ビジネス環境の変化に伴い、求められる働き方やスキルは変化しています。企業においては、営業活動に求められる力も、環境の変化により大きく形が変わってきました。
一般的に営業活動は、利益の獲得を目指して行われます。取り扱う商品やサービスは異なっても、顧客に何らかの価値を提供し、その対価を得るということが営業活動の本質です。企業が利益を求めて活動する以上、その本質は変わりません。
では、一連の営業活動の中でどのような変化が見られたのでしょうか?
今回は、変化した営業力の定義を確認してから、ソリューション営業が必要とされていた時代からインサイトセールスが求められるようになった背景の解説。さらには、これからの時代に営業マンに求められるスキルや不要とされるスキルについて解説します。
環境の変化を理解しないまま営業活動を続けても、成果が上がらずモチベーションが下がってしまい、ますます成果が上がらなくなるという悪循環が生まれてしまいます。
今回紹介する内容を、営業活動の方向性や研修や指導の内容、評価指標などにも活かすことで、時代のニーズに合った営業力のある企業として存在感を高めていけます。
変化した営業力の定義
営業力の定義が変化したとは、一体どのようなことでしょうか?
変化した営業力の定義について解説する前に「営業とは何か?」についての定義を考えてみましょう。明確に定義が定まっているわけではありませんが、以下の定義が概ねどのような場合にも正しく当てはまります。
営業とは顧客が求めているもの、(顧客は気が付いていないけれども)あったら便利なものを提供する仕事。そして対価として代金をもらうこと。
以上の営業の本質には変化がありませんが、ここ数年で大きく変化したのは顧客を取り巻く環境です。インターネットが発達したことにより、顧客は情報や商品が手軽に購入できるようになったのです。
(参照元:https://netshop.impress.co.jp/node/5156)
例えば、上に掲載した表は、Amazonの国内の年間売上高の推移です。2010年に約4,371億円だった売上高が2017年には1兆3,335億円を超えていることが分かります。Amazonの取扱商品は身近な日用品から複合機のような大型機器までさまざまですが、インターネットでの買い物がこれだけ拡大しているということは、他の経路からの購入が減少していることを意味しています。
顧客が求めているものを自分で把握し、課題を解決するための手段を自分で調べ、そしてインターネットから手軽に購入できる環境が整っている。その環境が、当たり前になってきていることを示しています。インターネットで購買行動に関連する調査を行い、購買することが当たり前になってきている環境下で営業力を発揮するためには、従来通りの売り方ではなく、新たな価値を身に着けた営業力が必要です。
売りつける営業の時代が終わった背景
顧客が商品の購入方法だけではなく、情報収集の経路として営業スタッフから提供される情報よりも、インターネットからの情報を重視しているというデータもあります。
株式会社ITコミュニケーションズが2018年10月に実施した「BtoB商材の購買行動に関するアンケート調査」(回答者数445名)によると、商品やサービスを購入する際の情報源のトップはWebメディア(43.8%)となっています。さらに2位のテレビ(36.0%)を挟んで、3位には提供企業のWebサイト(27.4%)がランクインしています。
一方で、営業担当者は全体の8位です。割合にすればわずか14.2%しかありません。顧客は、課題やニーズを解決するための情報を、営業マンとの商談からではなくWebを通じて自ら入手しているということです。
商品やサービスに関する情報を企業側が握っていた従来と異なり、デジタルの台頭によって、顧客は必要な情報を自ら取得できるようになったということです。そして、商品やサービスに関する情報が手軽に入手できる以上、営業担当者を自社に呼んで商談を設定する必要性が薄れてしまったことを示していると言えるかもしれません。
商品やサービスに関して顧客がWebからどの程度の情報を得られるかについては、業界やサービスにより異なりますが、Webの情報発信の最大の特徴は制約がないことです。
- 情報量:
Webは、紙媒体と異なり無限に情報掲載が可能。そのため、ニーズの低い商品や生産終了商品についての製品情報、特殊な使用法や古い製品に対してのマニュアルなど、無限に情報が得られる。 - 地域:
インターネットに接続できれば、全国どこにいても情報が得られる。従来は商圏に含まれていなかった企業からの商品購入の可能性もある。 - 時間:
24時間365日の情報入手が可能。チャットの導入による問い合わせにより、双方向の即時対応が可能なケースもある。
営業担当者が商品に関する知識優位性を活かして、顧客に商品を売りつけられる時代は、情報の主導権が顧客側に移ったと同時に終焉を迎えたと言えます。
ソリューションセールスの没落とインサイトセールスの台頭
顧客の購買活動の変化は、ソリューションセールス(提案型営業)の没落とインサイトセールスの台頭を引き起こすと考えられています。ソリューションセールスやインサイトセールスの概要を確認しながら、求められる営業スタイルの経緯について紹介します。
ソリューションセールスが通用していた時期
ソリューションセールスとは、顧客の課題を解決するために自社商品・サービスの優位性・利点を紹介する営業手法です。顧客の課題を的確につかんで明確な解決方法を提示することにより成約・売上を目指します。
提案型営業は「御用聞き」や「足で稼ぐ営業」「押し売り」などと一線を画す営業手法として、2000年代初頭頃から営業の標準とされました。それまでのいわゆる「押し売り」スタイルが「PUSH型」と呼ばれていたのに対して、顧客ニーズを引っ張り上げるという意味から「PULL型」営業とも呼ばれました。
ソリューションセールスが通用しなくなった理由
ソリューションセールスが通用しなくなった理由は、そもそもソリューション セールスの大半は顧客の課題を正確にキャッチできているわけではなかったからです。「ソリューション」の解決策は結局、商品やサービスの提案であり、営業マンは事前に持っていた顧客情報や商談で得られた情報から、顧客の顕在的な表面的な課題を自社のサービスと関連付けていたに過ぎなかったのです。
それでも従来は、ソリューションセールス以外に顧客のニーズや悩みを解決する手法はほとんどありませんでしたが、インターネット上に情報が増えたことにより、顧客が課題を解決するための情報を簡単に入手できるようになりました。その結果、顕在的なニーズに関しては自分で解決法を調べられるようになり、営業マンにニーズや悩みを伝える必要性が薄くなりました。
インサイトセールスの台頭
このような背景下で台頭してきたのが「インサイトセールス」です。
インサイトセールスは、営業マンがお客様のまだ自覚していないニーズを見付け、それを気付かせるように、コミュニケーションの中で「インサイト(洞察)」提示する営業手法です。
前述した通り、お客様はいつでもどこでも、必要な情報を収集することができるようになりました。そのため、営業マンの新しい必要性とは、お客様が課題意識に気付く前に、深い知識と洞察を元に提案を行い、お客様の視点や価値観に変化を促すことで「そういう考えがあったのか」と感じてもらえるようにすることができます。
また、お客様自身で課題を認識していて、自ら積極的に情報収集を行っている場合でも、その認識している課題が「本質的な課題」ではないこともあります。その場合は、別の視点を提示することによって、新しい価値観を認識してもらえるようになります。
今後必要とされる営業力とは?
今後求められる営業力について5つ紹介します。背景には、インターネットの台頭による情報化、顧客と営業マンとのバランス関係の変化があります。必要とされるスキルを身に着けた営業マンは、これまで同様、あるいはこれまで以上に社会から必要とされ「売れる」営業マンとなるでしょう。
人間力
ビジネスを取り巻く環境として、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など営業活動の一部を担うデジタル機器が登場しており、中には将来的にはロボットが人に変わって営業活動をするのではないかと言われることもあります。
しかしながら、商品やサービスを導入するのも人なので、人が営業活動をするからこそ売れるともいえます。
では、今後の営業に特に必要とされる人間力とはどのようなスキルを指すのでしょうか?主なものを紹介します。
伝える力
顧客に必要な情報を伝える力です。単に情報を網羅するだけでは、インターネットやロボットに勝てませんが、顧客が必要としている情報を端的にピンポイントで伝えることは人間だからこそできることです。
聴く力
顧客の状況や悩みを聴く力も重要です。事実を情報として聴くだけではなく、事実からどのような悩みが起こりうるか、どのようなサービスを提供すれば満足が得られるかを推測する力が併せて求められます。
相手の立場になって考える力
相手の立場で物事を考えられるのは人間ならではの力です。的確なタイミングで必要な情報を提供し、サービスを導入するために課題となっている部分の解決案を提案するなどの対応をすれば、効果的にアプローチできます。
誠実さ
約束を守ること、ふさわしい身だしなみをすること、迅速かつ的確にトラブル対応することなどの誠実な対応は人間ならではです。機械は停電や故障の際に一切動かなくなってしまいますが、トラブル時こそ頼りにされるのが人間の営業マンです。
柔軟性や適応力
目まぐるしく変化するビジネス環境に変化し、最適なスタイルで営業活動を行うことで、同業他社の営業マンよりも先んじることができます。柔軟な対応を取れる営業マンはいかなる時でも重宝されます。
ビジネスに対する深い理解
顧客のニーズを理解し、深い信頼関係を気付くためにはビジネスに対する深い理解が不可欠です。
パンフレットや顧客の公式ホームページ、業界に関するニュース記事、新聞、雑誌、商談の際に得た情報、第三者から得た情報などから顧客のビジネスに深い理解を持った営業マンは、顧客の課題やニーズを敏感に察知できるようになります。
また、顧客側から見た場合、自社の状況についての知識が深いビジネスマンとそうでないビジネスマンとでは、信頼度が全く異なってきます。深い信頼により顧客は自ら悩みや現状をストレートに営業マンにぶつけることができ、その結果、営業マンはさらにビジネスに対する理解を深められるという良い循環が生まれます。
また、多数の顧客のビジネスに対して理解を深めている営業マンは、自分自身の顧客や取引先のネットワークから精度の高い情報をいち早く入手し、情報を多角的に精査することが可能になります。
ツールやデータを使いこなす力
情報量が増えているのは顧客側だけではありません。営業マンも顧客や顧客の業界、現在の社会情勢などについて膨大な情報を得ることができます。またそれらを分析するためのさまざまなツールも存在します。
ガードナージャパンは3年ごとにBI(ビジネスインテリジェンス=企業に蓄積されたデータを分析して経営や営業のための分析をおこなうツール)導入率の統計を取っています。
最新の2016年の結果では、BIツールの導入率は37%(従業員規模2,000人以上の企業では約80%)の導入率となっていますが、今のところ導入企業でもごく一部のスタッフが使用しているに過ぎない状況だということです。
(参照元:https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20170424/)
こうしたツールやデータを必要に応じて使用したり、データを読み取って営業に活用する統計学などの知識が用いたりできるようになれば、経験やセンスに頼らない戦略的な営業活動を行うことができます。
スピード感を持って取り組む力
これからの営業マンは、従来以上にスピード感が重要になります。
あらゆる場所でインターネットにつながる社会では、電車での移動中や出張中などでもWeb会議をしたり、提案書や契約書を作成したりすることが可能です。また、営業のために必要な資料やデータも短時間であっという間に揃います。
そうしたスピード感のあるビジネスに営業マンが対応することで、顧客とのコミュニケーションも円滑かつスピーディになり密度が高められます。
カスタマイズされた提案力
せっかく顧客ごとのニーズを深く聞き出しても、全ての顧客に対して同じように自社の商品を提案していたのでは、従来のソリューションセールスと変わりません。
顧客ごとに使い方や用途、使用する場面などを個別に提案し、顧客が導入のための意思決定をするために必要な情報を全て提供しましょう。また、顧客に合わせて綿密にカスタマイズした提案をすることにより、顧客はより細かな要望や状況を伝えてくれるようになります。
その結果、顧客の情報をさらに正確にキャッチして、細かくカスタマイズされた提案をすることが可能になります。
求められない営業力とは
反対に、これからは求められない営業力について解説します。
マニュアル型対応
マニュアル型対応とは、一言でいえば融通や機転が効かない営業マンのことです。
営業には、トークスクリプトやトラブル時の対応など、ある程度のマニュアルがあった方が良い場合もありますが、特にソリューション度合いが高い商材を扱っている場合には、決まったやり取りで契約を獲得できるほど単純ではありません。状況に応じて顧客のニーズに応える力が必要とされています。
今後、インサイトセールスなど顧客のニーズに深く潜り込むスタイルで営業を行うようになると、ますます顧客のニーズや隠れた悩みを敏感に察知して個別に最適な対応をする力が重要視されます。
ただし、ECビジネスなどある程度決まったやり取りで購買につながりやすいプラットフォームもあります。要因はさまざまですが、基本的にECはインターネットで購買が完結する仕組みなので、販売スタッフが高度な営業スキルを発揮しなくても売れる環境が整っているためです。
製品に対する知識
営業マンが商品・サービスの知識を知っておくことは大切ですが、商品・サービスに関する知識自体の価値は低くなっています。再三お伝えしている通り、商品に関する知識は顧客も営業マンもインターネットを使って確認できるためです。従って、営業マンが商品知識を網羅する必要はありません。
その代わりに、営業マンだからこそ伝えられる知識の価値は高まります。具体例を挙げると、以下の通りです。
- 顧客の問題を解決するための手助けとなる情報
- 顧客が商品・サービスを導入した場合の利用シーンやシミュレーション
- 具体的な成功事例
画一的な提案
画一的な提案は、言い換えればコミュニケーション能力が低い営業です。すなわち、商品・サービスの一般的な利用法やトークスクリプトに基づく典型的な導入例などを元に提案を行ったところで、顧客はそのような情報はインターネットから得られるケースがほとんどです。
営業マンが自らの存在価値を示すには、コミュニケーション力や洞察力、情報収集力などを発揮して顧客自身が気付いていないニーズや悩みを発見し、そして解決策を提案することが重要です。
まとめ
顧客がインターネットによって手軽に商品・サービスに関する情報を入手することができ、商品の購入までできるようになった近年では、求められる営業力についても変化しています。
従来は、担当営業マンが持っている商品・サービスに関する情報そのものに大きな価値がありましたが、これらの情報は顧客が自分自身で容易に調べられるからです。
しかしながら、営業力が必要とされなくなるわけではありません。むしろツールやデータの活用により従来よりも深い部分での顧客ニーズが把握できる環境が整ってきているので、顧客自身も気づいていない潜在的なニーズにアプローチしたり、正確かつわかりやすい説明で顧客の疑問を瞬時に解決したりすることで、「優れた営業力」となり自社の売上や価値を高めていくことができます。
「営業スキルチェックシート」は、日々の営業活動の進捗状況の確認や顧客へのアプローチの仕方を確認するために活用できます。上司と部下でチェックシートを共有し、チェック項目の確認をしながら活用するとさらに効果的です。