑な引継ぎができるようになるのか、情報の管理・共有の効率的な方法について考えてみたいと思います。
顧客情報は日々まとめる
まず営業マンは、引継ぎをするタイミングで初めて担当している全顧客の情報をまとめようと思うと大変ですが、日ごろから引継ぎをする可能性があることを見越して上記のような顧客情報を整理しておくと突然引継ぎのタイミングがやってきてもスムーズです。
また、長期で休みを取りたい場合などにも、そういった資料をまとめておけばスムーズに休みを取ることも可能です。営業マン自身のためにも、案件の整理にもなりますので、顧客情報を日ごろからまとめておくことをお薦めします。
顧客情報を関係者が見られるように管理する
また、営業マン個人が顧客情報をまとめておくだけでなく、営業部全体でフォーマットを統一して、関係者がすぐにその情報を見られるように管理しておくことが大切です。
管理を営業マン個人に任せてしまうと、フォーマットがバラバラで必要な情報が不足していたり、どのフォルダにあるかわからず、すぐに取り出せなかったりというような問題も生じやすく、適切な管理方法とは言えません。
突然の怪我や病気なども含めて引継ぎの可能性を考えると、営業部全体もしくは会社全体でCRMなどの顧客管理ツールを活用して、どの営業マンでも自社の持っている顧客情報にアクセスできるようにしておくことが、スムーズな営業活動には必須です。
過去のやり取りを時系列で管理できるようにする
さらに大切なのは、日々のやりとりを時系列で管理できるようにすることです。過去にどのようなメールを送っていたのか、電話でどのような会話をしていたのか、商談でどのような交渉を行っていたのか等を事実ベースで確認できることが望ましいです。
営業マン個人の記述に頼ると「書いてあることがわからない……」「記憶が不確かで事実かどうかわからない……」「思い出しながら書くと時間がかかる……」という状態になってしまいかねません。
現在は、ITツールを使うことによって、電話も録音をすることができます。電話をそのまま録音できれば、営業マンの手間を減らしつつ正確な会話を後々確認することが可能です。
過去のやり取り情報が簡単に引き出せるようになると「あのお客様にはどこまで話したのか」ということが簡単にわかり、効率的に営業活動をすすめられるようになります。後任の営業マンもリアルな会話を確認することでお客様から直接聞いたように記憶することができ、よりきめ細かなフォローが可能になるでしょう。
まとめ
お伝えしてきた通り、CRMなどの顧客管理ツールやITツールを駆使して営業マン個人とお客様とのやり取りを記録・管理していけば、優秀な営業マンのノウハウの発掘・共有にも繋がります。
どのように顧客との取引を成長させていったか、詳細な会話のやり取りまで共有できることは強い営業組織にしていくために大きな価値があるものです。引継ぎを失敗なく行うために顧客情報や日々の営業活動を整理・共有することは、組織全体の営業力強化に役立ちます。
「営業マンの営業活動をより楽にする 営業シーン別 営業自動化のヒント」では効率的な営業活動を行ための自動化のポイントを紹介しております。引き継ぎを行う上でも自動化により、引き継ぎの負担を軽減できるようなポイントもありますので、是非ご覧ください。