リテンションとは?売上げ向上のために知っておくべきリテンションの方法と効果

リテンション

人口減少時代のビジネスは、例えていえば「下りエスカレーターを上っている」状態かもしれません。2019年12月の厚生労働省の公表によると、日本の人口は1年で約50万人も自然減しています。減少スピードは加速しており、今後は車を買ったり住宅を購入したりする若い人がますます減っていくことになります。

人口だけでなく実は企業数もかなりのスピードで減少中です。国内企業数は2001~2016年の15年で470万件から359万件と100万件以上少なくなっています。企業の営業部門はBtoB、BtoC問わずマーケットが縮小しているなか、売上げを上げなければならない厳しい状況におかれていると言えるでしょう。

これからの時代に売上げを拡大するには、ビジネスモデルの転換を考えていくことももちろんですが、本業の収益基盤を固めるための新規開拓とともに、リテンション施策も強化してお客様の総数を増やしていく必要があります。

幸い、昨今はSNSが普及してきているため、既存の口コミや拡散を通じて「新規開拓 → 丁寧なフォロー → 顧客満足度向上 → 評判によるお客様の自然発生・紹介 → 新規獲得」というサイクルが生まれやすくなっています。本記事では、売上げ向上のために知っておくべきリテンション手法とその効果をご紹介します。

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リテンションとは

リテンション(retention)とは「維持、保持」を意味する言葉であり、ビジネスの世界では人材やお客様を「つなぎとめる」という意味合いで使われます。「人材のリテンション施策」「リテンションマーケティング」などと表現されます。

人材のリテンション

まず、人材のリテンションについて説明します。少子高齢化が進む日本において、人材のリテンションは大きな課題です。

若者の数が少なくなっただけでなく、終身雇用制度がほぼ終焉を迎えたこともあり、大手企業といえども若く優秀な人材が高収入や成長できる環境を求めて外資系やベンチャー企業に流出してしまうことが珍しくありません。中小企業の人材不足はさらに深刻であり「人手不足倒産」すら起きています。

そのため、昨今は特別に優秀な社員に対して社歴にかかわらず高年俸を支払う「スター社員」という考え方が注目されてきています。他にも、退職した社員の「出戻り社員制度」、育児・介護期間に時短勤務が選択できる「フレキシブルな勤務体系」など、企業はさまざまなリテンション施策を導入し始めています。

マーケティング・顧客維持のためのリテンション

マーケティングにおけるリテンションとは、顧客維持のためのリテンションです。マーケティング部門が行う場合もありますが、日本ではマーケティング部門を持っている中小企業は4割程度とあまり多くないため、営業部門主導で施策を行うこともあります。

リテンション施策の一般的な手法は、BtoCの場合は購入後のDMやメールマガジンなどによる商品・サービスやキャンペーンの案内です。BtoBの場合は、リテンション(顧客維持活動)を担うのは既存顧客営業、ルート営業などと呼び名は異なりますが現場の営業マンが多いのではないでしょうか。

商品・サービスによっては営業組織とは別にカスタマーサポート部門があり、お客様の購入後のお問い合わせに対応します。パレートの法則という有名な法則があります。営業の世界では企業の売上げの8割を占めるのは2割のお客様であることが一般的です。BtoBならSA顧客、BtoCならVIPと称されるお客様かもしれません。

リテンション施策においても、特にこの上位顧客が重要であり、大口のお客様には優秀な営業マンに専任になってもらい、新しいニーズや課題の把握と提案を行うなど重点的にフォローします。すべてのお客様を同じようにフォローするのではなく、お客様のニーズに合わせたリテンション施策をとります。

リテンションの重要性

お客様のリテンションはなぜ重要なのでしょうか?端的に言えば売上げにつながりやすく、投資効果が高いからです。マーケティングの世界では、米国の顧客ロイヤリティモデルの提唱者フレデリック・ライクヘルド氏の以下の法則がよく知られています。

  • 1:5の法則:新規開拓は既存顧客からの売上げより5倍のコストがかかる
  • 5:25の法則:顧客離れを5%改善すれば利益率が25%改善される

もちろん業界によって数値に差はありますが、既存のお客様へのフォロー営業は売上げを上げやすいだけでなく、利益率も大幅に改善できるなどコストパフォーマンスが高いのです。

また、リテンション施策によりお客様との長期的な関係が構築できます。新規獲得した顧客数が積み上げられていくと、段階的にお客様の数が増えていきます。新規開拓からリテンション施策までのPDCAを回ていくことで、安定した収益基盤をつくることができるのです。

リテンションを強化する施策とは

ここでは、リテンションを強化する施策について解説します。

ABC分析にもとづくフォロー

すべてのお客様の売上高、注文履歴、発注頻度などを分析してABCと仕分けし、お客様ごとに適したアプローチを行います。

前述のとおり「パレートの法則」では、企業の売上げの8割を構成しているのは2割のお客様だと言われます。上位2割を占める重要顧客に力を入れることはもちろん、ほか8割のお客様にもニーズに応じた適切なアプローチし他社への切り替えや離脱を防ぎます。

お客様の母集団が増えれば、新たに売上げをけん引してくれる見込み客候補も増えていきます。上位2割のお客様層を分析して特徴をつかみ、8割の中から同じような属性のお客様を見つけ出して同じようにアプローチすることで、上位2割に相当するお客様を新たに増やしていきます。

定期的な情報発信

一度商品・サービスをご利用いただいたお客様には、定期的に情報を発信することが大切です。営業マンやインサイドセールス部門のスタッフからのフォローだけでなく、企業としてメールマガジンやブログなどで情報発信することがポイントです。

デジタル上の情報発信は、お客様が都合のよいときに読めるため「売られる」という必要以上のプレッシャーも感じずリテンションには適しているのです。特にメールマガジンは、シンプルですが大手顧客から休眠顧客まで有効な施策です。ブログ、SNSと連携させることで相乗効果も出ます。

ザイアンス効果と呼ばれますが、人は同じモノや人に接触する回数が増えるほど、好印象を持つことも研究により判明しています。とは言え、あまりに情報が多いと読むのを後回しにされる可能性もあるため、週1回、月1回、季節ごとなどお客様層に適したサイクルで発信することでポイントです。

コンテンツについてはBtoBならお客様の課題解決に役立つ内容や最新事例、BtoCは「お得感」を感じさせる情報が一般的です。キャンペーンを実施し、クーポンを付与する施策もよくとられます。

媒体例)

  • メールマガジン
  • 企業ブログ
  • SNS
  • DM、ニュースレター

コンテンツ例)

  • 購入履歴からのレコメンド商品案内
  • 各種キャンペーン(誕生日、季節限定、紹介ほか)
  • ビジネスに役立つノウハウ提供
  • 商品・サービスの活用例、成功事例の案内
  • 新しい商品・サービスの案内

カスタマーサポート

カスタマーサポートは、商品購入後のお客様の質問に対応する部門です。お客様がどのような課題感を持っているかをヒアリングし把握することで、最適な解決策を提示します。一般に電話とメールで対応します。

カスタマーサポートは携帯電話、Wi-Fi、パソコン、ITツール、保険など、お客様があまり専門知識がないことが多い商材を扱う企業には、必須な部門だと言えます。カスタマーサポートが親切であれば顧客満足度は上がり、リテンションにつながります。

逆に「つながらない」「音声アナウンスに長時間かかる」「オペレータにつなぐ段階でもかなり待たされる」など、サポート部門への不満が高じると顧客満足度が下がってしまい、他社に切り替えるきっかけとなるでしょう。

2017年のアメリカン・エキスプレス社の9市場を対象にした調査によると、日本は「一度でもひどい顧客サービスを受けると、56%の顧客が企業を離れる」と他の国より抜きんでて高い結果が出ています。リテンション施策の鍵をにぎる部門だと言えるかもしれません。

カスタマーサクセス

カスタマーサクセスは、近年に米国から入ってきた概念です。カスタマーサクセスは、お客様が自社商品・サービスを利用することにより、望んていた成果を手に入れることに価値をおいた部門です。

電話やメールで対応するところはカスタマーサポートと同じですが、より積極的に企業側からお客様にサポートの連絡を行い、お客様が不明点や課題を感じていないかを確認したり、さらにお役に立てることはないかをヒアリングして提案していきます。BtoB商材の場合は、ルート営業や既存顧客営業部門が「歩くカスタマーサクセス」に相当することも多いでしょう。

お客様の成功、望んでいる成果とは下記のように商品・サービスによってさまざまです。

例)

  • 求人メディア:自社にあう人材の採用、企業の成長
  • 住宅購入:理想的な暮らしの実現
  • 進学塾:子供の第一志望校の入学
  • MA(マーケティングオートメーション):マーケティング業務の効率化、売上げ拡大
  • CRM、SFA:情報の共有化、売上げ拡大
  • 部品、素材:より商品のクオリティを高める

セールス・イネーブルメント

営業会社では、リテンション施策も営業マンが担当することは前述のとおりです。しかし、より本格的にリテンションに力を入れるためには、企業組織の在り方を見直すことも必要になってきます。

近年はインターネットの普及でお客様の検索能力が向上し、営業マンには高い知識が求められています。お客様の業界知識、課題把握能力、課題を解決するため実行力などが必要であり、かつ暇があればシェアを拡大すべく新規開拓をしなければいけません。高い目標数字を達成することが第一優先となり、休眠顧客やニーズの少ない顧客のフォローにまで手が回らないこともあります。

セールス・イネーブルメントとは、営業現場をマーケティング部門や人事部などと連携して支援する考え方です。例えば、カスタマーサクセス部門を立ち上げて分業する、あるいは営業マンの仕事の領域をマーケティングまで広げていく、チーム営業制にするなど組織体制を見直したり、提案書作成をマーケティング部門が支援したりします。

ただ、営業の分業は効率的ですが、商材によっては営業マンがすべてを担当できる裁量権の広い状態が望ましい場合もあります。 近年の研究では、従業員満足度が上がると顧客満足度も向上することが検証されています。特にサービス業などの対人折衝業務において強い傾向があるようなので、営業マンのモチベーションにも配慮しながら組織を組みなおすことがポイントです。

高い企業モラル

昨今、消費者の企業を見る目はかなり厳しくなっています。例えば「従業員をこき使うブラック企業」と拡散されてしまい、億単位の売上げ低下になることすらあります。顧客のほとんどは労働者でもあるため、従業員に過酷な企業は商品が優れていても愛されないのです。

また、お客様は一般に不満があってもあまりクレームをつけません。1件のクレームの背後には不満を持っているお客様が725人いるという説もあります。

継続して商品・サービスを利用しているのは顧客満足度が高いからとは限らず、単に知識が少なく違う企業に変えるのが面倒であったり、ほかに選択肢がないから留まっているだけであり、以下のようなことに不満を募らせていることもあります。

  • 解約方法がわかりづらいサイト
  • 商品の長所しか言わない営業マン
  • 規約を後出しで変更する企業
  • 個人情報の共有についての疑念
  • 自動更新でいつのまにか課金されるITサービス

2007年のハーバード・ビジネス・レビューの「お客様が敵に変わる時」というレポートには以下の文面があります。

「意図的かどうかにかかわらず、多くの企業が、顧客がミスを犯すことを期待している。事実、携帯電話サービス、銀行、スポーツ・ジムなど、いくつかの業界では、料金プラン、最低口座残高、長期契約など、複雑でわかりにくい契約によって、顧客の判断ミスやルール違反を誘い、これを通常よりも高い収益源としている。」

お客様のリテンションのためには営業・マーケティング的な施策だけでなく、企業として高いモラルを持ちお客様に味方でいていただくことが大切かもしれません。業界によっては高い企業モラルを打ち出すことも強力なリテンション施策となるでしょう。

リテンションの効果とは

ここではリテンション施策の効果について解説します。        

顧客満足度向上・生産性向上

お客様に自社を継続してご利用いただくには、適切なサポートやフォローを行う必要があります。

リテンション施策とはいわば当たり前のこととも言えますが実行はそう簡単ではないため、フォローがしっかりしていると顧客満足度が上がっていきます。その結果、生産性も向上します(顧客満足度と生産性に因果関係があることが複数の研究で指摘されています)。

昨今は多くの人が、SNSやブログなどで良いものを買ったり良いサービスを受けたときのことを気軽に発信します。今の時代、お客様の高い評価は営業マンや広報よりよほど説得力があるため、顧客満足度を向上させる影響はよりプラスに働くことが想定できます。

宣伝効果

消費者庁の2016年の調査では、商品・サービスを購入する際に口コミサイトを参考にする人は52.9%、SNSの投稿・写真SNSを参考にする人は37.1%と新聞、雑誌よりも影響力を持っています。

前述のアメリカン・エキスプレス社のレポートでも、日本市場では「企業の評判」や「オンライン・ソーシャルメディアの口コミ」など社会や第三者の評価を購入決定の際に基準にしている人が55%と「過半数」を超えています。

SNSのコメントはたまに消える場合もありますが、口コミサイトのレビューはずっと残り続けます。リテンション施策に力を入れた結果、お客様が満足しポジティブな投稿をした場合、長期間にわたり広告を出すような効果につながるでしょう。

商品・サービス購入時に参考とする情報源

(出典:消費者庁

ロイヤルカスタマーを維持

ロイヤルカスタマーとは、経営学上では売上大手顧客のことではなく、「商品や企業に深い信頼、愛情を持つ顧客」と定義されています。

例えば、熱狂的なファンに近いApple社の一部顧客層、「先祖代々買い物は日本橋三越」と100年単位で店を利用する富裕層などがイメージに近いかもれません。合理性や価格だけで他社に切り替えようとはまったく思わず店や商品に愛着を持ってくださるお客様です。

もっとも、BtoBは能率的でメリット・デメリットが基準の世界なので、担当者の思いだけで購入することはできません。強力なロイヤルカスタマーは生み出しにくい土壌があります。それでも、顧客満足度が向上し企業との信頼関係が生まれれば、長期間ロイヤルカスタマーとなることはあります。信頼が資産になるのです。

リテンションをさらに改善するデータ管理

リテンションを強化するためには、お客様の情報を正しく理解する必要があります。お客様とのやりとりやお客様の商品・サービスの活用度合い、お客様のデジタル上の行動履歴などから適切なサポートを行います。主に以下の指標で分析します。

  • 売上げの伸び具合
  • リピート率
  • どんな商品を中心に購入しているか
  • サイトのどのページを閲覧しているか
  • 直近の購買日

データの分析は顧客数が少ない場合はエクセルでも可能ですが、大量のお客様のデータを分析するためには、ITツールを活用すると効率的です。

購買履歴を基に、お客様によりよいサービスに目をむけてもらったり、休眠しているお客様にクーポン券を送って試してもらったりすることで、再び取引開始につながることもあります。一人ひとりのお客様にきめこまやかなアプローチをとることで、全体の売上げを底上げすることができるようになります。

まとめ

時代の変化のスピードはものすごく速くなっています。これからさらに、商品・サービスの寿命が短いサイクルになっていくと言われます。だからこそ、お客様とつながり続けることが大切です。既存のお客様は企業にとって新しいニーズ、新商品開発のヒントを与えてくれる存在でもあるからです。

リテンション施策に力を入れお客様のフィードバックに真摯に対応していけば、新しい時代のお客様が満足するような商品を生み出したり、ビジネスモデルを環境変化にあわせて変革していくことも容易になるでしょう。これからの時代は、お客様とつながり続ける力=成長力なのです。

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