営業コーチングと営業ティーチングの違いとは

営業 コーチング

「よきプレーヤーは、必ずしもよき監督ではあらず」とはビジネスの世界でもよく使われる言葉です。営業部門でもいち早く管理職に昇格する人は、必ずしもトップセールスマンとは限りません。むしろ営業力や人材育成力、社内調整力などのバランスがとれいている人材であることが少なくありません。

近年は営業の世界に限らず、管理職のもっとも重要な仕事は「管理ではなく育成」であるという考えが主流になりつつあります。今後はこれまで以上に人を育てられるかどうかが、管理職の評価の重点指標になるでしょう。

今回は、営業マンを育てるために効果的な「営業コーチング」と「営業ティーチング」の違いについて解説します。

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現代の部下の育成の現状と課題

2017年に株式会社マイナビが行った人材育成についての調査によると、人材育成に課題がある職種の1位を「営業職」と答えた企業が最多です。2位が「専門・技術職」となっています。

特別な技術が必要なわけではない営業職の育成が、なぜ技術者より難しいのでしょうか?

営業職は飛び込み営業やテレアポのような体力勝負の仕事だと思われがちですが、同時に幅広い知識やスキルが必要な仕事になります。お客様に合った企画提案をするためにアイディアを出したり、常に変化する市場を的確にとらえ最適な見込み客を探し出す嗅覚、お客様の個性に合わせた対話をしながら信頼を獲得するなどの人間力や問題解決能力も必要です。

九州大学が調査した「営業社員の企業内育成に関する研究」というレポートでは、営業職とは下記の要素が必要な「行動できる高度知識ワーカー」だとまとめています。

営業社員に必要な要素

しかし、実際に企業が営業マンをどのように育成しているかというと、同調査の回答企業全社が第一線の業務を経験させることや同行営業、飛び込み営業などのOJT教育を重視するとしています。

営業マンの育成については、東京大学社会科学研究所が2009年に調査した「営業職の仕事と育成に関する調査」も公表されていますが、ここでも「一人前に育成する上で有意義な仕事経験」という質問の回答に並ぶのは、「先輩との同行営業」「実際に担当顧客を持たせる」「企画書や提案書の作成を手伝わせる」「日報を書かせ改善点に気付かせる」など、ごく一般的な指導方法です。

多くの企業が、営業マンのOJT教育に特別な決定打を持ち合わせていないことがうかがえます。つまり、営業マンの育成は結局のところ現場の上司の力にかかっており、営業管理職の部下育成能力こそが重要な状況にあると言えるでしょう。

営業コーチングと営業ティーチングとは

営業職とは、場合によっては知識・テクニックなどのスキルや営業活動への意欲すら営業成績と比例しないことがある仕事です。営業マン自身の個性、成長スピード、生まれつきのコミュニケーション傾向も影響するため、誰にでも合った育成方法はありません。

営業管理職は、部下を優秀な営業マンに育てるために、相手の人となりを見極めて指導する必要があり、そのためには営業コーチングと営業ティーチングの使い分けが重要になってきます。

営業コーチング

営業コーチングとは、部下に対して答えを教えるのではなく、対話をしながら部下が自分で考えて答えを導きだせるように適切な質問をする手法です。相手の話をしっかりと受け止め、適切なタイミングで質問をすると部下は自分の抱えている問題を整理整頓できたり、アイデアが浮かんだり、自分がどのように動いていけばいいか発見しやすくなります。

具体的な質問例:
・ ◯◯さんは△△についてどう思う?
・ あなたがお客様の立場なら何がベストだと思う?
・ ほかにどのような手段があったと思う?
・ その仕事に自分で点数をつけると何点くらい?

コーチングとは心理学の裏付けがある対話の技法であり、傾聴や質問、承認の仕方などそれぞれに確立されたテクニックがあります。

また、営業管理職が必ずしも教える内容に精通している必要はなく、あくまで傾聴や質問、承認などの対話の技術です。営業管理職であれば営業経験があることが望ましいでしょうが、他部署から異動してきた管理職でもコーチングの技術があれば部下をマネジメントすることは可能なのです。

営業ティーチング

営業ティーチングとは語源が「teach」であることからもわかるように文字通り「教える」ことです。営業管理職が、自分の身につけている業界知識や商品・サービス知識、営業ノウハウなどを部下に伝えることができます。そのため、営業ティーチングは教える側にそれなりの知識やスキル、営業マンとしての力量が必要です。

営業ティーチングに必要な能力例:
・ 自社商品、サービス知識
・ 他社商品、サービスの情報
・ 業界知識や動向
・ 営業ノウハウ
・ プレゼンテーション能力
・ 豊富な成功事例、他

営業ティーチングをどこまで徹底するかは、業界や企業の社風によって異なります。企業によっては商品・サービス知識のティーチングだけでなくロールプレイングを徹底し、営業マンのお客様への質問項目やタイミングまで落とし込んでいる企業もあります。

営業ティーチングの重要性

営業ティーチングは部下を指導するうえで必ず必要な手法です。業務についての正しい知識、基本的な営業活動の進め方、企業の価値観などはきちんと教える必要があります。ただ、営業ティーチングにあまりに熱心になると、部下に上司に対する依存傾向が出てくることもあります。

ここでは、営業ティーチングのメリットとデメリットを紹介します。

メリット

営業ティーチングは、新入社員や中途入社の社員に短期間で知識や情報、ある程度の営業ノウハウを身につけさせるためには有効な手法です。特に、多くの先輩営業マンが営業経験の中で獲得してきたノウハウやコツなどを教えることで、営業マンは早く成長することができます。結果的に、売上げという結果を素早く出すことできるようになるのです。

デメリット

営業職に限った話ではありませんが、営業ティーチングに力を入れすぎると部下が「上司に聞けば解決する」「テストのように正しい答えというものが存在する」と考えてしまい、自主性や思考力、創造性が伸びないことがあります。

ビジネスの世界では、答えがそうそう見つけられない事態はよく発生します。現在のように変化の激しい環境では、一昔前に活躍した上司のアドバイスが、ヒントにはなっても直接的な問題解決にまでならない場合もあります。

多くの場合、市場や顧客について最も情報を持っているのは現場の営業マンです。管理職は指導する立場ではありますが、本来は営業マン自身が上司のアドバイスを参考にしながら自分で課題を解決していくことが基本です。

営業ティーチングのみに力を入れると、すぐ解決策が得られない事態に直面した時に、部下が「教えてくれないからわからない」「上司の指導力がない」と思考停止状態になってしてしまう場合があります。

あえて教えない指導方法が存在するように、営業マンが自分で考えて課題を発見し動いていけるようになるためには、営業ティーチングのさじ加減が大切だと言えるでしょう。

営業コーチングの重要性

近年は、管理職の人材育成力の向上のためにコーチング研修を実施する企業が増えてきました。ここでは営業コーチングの重要性、そしてデメリットも解説します。

メリット

営業コーチングも広い意味ではティーチングと同じように、部下に教えることを指しますが、伝える内容が異なります。わかりやすく言うとティーチングは「知識や情報」を伝え、コーチングは「方法論や思考法」を伝えます。

仕事の裁量権が広がるほど仕事のやりがいや自己効力感が高くなることは、さまざまな調査研究で明らかになっています。

営業コーチングを通じて自分で課題を発見し、決断していくようになると部下のモチベーションが向上するのです。自分で課題の解決策を見出した営業マンが、時に失敗することもあるでしょう。しかし、自分で決めたことに対する失敗は、誰のせいにもせず謙虚に受け止められるのでむしろ成長につながります。

コーチングに必要な基本的な聴くスキルについては、営業管理職であれば営業活動や顧客対応の中で磨いてきているはずです。傾聴、相槌、オウム返し、SPIN話法などは部下にも有効なので、確認しておくとよいでしょう。

デメリット

とはいえ営業コーチングにマイナス面がないわけではありません。自立した精神を持ち、ある程度スキルが身についている営業マンに対して、営業コーチングは極めて有効です。一方で、営業職に携わったばかりで知識や経験もあまりない若手社員には、それほど効果が出ないときがあります。

基礎能力がないと自分でいくら考えてもわからず、営業コーチングだけだと突き放された感覚になり「何も教えてくれない」と不満を持つ若者が出る可能性があります。また、経営幹部や営業管理職が、成果を上げてもらうためには悠長に営業コーチングなどするよりも、教えた方が早いと感じることも少なくありません。

どのように使い分けていくか

スポーツ選手をイメージしてみると、プロのアスリートのコーチは選手の自主性を尊重し、相手に必要なアドバイスを適切なタイミングで行っている印象があります。選手が学生あるいは若くて経験が浅い場合だと、コーチのほうが上下関係で上であり、熱心に営業ティーチングしている姿が目立ちませんでしょうか? 

部下の育成のためには、営業コーチングと営業ティーチングの両方が必要という前提で、相手の性格、成長段階、抱えている課題が何かによって、使いわけることが望ましいと言えます。 

部下のタイプによって使い分ける

人の個性は実にさまざまです。何でも教わろうとするタイプもいれば、自分で目標を決めて自分で調べてどんどん動いていきたいタイプもいます。そもそも持って生まれた傾向があります。営業管理職としては、ある程度心理学の基本も抑え、個人の性質ごとに向いた営業スタイルを身につけてもらうことを考えると、より多くの部下が成長するでしょう。

自分で考えて自分で動く部下

もともと自分で考えて動ける積極的な営業マンに対しては、相手の行動や判断を信頼して見守り、求めてくればアドバイスし成果を上げれば一緒に喜ぶというスタンスが適切です。このような部下が上司に何か質問する場合は、自分で調べてもわからなかった場合や上司と話すことで何かしらのヒントを得たい場合です。自分なりの仮説はすでに持っていることも多いため、営業管理職はコーチングに徹するとよいでしょう。

洞察力があるため、ちょっとした対話から何かヒントを得ることができます。逆にこのような手のかからない部下に対して必要以上に管理や指導をしようとするとモチベーションが下がる場合もあるので、いわゆるマイクロマネジメントの弊害面を留意しておきましょう。

何でも教わろうとするタイプの部下

自分で考えることが苦手で何でも聞いてくる部下は、ある程度長い目で見る必要があります。営業ティーチングにも力を入れながら、本人が自分でも考えることができるように営業コーチングしていきましょう。対話の中で相手の意見をときどき確認したり、相手の思考の枠を広げるような質問をしていきます。

自分で考える習慣のなかった人が明日から自主的・創造的になることはありません。継続的に営業コーチングし、半年や一年くらいかけて成長してもらうという心構えで指導するとよいでしょう。時間はかかりますが、一度思考回路ができれば活躍してくれることも多いので、管理職は忍耐強く待つことが必要です。

部下の個性とティーチング・コーチング

本来のその人の個性を活かす

仕事でパフォーマンスを上げる性格的な特性については「ビッグファイブ」が有名です。外交的で積極性があるような人材が仕事で成果を発揮するという理論に、異をとなえる人は少ないでしょう。しかし、2019年に拓殖大学で調査した結果では、セールスパーソンは外向性が高いと同時に神経質傾向も高いという結果が出ています。

セールスパーソンの性格的特性の分析結果

・ 開放性スコアは中程度
・ 外向性スコアは高い
・ 神経質傾向が高い

(参考:経営経理研究第115号「セールスマンの資質分析」)

たしかに、営業職の場合はトップセールスマンに繊細で感受性が高い人も少なくありません。内向型のトップセールスマンも存在します。いずれも、相手の真意をつかむのがうまく神経質なほどに細かいところに気づき、小心さゆえにいろいろなことを想定しながら動く結果、営業成績が上がるからだと推測できます。

大事なのは、部下の営業マンが自分の持ち味を生かしたコミュニケーション力を発揮できるように、管理職が部下を理解してサポートすることだと言えます。

世代によって使い分ける

バブル期世代、氷河期世代、ミレニアム世代とよく言われるように、世代ごとの気質の傾向があります。近年の若者にはどのような指導方法が適切でしょうか?2019年にアデコ株式会社が行った調査によると、「デジタル世代」と呼ばれる昨今の若者の理想の上司像は以下の通りです。

人気第1位の上司像 : 仕事で困った事について相談に乗ってくれる上司
最も不人気な上司像 : 挑戦しがいのある仕事を任せてくれる上司

もちろん、同じ世代の中での個人差もありますが、どちらかというと営業コーチングだけでなく営業ティーチングにも力を入れたほうが効果的なようです。若い部下は自分とは価値観が異なる可能性があることを理解し、 仕事をする上で必要不可欠な商品知識、商談やプレゼンテーションがある程度こなせるようになったあたりから営業コーチングの比率を増やすことが望ましいかもしれません。

まとめ

近年は、多くの現場の管理職がプレイングマネージャーです。自分の仕事で成果を上げながら部下全員を成長させるのはかなり難易度の高い仕事ですが、営業コーチングを実施し多くの部下が自分で成長を志向し自分で動けるようなるとマネジメントは円滑にになります。

ビジネスマンは経営層に近くなるほど「人をいかに活かせるか」という能力が重視されます。営業コーチングを実施して人材を育てるスキルを身につけることは上司の成長にもつながります。部下の個性に合わせた営業ティーチングと営業コーチングを組み合わせた指導で、自発的に思考し行動していく人材を育てていきましょう。
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